COME RAIN COME SHINE

CHAPTER15


 結婚・・・!? お兄ちゃんと私が・・・。

 何が起こったか判らずに、アンジェリークはレウ゛ィアスを見上げる。
「・・・おまえを離したくない・・・。二度と・・・」
 レウ゛ィアスの苦悩が、腕の中で伝わって来る。
 それがアンジェリークには甘い痛みになって返ってくる。
「・・・あなたと過ごせるのは、ほんの少しかもしれないのよ? それだったら、またあなたは傷つくことになるわ・・・。それだけは絶対嫌なの!!」
 泣きながら、身体を震わせる彼女を、レウ゛ィアスはさらに力強く抱き締めた。
「おまえと過ごさないほうが俺は傷つく・・・」
「レウ゛ィアス・・・」
 ぎゅっと抱き返してきた彼女に、彼はほっと息を吐きながら背中を撫でた。
「中に入って構わないか?」
「うん・・・」
 玄関先ではなんだと言うわけで、二人は部屋の中に入り、落ち着く。
 だが、レウ゛ィアスは、アンジェリークを離したくなくて、ずっとその華奢な身体を抱き締めたままだった。
「アンジェ、おまえは生きるんだ・・・。ずっと俺の側で・・・、俺がおまえを死なせやしない!!!」
「レウ゛ィアス・・・!!!」
 嬉しくて、心で精一杯彼を感じて、アンジェリークは精悍な胸に顔を埋める。
「アンジェ・・・、返事は”イエス”ととって構わないか?」
 栗色の髪を優しく撫でられ、甘く囁かれれば、アンジェリークは想いが溢れて行くのを感じた。
 僅かに頷く彼女を可愛いと思いながら、レウ゛ィアスはフッと満足げな微笑みを浮かべた。
「返事は?」
「もう一回プロポーズしてくれたら言う・・・」
 ちょっと拗ねたように言う彼女が、レウ゛ィアスは可愛くて仕方なく、さらに抱き締める腕を強くした。
「苦しい、レウ゛ィアス」
「胸か!?」
 心配そうに覗きこんでくる彼が、とても心地好くて。
「違う、あなたの腕。ちゃんとお返事できない」
「すまない」
 ほっとしたような、嬉しいようなそんな表情を浮かべている。
 そんな彼か愛しくて可愛い。
 二人は顔を見合わせて笑い合うと、再び見つめ合う。
「アンジェ・・・、俺と結婚してくれ・・・」
 不思議な異色のまなざしで、レウ゛ィアスはアンジェリークを捕らえた。
「・・・はい!」
 潤んだまなざしで見つめられ、レウ゛ィアスは、言いようのない充足感を感じた。
「愛してる・・・」
 顎を持ち上げて、深い口付けをする。
 愛を伝え合うように、何度も何度も与え合い、奪い合う。
「アンジェ、手術をしてくれ・・・。俺がこの手で必ず救いたいから・・・。おまえには何がなんでも生きて欲しい・・・」
 彼の想いが唇と肌に伝わってくる。
「アンジェ、ぎりぎりの段階まで待つから・・・」
 レウ゛ィアスの優しさに彼女はようやく素直になる。
「判ったわ・・・。手術を受けます・・・。あなただから命を預けられる・・・」
「有り難う」
 ぎゅっと抱き締めて、レウ゛ィアスはその存在を確認する。
「二人で一緒に生きていこう・・・。離さないからな、おまえを」
「うん」
 その広い胸に身体を預ける。
 彼の温かさと鼓動がアンジェリークを安心させた。
「アンジェ、これからエルンストの所に行って書類を破こう・・・。その後に、役所にいって書類を取りに行こう。宝石店にも行って、婚約指輪と結婚指輪を買うぞ」
「うん・・・」
 嬉しくて、こんなに嬉しいことはなくて、また涙が込み上げてくる。
「こら、泣くな? アンジェ・・・」
「だって」
 レウ゛ィアスは、笑うと、アンジェリークに何度も口づける。
「母にもおまえとの結婚を認めてもらわないとな・・・」
「うん」
 何度も抱き締められて、アンジェリークもまた抱き返して。
 しばらく甘くじゃれ合った後、二人はようやく病院へと向かうことになった。
 レウ゛ィアスの車まで歩くのにアンジェリークの足の動きが余りにも不自然だったために、彼は怪訝そうに眉根を寄せる。
「アンジェ、足は平気か!?」
 心配そうにする彼に、彼女は真っ赤になって俯いてしまった。
「アンジェ?」
 彼女が黙り込んでしまったせいで、余計に心配になった。
 その表情を察してか、アンジェリークは仕方なしに口を開く。
「足の付け根が麻痺して歩きにくいもの・・・」
 原因が余りにも可愛らしいために、レウ゛ィアスは笑いを浮かべずにはいられない。
 彼女の足の原因は自分が作ったと思うと、誇らしくすら思う。
「かわいいな? おまえは」
「ヤダ…」
 はにかむ彼女が愛しい。

