マンションの駐車場に車を停め、レヴィアスはアンジェリークの手をしっかりと握り締めたまま、自室へと導く。 彼は何も言わなかったが、その掌から優しさが感じられる。 「ここだ」 レヴィアスの部屋は、よく言えばシンプル、悪く言えば殺風景だった。 生活していく上で最低限のものしかなく、独身の男所帯を感じさせる。 だが、その割には、レヴィアスらしく綺麗にしてあり、機能的になっている。 「アンジェ…」 情熱的な異色の眼差しで彼は彼女を見つめ、そっと華奢な身体を抱き上げた。 「レヴィアスお兄ちゃん…」 生涯でただ一人愛した男性に総てを委ね、アンジェリークは身体を精悍な胸に預け、瞳を閉じる。 今夜は彼と過ごす最初で最後の夜だから。 この胸に、一瞬、一瞬を刻み付けていたかった。 レヴィアスはそっと額にかかる前髪を優しく上げて、彼女のそこに口付ける。 それだけで、涙が出てくるぐらい、アンジェリークは嬉しかった。 そのまま彼女をベッドルームまで運び、彼はベッドに腰を下ろさせる。 そして、自らその横に腰を掛けた。 「アンジェ…。ずっと…、渡しそびれていたものがある…」 「私に…?」 「ああ。俺が意地を張っていたからな…」 アンジェリークは、じっとレヴィアスを見つめることしか出来ない。 今日の彼の優しさが心に痛いほど感じる。 甘くて切ない思いが二人を包み込んだ。 レヴィアスは、ようやく、ポケットから、ずっと持ち歩いていたペンダントの箱を取り出す。 長い間持ち歩いていたせいか、箱の端が少し寄れている。 「…おまえへのお詫びに買った。一目見て、おまえに似合うと思った」 すっと差し出された品をアンジェリークは泣きながら見つめた。 初めて見る彼女の嬉し涙---- 「有難う…」 鼻をすすりながら受け取る彼女が、レヴィアスは可愛くてたまらない。 そして誰よりも愛しい…。 「開けて…いい?」 「ああ、開けろ」 「うん・・・」 まるで幼子のように包みを開ける彼女が可愛くて、レヴィアスはそのままベッドに押し倒したい思いに刈られた。 それと同時に、彼女の命が消えて欲しくないと、強く願う。 アンジェ…。 俺はおまえを失いたくはない…!!! 「あっ!」 嬉しそうな彼女の歓声が響き渡り、レヴィアスはその肩を抱かずにはいられなかった。 涙ぐんだ彼女は、本当に心から嬉しそうにペンダントを見つめ、ぎゅっと大事そうに握り締め、それを胸に持っていく。 「真中の石はおまえの瞳と同じ色だ…。横の羽根もおまえみたいだと思っていた…」 「…有難う…」 泣きじゃくる彼女えおそのまま力を入れて抱き寄せ、レヴィアスは亜麻色の髪に唇を寄せた。 「掛けてやる」 「うん…、有難う…」 背筋をピンと伸ばして、アンジェリークはレヴィアスにペンダントを手渡す。 彼は目を細めて愛しそうに見つめながらそれを受け取ると、彼女のは以後に回って、細い首に掛けてやった。 「有難う…。大切にするわ…。 私が…いなくなったら…、棺に入れてね…。天国に行けるかどうかは判らないけれど…、ずっと持っていくから…」 「アンジェ!!!」 突然、背後から強く抱きすくめ、レヴィアスは彼女を離さない。 「お兄ちゃん…!」 「おまえはずっと俺のそばにいるんだ! 判ったか!」 「レヴィアスお兄ちゃん…!!」 彼の温かさが、その思いが背中を通して感じる。 心が苦しくて、だけれども甘くて、温かくて、アンジェリークは心の奥から涙が溢れてくるのを停めることは出来ない。 「アンジェ…、レヴィアスと呼んでくれ…。"お兄ちゃん”は要らない…」 「レヴィアス…!!」 アンジェリークの身体を腕の中で返して、レヴィアスは力強く抱きすくめる。 そのままアンジェリークの唇を深く奪うと、二人はベッドの上に倒れこんだ---- ----------------------------------- 「レヴィアス…!!」 「アンジェ!!」 二人は激しく愛を交し合った。 互いの手をずっと絡ませあい、唇で愛を伝え合い、何度もも何度も名前を呼び合う。 「苦しかったら言え?」 「大丈夫・…!」 激しく喘ぎ、アンジェリークは彼を記憶に、そして身体に刻み付けるために、何度も、何度も求める。 「レヴィアス…、愛してる…!!!」 何度も深いところで繋がって、二人は、初めて互いの想いをぶつけ合った。 愛し合った後、横ですやすやと眠りにつくアンジェリークを、レヴィアスはしっかりと抱きすくめる。 そして---- 夢中になる余りいえなかった言葉を初めて呟くのであった。 「愛してる・…」 数週間後には、この世から消えるかもしれない温もり。 レヴィアスはそれがたまらなくて、さらに強く抱きすくめて眠りについた---- 翌朝---- 先に目覚めたのはアンジェリークだった。 まだ横で眠るレヴィアスの腕からすっと抜け出し、アンジェリークは彼の寝顔をじっと見つめた。 有難う… 心で呟いて軽く口付けると、起こさないようにベッドから抜け出した。 そして、手早く服を着ると、彼女はメッセージを残して出て行く。 愛する男性を、これ以上苦しめたくないと思いながら…。 さよなら…。 レヴィアス…。 何時までも愛しているから…。 レヴィアスが目覚めたのは、それから30分ほど後のことであった。 腕の中には、もう少女の姿はなかった。 アンジェ!! そのままレヴィアスはベッドを飛び出し部屋中を探すが彼女は跡形もなく、代わりにいっつうのメモが、テーブルの上に残されている。 「アンジェ!!」 レヴィアス…。 いままで苦しめてごめんね。 最後に本当に素敵な思い出をどうも有り難う…。 私のことは、もう気にしなくていいから…。 本当に有難うございました。 さようなら。 アンジェリーク レヴィアスは、思わず、その手紙を握り締める。 アンジェ!!! 苦しんだのはおまえなのに…!!! 傷ついたのはおまえなのに…!!! 俺は、おまえを離したくない…!!! レヴィアスはすぐさま着替えると、母親に連絡を取り、アンジェリークのアパートの場所を訊く。 場所がわかると、彼は車を飛ばして、彼女の住むアパートへと向った。 目的はただ一つ・…。 少女に愛を伝えるために----- ---------------------------- 乱暴にならされるインターホンに、アンジェリークははっとした。 レヴィアス…!! 直感で彼だと判った。 彼女はそのまま玄関へと向い、ドアを開ける。 まさにその瞬間---- 「アンジェ!!!」 思い詰めたレヴィアスの声とともに、彼女は強く抱きすくめられた。 「レヴィアス…」 「アンジェ…、結婚しよう…」 |
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