アンジェリークは、どこかこの状況を楽しんでいる自分がいることを、心の奥底で感じていた。 アリオスを一目見て、どうしても魂を揺さぶられずにはいられなかった自分自身を、認めてしまっている。 私は、どんなことをされたって、アリオスが好きなのかもしれない・・・。 手錠を掛けられたままの腕を見つめ、まるでそれが、自分の心にまとわりついて離れない、鎖のように感じる。 私は、何か理由を追い求めているのかもしれない・・・。 ドアが開いて、白いシャツに黒のスラックス姿のアリオスが入ってきた。 「風呂に入って、着替えろ」 簡潔に言うと、アリオスは簡単に彼女を抱き上げる。 「アリオス、自分で歩けるから」 焦りながらも、彼女は、少し頬を赤らめた。 「逃げちまうだろ? おまえ」 淡々と呟くと、アリオスはアンジェリークをバスルームまで連れていく。 これが、もし・・・、愛のあるものなら・・・。 切なく思う彼女を、アリオスはまだ知らなかった。 脱衣室で腕から下ろされ、アンジェリークは彼を見上げる。 「着替えだ」 冷たく何の表情もなく、彼は指を指して簡潔に言う。 「有り難う・・・」 手錠を外され、本当は嬉しいはずなのに、アンジェリークはどこか喪失感すら感じている。 彼から放されたようで、胸がいたい。 「俺は外で待ってる」 静かにそう告げると、アリオスは出ていった。 アンジェリークは大きな溜め息を一度吐いた後、服を脱ぎ始める。 溜め息は安堵ではなく、喪失感であることを、彼女は深く知っていた。 身体と髪を洗い、さっぱりとした後、湯船につかる。 肌が敏感になっていて痛いような気がする。 私、この方が幸せを感じている・・・。普段よりも・・・。 ゆっくりとお湯に入った後、アンジェリークは脱衣所にある着替えを使った。 それは先程まで彼女が身に付けていた、コンサバティブなものとは違って、動きやすい年相応の可愛らしいものだった。 アリオス・・・。私のこと判ってくれているの・・・? 彼は、彼女が本当に欲しいものを、知っているような気がした。 不意にノックの音が聞こえた。 「アンジェリーク」 「あ、着替えたわ」 その声を合図に、アリオスはドアを開けた。アンジェリークが素直に手を差し延べれば、彼はそのまま手錠を掛ける。 「殊勝だな・・・。このまま素直に従えば、帰れるとでも思っているのか?」 それには彼女は流石に首を振る。 「・・・そうしたいだけ・・・」 ぽつりと呟いた声に、アリオスは一瞬止まった。 「アンジェリーク」 彼はそのままアンジェリークの顔を挟み込むと甘いキスをする。 それは初めと違い、甘く優しいものであった。 「行くぞ」 抱き上げて、そのまま彼女をベッドに座らせると、アリオスも隣に座る。 「今日からおまえは俺の命令以外のことは何もするな」 「アリオス・・・」 アンジェリークは、アリオスの瞳の中を覗き込み、まっすぐとした光を放ってくる。 それは決して彼を攻めているわけではない。 「いいな」 「はい・・・」 彼女は、こくりと素直に頷くと、そのまま俯いてしまう。 「腹減っただろう、何か作ってやる」 アリオスは、アンジェリークをそのまま立たせて、キッチンへと連れていった。 キッチンは意外にも、綺麗に片付けられていて、道具も揃っている。 「料理するの?」 「たまにな」 「見てていい?」 「勝手にしろ」 アンジェリークはふっと笑うと、アリオスの隣で、彼の料理姿を見ていた。 彼は、ごはんを使った簡単なリゾットを作った。 「手際がいいのね?」 「まあな」 鍋でサッと作ったものを皿によそうの手付きが堂に入っている。 「うまいわね!」 「おまえ楽しそうだな・・・」 低い声で言われて、アンジェリークははっとする。 私・・・、彼といるとどうしてこんなに楽しいんだろう・・・。 急に押し黙ってしまった彼女を、アリオスは一瞬だけ見た。 「さあ食うぞ、席につけ」 まるで子供のように、アンジェリークは頷いて席につこうとする。 だが、両手を手錠で繋がれているせいで、上手く椅子を引くことが出来ない。 「しょうがねえな・・・」 アリオスは、彼女が座る前に皿を置き、椅子を引いてやる。 「座れるだろ、これで・・・」 「有り難う・・・」 深々と椅子に腰掛けさせてもらい、アンジェリークは目の前に置いてあるスプーンに手を延ばす。 「待て、俺が食べさせてやる」 彼女のとなりに腰掛けると、アリオスがスプーンに手を掛けた。 「ヨダレかけはいるか?」 「もう! 私は子供じゃないわよ!」 少しむくれる彼女が愛らしくて、アリオスはクッと笑う。 「ほらお姫様、あーんだ」 息で冷ました後、アリオスはアンジェリークの口にリゾットを運んだ。 「あつっ!」 まだ出来立てのあつあつだったせいか、アンジェリークは軽く舌先に火傷をした。 「痛いか?」 「ちょっと・・・」 少し痛そうにする彼女に、アリオスは僅かに口角を上げる。 「舌を出してみろ?」 仕方なく、アンジェリークは舌先を出してみせる。 アリオスの顔が近付き、その舌を自分の舌で舐め上げた。 「んっ・・・!」 「これで治るぜ? お姫様」 少し意地悪に見つめられて、アンジェリークは、行為と甘く鋭い視線にはにかんでしまう。 「もう少し冷めてから食わせてやる」 何度か息を吹き掛けて、リゾットを冷ませた後、アリオスはアンジェリークに再び食べさせ始めた。 彼女のペースを考えて、ゆっくりと。 途中水を飲ませてもらい、詰まらせることもない。 アンジェリークは不自由なのにも関わらず、満ち足りた思いを感じていた。 アリオスがシャワーを浴びる間、アンジェリークは脱衣室で待つ。 「待たせたな?」 彼が、ガウンを羽織る間、アンジェリークは後ろを向いて待っていた。 甘い、感覚が全身に駆け巡る。 「行くぞ?」 「うん」 そのままアリオスに抱き上げられて、彼の温かさに包み込まれる。 ベッドに運ばれた痕、手錠を片手だけ外され、もう片方は、アリオスは自分に掛けた。 「おやすみ」 そのままアリオスは瞼にキスをすると目を閉じる。 アンジェリークは、彼とて上でつながれることが嬉しくて、満ち足りた想いを感じながらひとみを閉じた。 |
コメント
57000番のキリ番を踏まれた朝倉瑞杞様のリクエストで、
「誘拐犯のワルなアリオスが、フィアンセからアンジェリークを奪う」
です。
ただのバカップルです。
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