「先生、私、覚悟は出来ていますから。その上で、一人暮らしがしたいんです」 力強く、全てを悟ったようなまなざしで見つめられると、エルンストは辛くなる。 私よりも、むしろ身体的にきついことを知っているのは、彼女のほうでしょうから・・・。 「判りました。あなたに必要なアドバイスをこちらで行いましょう。ただし、きちんとお守り下さい」 アンジェリークの意を最大源に汲む形での答えを、エルンストはしてくれ、二人の少女たちには笑みが広がった。 「よかったね、アンジェ!」 「うん!」 二人は手を取り合って喜び合う。 その様子を見ながら、エルンストはよほどの事情がアンジェリークにはあることを察した。 ふいにアンジェリークの表情は曇り、レイチェルを心配させる。 「アンジェ?」 「エルンスト先生・・・、このことはレウ゛ィアスお兄ちゃんには言わないで・・・。自分で言うから・・・」 切ないアンジェリークの言葉に、レイチェルとエルンストは胸の奥が苦しくなる。 「アンジェリーク、あなたもたまにはわがままを言ってみてはどうですか? どうしてそんなに気をつかうんですか?」 その答えを曖昧にするかのように、アンジェリークは、力なく微笑むだけ。 結局、エルンストが出した条件はこうだった。 夜は早く寝る。疲れやストレスは溜めない。コンビニの食事ではなく、自炊をする。週一回はエルンストの下に通う---- 以上のことだった。 「でも良かったじゃない、アンジェ! これなら守れそうだしね〜!」 「そうね」 診察室から出ながら、二人は少し明るい表情になっていた。 「あ・・・」 廊下で不意にその姿を認めたとき、アンジェリークはハッと息を飲み、その場に立ち尽くした。 「アンジェ・・・」 親友の声に、アンジェリークは自分を取り戻す。 「レイチェル、レウ゛ィアスお兄ちゃんに話があるから・・・」 「判った。外で待ってる」 「有り難う」 レイチェルは気を利かせて、先に玄関に向かってくれた。 「レウ゛ィアスお兄ちゃん」 柔らかな声に、レウ゛ィアスは振り返る。 意識のどこかで、アンジェリークに逢いたくて、ふらりと内科の診療室前まで来てしまった自分が、どこか苛立たしい。 「アンジェリークか。一体何の用だ。俺は仕事中だ」 冷たく全く感情のない声で淡々と言われ、アンジェリークは胸が苦しくなる。 「うん、ごめんなさい・・・」 小さい彼女がさらに小さくなっているのに、レウ゛ィアスはさらにいらだちを募らせる。 「何だ!? 用がないなら行くぞ」 「あ、あのね・・・、おばさんたちが寂しがっているから、帰ってきて?」 本当は、彼に逢いたいのは私なのに・・・。潤んだ瞳で見つめられ、レウ゛ィアスはその視線をわざと避ける。 絶望的な思いが彼女の中に覆う。 「おまえには関係ないことだ」 心が崩れ落ちる。 アンジェリークは息苦しくなるのをなんとか押さえて、精一杯、普段と同じような表情になるように努めた。 「ごめんなさい。私が言うべきじゃなかったわね。うん」 決して誰も責めようとしない彼女にかこつけて、ついつい当たってしまう自分自身を、彼は呪った。 「もう、行く」 「うん、ごめんね。仕事中に」 レウ゛ィアスは行きかけて立ち止まり、振り返る。 「仕事中に話しかけてくるな。迷惑だ」 その一言は、アンジェリークの全てを奪い去った。感覚も何もかも。 「・・・うん、もう、しない・・・」 彼女は、それだけをなんとか絞り出して、走って玄関へと向かった。 アンジェ・・・。また、おまえを傷つけたか・・・? 玄関まで走ると、そこにはレイチェルが待っていてくれていた。 「レイチェル・・・」 その姿を見た瞬間、アンジェリークの瞳から涙が溢れる。 「アンジェ!」 