レヴィアスの両親は、アンジェリークが出て行くことにかなりの抵抗を示した。 だが----- 彼女が深く決心していることでもあったので、仕方なく了承することに決めた。 だが彼らも彼女に一つだけ条件を出した。 週一回は元気な顔を家に見せるか電話をかけてくること。 これにはアンジェリークも同意し、第二の両親に感謝をした。 「おじさんとおばさんには、一番辛いときに支えてもらって有難うございました!」 アンジェリークは本当に心からこの夫妻には感謝している。 体の弱い自分を、しかも隣だったというだけで引き取ってくれたこの夫妻には、感謝してもしきれない。 「身体がつらくなれば帰ってきなさい」 と、言われ、二人の愛情の深さを改めて感じた。 そこからが忙しかった。 レイチェル、レイチェルの両親に付き添われて不動産屋で本契約をし、譲ってもらえた家財道具などをばたばたと運び終え、引越し当日には、ほとんど荷物はレヴィアスの実家の彼女の部屋には残ってはいなかった。 「随分片付いたわね?」 「おばさん!」 アンジェリークの部屋を、レヴィアスの母が、心配のせいか覗きに来る。 「何だかこの部屋を見てると…、寂しくなるわ…」 しんみりといわれ、アンジェリークの胸の奥も強くいたむ。 「おばさん・・・」 「ね、アンジェちゃん、私たち夫婦はね、レヴィアスが海外に行ってしまって、とても寂しかった…。 だけど…、あなたがいつも明るく笑ってくれて、私たちを励ましてくれた。この家で一緒に住むようになって、私たちの心を、いつも和ませてくれた…」 彼女はどこか湿っぽく言うと、少しその瞳に涙すら浮かべている。 「おばさん・・・・」 アンジェリークも鼻をすすり、大きな瞳から涙をぽろぽろと出した。 「…私こそ、おばさんたちにはお世話になりっぱなしだった…。こんな身体の私を、おばさんたちは受け入れてくれた・…。 入院して、迷惑かけたりして、本当に感謝してます…」 「アンジェちゃん…!」 二人はしっかりと抱きあい、互いのぬくもりを確かめ合う。 「辛かったら帰ってくるのよ? 身体が苦しかったら、必ず帰ってくるのよ? いいわね」 「はい」 「あなたはうちのむすめなんだから・・・」 「おばさんとおじさんも私の大切な"両親"だから・…」 二人は何度も抱き合って、暫しの別れに嗚咽していた ------------------------------------ 引越しの日は晴れ上がっていた。 アンジェリークは最後の荷物である学校の用品と少しの衣料品を持って、エルンストの車に乗り込んだ。 「本当に、お世話になりました!!!」 深深と頭を下げて、レヴィアスの両親に御礼を言った後、アンジェリークは最後にもう一度、後部座席の窓から顔を出して、育ての親に挨拶をした。 「またな、アンジェリーク」 「またね、アンジェちゃん」 二人に見送られて、彼女はレヴィアス邸を後にした---- さよなら、私の大好きな場所…。 私の思い出がいっぱいつまった場所…。 さよなら…。 大好きな人たち…。 そして…、愛を教えてくれたあの人… アンジェリークは何かを振り切るかのように、真っ直ぐ前だけを見つめていた---- すっかり、新居の片付けも済み、アンジェリークと、手伝ってくれたレイチェルとエルンストとともに、軽く休憩を取っていた「ねえ、エルンスト先生、レヴィアスお兄ちゃんって…、今日何時に終わるの…? 引越しのこと、言っておきたくて・…」 探るように訊かれて、エルンストは複雑な思いにかられた。 「今日は…、院長の計らいで5時上がりです…。その・・」 アンジェリークの為に言葉を濁すエルンストに、彼女は優しく微笑んだ。 「いいの、知ってるから…。明日お兄ちゃんがお見合いだって…」 少し元気のない彼女にエルンストは気の毒そうに眉根を寄せながらそっと頷く。 「正門から出てこられるでしょう。わたしとレイチェルも付き合いますから、行きましょう…」 「有難う・…」 エルンストとレイチェルは、最近元気がなくなってきているアンジェリークを心配しながら、その身体のためにも付き添ってやることにしたのだ。 三人は、エルンストの車で、"スモルニィ大学病院"へと向った---- ------------------------------------- 「もうそろそろかと思いますので、私たちは車で待っています」 「有難う・…」 病院前まで来た三人は、レヴィアスの帰りをいまや遅しと待ちわびていた。 そして時計でエルンストが時間を確認した後、二人で話したいだろうと気を使ってくれた結果なのであった。 レイチェルとエルンストが車の中に去ったと同時に、スーツ姿のレヴィアスがアンジェリークの前に現れた。 その待ちわびる少女を見つけた瞬間、レヴィアスは目を見張った。 前よりも顔色が悪くなっている…。 痩せて…。 アンジェ・… だが彼は、そのような感情は見せないようにと、不機嫌な表情を作る。 「レヴィアスお兄ちゃん!!」 彼女が手を振るも、彼はむすっとしたままのポーカーフェースだった。 「…何しに来た…」 いきなり険悪な雰囲気を突きつけられて、彼女は一瞬怯む。 お兄ちゃん・…、 まだ怒ってる…? 「あ、話があって!」 「どんな話かは走らぬが、余りこういったところまで来られると…。 正直言って迷惑だ…。俺を追いかけるのは辞めろ・…」 「・・・・!!!!!」 アンジェリークの木津ついて辛そうな表情を一瞬氏、少し苦痛な顔を浮かべた。 心臓が、痛くなるのを、アンジェリークは感じる。 その表情を見て、レヴィアスはすぐに後悔の念に駆られる。 心にもないことを彼はついつい口走ってしまう自分を感じつつも、止める事など出来なかった。 アンジェ・・・!!! その言葉は、アンジェリークに決定的なダメージを与えた。 「うん・・・ごめん・・・」 アンジェリークはそれだけを言うと、そのまま踵を返して、レイチェルたちが待つ車に向って走り始めた。 苦しい…。 どうしたんだろう… アンジェリークが、二人の待つ車の前にかかった瞬間。 「・・・・・!!!!」 胸に激痛が走り、そのまま意識を失った---- 「あれは!?」 車の中にいたエルンストとレイチェルはすぐさま彼女に掛けより、倒れそうだった身体を抱きとめる。 エルンストは咄嗟に彼女の動向を見た。 「レイチェル、危険です。すぐに彼女を病院に運びます」 その頃のレヴィアスは、ことごとく自分のバカさ加減に呆れていた。 また…、俺はアンジェを傷つけてしまった…。 俺はどこまでバカなんだ・… レヴィアスはアンジェリークを追いかけることが出来ず、そのまま立ち尽くしていた---- |
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