 このまま…。
 ずっとこのままでいられたら…。

 レヴィアスは祈ることしか出来なかった-----


 結局、病院に着いた後、アンジェリークはレヴィアスに腰を抱かれるようにして、エルンストの研究室へと向った。
 家から出る直前に、レヴィアスがアポイントを取ってくれたのである。
「先生、アンジェリークです…」
「お入りください」
 促されたので、アンジェリークはレヴィアスに支えられながら研究室に入った。
 二人のしっくりとした仲の良い姿に、エルンストは満足げに、そして少し嬉しそうに笑って出迎えてくれる。
「お二人でお越しになったということは、これですね?」
 あらかじめ用意しておいた、アンジェリークの手術をしないということをしたためた書類を取り出した。
 アンジェリークはしっかりとエルンストに頷いた後、レヴィアスを見つめる。
 見詰め合う二人の間には、甘い雰囲気ですら漂っている。
「どうぞ、アンジェリーク」
「有難うございます、先生…」
 彼女はエルンストから書類を受け取ると、その書類をじっと見つめる。
 そこにあるのは希望もなく、死だけを見つめて歩いていた自分。
 いまはいちるでも”レヴィアス”と言う希望があるから、後ろ向きに生きたくはない。
 すうっと深呼吸をすると、アンジェリークは、レヴィアスとエルンストの前でその書類を真っ二つに引き裂いた。
 紙が裂かれる鋭い音がこだまする。
「手術を受けるのですか…?」
 エルンストの問いにアンジェリークはただコクリと頷いて見せた。
「レヴィアスなら…」
 その言葉に、エルンストは深く頷く。
「エルンスト、迷惑を掛けるかもしれないが、よろしく頼む」
「ええ。お任せください」
「よろしくお願いします」
 アンジェリークは改めてエルンストに頭を下げた後、見守るようにそばにいてくれるレヴィアスの手をそっと握った。
「じゃあ、俺たちは行く」
「はい」
 顔を見合わせながら笑う二人は、本当に幸せそうだった。
 僅かな希望に総てを賭けて、ようやく前を見始めた二人が、とても美しいようにエルンストには思えた。
 二人は手を繋いでエルンストの研究室を出ると、次の目的地へと向う。
「次は宝石店だったな?」
「うん…」
 車に乗り込み、次に二人は宝石店へと向った。
 そこにはいると、高級な宝石ばかりでアンジェリークは怯んだが、レヴィアスはそんな彼女が可愛くてたまらなかった。
「どれがいい? アンジェ」
「婚約指輪はあなたが選んで、レヴィアス…」
「ああ」
 彼女の想いを組んで、レヴィアスはアンジェリークに合う指輪を眼を皿のようにして探す。
 その仲でも天使の羽根をモチーフにし、中央に立派なダイアがある指輪が彼女にぴったりのように思えて、彼は迷うことなくそれを選んだ。
「すまない、この指輪を・…」
 言って、レヴィアスはアンジェリークの左手を差し出す。
「この薬指にぴったりのサイズにしてくれ…」
「はい、畏まりました」
 店員はすぐさまアンジェリークの指を図り、指輪と見比べる。
「大丈夫ですね、お直しは…。ここにお名前を彫りますが」
「だったら、”From R to A”と」
「畏まりました」
 レヴィアスが手際よくしてくれるのを、アンジェリークはうっとりと見ているだけ。
 これは夢なのではないかと思う始末である。
「後結婚指輪を頼む…」
「はい」
 結婚指輪はアンジェリークと一緒に選び、本当にシンプルなものにした。
 指輪の精算を済ませる頃には婚約指輪が出来上がっていた。
 結婚指輪は夕方にできるお言うことで、二人は一旦、レヴィアスの実家に向かうことにする。
 車に乗り込んで、レヴィアスは先ずアンジェリークの左手を手に取った。
「一生離さないから…」
「うん…」
 彼が選んだ指輪が指にしっくりなじむと、アンジェリークは涙が零れ落ちそうになる。
 何度手をかざしてみても、死涙でちゃんと指輪を見ることが出来ない。
「ほら泣くな? 泣き虫だな、おまえは」
「レヴィアス!!」
 アンジェリークは暫く泣き止むことが出来ず、そのまま彼の胸にしがみついていた。


 途中、役所にも寄って、結婚書類を貰い、とりあえず自分たちの分だけ記入した後、そのままそれを持って、我が家へと向う。
 最後の目的地は、レヴィアスの実家で、アンジェリークが生まれ育った場所だった。
 ここで両親に二人の結婚を認めてもらうのだ。
 車をいつものようにガレージに停め、アンジェリークが車から出ようとした瞬間----
「・・………!!!!!」
 激痛が、彼女の胸を襲う。
 そのまま意識が遠くに行く。

 レヴィアス…。
 私…。
 もうあなたのそばにいられないかもしれない…

「アンジェ!!!!!」
 そのまま倒れこんだ彼女を抱きとめ、レヴィアスは生気のない顔を見つめ、その華奢な身体を抱きしめる。
「アンジェ!!! アンジェ!!!!」
 何度呼んでも答えない。
 命は、消えていこうとしていた----

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後ちょっとだよ〜!!!
次回最終かいだじょ〜