しっかりと受け止めてくれる親友にすがって、彼女は泣いた。 「何があったかは判らないけど…、泣いちゃいなさいよ? 泣いてすっきりなさい?」 「うん、うん!!」 親友の胸の中で、アンジェリークは素直になって泣き続けた。 ------------------------------------- 家に帰ると、レヴィアスの母が電話で話していた。 「ええ、判ったわ…。日曜日にプリンセスホテルね…、わかったわ」 そこで彼女は電話を切ると、アンジェリークを見た。 「ただいま、おばさん…」 「お帰り、アンジェちゃん、…あ、待って!!」 彼女がそのまま自室へと行こうとすると、レヴィアスの母は彼女を引き止める。 「今度の日曜日ね、私と主人は家を開けるから、お留守お願いできるかしら?」 「はい」 「夕飯は適当に済ませといてね。日曜日は、レヴィアスのお見合いがあるから…」 「・・…!!!!!」 心臓が、一瞬、止まってしまうのかと、アンジェリークは思った。 苦しく、胸が張り裂けそうになる。 先ほどの痛みがさらに助長している。 「…うん…、判った…。着替えてくるね…。 あ…、おばさん。私も話があって・…」 「何かしら?」 レヴィアスの見合い話で気をよくしているのか、彼女は少し機嫌よく答える。 それを見ながら、アンジェリークは意を決する。 「----私…、そろそろ一人で暮らそうと思ってるの…」 「アンジェちゃん!?」 少女の思い詰めたような声に、母は驚愕の声を漏らす。 「そうしたら…、おばさんたちにご迷惑かからないし…、レヴィアスお兄ちゃんも帰ってくるだろうから…」 「ダメよ! あなたはお嫁に行くまで、この家にいるんだから!」 必死にアンジェリークの肩を抱いて、レヴィアスの母は説得をする。 アンジェリークはその気持ちが嬉しかった。 だが、彼女は静かに首を振る。 「おばさん有難う…。だけど、もう決めたことなの! 不動産屋さんにも回って、明日、アパートも仮契約できるから…」 「アンジェちゃん!」 これ以上どういっていいかわからない。 この少女なりの結論を出したのだ。 一人で悩んで…。 「家財道具は、冷蔵庫やレンジとか、ガスレンジは中古のものを譲ってもらえるし、ちゃんと生活も出来そうです…。準備が出来たらすぐに出て行きますから、そうしたら、レヴィアスお兄ちゃんに言ってくださいね? 私がいないから安心して帰ってきてもいいって」 「どうしてそんなこと考えるの! 身体だって!!」 ぎゅっと彼女の小さな身体を抱きしめて、母は必死に引きとめようとする。 「エルンスト先生には許可取ったから…。だから、心配しないでね…。ほんとうにありがとう、おばさん・・・」 アンジェリークはそっと、彼女から離れると、自室へとはいっていった。 アンジェちゃん…。 あなたはどこまで自分を押し殺して生きていくの・…? 他人のことばかり考えて・…。 私たちは、あなたを本当の娘のように思っているのよ… 血が滲むまで、母は強く唇を噛み締めていた----- 部屋に入った瞬間、アンジェリークはベッドに倒れこみ、そのまま声を押し殺して泣き始める。 レヴィアスお兄ちゃんがお見合い・…。 そうよね…。 もうお兄ちゃんも28歳だもの…。 そんな話が出ても当然だもん・…。 アンジェリークは肩を何度も震わせる。 、こんなにも、私、レヴィアスお兄ちゃんのことを愛してたんだ・…。 |
TO BE CONTINUED…
コメント
レヴィXアン愛の劇場です。
最近レヴィXアンUPが続いてるな〜
まだまだどろどろです〜。
この二人の後日談が「GIFT BOX」にございます〜(宣伝)
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