COME RAIN COME SHINE

CHAPTER6


 エルンストとレイチェルによって病院に運ばれたアンジェリークは、すぐさま処置が施された。
「エルンスト!! アンジェは大丈夫なの!?」
「すぐに意識が戻れば大丈夫でしょう・・・」
 手馴れたエルンストは、アンジェリークに、いつものように発作を押さえる為の点滴を打つ。
「・・・意識が戻らなかったら・・・!?」
「・・・・・」
 レイチェルは切り込むようにエルンストに訊くが、彼は一向に答えず黙々と処置を続けている。
「・・・ねえ!」
 何も答えない彼に、レイチェルは苛立ちを覚え、ついつい大きな声を出してしまう。
「・・・ん・・・・」
 瞼が僅かに動き、アンジェリークは、ゆっくりと瞳を開けた。
「アンジェ!!」
 そのまま名前を呼びながら、レイチェルはアンジェリークに顔を寄せる。
「レイチェル・・・」
「大丈夫なの!?」
「・・・うん・・・」
 少し力なくアンジェリークは答えると、親友を心配させないように、少しだけ笑った。
「・・・アンジェリーク・・・、この週末は、入院してください。そのほうが身体のためです」
「はい・・・、先生」
 素直に返事をして、アンジェリークははっとする。
「先生、このことはアルヴィースのおじさんやおばさんには言わないで!!」
 懇願するかのように、強く言うアンジェリークに、エルンストは辛そうに目を閉じた。
「彼らはあなたの保護者です・・・」
「心配掛けたくないから・・、お願い・・・!!」
 余り力の入らない手で、必死になってエルンストの腕を掴む彼女に、彼は切ない思いが胸に広がるのがわかる。
 その姿を見ていると、レイチェルは辛くてたまらなくて、涙をこらえるために、唇をかんだ。
「お願い・・・、エルンスト、黙ってやってて」
「レイチェル・・・」
 恋人とその親友の思いを感じ、エルンストは仕方なく頷く。
「判りました。今回は黙っておきます・・・」
「有難うございます・・・」
 少し微笑むと、アンジェリークは再び瞳を閉じた。
 ゆっくりと休むために----

 アンジェリーク・・・。
 あなたはどこまで自分を犠牲にするのですか!?

 少女の心を考えるだけで、エルンストは心が痛かった。

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 俺は、どこまでアンジェリークを傷つけたら気が済むのだろうか・・・

 心をもてあましながら、レヴィアスはいつのまにか実家に向かって歩いていた。
 頭に浮かぶは、栗色の髪の少女の傷ついた顔。
 それを思うだけで、胸がずんと重くなる。

 一言謝らなければならないな・・・

 不意に、小さなアクセサリー店の前に目が止まり、彼は吸い寄せられるようにショーウィンドーを見つめた。
 そこに飾ってあったのは、アメジストがあしらわれた”天使の羽根”をモチーフにしたペンダントだった。
 少女と同じ瞳の宝石を持つ、デザインもぴったりのペンダント。

 アンジェリークに似合うかもしれん・・・

 店の中に入ると、レヴィアスは、小さな少女の為にペンダントを買い求め、綺麗にプレゼント包装をしてもらった。
 彼はそれを大事そうに抱えると、実家へと歩みを進める。
 そこには最早、少女がいないということに、知らずに。

 これで許してもらえるとは思わない・・・・。
 だがせめて謝りたい・・・・

 そう考えながらも、彼の足はぴたりと歩みを止めた。

 直接謝ったところで・・・、何になるというのだろうか・・・。
 アンジェリークを傷つけた事実は消せやしないと言うのに・・・。
 俺は・・・

 彼はぎゅっと少女へのプレゼントを握り締めると、歩みを自宅マンションへと進める。

 明日・・・、母にこれを託し、渡して貰おう・・・
 そのほうがいい・・・。

 レヴィアスは、それが一番いいのだと、自分の心に言い聞かせていた----

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 翌日、プリンセスホテルに於いて、レヴィアスのお見合いが行われようとしていた。
 ホテルのロビーで両親と待ち合わせをし、そこからお見合いの場所へと向う。
「今日はいい日和でよかったわね、レヴィアス・・・」
 どことなく元気のない両親に訝しげに思いながら、彼は母親を見つめる。
「母」
「何かしら・・・」
 レヴィアスは、スーツの中から、昨日買ったプレゼントの包みを取り出し、母親に差し出した。
「・・・これをアンジェリークに渡してくれ・・・。すまなかったと・・・」
 母親はそれを見て、寂しそうに笑うと、じっと息子を見つめる。
「アンジェちゃん・・・、一昨日・・・、うちを出たのよ・・・・」
「・・・!!!!」
 レヴィアスは、衝撃が全身を貫いたような気がした。
 あの少女が家を出た理由は、ただ一つ・・・。
 彼のため。
 彼の家族のため。
 彼が家に戻るため。
 そう思うと、自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。
「・・・あの子…、自分の体のこと考えないで・・・、私たちのことばかり考えて・・・・」
「そんなに・・・悪いのか・・・?」
「・・・最近、また・・・、よくないみたいで・・・・」
 力なく言う母に、レヴィアスは顔にこそ出さないが、鮮烈に貫く胸の痛みを感じた。
 両親が塞ぎがちなことも、これですべて理解することができる。
「アンジェちゃんに直接渡してあげて?」
 母親はそれだけを言うと、息子にパッケージをつき返し、それ以上は何も話さなかった。
 重い沈黙が家族を覆う。
 彼らは、そのまま、用意された部屋へとはいっていった。


 レヴィアスの見合い相手の女性は、申し分のない女性に思えた。
 だが、彼はどこか上の空だった。
 心に蘇るのは、いまや、かつての恋人ではなく、その妹のアンジェリーク。
 姉よりもさらにバカでお人よしな少女。
 彼女のことばかり、レヴィアスはじっと考えてしまっていた。 

 身体が悪いのか・・・。
 いったいどこが・・・。

「-----レヴィアスくん、いかがかね? うちの娘もすっかり君を気に入ったようだが・・・」
「もう・・・、お父様ったら・・・」
 まんざらでもなさそうに、笑う女性の声で、レヴィアスははっと我に帰った。
「どうかね?」
 少し沈黙を置いた後、レヴィアスはゆっくりと口を開く。
「----はい。前向きにお付き合いさせていただきます----」
 彼の中で何かが崩れてゆく。

 これで・・・、良かったのだ・・・。
 これで・・・・。

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 その頃、エルンストは、自分の研究室で、アンジェリークの今日撮ったMRIの画像をじっと見つめていた。

 最後の手段にでなければならないかもしれない・・・。
 果たして、彼女が同意するのか・・・。
 それに、この手術はあの方しか出来ない。
 レヴィアスにしか-----

コメント


レヴィXアン愛の劇場です。
すみません・・・。
まだ明るさが見えなくって・・・