病院から帰った後、レイチェルはこっそりとアルヴィース夫人に電話を掛けた。 「はいアルヴィースです。あ、レイチェルちゃん」 「おばさま、明後日お誕生日ですよね…?」 レイチェルは探るように、彼女に言う。 「ええ」 「あの…、出来たら、明後日、パーティーを開いて欲しいんです」 「パーティー?」 「ええ…。アンジェを励ますかたわら…、レヴィアスさんとアンジェの仲直りにつかえないかと…。 おば様のバースデイパーティーなら、レヴィアスさんもアンジェも来ると思うし。その日、レヴィアスさんとエルンストが同じシフトで、二人とも5時上がりなので…」 余りにもの、図々しい申し出だと思ったが、レイチェルはアンジェリークのために一生懸命説明した。 おばさまはアンジェの育ての親だから、きっと…、判ってくださる…。 「-----いい考えだわ! レイチェルちゃん!! そんなことなら、いくらでもパーティーをするわよ! アンジェちゃんには私から連絡するわ! 前日から泊まってもらってね」 「ええ!!」 「レイチェルちゃんも一緒にね!」 二人はすっかりこの計画に盛り上がり、少し明るい気分になる。 「楽しみですね、おば様!」 「ええ! ----これでアンジェちゃんとレヴィアスが仲直りをして…、彼女が手術を受けてさえくれたら…」 「そうですね…」 二人は妙にしんみりとなり、電話の前で暫し無言となる。 二人は、後、数週間の命かもしれないと宣告された、一人の少女を助けるために、今、立ち上がろうとしていた。 ここからがレイチェルとアルヴィース夫人は忙しかった。 先ずレイチェルは、事情を話して恋人のエルンストの承諾を取り付け、アルヴィース夫人は息子に連絡をとる。 レヴィアスの宿直室に直接電話を掛けた。 たまたま、彼は今は余り忙しくなく、電話に出ることが出来た。 「レヴィアス?」 「母か? 何のようだ…」 「明後日、私の誕生日なんだけど、パーティーを開こうと思っているんだけど、良かったら来ない?」 母のこの誘いでレヴィアスはぴんと来た。 アンジェリークに逢えるかもしれない… そう考えて、彼は母に感謝する。 「-----ああ。行かせて貰う」 「有難う、明日6時からだから、エルンストさんと一緒に来てね?」 「わかった。じゃあ、あさって…」 レヴィアスは電話を切ると、鞄の中から、少女に買ったペンダントを取り出した。 アンジェ…。 おまえにこれを渡せれば… 彼は切ない思いを抱きながら、じっと包みを眺めていた----- ----------------------------------- 翌日、アンジェリークは泊まる支度をして、アルヴィース邸に行く前に、ショッピングセンターに立ち寄り、夫人のバースデープレゼントを物色した。 夏の暑さがたたるのか、アンジェリークの体力は落ちており、実のところ余りショッピングモールにいれない状態だ。 それをレイチェルは誌ってか、気遣ってくれているのが判り、アンジェリークは涙が出るほど嬉しかった。 有難う…。 私は最高の親友を持ったわね…。 「…何か…記念になるものないかな…」 「アンジェ…」 時間がないことを知っているアンジェリークは、育ての母と父に何かプレゼントしたかった。 「ねえ、アンジェ、これなんかどう? ちょっとベタだけどね〜」 アンジェリークが何を考えているか手にとるように判るレイチェルは、わざと明るく振舞う。 アンジェリークもその明るさが嬉しくて、つい微笑みが零れてしまう。 レイチェルが選んだのは夫婦茶碗だった。 「そうね〜」 「…これが良いかな…」 アンジェリークが手にとったのは、”夫婦湯呑”。 そこには”有難うお母さん”"有難うお父さん"----- そうかかれていた。 「ベタかな…?」 レイチェルは涙が出てしまって、これ以上答えることが出来ない。 「・・あ・・、ああ、それね・・・! うん、うん、いいよ!」 何とか声を出してレイチェルは明るく振舞う。 「なんか…、おみやげ物屋さんみたいね〜」 クスリと笑うアンジェリークに、レイチェルも一緒に笑った。 だが、心の奥底は、切なくてたまらない。 「じゃあこれ綺麗にラッピングしてもらってくるわ」 「うん」 レジに向うアンジェリークを見つめながら、レイチェルは胸が痛くて、嗚咽がでそうになる。 アンジェ…!! お願い…助かって…!! 祈ることしか、レイチェルには最早出来なかった---- アルヴース邸に着いた二人は、客間に荷物を置いて、早速明日の準備の手伝いに入った。 「アンジェちゃん…、私にケーキを焼いてくれるかしら?」 「はい! よろこんで!」 彼女は快諾し、一生懸命、ケーキ作りを始める。 「手伝おうか?」 「うううん、一人でやりたいの…」 レイチェルの申し出も、やんわりと制した。 ケーキ作りを習ったのは、おばさんからだった…。 足のせいでいじめられてた私の心の糧にと教えてくれた…。 だから心をこめてケーキを作ってあげたい…。 これが最後だと思うから… 一生懸命ケーキ作りに励むアンジェリークを、アルヴィース夫人は目頭を熱くして見つめる。 この少女の純粋でまるで天使のような心を感じながら…。 夕食は久し振りに賑やかなものになった。 雰囲気のせいか、アンジェリークはいつもよりたくさん食べることが出来て、誰もがその様子に喜んだ。 夕食後は、片づけを、この家にいた頃のように手伝い、その後はおろに入るまでテレビを見ながら皆で笑った。 入浴後、アンジェリークとレイチェルは客まで一緒に眠る。 「今日は疲れたね〜」 「うん! でもレイチェルのお陰で、買物も出来たし、とっても楽しかったわ!」 明るく話す親友に、レイチェルも嬉しそうな表情をする。 「そうね〜、明日が楽しみよね〜! アンジェのケーキも食べれるし!」 「自信作だからね〜!」 就寝前、二人はたわいのないことを話し合った後、早めにとこについた。 レイチェルは、アンジェリークが眠った後も、何度も寝息を確認する。 「アンジェ・…」 眠るアンジェリークは、このまま消えてしまうかと思うほどはかなく、そして美しかった----- 夜が明けた。 この日は、アンジェリークとレヴィアスにとっては、忘れへぬ日となる…。 |
コメント
少しは明るくなったようです…。
もう少しだけお付き合いを下さいませ。
レヴィアスさんでばんちょっぴん
二人を見守ってあげてくださいませ!
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