翌日、アリオスは保安官事務所へと出向き、シュルツ牧場のことについて訊き出すことになった。 もちろん被害届けをアンジェリークに出させるためにもだ。 「ほお・・・、シュルツ牧場にいる暴漢に牧場を襲われたとな・・・? 今朝はこれで十件目だ・・・」 保安官オスカーは溜め息を吐くように答えると、じっとふたりを見つめた。 「シュルツ牧場からも被害届けが出てるぜ? コレット牧場に遊びに行ったら、暴漢に襲われたとな?」 ニヤリと笑って、オスカーはアリオスを見ている。 だがアリオスは相変わらず無視を決め込んでいた。 「まあ、これはおまえらが届を出したから、喧嘩は両成敗ってことで、なにもなしだ」 「ちょっと! それはないんじゃないの!! 調べもしないで! うちが被害者なのよ!!」 アンジェリークがオスカーに取ってかかるものの、彼は相手にしない。 「お嬢チャンの相手はおしまいだ。届は預かっておく。まだまだ色々やることはたまっていてな・・・?」 そう言うと、オスカーは立ち上がった。 「この町に法律なんか期待しない!!」 アンジェリークは自分が出来る限りの精一杯の啖呵を切ってみせる。 「この町に法律なんか期待しない、か。受け取っておこう」 オスカーは少し自嘲気味に笑うと、アンジェリークの肩をポンと叩いた。 「待て、ひとつだけ訊きてえ・・・。襲われた十件は、何か共通していることはあるか?」 「牧場だ」 「サンキュ」 オスカーはそれだけ言うと、保安官事務所から出ていってしまった。 「ったく! 頼りにならない保安官なんだから!!」 腹立たしくてたまらないとばかりにアンジェリークは唇を噛む。 「あーあ、新任保安官だから期待してたのにな・・・」 がっかりとばかりに、アンジェリークは肩を落とし、保安官事務所を後にした。 あたりの牧場は買収されようとしているのか・・・。 「アンジェ、おまえのところもシュルツの買収にあってるのか?」 「”買収”じゃなくて”乗っ取り”よ!!」 アンジェリークは強調して言うと、腹立ちげに乱暴に歩く。 「シュルツんとこの暴れん坊が暴力にモノを言わせてやってんのよ! ホント、あいつがきてからろくなことがないわ!」 ぷりぷりと怒りながら歩くアンジェリークはどこか可愛らしい。 通りを出ても、昼間だと言うのにアンジェリーク以外の女性が歩いておらず、あちこちの酒場からは喧嘩する声が聞こえる。 「この街は無法地帯みてえだな」 「嫌になった?」 アリオスの言葉を受けて、アンジェリークは、少し寂しげな声で呟いた。 その瞳は、いつもの威勢はなく、どこか憂いを帯びている。 「いや、嫌じゃねえよ・・・」 ふっと優しげな微笑みを向け、彼女の華奢な肩をぽんて叩いてくれる。 アリオスのその温かさは、アンジェリークを癒してくれる。 「行くぞ?」 「どこに?」 「電報を打ちにな?」 すたすたと歩くアリオスに、アンジェリークはおたおたと着いていく。 「何かこの町を知ってるみたいじゃないの! 」 アリオスはその瞬間立ち止まり、アンジェリークは背中にぶつかった。 「もうっ!」 鼻をぶつけて、アンジェリークはご立腹である。 「ちょっと! 鼻ぶつかっちゃったじゃないの!」 「よかったな。鼻でかくなるぜ」 アリオスは上の空で話し、神経をどこかに集中しているようだ。 「鼻でかくなったら駄目じゃないっ!」 「・・・アンジェ、気をつけろ・・・」 アリオスの声が低くなり、アンジェリークの表情がひき締まった。 「どうしたの!?」 「見ろ」 アリオスが顎で指した場所を見ると、そこには、荒くれたちが酒場から出てきて喧嘩を始めようとしているのが見えた。 銃を取り出して喚いているのが判る。 「電報は後だ」 アリオスは踵を返そうとした時だった。 「待ちな」 声を掛けられアリオスが振り返ると、そこには何人かの無法者たちが立っていた。 「あんたか? コレット牧場の新しい用心棒は? その女を見れば判る」 男達の一人が、アリオスに近付いてくる。 「そうだ」 「昨日は兄弟を散々可愛がってくれたらしいな? ちょっと顔かせ!」 男は憎悪を漲らせた表情でアリオスを見ている。 「嫌だと言ったら?」 不敵にもアリオスは笑い、男を徴発している。 「嫌だと言ったら、無理やりにも連れていく!」 男はそう言うなり、アンジェリークの足下に威嚇発砲をした。 「きゃあっ!」 「アンジェリーク!」 アリオスは、アンジェリークの背中で庇い、彼女にこれ以上危害が加わらないようにする。 その温もりが側にあったせいか、アンジェリークは平気だった。 「おい、おまえら止めておけ!」 聞き慣れた艶やかな声が後ろから響き、アンジェリークが振り返れば、そこには保安官オスカーがいた。 「保安官、これは俺たちの喧嘩だ。ほっておいてくれ」 男は少し焦っているように言ったが、アリオスは黙ったままだった。 「おい、何とか言え! お前も!」 その瞬間。 二発の銃声がしたかと思うと、男の帽子が飛ばされたのとともに、スボンのボタンも飛ばされた。 「な・・・」 気がついたときには、銃はアリオスの腰にかかる左右のホルスターに銃は戻っていた。 見事な二丁拳銃で、速さ、射撃の正確さも群を抜いている。 男は小刻みに震え上がり、周りの者は呆然と見ている。 「だから言ったんだ。やめとけってな・・・? おまえらが太刀打ちできるレベルじゃない」 オスカーは冷静だ。 「なあ、俺の弾丸は今機嫌が悪くてな? 鉛はどこに飛ぶか判らねえぜ?」 アリオスがホルスターに手をかけた瞬間、男たちは後ずさりする。 「ふざけたまねしたら判ってんだろうな…?」 アリオスは男たちを睨みつけると、アンジェリークの手を引く。 「帰るぞ?」 「うん…」 手を繋いでその場を去る二人を、オスカーはじっと見つめていた。 「保安官! あいつは…」 「凄いやつには違いない…、恐らくな…」 まるで他人事のようにオスカーは言い、煙草に火をつけた。 流石はアリオスか… -------------------------------- 牧場に着いた時、ルノーが慌てて走ってくるのが見えた。 あれの表情は血相を変え、膝はこけたのか血が出ている。 「おね〜ちゃ〜ん!!!」 「ルノー!」 アンジェリークは慌ててルノーを抱きとめると、肩をしっかりと抱いて、その大きなな瞳を覗き込んだ。 「どうしたの!?」 「ディア・・・お姉ちゃんがやつらに連れていかれた!!!」 なんですって!? |
コメント
72000番のキリ番を踏まれた沙羅様のリクエストで、西部劇なアリオス・アンジェです。
今回のアンジェは勝気のはいった元気娘。
書いててとても楽しいです。
はははは。寄り道しすぎ…
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