COME RAIN COME SHINE

CHAPTER2


 レヴィアスに、診察室に入って行く事を目撃されたなどと、つゆも知らないアンジェリークは、いつものように今の主治医であるエルンストの診察を受けた。
「余り無理をしてはいけませんアンジェリーク。今の状態は、前よりも改善されてはいますが気を抜かないで下さい。気を抜くと、また入院ですよ」
「はい・・・、エルンスト先生…」
 少し元気のない様子の彼女に、エルンストは眉根を寄せた。
「ご気分でも悪いんですか?
 あなたにとって、ストレスは厳禁ですよ?」
「いいえ…、そんなことないです。有難うございました!」
 アンジェリークは慌てて首を振ると、頭を深く下げて、逃げるようにして診察室を出る。
「失礼しました」
 廊下に出るなり、アンジェリークは大きな溜息を一つ吐いた。

 エルンスト先生にはうそついてもすぐにばれちゃう…。
 だって…、レイチェルの恋人だから、彼女を通じてすぐに私の変化を感じ取ってしまうもの…。
 私がストレスを感じていることなんて、お見通し…

「さてと、気を取り直して、おうちに帰ってお手伝いと!」
 すっと背筋を伸ばすと、彼女はゆっくりと階段を下りていった。


 今日も頑張ってお手伝いしなきゃ…。
 レヴィ明日お兄ちゃん…、昨日、私が作ったケーキ食べてくれなかったな…。
 昔、お姉ちゃんが作ったものは、良く一緒に食べてくれてたのに…。

 病院の玄関先に出ると、アンジェリークははっとした。
「レヴィアスお兄ちゃん…、どうして…」
 そこにはレヴィアスが不機嫌そうな顔をして立っていた。
「俺も今日からここで仕事だ」
「…そうだったね…。うん…、またお家でね?」
 少し気まずい雰囲気に、アンジェリークはたまらなくなって、少し弱弱しい微笑を浮かべると、その場から立ち去ろうとした。
「待て」
 腕を強く掴まれて、アンジェリークは何が怒ったかわからなかった。
「あ…」
「家まで送る」
 有無言わせぬ口調と視線に、アンジェリークは頷くしかない。
「うん…」
 そのまま、彼女はレヴィアスの後を着いて行く。
 ゆっくりと。

 あれ…。お兄ちゃん、ゆっくり歩いてくれてる?

 レヴィアスは、少しアンジェリークの前を歩いていたが、その間隔は一定を保っていて、開くことはない。

 ばれちゃったか…、足のこと…。
 だけど…。
 有難う…、レヴィアスお兄ちゃん…

 レヴィアスはアンジェリークを駐車場まで連れてゆき、そこに停めている父親の車に乗り込む。
 アンジェリークにも乗るようにと、彼は後部座席のドアを開けてやる。
「乗れ」
「・・うん・・」
 彼女が後部座席に乗り込むと、車は早々に出発した。
 じっと空いている助手席を見つめる。

 ここはエリスお姉ちゃんの席だもんね…。
 きっと、お兄ちゃんにとっては永遠にそうだから…。

 切なげに、アンジェリークはその場所を見つめていた----
「アンジェ…」
 突然話し掛けられて、彼女はびくりとした。
「何!?」
「おまえ、内科に行ってるのか?」
「あ…、うん…」
 言葉を濁す彼女に、レヴィアスは益々苛立ちを募らせる。
「どこか悪いのか?」
 あくまで、彼は落ち着いたように言う。
「あ…、ただの風邪…、だから…」
 ごまかす彼女を不審に思いながら、レヴィアスはそれ以上は訊かなかった。

 どうせ…、ばれることだけれど…

 アンジェ…。
 おまえは何を隠している…!?

 重い沈黙が、車内を包み込み始めていた-----
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 アンジェリークを家の前に降ろした後、レヴィアスは再びどこかに消えてしまった。
 ”今日の晩飯はいらない”と言う一言を残して----
 その夜、レヴィアスが家に帰ってきたのは、9時過ぎだった。
 彼は帰るなり母親の部屋に報告に行った。
 その前を、偶然にも、お風呂上りのアンジェリークが通りがかった。
 声が部屋から漏れ聴こえる。
「明日から、俺は家を出る。今夜はその手続きをしてきた」
「急じゃないの!? ひと月は家にいてから、マンションに引っ越すといってたじゃないの!?」
「ここにいると…、色々めんどうだからだ…」

 ・…!!!
 きっと私のことだ!!!
 私を見たくないから…。
 お姉ちゃんに似てるから…。
 お兄ちゃん…、ごめんなさい…!!!
 おばさんごめんなさい・…!!!!

 身体を突く鋭い痛み。
 胸が苦しくてたまらなくなる。
 大きな瞳に涙を浮かべて、アンジェリークは部屋へとそっと戻った。
 戻るなり、彼女はベッドに倒れこんで、泣き続ける。

 私がいるから…!!!
 ごめんね…。
 おばさん。おじさん…。
 もう…、これ以上迷惑をかけられない…

 アンジェリークは一晩かけて、いろいろなことを考え始めた。
 そして、決心を固める。
 この家を出ることを-----


 翌朝、アンジェリークはいつものように朝は手伝いをして、テーブルについた。
 少し気まずい朝食を終えた後、アンジェリークは一番に立ち上がった。
「じゃあ、私、行きます」
「送ってやる」
 そういって立ち上がろうとしたレヴィアスを、アンジェリークは制する。
「お兄ちゃん、気を使わなくていいから、ね?」
 ニコリと彼に微笑みかけて、アンジェリークはそのまま玄関へと急ぐ。
 その姿を見ていると、レヴィアスはどうしようもなく苛立つのを感じた。

 なぜだ…
 アンジェリーク!!


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 病院に着くなり、アリオスは内科病棟にあるエルンストの部屋に真っ直ぐ向った。
「レヴィアスだ。話がある」
「どうぞ」
 エルンストがドアを開けるなり、彼はずかずかとはいってゆく。
「ご用件は…?」
「おまえの患者にアンジェリーク・コレットと言うものがいるはずだ」
「ええ、います」
 エルンストは、内心"来たな”と感じていた。
 レイチェルを通じて、レヴィアスとアンジェリークのことを知っていたからである。
「俺はあいつの兄代わりだ。病状を知りたい…」
「出来ません!」
 エルンストの余りにものきっぱりとした口調に、レヴィアスの表情は一気に険しくなる。
「なぜだ!」
「あなたもご存知のように、我々医者には"守秘義務"があります。いくら、あなたが"兄代わり"といっても、本人の同意がない限りはお教えできません。あなたのお母様には彼女の病状はお伝えしておりますが、それは後見人だからです。
-----ご本人に、直接お聞きになってください。
------レヴィアス先生」
 もっともの事を言われて、レヴィアスは言い返すことが出来なかった----

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 その日の放課後、アンジェリークは不動産屋めぐりを開始した。

 もう誰にも迷惑をかけたくないし…、誰も私のせいで傷つけたくないから…

 彼女のこのような行動を、まだ誰も知るところではなかった。  

TO BE CONTINUED…


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連続UPです!!