結婚・・・!? お兄ちゃんと私が・・・。 何が起こったか判らずに、アンジェリークはレウ゛ィアスを見上げる。 「・・・おまえを離したくない・・・。二度と・・・」 レウ゛ィアスの苦悩が、腕の中で伝わって来る。 それがアンジェリークには甘い痛みになって返ってくる。 「・・・あなたと過ごせるのは、ほんの少しかもしれないのよ? それだったら、またあなたは傷つくことになるわ・・・。それだけは絶対嫌なの!!」 泣きながら、身体を震わせる彼女を、レウ゛ィアスはさらに力強く抱き締めた。 「おまえと過ごさないほうが俺は傷つく・・・」 「レウ゛ィアス・・・」 ぎゅっと抱き返してきた彼女に、彼はほっと息を吐きながら背中を撫でた。 「中に入って構わないか?」 「うん・・・」 玄関先ではなんだと言うわけで、二人は部屋の中に入り、落ち着く。 だが、レウ゛ィアスは、アンジェリークを離したくなくて、ずっとその華奢な身体を抱き締めたままだった。 「アンジェ、おまえは生きるんだ・・・。ずっと俺の側で・・・、俺がおまえを死なせやしない!!!」 「レウ゛ィアス・・・!!!」 嬉しくて、心で精一杯彼を感じて、アンジェリークは精悍な胸に顔を埋める。 「アンジェ・・・、返事は”イエス”ととって構わないか?」 栗色の髪を優しく撫でられ、甘く囁かれれば、アンジェリークは想いが溢れて行くのを感じた。 僅かに頷く彼女を可愛いと思いながら、レウ゛ィアスはフッと満足げな微笑みを浮かべた。 「返事は?」 「もう一回プロポーズしてくれたら言う・・・」 ちょっと拗ねたように言う彼女が、レウ゛ィアスは可愛くて仕方なく、さらに抱き締める腕を強くした。 「苦しい、レウ゛ィアス」 「胸か!?」 心配そうに覗きこんでくる彼が、とても心地好くて。 「違う、あなたの腕。ちゃんとお返事できない」 「すまない」 ほっとしたような、嬉しいようなそんな表情を浮かべている。 そんな彼か愛しくて可愛い。 二人は顔を見合わせて笑い合うと、再び見つめ合う。 「アンジェ・・・、俺と結婚してくれ・・・」 不思議な異色のまなざしで、レウ゛ィアスはアンジェリークを捕らえた。 「・・・はい!」 潤んだまなざしで見つめられ、レウ゛ィアスは、言いようのない充足感を感じた。 「愛してる・・・」 顎を持ち上げて、深い口付けをする。 愛を伝え合うように、何度も何度も与え合い、奪い合う。 「アンジェ、手術をしてくれ・・・。俺がこの手で必ず救いたいから・・・。おまえには何がなんでも生きて欲しい・・・」 彼の想いが唇と肌に伝わってくる。 「アンジェ、ぎりぎりの段階まで待つから・・・」 レウ゛ィアスの優しさに彼女はようやく素直になる。 「判ったわ・・・。手術を受けます・・・。あなただから命を預けられる・・・」 「有り難う」 ぎゅっと抱き締めて、レウ゛ィアスはその存在を確認する。 「二人で一緒に生きていこう・・・。離さないからな、おまえを」 「うん」 その広い胸に身体を預ける。 彼の温かさと鼓動がアンジェリークを安心させた。 「アンジェ、これからエルンストの所に行って書類を破こう・・・。その後に、役所にいって書類を取りに行こう。宝石店にも行って、婚約指輪と結婚指輪を買うぞ」 「うん・・・」 嬉しくて、こんなに嬉しいことはなくて、また涙が込み上げてくる。 「こら、泣くな? アンジェ・・・」 「だって」 レウ゛ィアスは、笑うと、アンジェリークに何度も口づける。 「母にもおまえとの結婚を認めてもらわないとな・・・」 「うん」 何度も抱き締められて、アンジェリークもまた抱き返して。 しばらく甘くじゃれ合った後、二人はようやく病院へと向かうことになった。 レウ゛ィアスの車まで歩くのにアンジェリークの足の動きが余りにも不自然だったために、彼は怪訝そうに眉根を寄せる。 「アンジェ、足は平気か!?」 心配そうにする彼に、彼女は真っ赤になって俯いてしまった。 「アンジェ?」 彼女が黙り込んでしまったせいで、余計に心配になった。 その表情を察してか、アンジェリークは仕方なしに口を開く。 「足の付け根が麻痺して歩きにくいもの・・・」 原因が余りにも可愛らしいために、レウ゛ィアスは笑いを浮かべずにはいられない。 彼女の足の原因は自分が作ったと思うと、誇らしくすら思う。 「かわいいな? おまえは」 「ヤダ…」 はにかむ彼女が愛しい。 このまま…。 ずっとこのままでいられたら…。 レヴィアスは祈ることしか出来なかった----- 結局、病院に着いた後、アンジェリークはレヴィアスに腰を抱かれるようにして、エルンストの研究室へと向った。 家から出る直前に、レヴィアスがアポイントを取ってくれたのである。 