COME RAIN COME SHINE

CHAPTER4


「先生、私、覚悟は出来ていますから。その上で、一人暮らしがしたいんです」
 力強く、全てを悟ったようなまなざしで見つめられると、エルンストは辛くなる。

 私よりも、むしろ身体的にきついことを知っているのは、彼女のほうでしょうから・・・。
「判りました。あなたに必要なアドバイスをこちらで行いましょう。ただし、きちんとお守り下さい」
 アンジェリークの意を最大源に汲む形での答えを、エルンストはしてくれ、二人の少女たちには笑みが広がった。
「よかったね、アンジェ!」
「うん!」
 二人は手を取り合って喜び合う。
 その様子を見ながら、エルンストはよほどの事情がアンジェリークにはあることを察した。
 ふいにアンジェリークの表情は曇り、レイチェルを心配させる。
「アンジェ?」
「エルンスト先生・・・、このことはレウ゛ィアスお兄ちゃんには言わないで・・・。自分で言うから・・・」
 切ないアンジェリークの言葉に、レイチェルとエルンストは胸の奥が苦しくなる。
「アンジェリーク、あなたもたまにはわがままを言ってみてはどうですか? どうしてそんなに気をつかうんですか?」
 その答えを曖昧にするかのように、アンジェリークは、力なく微笑むだけ。
 結局、エルンストが出した条件はこうだった。
 夜は早く寝る。疲れやストレスは溜めない。コンビニの食事ではなく、自炊をする。週一回はエルンストの下に通う---- 以上のことだった。
「でも良かったじゃない、アンジェ! これなら守れそうだしね〜!」
「そうね」
 診察室から出ながら、二人は少し明るい表情になっていた。
「あ・・・」
 廊下で不意にその姿を認めたとき、アンジェリークはハッと息を飲み、その場に立ち尽くした。
「アンジェ・・・」
 親友の声に、アンジェリークは自分を取り戻す。
「レイチェル、レウ゛ィアスお兄ちゃんに話があるから・・・」
「判った。外で待ってる」
「有り難う」
 レイチェルは気を利かせて、先に玄関に向かってくれた。
「レウ゛ィアスお兄ちゃん」
 柔らかな声に、レウ゛ィアスは振り返る。
 意識のどこかで、アンジェリークに逢いたくて、ふらりと内科の診療室前まで来てしまった自分が、どこか苛立たしい。
「アンジェリークか。一体何の用だ。俺は仕事中だ」
 冷たく全く感情のない声で淡々と言われ、アンジェリークは胸が苦しくなる。
「うん、ごめんなさい・・・」
 小さい彼女がさらに小さくなっているのに、レウ゛ィアスはさらにいらだちを募らせる。
「何だ!? 用がないなら行くぞ」
「あ、あのね・・・、おばさんたちが寂しがっているから、帰ってきて?」
 本当は、彼に逢いたいのは私なのに・・・。潤んだ瞳で見つめられ、レウ゛ィアスはその視線をわざと避ける。
 絶望的な思いが彼女の中に覆う。
「おまえには関係ないことだ」
 心が崩れ落ちる。
 アンジェリークは息苦しくなるのをなんとか押さえて、精一杯、普段と同じような表情になるように努めた。
「ごめんなさい。私が言うべきじゃなかったわね。うん」
 決して誰も責めようとしない彼女にかこつけて、ついつい当たってしまう自分自身を、彼は呪った。
「もう、行く」
「うん、ごめんね。仕事中に」
 レウ゛ィアスは行きかけて立ち止まり、振り返る。
「仕事中に話しかけてくるな。迷惑だ」
 その一言は、アンジェリークの全てを奪い去った。感覚も何もかも。
「・・・うん、もう、しない・・・」
 彼女は、それだけをなんとか絞り出して、走って玄関へと向かった。

 アンジェ・・・。また、おまえを傷つけたか・・・?


