CUTS LIKE A KNIFE


「行くわ!!」
 アンジェリークは、頭に血が上ったまま馬小屋に引き返す。
「待てっ! これは罠だ!! おまえをおびき寄せてる。俺が行く!」
 アンジェリークを制して、アリオスは立ちはだかる。
「俺が行く」
「だったら私も行くわ!」
 アンジェリークは強いまなざしをアリオスに向けたまま、揺るぎなかった。
「判った。屋敷に案内してくれ」
「うん!」
 アンジェリークはしっかりと頷くと、アリオスの後に着いていく。
「ルノーはどうする!?」
「ルノーは隣の牧場に預けるから! 私も馬で行くから、一瞬待って!」
 アンジェリークはすぐさま部屋にかけ上がり、三分後には帰ってきた。
 ジーンズを履いて、すぐに馬に乗れるように。
「アンジェリーク、行くぜ」
 二人は馬に飛び乗り、シュルツ牧場へと向かった。


 途中、ルノーをとなりの牧場に預け、ふたりはシュルツ牧場に急いだ。
 アンジェリークは、アリオスを何度か横目で見つめながら、緊張で高まる心を押さえ付けようとする。

 大丈夫。アリオスがついているんだから・・・。

 アンジェリークはアリオスの逞しい腕に全てを預けた。
「アンジェリーク、緊張してるか?」
「大丈夫」
 声が風に流れて少し震え、少し頼りのない子供のように見えた。
 馬で走っていくにつれて、アリオスはここがどこかが大体見えてきたような気がする。

 この先はひょっとして・・・。

「アリオス、シュルツのおっさんの牧場はね、昔、”アルウ゛ィース牧場”っていって、私の初恋の人が住んでたの」
「そうか・・・」

 やっぱりな・・・。
 これはひと暴れ出来そうだ・・・。

「もうすぐだな」
「えっ!?」
 アリオスは馬のスピードを上げ颯爽と迷いなく牧場に走っていく。
「あ、待って!」並走していたのが、追いかける形になる。

 アリオスはやっぱり・・・、あのお兄ちゃんじゃ・・・。
 じゃなきゃ、きっとこんなに迷いなく走れない。
 シュルツ牧場はけっこう複雑な場所にあるもの・・・。

 淡い期待がアンジェリークの胸に僅かにくすぐった。


 牧場がが目の前に広がってきた。
「正面はやばいからな、次で右に曲がって大周りするぞ」
「どうして!?」
「裏から入ったほうが助けやすい」

 どうしてそこが裏口だと知っているの!?

 アンジェリークは身体を震わせて確信する。
 アリオスこそ初恋の男性に違いないと。

 アリオスが連れていってくれた裏口は、今のシュルツ牧場の裏口ではなく、昔の裏口のようで今は使われていないようで閉じられているところだった。
 だが、そこにはちゃんと、朽ちてはいたが、小さな馬小屋もあり、そこで来客などが馬を停めていたようだった。
 ふたりはそこに馬を停め、いよいよ敵地に乗り込む。
「ここをよじ登って向こうに行くからな。着いてこい!」
「うん!」

 アリオスがあのお兄ちゃんであることは、後で訊けばいいわ・・・。
 今は、ディアお姉ちゃんを救うのが大事!

 アンジェリークは神経を集中させた。
 先にアリオスが塀に上がり、手を差し延べる。
「来い!」
「うん!」
 アンジェリークは一生懸命、手を差し延べて、登り始めた。
 アリオスは、アンジェリークの手首を掴み、しっかりとサポートする。
 上まで上がり切ると、アリオスは彼女の手を握った。
「大丈夫か」
「大丈夫っ!」
「俺が下りるから、あとに続け」
「うん」
 下を見ると結構高く、アンジェリークは足が竦む。
「俺が先に降りるから、おまえは俺の腕に向かって降りてこい。抱き止めてやるから」
「うん」
 アリオスは何ごともないかのように颯爽と降り、その姿に、アンジェリークは思わず見惚れた。
「来い!」
 彼が広げてくれる手が大きな翼のような気がする。

