Don't Cryout Loud

〜あなたしか見えない〜

Chapter2 挨拶


 あの大きな青緑の瞳が、とても印象的だった。
 あんな澄んだ瞳を見たことは無かった…。

 アリオスは昼間に逢った少女のことを思いながら、手話入門を読みふけっていた。
 時折、図解通りにするも、中々これが難しい。
 ほんのひと時一緒にいただけなのに、少女はアリオスの心にすっと真っ直ぐ入って来た。

 穢れた俺だからこそ、清らかな彼女に惹かれていくかもしれない…。
 見つめるだけで、あの少女は、俺の心の奥深い、最も透明な場所に語りかけてきて、俺を清らかにしてくれるような気がする…。
 もう一度…逢いたい・・・

  アリオスは煙草を吸いながら、自嘲気味に笑った。

                  ----------------------------

 その日、アリオスは、珍しく撮影現場に訪れた。
 目的は、レイチェルに、アンジェリークの話を聴くことであった。
 現場の誰もが珍しい客にびっくりしている。
「レイチェル!!」
「あ、アリオス先生」
 撮影の途中、声をかけてきたアリオスにレイチェルは、ぴんときた。

 先生、ひょっとして・・・?

 サングラス姿の彼もとても艶やかで魅力的だと思いながらも、周りの嫉妬の眼差しにレイチェルは苦笑してしまう。
 周りの空気は、『次のドラマはレイチェルの為に書くのか?』『アリオスの次の恋人はレイチェルか!?』などといった憶測が飛び交っている。

 まあいいけどね・・・
 ただ目的があの子だったら・・・、ちょっと困るな・・・・

 レイチェルは少し表情を曇らせる。
 アリオスはプレイボーイとして馴らしており、自ら望んで食べられ、彼に振られた女優を、レイチェルは数多く知っていたせいか、複雑な気分であった。

 だって、あの子は凄く純粋だから、ワタシ傷ついたあの子を見たくないから・・・。

 考えている間に、アリオスがやってきて、彼女の横に立つ。
「レイチェル、早速なんだが、この間の栗色の髪の友達に逢わせてはくれねえか?」
「どうしてですか?」
 少し刺のある声で彼女は言う。
「今度のドラマの主人公に使おうと思っている」
「手話?」
 こう責めてきたかと、レイチェルは思った。
 じっさい、アリオスもレイチェルは"逢いたい"などとストレートに言えば、絶対逢わせてはくれない予感がしていたのだ。
「一緒にでいい。夕飯をおごるし」
 それはアリオスにとってはかなりの譲歩だった。
 本当は二人っきりで逢って、いろいろ話をしたかったのだが、断られないようにと、あらかじめ予防線を張ったのだ。
「夕飯・・・」

 ワタシが一緒だったら、あのこもまあ安心だからいいか・・・。
 先生の話を聴けば、勉強にもなるし・・・

 少し思案に暮れたが、レイチェルは潔く、ここは"イエス"の返事をすることにした。そのことで誰もマイナスにはならないということが判ったからである。
「判りました。あの子に言っておきます。どうせ、見学に午後からここに来ますし」

 午後から・・・!!
 今日あえるのか・・・。

「だったらそのまま予定も何も無かったら、一緒にメシ食いに行こうか」
「そうですね、あのコ次第ですが、考えておきます」
 底まで話し込んだところで、レイチェルは時計を見る。
「あ、いけない! 次、ワタシのシーンです!! 後で!!!」
 レイチェルは慌てて、前のセットに入っていった。
 残されたアリオスは、ドアまで行き、、アンジェリークがはいってくるのを待つことにした。
 自分が書いた脚本にもかかわらず、美しい女優が数多共演している超大作にもかかわらず、アリオスは撮影なんぞそっちのけで、じっとドアを見ていた。

 撮影のワンシーンが一時間近くかかってようやく終了したとき----
 ゆっくりと撮影スタジオの重いドアが開いた。
 アリオスは思わず釘づけになる。
 そこにいたのは、まぎれもなく、あの栗色の髪の少女であった。
 アリオスには誰よりも輝いて見える。
 彼女の背後には、彼には純白の羽根が見え、心を満たす。
 白いワンピースにバスケットという出で立ちは、他の誰よりも清楚で輝いて見えた。
 吸い寄せられるように、アリオスはゆっくりと彼女に近づく。

 あ・・・この間の・・・

 アンジェリークは姿を見つけるなり、一礼をした。
 彼女の至近距離までアリオスは接近し、立ち止まる。
 ふたつの眼差しが重ねあったとき----
 アリオスは覚えたての手話を彼女に披露した。
『こんにちは』
 と-----

TO BE CONTINUED…

コメント

『愛の劇場』第四弾は、話すことが出来ないアンジェリークと、言葉を紡ぐことを
生業としているアリオスです。
今回はアリオスさんがアンジェリークと接点を持つために頑張っております。
まだ嵐の前の静けさといった所でしょうか。
しかし、眠い・・・。