「アンジェ・・・」 愛し合った余韻で、アンジェリークは少しぼんやりとしていた。 だが、その肌も瞳も幸せそうに輝いている。 名前を彼に呼んでもらって、アンジェリークもまた優しい微笑みを返す。 「愛してる。おまえは最高だ・・・」 唇に軽く口付けを受けながら、アンジェリークはアリオスに手を延ばし、しっかりと抱く。 「離さない・・・。おまえを・・・」 「アリオス・・・」 その日、二人は結ばれた喜びの中にいた。 アンジェリークは、出来る限りで彼の名を呼び、しっかりと抱き締める。 肌を合わせ、温もりを確かめ合った。 「アリオス・・・、愛・・・してる・・・」 たどたどしい愛の言葉。だが深い心が籠っていることを、アリオスは誰よりも判っている。 だから夢中にならずにはいられなかった。 最近は、色々な女を抱いてきていた。 だが、今までで、アンジェリークが最も清らかであり、そして美しいことを、アリオスは感じていた。 愛し合うのに夢中になる余り、二人は時間を忘れていた。 時間に気付かせてくれたのは、アンジェリークとアリオスの携帯にそれぞれ入った、レイチェルからのメールだった。 ”アンジェ、遅くなるの? ある意味心配だから、早く帰ってきてね?” アリオスには”狼さんへ。赤頭巾アンジェを早く返してね” これには二人は笑う。 時計を見ると、もう11時近くになっている。 アンジェリークが、びっくりして、ベッドから起き上がろうとすると、アリオスはその体を背後から抱き締めるようにして、ベッドから出さなかった。 「アリ・・・」 「泊まっていけ。レイチェルには連絡をする・・・」 「あっ・・・」 そのまま身体をまさぐられて、アンジェリークは力が抜けていくのを感じた。 アリオスはアンジェリークを抱き締めながら、携帯でレイチェルにメールを打つ。 ”今夜、アンジェリークはうちに泊まる。やらなければならない仕事があるから” それだけを打つと、アリオスは送信し、そのまま、再びアンジェリークを愛し始めた。 「アンジェ・・・、一緒に暮らそう・・・」 甘く低い真摯な声が胸を突く。 アンジェリークは、涙を流しながら、一度だけ、深く頷いた---- ------------------------- 翌朝、目が覚めた時、甘い痺れが残っているにも関わらず、身体はすっきりと起き上がることができた。 まだ横で、彼女の腰に手を回したまま、アリオスが眠っている。 寝顔は、みょうに可愛く見えて、くすりと笑ってしまう。 彼の頬にキスして、おはようの挨拶をした。 アリオスの腕をすり抜けて、ベッドから出て、着替えるとキッチンへと向かう。 冷蔵庫の中身を確認すると、適当にブランチを作り始めた。 美味しそうなにおいと音に、アリオスは目を覚まして、キッチンへと向かう。 アンジェリークがキッチンで、一生懸命食事を作っている。 その楽しそうな姿を見ただけで、アリオスは幸せが込み上げるのを感じた。 心が満ち足りて来るのを感じる。 「おはよう、うまそうだな」 背後から抱き締めて、アリオスは彼女に甘く囁く。 何も言えなくて、アンジェリークは俯く。 「運ぶぜ」 嬉しそうに頷いて、アリオスはならんでいる皿を運んでやった。 向かえ合わせになって食事をする姿が、可愛い。 「おまえ、もう帰るなよ? これから毎日こうしような」 嬉しかった。 心の奥底から、彼の言葉がアンジェリークの心に染み透る。 ここまで純粋に自分を求めてくれた男性(ひと)はいなかった。 アンジェリークは、アリオスを求めるように見つめ、答えるかのように頷く。 「今日、レイチェルに訊くね?」 近くの紙に簡単に書いて、アンジェリークは微笑んだ。 「荷物を取りに行かねえとダメだしな。俺としては、服がないおまえでもいいが」 ニヤリと良くない微笑みを浮かべ、アリオスはじっと見つめてくる。 アンジェリークは、いよいよ照れくさくなって、耳まで真っ赤になって俯いてしまった。 --------------------- 午後から、レイチェルの元へとアリオスを連れて帰った。 「俺はこいつと暮らしてえ・・・」 いきなりのアリオスの言葉に、レイチェルは目を丸くする。 「アンジェリークはどうなの?」 『アリオスと一緒に暮らしたい』 手話でレイチェルに答えると、彼女は溜め息を吐いた。 「アンジェ、一緒に暮らすって言うのは簡単よ。たけどその後は色々難しいよ」 『覚悟できてるわ』 力強い手話で、アンジェリークはその決意の強さを、凛とした瞳で示す。 しばらくレイチェルは黙った後、深い溜め息を吐いた。 「・・・判ったわ・・・。荷物をまとめておいで、アンジェ」 柔らかな言葉だった。 アンジェリークは、大きな瞳に嬉しそうに涙を浮かべ、口の動きで、「有り難う」と呟く。 彼女が部屋に消えて準備をしにいった瞬間、レイチェルはアリオスを睨みつけた。 「幸せにしないと、許さないから! アンジェを裏切ったり、傷つけたりしたら、すぐに連れて帰るから!!」 「ああ。あいつを幸せにする」 アリオスは、”幸せ”のところで力を込める。 「絶対だからね?」 「----もちろんだ。 俺も勿論、アンジェに幸せにしてもらうから」 「----そっか」 ドアの開く音がした。 言葉を上手く紡ぐことの出来ない少女は、笑顔で準備が出来たことを二人に伝える。 アンジェリークは、田舎からでてきた後もあまり物を買わなかったせいか、荷物と呼べるものは殆どない。 『アンジェ、幸せにしてもらいなよ? 何かあったら直ぐに帰っておいで?」 涙ぐんでレイチェルが言えば、アンジェリークもすぐさま彼女に抱きつく。 抱きついて泣きながら精一杯の感謝の気持ちを親友に伝えた。 「ほら、アリオスさんが待ってるから、行きなさい」 アンジェリークは頷くと、静かにレイチェルから離れる。 そして、感謝を込めて、彼女に精一杯の礼を尽くすために、頭を下げ、上げた後は最高の笑顔で微笑んだ。 「たまには遊びにおいで」 「あり・・・がと・・・う」 二人がしっかりと別れを惜しんだことを見計らって、アリオスはアンジェリークに手を差し伸べた。 「帰るぜ?」 アンジェリークは頷いて、その手をしっかりと取る。 「レイチェル、有難う…」 アリオスはしみじみと呟き、アンジェリークを連れて静かにレイチェルの部屋を出て行った。 ワタシは“旅立ち”と言う言葉が相応しいと思った。 この日のアンジェは凄く綺麗で、今までの中で一番輝いていた。 このときのアンジェの幸せな表情を思い出すと、ワタシは胸が痛くなる…。 |
TO BE CONTINUED…

コメント
『愛の劇場』第四弾は、話すことが出来ないアンジェリークと、言葉を紡ぐことを
生業としているアリオスです。
じかいからどろどろ。
しかしこれは長くなりそうだ…
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