 安心できるわ・・・、あなたなら。

 不思議と彼女の緊張が止んだ。
 意を決して、アンジェリークはアリオスの腕に向かって飛び込む---
 気がついたときは、既にアリオスの腕の中だった。
「アリオス・・・」
 ぎゅっとアンジェリークはアリオスの肩を抱き締め、放さない。
「行くぞ」
「うん」
 アンジェリークは、彼の腕の温もりが名残惜しく感じながら、離れる。
 アリオスは、アンジェリークの手をごく自然にとると、そのまま走り出した。
「俺から離れるんじゃねえぞ?」
「うん・・・」
 まるでその場所を熟知しているかのように、アリオスは迷いなく走る。
 しばらく走ると、屋敷が見え、彼は、裏口から侵入した。
 常にアンジェリークを守かのように、背中で庇っている。
「怖かったら言え。遠慮すんなよ?」
「うん」

 マスターベッドルームが三階にあるはずだ・・・。
 俺の記憶通りであれば。

 アリオスはまずそこに行き、銃を構えてドアを蹴破る。
 だがそこには誰もおらず、次の部屋へと向かう。
 幾つかの部屋を開けたもののディアはいなかった。
 アンジェリークは、彼女に何かあったのではないかと、不安になり身体を震わせる。
 それを感じたのか、アリオスは握り締める手に力を込めた。
 深く伝わる彼の暖かさに、アンジェリークは少し安堵する。
 アリオスはあくまで冷静沈着だった。焦る事なくディアを探し、とうとう厳重に鍵が掛けられた部屋を見つけた。

 ここかもな…

 何度か体当たりをしたがドアは開かない。
「アリオス…」
 アンジェリークは心配そうにかっれを見つめ、ほんの少しだけ縋った。
「大丈夫だ、心配すんな」
 クシャりと彼女の髪を撫でた後、アリオスは、じっとドアの鍵を見つめる。

 使いたくなかったがな・・

 仕方なく、アリオスは鍵に銃口をあて、トリガーを引いた。
 何度かの発砲をすると、そのまま鍵は鉛によって破壊され、がたりと崩れ落ちる。
「アリオス…」
「ああ」
 アンジェリークはアリオスを固唾を飲んで見守る。
 アリオスがゆっくりとドアノブに手をかければ、それはあっさりと動き、慎重にドアを開けた。
「大丈夫だ…、行くぞ」
「うん!」
 二人は一気に息を一つにして、中に踏み込む。
 その瞬間、アンジェリークの瞳に映ったものは…。
「お姉ちゃん・・・!!」
 そこには手を縛られ、椅子に括り付けられているディアがいた。
「アンジェリーク!」
 ディアはその姿に息を飲み、嬉しそうにほっとしている。
「外すぜ」
 アリオスは、持っていたナイフでディアの紐を切り、素早く解くと、自由にしてやった。
「お姉ちゃん!!」
「アンジェ!!」
 二人は共に手を取り合い、感激しあう。
 不意に部屋に向かって足音を感じる。
「…獣性で、流石のやつらもやってきたみてえだな…」
 アリオスは、すぐさま二人冷静な眼差しで見つめた。
「感激しあうのは後だ? 逃げるぞ!」
 アンジェリークとディアは、緊迫感のあるアリオスの声に頷き、アリオスの後を追う。
三人は部屋を出、廊下を駆け抜けた。
「見つけたぞ!」
「立ち止まるな! 振り返るな!」
「うん!」
 背後に男達の声を聞きながらも、アリオスにしたがって、アンジェリークとディアは階段を駆け降りる。
 だが。
「悪いが、ここは袋小路だ・・・」
 鋭い声とともに現れたのは、オスカーとシュルツだった。

 オスカー保安官、あなたも…!


コメント

72000番のキリ番を踏まれた沙羅様のリクエストで、西部劇なアリオス・アンジェです。
 今回のアンジェは勝気のはいった元気娘。
書いててとても楽しいです。
次回はお楽しみ決闘シーンでもう直ぐ終わり〜