エルンストとレイチェルによって病院に運ばれたアンジェリークは、すぐさま処置が施された。 「エルンスト!! アンジェは大丈夫なの!?」 「すぐに意識が戻れば大丈夫でしょう・・・」 手馴れたエルンストは、アンジェリークに、いつものように発作を押さえる為の点滴を打つ。 「・・・意識が戻らなかったら・・・!?」 「・・・・・」 レイチェルは切り込むようにエルンストに訊くが、彼は一向に答えず黙々と処置を続けている。 「・・・ねえ!」 何も答えない彼に、レイチェルは苛立ちを覚え、ついつい大きな声を出してしまう。 「・・・ん・・・・」 瞼が僅かに動き、アンジェリークは、ゆっくりと瞳を開けた。 「アンジェ!!」 そのまま名前を呼びながら、レイチェルはアンジェリークに顔を寄せる。 「レイチェル・・・」 「大丈夫なの!?」 「・・・うん・・・」 少し力なくアンジェリークは答えると、親友を心配させないように、少しだけ笑った。 「・・・アンジェリーク・・・、この週末は、入院してください。そのほうが身体のためです」 「はい・・・、先生」 素直に返事をして、アンジェリークははっとする。 「先生、このことはアルヴィースのおじさんやおばさんには言わないで!!」 懇願するかのように、強く言うアンジェリークに、エルンストは辛そうに目を閉じた。 「彼らはあなたの保護者です・・・」 「心配掛けたくないから・・、お願い・・・!!」 余り力の入らない手で、必死になってエルンストの腕を掴む彼女に、彼は切ない思いが胸に広がるのがわかる。 その姿を見ていると、レイチェルは辛くてたまらなくて、涙をこらえるために、唇をかんだ。 「お願い・・・、エルンスト、黙ってやってて」 「レイチェル・・・」 恋人とその親友の思いを感じ、エルンストは仕方なく頷く。 「判りました。今回は黙っておきます・・・」 「有難うございます・・・」 少し微笑むと、アンジェリークは再び瞳を閉じた。 ゆっくりと休むために---- アンジェリーク・・・。 あなたはどこまで自分を犠牲にするのですか!? 少女の心を考えるだけで、エルンストは心が痛かった。 ----------------------------------------- 俺は、どこまでアンジェリークを傷つけたら気が済むのだろうか・・・ 心をもてあましながら、レヴィアスはいつのまにか実家に向かって歩いていた。 頭に浮かぶは、栗色の髪の少女の傷ついた顔。 それを思うだけで、胸がずんと重くなる。 一言謝らなければならないな・・・ 不意に、小さなアクセサリー店の前に目が止まり、彼は吸い寄せられるようにショーウィンドーを見つめた。 そこに飾ってあったのは、アメジストがあしらわれた”天使の羽根”をモチーフにしたペンダントだった。 少女と同じ瞳の宝石を持つ、デザインもぴったりのペンダント。 アンジェリークに似合うかもしれん・・・ 店の中に入ると、レヴィアスは、小さな少女の為にペンダントを買い求め、綺麗にプレゼント包装をしてもらった。 彼はそれを大事そうに抱えると、実家へと歩みを進める。 そこには最早、少女がいないということに、知らずに。 これで許してもらえるとは思わない・・・・。 だがせめて謝りたい・・・・ そう考えながらも、彼の足はぴたりと歩みを止めた。 直接謝ったところで・・・、何になるというのだろうか・・・。 アンジェリークを傷つけた事実は消せやしないと言うのに・・・。 俺は・・・ 彼はぎゅっと少女へのプレゼントを握り締めると、歩みを自宅マンションへと進める。 明日・・・、母にこれを託し、渡して貰おう・・・ そのほうがいい・・・。 レヴィアスは、それが一番いいのだと、自分の心に言い聞かせていた---- ------------------------------------------- 翌日、プリンセスホテルに於いて、レヴィアスのお見合いが行われようとしていた。 ホテルのロビーで両親と待ち合わせをし、そこからお見合いの場所へと向う。 「今日はいい日和でよかったわね、レヴィアス・・・」 どことなく元気のない両親に訝しげに思いながら、彼は母親を見つめる。 「母」 「何かしら・・・」 レヴィアスは、スーツの中から、昨日買ったプレゼントの包みを取り出し、母親に差し出した。 「・・・これをアンジェリークに渡してくれ・・・。すまなかったと・・・」 母親はそれを見て、寂しそうに笑うと、じっと息子を見つめる。 「アンジェちゃん・・・、一昨日・・・、うちを出たのよ・・・・」 「・・・!!!!」 レヴィアスは、衝撃が全身を貫いたような気がした。 あの少女が家を出た理由は、ただ一つ・・・。 彼のため。 彼の家族のため。 彼が家に戻るため。 そう思うと、自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。 「・・・あの子…、自分の体のこと考えないで・・・、私たちのことばかり考えて・・・・」 「そんなに・・・悪いのか・・・?」 「・・・最近、また・・・、よくないみたいで・・・・」 力なく言う母に、レヴィアスは顔にこそ出さないが、鮮烈に貫く胸の痛みを感じた。 両親が塞ぎがちなことも、これですべて理解することができる。 「アンジェちゃんに直接渡してあげて?」 母親はそれだけを言うと、息子にパッケージをつき返し、それ以上は何も話さなかった。 重い沈黙が家族を覆う。 彼らは、そのまま、用意された部屋へとはいっていった。 レヴィアスの見合い相手の女性は、申し分のない女性に思えた。 だが、彼はどこか上の空だった。 心に蘇るのは、いまや、かつての恋人ではなく、その妹のアンジェリーク。 姉よりもさらにバカでお人よしな少女。 彼女のことばかり、レヴィアスはじっと考えてしまっていた。 身体が悪いのか・・・。 いったいどこが・・・。 「-----レヴィアスくん、いかがかね? うちの娘もすっかり君を気に入ったようだが・・・」 「もう・・・、お父様ったら・・・」 まんざらでもなさそうに、笑う女性の声で、レヴィアスははっと我に帰った。 「どうかね?」 少し沈黙を置いた後、レヴィアスはゆっくりと口を開く。 「----はい。前向きにお付き合いさせていただきます----」 彼の中で何かが崩れてゆく。 これで・・・、良かったのだ・・・。 これで・・・・。 ----------------------------------------- その頃、エルンストは、自分の研究室で、アンジェリークの今日撮ったMRIの画像をじっと見つめていた。 最後の手段にでなければならないかもしれない・・・。 果たして、彼女が同意するのか・・・。 それに、この手術はあの方しか出来ない。 レヴィアスにしか----- |
コメント