アンジェ! レウ゛ィアスは自棄になり、そのままふらふらとクリスティーナの元に向かった。 親元を離れている彼女の場所は、何だか暖かいように思えた。 何度かインターホンを押すと、人の気配を感じた。 「レウ゛ィアスさん・・・」 彼女が現れるなり、彼は強く抱きすくめる。 そのまま部屋に入り、ベッドに押し倒した。 「レヴィアスさん・・・」 やっと抱いてくれるの? 「・・・・!!!」 だが。そこでレウ゛ィアスははっとする。 脳裏に浮かぶのは、栗色の髪の小さな少女。 時間が残されていない少女。 罪悪感が彼の胸を強く覆った。 俺は何てことを・・・。 「レヴィアスさん・・・?」 レウ゛ィアスはすぐに体を離すと、玄関へと向かった。 「すまなかった」 「レウ゛ィアスさん・・・」 彼の後ろ姿は取り付く縞などない。 そこからは後悔が迸る。 その後ろ姿を見つめながら、クリスティーナは唇を噛んだ。 あの子さえいなければ・・・。 彼女は、ある決心をこのとき固める。 それが彼女を窮地に追い込んでしまうことを、まだ気がつかないでいた。 ------------------------------ 翌日、レウ゛ィアスはエルンストの元を尋ねた。 「エルンスト、頼みがある」 単刀直入に言われ、エルンストはすぐにぴんとくる。 「アンジェリークのことですか・・・」 「そうだ」 深い溜め息を吐くと、エルンストは厳しそうなまなざしをレウ゛ィアスに向けた。 「彼女のことは・・・、もう、気になさらないで下さい・・・。カルテのことも忘れて下さい」 「何故だ!?」 鋭いまなざしを浮かべられても、エルンストは決してひるまなかった。 「彼女は、昨日、このままで良いと、再び手術を拒否しました。もう・・・、誰の手も煩わせたくないと・・・・」 レウ゛ィアスは苦しそうに瞳を閉じる。 「俺が説得をしてはいけないか? あいつを救いたい!」 「彼女を説得するのは骨ですよ。時間も余りありませんし・・・」 言いながらも、エルンストはわずかな希望をレウ゛ィアスに見出だす。 レウ゛ィアスなら、アンジェリークを救うことができるかもしれない・・・。 だが、彼に完全に心を閉ざした彼女を、再び開かせるのは、至難の技だ・・・。 「一度、あいつを診察したい・・・」 レウ゛ィアスの思いを、エルンストは深く感じた。 「判りました・・・。彼女は明日来ますから、その時にでも」 「すまない」 レウ゛ィアスは深々と頭を垂れる。 その様子を見ながら、エルンストは深い感慨を感じていた。 あなたは本当にアンジェリークのことを・・・。 ----------------------------- 授業も終わり、アンジェリークは、レイチェルと共に下校しようとしていた。 「あの・・・」 声を掛けられ、立ち止まると、そこにはレウ゛ィアスの見合い相手クリスティーナが立っていた。 「あなたは・・・」 「お話があるの・・・」 レイチェルはキッと彼女を睨む。 「アンジェに何の用!」 「お話だけよ。レウ゛ィアスさんのこと」 アンジェリークは目を伏せたまま答えない。 「いいわ。ここでも出来るから」 少しイライラしたように言うと、彼女はキッとアンジェリークを見た。 「レウ゛ィアスさんをこれ以上困らせないで!!!」 秘めた情熱を一気に爆発させ、クリスティーナはアンジェリークにぶつけた。 それがレイチェルには我慢ならない。 「ちょっと! アナタ、この子はそんな子じゃないわよ!」 「でも話があると言って、付きまとってるのは事実じゃない!」 二人は、お互いの感情を真っ正面からぶつけ合う。 そんな二人をアンジェリークは苦しげに見つめた。 「何よ? 黙ってないで何とか言いなさい!」 キツイ言葉にも、アンジェリークは苦しげに頭を振った。 「レウ゛ィアスさんも迷惑そうだし・・・。私たちは結婚するんだから! 私のお腹には子供がいるんだから!」 「・・・!!」 出任せだった。だが明らかに動揺したアンジェリークの瞳に、クリスティーヌは満足を感じていた。 判ってた、判ってたけど、現実の話を聞くと辛い・・・。 ぐらりと身体が傾く。 私には、レウ゛ィアスお兄ちゃんをどうこうする資格なんてないから・・・。 「アンジェ!!!」 レイチェルは、そのまま意識を失ったアンジェリークを何とか抱き留めた。 「アンジェ! アンジェ!」 レイチェルが呼び掛けても返事はない。 流石のクリスティーナも、その事態の深刻さを感じる。 「私に何か」 「ないわ!」 言いかけた言葉をレイチェルは制する。 「誰か、付属病院の救急車を!」 ----------------------------------- 「頼んだ」 レヴィアスが研究室を出ようとしたとき、電話の内線音がなった。 「はい、エルンストです。アンジェリークがですか!? すぐに参ります!」 アンジェ・・・!!! 乱暴に内線を置くと、エルンストはそのまま駆けていく。 レヴィアスはそのままエルンストの後についてゆく。 アンジェ! いなくなるな! 決して俺の前からいなくなるな! 急患入り口に向うと、そこには、顔色のないアンジェリークがストレッチャーに乗せられていた。 思わず覗き込もうとしたレヴィアスに、一緒についてきたレイチェルが涙目で睨みつける。 「あなたにはもう、このコに近づく権利はないわよ! カップル揃ってアンジェを苦しめて!! あの女のせいでまた発作起ったじゃないの! 発作が起るたびにこのコの時間は削られるって言うのに!!」 ・・……!!!! 「レイチェル、やめなさい」 低い声でエルンストに諭され、レイチェルは黙りこんだ。 レヴィアスは、そのまま顔色を青ざめて立ち尽くす。 アンジェ!! 俺はおまえを苦しめることしか出来ないのか… アンジェリークが、救急治療室運ばれてゆく。 『外科のレヴィアス先生、至急、外科救急病棟にお越しください』 自分を呼ぶアナウンスが、空しく病棟内にこだましていた---- |
コメント