 玄関まで走ると、そこにはレイチェルが待っていてくれていた。
「レイチェル・・・」
 その姿を見た瞬間、アンジェリークの瞳から涙が溢れる。
「アンジェ!」
 しっかりと受け止めてくれる親友にすがって、彼女は泣いた。
「何があったかは判らないけど…、泣いちゃいなさいよ? 泣いてすっきりなさい?」
「うん、うん!!」
 親友の胸の中で、アンジェリークは素直になって泣き続けた。

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 家に帰ると、レヴィアスの母が電話で話していた。
「ええ、判ったわ…。日曜日にプリンセスホテルね…、わかったわ」
 そこで彼女は電話を切ると、アンジェリークを見た。
「ただいま、おばさん…」
「お帰り、アンジェちゃん、…あ、待って!!」
 彼女がそのまま自室へと行こうとすると、レヴィアスの母は彼女を引き止める。
「今度の日曜日ね、私と主人は家を開けるから、お留守お願いできるかしら?」
「はい」
「夕飯は適当に済ませといてね。日曜日は、レヴィアスのお見合いがあるから…」
「・・…!!!!!」
 心臓が、一瞬、止まってしまうのかと、アンジェリークは思った。
 苦しく、胸が張り裂けそうになる。
 先ほどの痛みがさらに助長している。
「…うん…、判った…。着替えてくるね…。
 あ…、おばさん。私も話があって・…」
「何かしら?」
 レヴィアスの見合い話で気をよくしているのか、彼女は少し機嫌よく答える。
 それを見ながら、アンジェリークは意を決する。
「----私…、そろそろ一人で暮らそうと思ってるの…」
「アンジェちゃん!?」
 少女の思い詰めたような声に、母は驚愕の声を漏らす。
「そうしたら…、おばさんたちにご迷惑かからないし…、レヴィアスお兄ちゃんも帰ってくるだろうから…」
「ダメよ! あなたはお嫁に行くまで、この家にいるんだから!」
 必死にアンジェリークの肩を抱いて、レヴィアスの母は説得をする。
 アンジェリークはその気持ちが嬉しかった。
 だが、彼女は静かに首を振る。
「おばさん有難う…。だけど、もう決めたことなの! 不動産屋さんにも回って、明日、アパートも仮契約できるから…」
「アンジェちゃん!」
 これ以上どういっていいかわからない。
 この少女なりの結論を出したのだ。
 一人で悩んで…。
「家財道具は、冷蔵庫やレンジとか、ガスレンジは中古のものを譲ってもらえるし、ちゃんと生活も出来そうです…。準備が出来たらすぐに出て行きますから、そうしたら、レヴィアスお兄ちゃんに言ってくださいね? 私がいないから安心して帰ってきてもいいって」
「どうしてそんなこと考えるの! 身体だって!!」
 ぎゅっと彼女の小さな身体を抱きしめて、母は必死に引きとめようとする。
「エルンスト先生には許可取ったから…。だから、心配しないでね…。ほんとうにありがとう、おばさん・・・」
 アンジェリークはそっと、彼女から離れると、自室へとはいっていった。

 アンジェちゃん…。
 あなたはどこまで自分を押し殺して生きていくの・…?
 他人のことばかり考えて・…。
 私たちは、あなたを本当の娘のように思っているのよ…

 血が滲むまで、母は強く唇を噛み締めていた-----


 部屋に入った瞬間、アンジェリークはベッドに倒れこみ、そのまま声を押し殺して泣き始める。

 レヴィアスお兄ちゃんがお見合い・…。
 そうよね…。
 もうお兄ちゃんも28歳だもの…。
 そんな話が出ても当然だもん・…。

 アンジェリークは肩を何度も震わせる。

、こんなにも、私、レヴィアスお兄ちゃんのことを愛してたんだ・…。

 

TO BE CONTINUED…


コメント


レヴィXアン愛の劇場です。
最近レヴィXアンUPが続いてるな〜
まだまだどろどろです〜。
この二人の後日談が「GIFT BOX」にございます〜(宣伝)