不動産屋巡りを終えて、アンジェリークが帰宅すると、少し不機嫌なレウ゛ィアスの母が待っていた。 「どこに行っていたの!?」 「ごめんなさい・・・」 いつもとは少し雰囲気の違う彼女に、アンジェリークは戸惑いながらも謝った。 おばさんがああなるのも、無理ないかな・・・。 レウ゛ィアスお兄ちゃんが、早く出て行っちゃったから・・・。 私のせいで・・・。 うなだれる小さな彼女に、母はハッとする。 この子には何の落ち度もないに、私ったら・・・。 「アンジェちゃん、着替えていらっしゃい。今日は軽いもので済ませましょう。今日からまた三人だし」 「はい・・・」 そのまま肩を落としたまま、アンジェリークは自室へと入った。 レウ゛ィアスの母親の脳裏に主治医エルンストの言葉が蘇る。 『彼女にはストレスは厳禁です。もともと、黙っていて溜め込んでしまうようですから、気をつけて下さい』 あの子が何も言わないから、ついきつく当たってしまった・・・。 ごめんね、アンジェちゃん・・・。 アンジェリークは、手早く制服から私服に着替えると、ベッドの上に横たわった。 やっぱり、ここから出て行かなくっちゃ。 私がいたら、きっとレウ゛ィアスお兄ちゃん帰ってこれないもん・・・。 レヴィアスお兄ちゃん・・・・。 レヴィアスお兄ちゃんのことを考えるだけで、こんなに切ないなんて・・。 アンジェリークは涙を浮かべながら、自分の心をそっと抱きしめた。 ------------------------------- 「レイチェル、何か、私でもできるようなアルバイトの口知ってる?」 昼食中、突然、切羽詰ったようにアンジェリークに言われて、レイチェルは眉根を寄せた。 「アンジェ! ダメだよ! アナタ、自分の身体がどういう状態か判っているでしょ!?」 レイチェルは、心配そうに眉を顰めている。 「どうしてそんなことを」 「うん・・・。ひとりで暮らしてみようと思って・・・。これ以上、迷惑を掛けることは出来ないから・・・」 心配掛けないようにと、アンジェリークは笑ってみせる。 「そんなことしたら、皆さん寂しがるわよ!」 「私がいるから、レウ゛ィアスお兄ちゃん、家出ちゃったし」 明るく言うが、アンジェリークの苦しさを、レイチェルは痛いほど感じた。 それがレイチェルを切なくさせる。 バカ・・・、アンジェ・・・・。 いつも他人のことしか考えないんだから・・・ レイチェルは覚悟を決める。 「いいわ! アンジェ、ワタシで出来ることだったら、何だって言ってね? だから、あまり無理しちゃだめだよ」 アンジェリークが余りにも健気で、レイチェルはその気持ちを受け入れてあげたいと思う。そうすることで、アンジェリークの役に立ちたいと心から思った。 「有り難う。色々迷惑掛けてごめんね」 「何言ってんの! 私たちは友達でしょ」 「うん・・・」 二人は泣き笑いの表情を浮かべて、見つめ合い、抱き合った。 ------------------------------ その頃、レウ゛ィアスは、院長室に私用で呼ばれていた。 「アルウ゛ィース君、一度、この女性と逢ってみる気はないかね」 ”来たか”とレウ゛ィアスは思った。写真を差し出され、彼は無表情に見つめる。 「アルカディア病院の院長の娘さんでね、ご本人も薬剤師の免許を持っておられる」 写真に写っている女性は、特に魅力的とは感じない。 だがきっと、普通に見ればこの女性も美しいのであろう・・・。 「どうした・・・? 他に決まっているものがいるならば、無理強いはせぬぞ」 その言葉に、レヴィアスは、一瞬、あの儚い笑顔の少女を思い浮かべる。 かつての恋人の妹で、今、自分の実家で暮らす、あの栗色の髪の少女を---- 何を考えている・・・! 俺は!! 彼は狂いげに一瞬唇を噛み締める。 そして、言葉をつむぎ始めた。 心とは裏腹の言葉を---- 「是非、 お会いしたいです・・・、院長」 言葉が発せられた後、レヴィアスはうつろな気持ちになった。 これでよかったのだ・・・ 「そうか! 先方もそなただったらきっと喜ぶだろう! 早速コンタクトを取って、逢う日程を調整しよう!!」 嬉しそうに微笑む院長の顔が、レヴィアスにはうつろに映る。 そして、さらに、あの少女の面影が強くなる。 俺の・・・・。 俺の本当に心は・・・。 レヴィアスは自分の心にそむいたことを舌と、どこかで認め始めていた---- 良かった・・・。 今日、いいアパート見つかって・・・。 レイチェルのご両親が保証人は買って出てくれたし・・・・。 放課後、不動産屋めぐりをしたアンジェリークは、無事に条件の良い物件にめぐり合うことが出来た。 レイチェルも協力してくれ、二人とも気に入った物件だった。 保証人については、レイチェルの両親がなってくれることになり、明日仮契約をすることにしている。 これで・・・。 レヴィアスお兄ちゃんは帰ってきてくれるはずだから・・・・ 「一応、このことは、エルンストに言ったほうが良いよ? アナタの主治医だし・・・」 「・・・うん・・・・」 「私もついていってあげるからさ!」 やはり、主治医の恋人を友達に持つのはいいことだと、アンジェリークは今更ながらに思った。 レイチェルに付き添われて、アンジェリークはエルンストの診察を受けに行く。 30分ほど待って、アンジェリークの番になり、彼女はレイチェルとともに、診察室へと向った。 「どうしましたか、お二人で・・・」 「あの・・・、先生、私・・・、一人暮らしを始めることになったんですが・・・、どういったことに注意したら良いでしょう・・・」 アンジェリークの思いがけない言葉に、エルンストは絶句する。 「本当ですか、アンジェリーク!?」 彼は眉根を寄せ、恋人のレイチェルを見つめた。 「ホントだよ。ね、エルンスト、アンジェが一人暮らしでどういったことを気をつけたらいいか、アドバイスしてあげて・・・」 「確かに、今と同じように気をつけていただければ良いのですが・・・、少し診察をしましょう・・・」 アンジェリークが、なぜ一人暮らしをしようとしているか、エルンストには薄々わかっていた。 だが、あえて訊かなかった。 暫くして、エルンストはふうっとため息を吐いた。 「アンジェリーク、あなた・・・、ストレスを溜めましたか!?」 「え!?」 真のついた答えに、アンジェリークは気まずそうに俯く。 「----正直言って・・・・、 あなたの今の身体の状態では・・・・、ひとり暮らしは危険です・・・・」 やっぱり・・・・。 だけど・・・。 止めるわけには行かないから・・・・ アンジェリークは決意を秘めたように、エルンストを見つめた---- |
TO BE CONTINUED…
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