COME RAIN COME SHINE

CHAPTER9


 アンジェ! 

 レウ゛ィアスは自棄になり、そのままふらふらとクリスティーナの元に向かった。
 親元を離れている彼女の場所は、何だか暖かいように思えた。
 何度かインターホンを押すと、人の気配を感じた。
「レウ゛ィアスさん・・・」
 彼女が現れるなり、彼は強く抱きすくめる。
 そのまま部屋に入り、ベッドに押し倒した。
「レヴィアスさん・・・」

 やっと抱いてくれるの?

「・・・・!!!」
 だが。そこでレウ゛ィアスははっとする。
 脳裏に浮かぶのは、栗色の髪の小さな少女。
 時間が残されていない少女。
 罪悪感が彼の胸を強く覆った。

 俺は何てことを・・・。

「レヴィアスさん・・・?」
 レウ゛ィアスはすぐに体を離すと、玄関へと向かった。
「すまなかった」
「レウ゛ィアスさん・・・」
 彼の後ろ姿は取り付く縞などない。
 そこからは後悔が迸る。
 その後ろ姿を見つめながら、クリスティーナは唇を噛んだ。

 あの子さえいなければ・・・。

 彼女は、ある決心をこのとき固める。
 それが彼女を窮地に追い込んでしまうことを、まだ気がつかないでいた。

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 翌日、レウ゛ィアスはエルンストの元を尋ねた。
「エルンスト、頼みがある」
 単刀直入に言われ、エルンストはすぐにぴんとくる。
「アンジェリークのことですか・・・」
「そうだ」
 深い溜め息を吐くと、エルンストは厳しそうなまなざしをレウ゛ィアスに向けた。
「彼女のことは・・・、もう、気になさらないで下さい・・・。カルテのことも忘れて下さい」
「何故だ!?」
 鋭いまなざしを浮かべられても、エルンストは決してひるまなかった。
「彼女は、昨日、このままで良いと、再び手術を拒否しました。もう・・・、誰の手も煩わせたくないと・・・・」
 レウ゛ィアスは苦しそうに瞳を閉じる。
「俺が説得をしてはいけないか? あいつを救いたい!」
「彼女を説得するのは骨ですよ。時間も余りありませんし・・・」
 言いながらも、エルンストはわずかな希望をレウ゛ィアスに見出だす。

 レウ゛ィアスなら、アンジェリークを救うことができるかもしれない・・・。
 だが、彼に完全に心を閉ざした彼女を、再び開かせるのは、至難の技だ・・・。

「一度、あいつを診察したい・・・」
 レウ゛ィアスの思いを、エルンストは深く感じた。
「判りました・・・。彼女は明日来ますから、その時にでも」
「すまない」
 レウ゛ィアスは深々と頭を垂れる。
 その様子を見ながら、エルンストは深い感慨を感じていた。

 あなたは本当にアンジェリークのことを・・・。

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 授業も終わり、アンジェリークは、レイチェルと共に下校しようとしていた。
「あの・・・」
 声を掛けられ、立ち止まると、そこにはレウ゛ィアスの見合い相手クリスティーナが立っていた。
「あなたは・・・」
「お話があるの・・・」
 レイチェルはキッと彼女を睨む。
「アンジェに何の用!」
「お話だけよ。レウ゛ィアスさんのこと」
 アンジェリークは目を伏せたまま答えない。
「いいわ。ここでも出来るから」
 少しイライラしたように言うと、彼女はキッとアンジェリークを見た。
「レウ゛ィアスさんをこれ以上困らせないで!!!」
 秘めた情熱を一気に爆発させ、クリスティーナはアンジェリークにぶつけた。
 それがレイチェルには我慢ならない。
「ちょっと! アナタ、この子はそんな子じゃないわよ!」
「でも話があると言って、付きまとってるのは事実じゃない!」
 二人は、お互いの感情を真っ正面からぶつけ合う。
 そんな二人をアンジェリークは苦しげに見つめた。
「何よ? 黙ってないで何とか言いなさい!」
 キツイ言葉にも、アンジェリークは苦しげに頭を振った。
「レウ゛ィアスさんも迷惑そうだし・・・。私たちは結婚するんだから! 私のお腹には子供がいるんだから!」
「・・・!!」
 出任せだった。だが明らかに動揺したアンジェリークの瞳に、クリスティーヌは満足を感じていた。

 判ってた、判ってたけど、現実の話を聞くと辛い・・・。

 ぐらりと身体が傾く。

 私には、レウ゛ィアスお兄ちゃんをどうこうする資格なんてないから・・・。

「アンジェ!!!」
 レイチェルは、そのまま意識を失ったアンジェリークを何とか抱き留めた。
「アンジェ! アンジェ!」
 レイチェルが呼び掛けても返事はない。
 流石のクリスティーナも、その事態の深刻さを感じる。
「私に何か」
「ないわ!」
 言いかけた言葉をレイチェルは制する。
「誰か、付属病院の救急車を!」

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「頼んだ」
 レヴィアスが研究室を出ようとしたとき、電話の内線音がなった。
「はい、エルンストです。アンジェリークがですか!? すぐに参ります!」

 アンジェ・・・!!!

 乱暴に内線を置くと、エルンストはそのまま駆けていく。
 レヴィアスはそのままエルンストの後についてゆく。

 アンジェ!
 いなくなるな! 
 決して俺の前からいなくなるな!

 急患入り口に向うと、そこには、顔色のないアンジェリークがストレッチャーに乗せられていた。
 思わず覗き込もうとしたレヴィアスに、一緒についてきたレイチェルが涙目で睨みつける。
「あなたにはもう、このコに近づく権利はないわよ! 
 カップル揃ってアンジェを苦しめて!! あの女のせいでまた発作起ったじゃないの!
 発作が起るたびにこのコの時間は削られるって言うのに!!」

 ・・……!!!!

「レイチェル、やめなさい」
 低い声でエルンストに諭され、レイチェルは黙りこんだ。
 レヴィアスは、そのまま顔色を青ざめて立ち尽くす。

 アンジェ!!
 俺はおまえを苦しめることしか出来ないのか…

 アンジェリークが、救急治療室運ばれてゆく。
『外科のレヴィアス先生、至急、外科救急病棟にお越しください』
 自分を呼ぶアナウンスが、空しく病棟内にこだましていた----

コメント



早くめどがつくといいですねえ(苦笑)