COME RAIN COME SHINE

CHAPTER12


 病院から帰った後、レイチェルはこっそりとアルヴィース夫人に電話を掛けた。
「はいアルヴィースです。あ、レイチェルちゃん」
「おばさま、明後日お誕生日ですよね…?」
 レイチェルは探るように、彼女に言う。
「ええ」
「あの…、出来たら、明後日、パーティーを開いて欲しいんです」
「パーティー?」
「ええ…。アンジェを励ますかたわら…、レヴィアスさんとアンジェの仲直りにつかえないかと…。
 おば様のバースデイパーティーなら、レヴィアスさんもアンジェも来ると思うし。その日、レヴィアスさんとエルンストが同じシフトで、二人とも5時上がりなので…」
 余りにもの、図々しい申し出だと思ったが、レイチェルはアンジェリークのために一生懸命説明した。

 おばさまはアンジェの育ての親だから、きっと…、判ってくださる…。

「-----いい考えだわ! レイチェルちゃん!! そんなことなら、いくらでもパーティーをするわよ! アンジェちゃんには私から連絡するわ! 前日から泊まってもらってね」
「ええ!!」
「レイチェルちゃんも一緒にね!」
 二人はすっかりこの計画に盛り上がり、少し明るい気分になる。
「楽しみですね、おば様!」
「ええ!
 ----これでアンジェちゃんとレヴィアスが仲直りをして…、彼女が手術を受けてさえくれたら…」
「そうですね…」
 二人は妙にしんみりとなり、電話の前で暫し無言となる。
 二人は、後、数週間の命かもしれないと宣告された、一人の少女を助けるために、今、立ち上がろうとしていた。


 ここからがレイチェルとアルヴィース夫人は忙しかった。
 先ずレイチェルは、事情を話して恋人のエルンストの承諾を取り付け、アルヴィース夫人は息子に連絡をとる。
 レヴィアスの宿直室に直接電話を掛けた。
 たまたま、彼は今は余り忙しくなく、電話に出ることが出来た。
「レヴィアス?」
「母か? 何のようだ…」
「明後日、私の誕生日なんだけど、パーティーを開こうと思っているんだけど、良かったら来ない?」
 母のこの誘いでレヴィアスはぴんと来た。

 アンジェリークに逢えるかもしれない…

 そう考えて、彼は母に感謝する。
「-----ああ。行かせて貰う」
「有難う、明日6時からだから、エルンストさんと一緒に来てね?」
「わかった。じゃあ、あさって…」
 レヴィアスは電話を切ると、鞄の中から、少女に買ったペンダントを取り出した。

 アンジェ…。
 おまえにこれを渡せれば…

 彼は切ない思いを抱きながら、じっと包みを眺めていた-----

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 翌日、アンジェリークは泊まる支度をして、アルヴィース邸に行く前に、ショッピングセンターに立ち寄り、夫人のバースデープレゼントを物色した。
 夏の暑さがたたるのか、アンジェリークの体力は落ちており、実のところ余りショッピングモールにいれない状態だ。
 それをレイチェルは誌ってか、気遣ってくれているのが判り、アンジェリークは涙が出るほど嬉しかった。

 有難う…。
 私は最高の親友を持ったわね…。

「…何か…記念になるものないかな…」
「アンジェ…」
 時間がないことを知っているアンジェリークは、育ての母と父に何かプレゼントしたかった。
「ねえ、アンジェ、これなんかどう? ちょっとベタだけどね〜」
 アンジェリークが何を考えているか手にとるように判るレイチェルは、わざと明るく振舞う。
 アンジェリークもその明るさが嬉しくて、つい微笑みが零れてしまう。
 レイチェルが選んだのは夫婦茶碗だった。
「そうね〜」 
「…これが良いかな…」
 アンジェリークが手にとったのは、”夫婦湯呑”。
 そこには”有難うお母さん”"有難うお父さん"-----
 そうかかれていた。
「ベタかな…?」
 レイチェルは涙が出てしまって、これ以上答えることが出来ない。
「・・あ・・、ああ、それね・・・! うん、うん、いいよ!」
 何とか声を出してレイチェルは明るく振舞う。
「なんか…、おみやげ物屋さんみたいね〜」
 クスリと笑うアンジェリークに、レイチェルも一緒に笑った。
 だが、心の奥底は、切なくてたまらない。
「じゃあこれ綺麗にラッピングしてもらってくるわ」
「うん」
 レジに向うアンジェリークを見つめながら、レイチェルは胸が痛くて、嗚咽がでそうになる。

 アンジェ…!!
 お願い…助かって…!!

 祈ることしか、レイチェルには最早出来なかった----


 アルヴース邸に着いた二人は、客間に荷物を置いて、早速明日の準備の手伝いに入った。
「アンジェちゃん…、私にケーキを焼いてくれるかしら?」
「はい! よろこんで!」
 彼女は快諾し、一生懸命、ケーキ作りを始める。
「手伝おうか?」
「うううん、一人でやりたいの…」
 レイチェルの申し出も、やんわりと制した。

 ケーキ作りを習ったのは、おばさんからだった…。
 足のせいでいじめられてた私の心の糧にと教えてくれた…。
 だから心をこめてケーキを作ってあげたい…。
 これが最後だと思うから…

 一生懸命ケーキ作りに励むアンジェリークを、アルヴィース夫人は目頭を熱くして見つめる。
 この少女の純粋でまるで天使のような心を感じながら…。


 夕食は久し振りに賑やかなものになった。
 雰囲気のせいか、アンジェリークはいつもよりたくさん食べることが出来て、誰もがその様子に喜んだ。
 夕食後は、片づけを、この家にいた頃のように手伝い、その後はおろに入るまでテレビを見ながら皆で笑った。
 入浴後、アンジェリークとレイチェルは客まで一緒に眠る。
「今日は疲れたね〜」
「うん! でもレイチェルのお陰で、買物も出来たし、とっても楽しかったわ!」
 明るく話す親友に、レイチェルも嬉しそうな表情をする。
「そうね〜、明日が楽しみよね〜! アンジェのケーキも食べれるし!」
「自信作だからね〜!」
 就寝前、二人はたわいのないことを話し合った後、早めにとこについた。
 レイチェルは、アンジェリークが眠った後も、何度も寝息を確認する。
「アンジェ・…」
 眠るアンジェリークは、このまま消えてしまうかと思うほどはかなく、そして美しかった-----


 夜が明けた。
 この日は、アンジェリークとレヴィアスにとっては、忘れへぬ日となる…。

コメント



少しは明るくなったようです…。
もう少しだけお付き合いを下さいませ。
レヴィアスさんでばんちょっぴん
二人を見守ってあげてくださいませ!