「先生、アンジェリークです…」 「お入りください」 促されたので、アンジェリークはレヴィアスに支えられながら研究室に入った。 二人のしっくりとした仲の良い姿に、エルンストは満足げに、そして少し嬉しそうに笑って出迎えてくれる。 「お二人でお越しになったということは、これですね?」 あらかじめ用意しておいた、アンジェリークの手術をしないということをしたためた書類を取り出した。 アンジェリークはしっかりとエルンストに頷いた後、レヴィアスを見つめる。 見詰め合う二人の間には、甘い雰囲気ですら漂っている。 「どうぞ、アンジェリーク」 「有難うございます、先生…」 彼女はエルンストから書類を受け取ると、その書類をじっと見つめる。 そこにあるのは希望もなく、死だけを見つめて歩いていた自分。 いまはいちるでも”レヴィアス”と言う希望があるから、後ろ向きに生きたくはない。 すうっと深呼吸をすると、アンジェリークは、レヴィアスとエルンストの前でその書類を真っ二つに引き裂いた。 紙が裂かれる鋭い音がこだまする。 「手術を受けるのですか…?」 エルンストの問いにアンジェリークはただコクリと頷いて見せた。 「レヴィアスなら…」 その言葉に、エルンストは深く頷く。 「エルンスト、迷惑を掛けるかもしれないが、よろしく頼む」 「ええ。お任せください」 「よろしくお願いします」 アンジェリークは改めてエルンストに頭を下げた後、見守るようにそばにいてくれるレヴィアスの手をそっと握った。 「じゃあ、俺たちは行く」 「はい」 顔を見合わせながら笑う二人は、本当に幸せそうだった。 僅かな希望に総てを賭けて、ようやく前を見始めた二人が、とても美しいようにエルンストには思えた。 二人は手を繋いでエルンストの研究室を出ると、次の目的地へと向う。 「次は宝石店だったな?」 「うん…」 車に乗り込み、次に二人は宝石店へと向った。 そこにはいると、高級な宝石ばかりでアンジェリークは怯んだが、レヴィアスはそんな彼女が可愛くてたまらなかった。 「どれがいい? アンジェ」 「婚約指輪はあなたが選んで、レヴィアス…」 「ああ」 彼女の想いを組んで、レヴィアスはアンジェリークに合う指輪を眼を皿のようにして探す。 その仲でも天使の羽根をモチーフにし、中央に立派なダイアがある指輪が彼女にぴったりのように思えて、彼は迷うことなくそれを選んだ。 「すまない、この指輪を・…」 言って、レヴィアスはアンジェリークの左手を差し出す。 「この薬指にぴったりのサイズにしてくれ…」 「はい、畏まりました」 店員はすぐさまアンジェリークの指を図り、指輪と見比べる。 「大丈夫ですね、お直しは…。ここにお名前を彫りますが」 「だったら、”From R to A”と」 「畏まりました」 レヴィアスが手際よくしてくれるのを、アンジェリークはうっとりと見ているだけ。 これは夢なのではないかと思う始末である。 「後結婚指輪を頼む…」 「はい」 結婚指輪はアンジェリークと一緒に選び、本当にシンプルなものにした。 指輪の精算を済ませる頃には婚約指輪が出来上がっていた。 結婚指輪は夕方にできるお言うことで、二人は一旦、レヴィアスの実家に向かうことにする。 車に乗り込んで、レヴィアスは先ずアンジェリークの左手を手に取った。 「一生離さないから…」 「うん…」 彼が選んだ指輪が指にしっくりなじむと、アンジェリークは涙が零れ落ちそうになる。 何度手をかざしてみても、死涙でちゃんと指輪を見ることが出来ない。 「ほら泣くな? 泣き虫だな、おまえは」 「レヴィアス!!」 アンジェリークは暫く泣き止むことが出来ず、そのまま彼の胸にしがみついていた。 途中、役所にも寄って、結婚書類を貰い、とりあえず自分たちの分だけ記入した後、そのままそれを持って、我が家へと向う。 最後の目的地は、レヴィアスの実家で、アンジェリークが生まれ育った場所だった。 ここで両親に二人の結婚を認めてもらうのだ。 車をいつものようにガレージに停め、アンジェリークが車から出ようとした瞬間---- 「・・………!!!!!」 激痛が、彼女の胸を襲う。 そのまま意識が遠くに行く。 レヴィアス…。 私…。 もうあなたのそばにいられないかもしれない… 「アンジェ!!!!!」 そのまま倒れこんだ彼女を抱きとめ、レヴィアスは生気のない顔を見つめ、その華奢な身体を抱きしめる。 「アンジェ!!! アンジェ!!!!」 何度呼んでも答えない。 命は、消えていこうとしていた---- |
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