レウ゛ィアスとレイチェルは、そのまま屋上へと向かった。 「煙草、構わないか?」 「どうぞ」 彼は煙草を口に銜え、そのまま火を付ける。そうしなければ、やってられなかった。 「あの子・・・、死のうとしていると思う・・・。あの子の小さな身体から、命が今、零れているのが判るもの・・・」 レイチェルは肩を震わせて、苦しそうに呟く。 レウ゛ィアスは何も言わない。だが、その横顔は僅かに険しい。 「あの子、口ではああやって、”手術はしない”って言ってるけど、本当は、レウ゛ィアスさんに救ってもらいたいと、思っている!!」 泣きながら親友の思いを伝えるレイチェルの慟哭の叫びが、レウ゛ィアスの心を突き抜けた。 「あの子には、生きて欲しいの・・・!! だって、あんな子他にいない!! 誰も責めることのない、天使のような子は・・・!」 レウ゛ィアスは強く瞳を閉じる。 俺だって…、生きてさえくれれば、俺は何もいらない・・・。 「だけど、これ以上、アナタに関わったら、心臓の前に、心が壊れてしまうんじゃないかって、思うところもある。現に、今日アナタの婚約者がきて・・・」 「婚約者!?」 レウ゛ィアスは怪訝そうに眉根を寄せた。 その彼の表情に、幾分かレイチェルは安堵を感じた。 「・・・女の人が来て、レウ゛ィアスさんと結婚するし、おなかに赤ちゃんがいるから、もう近付かないでって・・・。それでアンジェ、また苦しくなって・・・」 最後の言葉は、レイチェルは涙で話すことができない。 レウ゛ィアスの表情は、あからさまに険しくなった。 俺のせいで・・・。俺が意地を張るせいで、大切な者を深く傷つけ、ひとりの女性を追い詰めることになってしまった・・・ 「・・・救いたい・・・! あいつを・・・! 何がなんでも生きてほしい・・・!! 俺の全てにかえても」 魂の底からの声に、レイチェルは、心を動かされていく。 「レヴィアスさん…」 「クリスティーナとは見合いはしたが、それ以上のことはない。二、三回、デートしただけだ」 「そう」 レイチェルはレウ゛ィアスの瞳の輝きで、彼が嘘を言ってはいないことを悟る。 「今のあの子を、説得をするのは・・・、かなり大変だと思うわ・・・。だって・・・、あの子頑固だもん・・・」 「そうだな・・・。だがあいつのためならなんでもする。院長にも、クリスティーナとの縁談はなかったことにしてもらう」 レイチェルは嬉しくて、思わずレウ゛ィアスを見た。 「でも…、それってハイリスクなんじゃ」 「あいつのためなら構わん」 その言葉に、初めて信頼のまなざしを、レイチェルは彼に向けた。 そこには希望の光が宿っている。 「判ったわ! ワタシ、アナタに手を貸す。その代わり、あの子を傷つけたら、今度こそ許さないから!!!」 「肝に銘じておく」 レウ゛ィアスは、勝ち気な少女に深い微笑みを送る。 「約束よ」 「ああ」 二人はしっかりと握手をした。 命の炎が消えかけている、小さな少女のために。 「じゃあ、ワタシ、戻るから」 「ああ」 レイチェルは、屋上から出ていこうとした時に、クリスティーナとばったり顔を合わせた。 「・・・何よ・・・」 レイチェルは、鋭くクリスティーナを睨んだ後、階下に降りていった。 「レウ゛ィアスさん・・・」 彼女が目の前に現れるなり、レウ゛ィアスは深々と頭を垂れた。 「すまない!」 彼女は全てを悟ったように首を振ると、優しいまなざしをレウ゛ィアスに送る。 「お顔を上げて下さい! 私こそ、謝らなければなりません」 「クリスティーヌ・・・」 レヴィアスが頭を上げると、切なげにも気丈な表情をしたクリスティーヌがそこにいた。 「…私は…、自分のことしか考えていなかったかもしれません…。 ひとりの、あの少女を深く傷つけ…、命をも奪おうとしていたなんて…」 レヴィアスは静かに首を振る。 「あなたも傷ついたはずだ…。俺のせいで…」 クリスティーヌは、切なげな、だが凛とした表情でレヴィアスを見た。 「…最初から…、判っていたことです…。 アンジェリークさんを見たときのあなたの表情は、私には見せたことのないような表情だった。 それで悟りました。 あなたが誰を愛しているかを…」 静かに、レヴィアスは瞳を閉じる。 「…素直になってください…。 そして、彼女を救ってあげてください…。 この話はなかったことにと、私が父へと伝えておきますから…」 「クリスティーヌ…」 「----お別れです…。 ここで…。このまま…」 涙は見せたくなかった。 クリスティーナは、そのまま踵を返して、屋上から立ち去る。 あなたにできることは…、せめてこれだけだから。 だから私らしく、潔く… レヴィアスは、その後姿を見つめながら、決意を固める。 強くならなければ…。 クリスティーナの行為を無駄にしないためにも…。 そして…。 何よりもアンジェリークのためにも… 力を。 俺に力を貸してくれ…。 エリス! 屋上に吹き渡る風が、レヴィアスを優しく見守っていた---- -------------------------------------- 「アンジェ…、気分は…?」 「レイチェル…」 病室に戻ると、アンジェリークはベッドに静かに横たわっていた。 「どう?」 顔を覗きこまれて、アンジェリークは僅かに口角を上げて微笑む。 「…うん…。平気…。 明日ね…」 「何?」 「明後日、アルヴィースのおばさんのお誕生日なの…。 今までお世話になったから…、何か買って贈ろうと思って…。おじさんにも、何か記念に残るものをって…。 ね、明日、お買物に着いて来てくれる?」 淡々と話すアンジェリークが、何の為のプレゼントだと考えるだけで、レイチェルは胸が痛くなった。 だがおくびにそれを出せば、彼女がまた慰めてくるから、それだけは避けたい。 その思いで必死になってこらえた。 「もちろん! 良いのを選ぼうね!」 「うん・・」 レイチェルは、しっかりと、アンジェリークの手を握り締める。 「…レイチェルのはね・・・、エルンストさんとペアでね・…、何か作るから…。 間に合えば良いけれど…。きっと冬場の靴下ぐらいしか、作れないけど…」 日々に弱ってくるアンジェリークに、レイチェルはこらえきれなくなる。 「バカ! アンジェ!! そんなことない!! 私たちはセーターやマフラーやいっぱい、アンジェに編んでもらうんだから…!!!」 とうとうこらえきれなくなり、レイチェルはアンジェリークの華奢な身体に思わず抱きついた。 「ね、お願い…!!!」 「レイチェル…」 神様…。 お願いです…。 どうかアンジェに奇跡を起こしてください…!!! |
コメント
少しは明るくなったようです…。
もう少しだけお付き合いを下さいませ。
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