COME RAIN COME SHINE

CHAPTER11


 レウ゛ィアスとレイチェルは、そのまま屋上へと向かった。
「煙草、構わないか?」
「どうぞ」
 彼は煙草を口に銜え、そのまま火を付ける。そうしなければ、やってられなかった。
「あの子・・・、死のうとしていると思う・・・。あの子の小さな身体から、命が今、零れているのが判るもの・・・」
 レイチェルは肩を震わせて、苦しそうに呟く。
 レウ゛ィアスは何も言わない。だが、その横顔は僅かに険しい。
「あの子、口ではああやって、”手術はしない”って言ってるけど、本当は、レウ゛ィアスさんに救ってもらいたいと、思っている!!」
 泣きながら親友の思いを伝えるレイチェルの慟哭の叫びが、レウ゛ィアスの心を突き抜けた。
「あの子には、生きて欲しいの・・・!!
 だって、あんな子他にいない!! 誰も責めることのない、天使のような子は・・・!」
 レウ゛ィアスは強く瞳を閉じる。

 俺だって…、生きてさえくれれば、俺は何もいらない・・・。

「だけど、これ以上、アナタに関わったら、心臓の前に、心が壊れてしまうんじゃないかって、思うところもある。現に、今日アナタの婚約者がきて・・・」
「婚約者!?」
 レウ゛ィアスは怪訝そうに眉根を寄せた。

 その彼の表情に、幾分かレイチェルは安堵を感じた。
「・・・女の人が来て、レウ゛ィアスさんと結婚するし、おなかに赤ちゃんがいるから、もう近付かないでって・・・。それでアンジェ、また苦しくなって・・・」
 最後の言葉は、レイチェルは涙で話すことができない。
 レウ゛ィアスの表情は、あからさまに険しくなった。

 俺のせいで・・・。俺が意地を張るせいで、大切な者を深く傷つけ、ひとりの女性を追い詰めることになってしまった・・・

「・・・救いたい・・・! あいつを・・・! 何がなんでも生きてほしい・・・!! 俺の全てにかえても」
 魂の底からの声に、レイチェルは、心を動かされていく。
「レヴィアスさん…」
「クリスティーナとは見合いはしたが、それ以上のことはない。二、三回、デートしただけだ」
「そう」
 レイチェルはレウ゛ィアスの瞳の輝きで、彼が嘘を言ってはいないことを悟る。
「今のあの子を、説得をするのは・・・、かなり大変だと思うわ・・・。だって・・・、あの子頑固だもん・・・」
「そうだな・・・。だがあいつのためならなんでもする。院長にも、クリスティーナとの縁談はなかったことにしてもらう」
 レイチェルは嬉しくて、思わずレウ゛ィアスを見た。
「でも…、それってハイリスクなんじゃ」
「あいつのためなら構わん」
 その言葉に、初めて信頼のまなざしを、レイチェルは彼に向けた。
 そこには希望の光が宿っている。
「判ったわ! ワタシ、アナタに手を貸す。その代わり、あの子を傷つけたら、今度こそ許さないから!!!」
「肝に銘じておく」
 レウ゛ィアスは、勝ち気な少女に深い微笑みを送る。
「約束よ」
「ああ」
 二人はしっかりと握手をした。
 命の炎が消えかけている、小さな少女のために。
「じゃあ、ワタシ、戻るから」
「ああ」
 レイチェルは、屋上から出ていこうとした時に、クリスティーナとばったり顔を合わせた。
「・・・何よ・・・」
 レイチェルは、鋭くクリスティーナを睨んだ後、階下に降りていった。
「レウ゛ィアスさん・・・」
 彼女が目の前に現れるなり、レウ゛ィアスは深々と頭を垂れた。
「すまない!」
 彼女は全てを悟ったように首を振ると、優しいまなざしをレウ゛ィアスに送る。
「お顔を上げて下さい! 私こそ、謝らなければなりません」
「クリスティーヌ・・・」
 レヴィアスが頭を上げると、切なげにも気丈な表情をしたクリスティーヌがそこにいた。
「…私は…、自分のことしか考えていなかったかもしれません…。
 ひとりの、あの少女を深く傷つけ…、命をも奪おうとしていたなんて…」
 レヴィアスは静かに首を振る。
「あなたも傷ついたはずだ…。俺のせいで…」
 クリスティーヌは、切なげな、だが凛とした表情でレヴィアスを見た。
「…最初から…、判っていたことです…。
 アンジェリークさんを見たときのあなたの表情は、私には見せたことのないような表情だった。
 それで悟りました。
 あなたが誰を愛しているかを…」
 静かに、レヴィアスは瞳を閉じる。
「…素直になってください…。
 そして、彼女を救ってあげてください…。
 この話はなかったことにと、私が父へと伝えておきますから…」
「クリスティーヌ…」
「----お別れです…。
 ここで…。このまま…」
 涙は見せたくなかった。
 クリスティーナは、そのまま踵を返して、屋上から立ち去る。

 あなたにできることは…、せめてこれだけだから。
 だから私らしく、潔く…

 レヴィアスは、その後姿を見つめながら、決意を固める。

 強くならなければ…。
 クリスティーナの行為を無駄にしないためにも…。
 そして…。
 何よりもアンジェリークのためにも…
 力を。
 俺に力を貸してくれ…。
 エリス!

 屋上に吹き渡る風が、レヴィアスを優しく見守っていた----

                      --------------------------------------

「アンジェ…、気分は…?」
「レイチェル…」
 病室に戻ると、アンジェリークはベッドに静かに横たわっていた。
「どう?」
 顔を覗きこまれて、アンジェリークは僅かに口角を上げて微笑む。
「…うん…。平気…。
 明日ね…」
「何?」
「明後日、アルヴィースのおばさんのお誕生日なの…。
 今までお世話になったから…、何か買って贈ろうと思って…。おじさんにも、何か記念に残るものをって…。
 ね、明日、お買物に着いて来てくれる?」
 淡々と話すアンジェリークが、何の為のプレゼントだと考えるだけで、レイチェルは胸が痛くなった。
 だがおくびにそれを出せば、彼女がまた慰めてくるから、それだけは避けたい。
 その思いで必死になってこらえた。
「もちろん! 良いのを選ぼうね!」
「うん・・」
 レイチェルは、しっかりと、アンジェリークの手を握り締める。
「…レイチェルのはね・・・、エルンストさんとペアでね・…、何か作るから…。
 間に合えば良いけれど…。きっと冬場の靴下ぐらいしか、作れないけど…」
 日々に弱ってくるアンジェリークに、レイチェルはこらえきれなくなる。
「バカ! アンジェ!!
 そんなことない!! 私たちはセーターやマフラーやいっぱい、アンジェに編んでもらうんだから…!!!」
 とうとうこらえきれなくなり、レイチェルはアンジェリークの華奢な身体に思わず抱きついた。
「ね、お願い…!!!」
「レイチェル…」

 神様…。
 お願いです…。
 どうかアンジェに奇跡を起こしてください…!!!


コメント



少しは明るくなったようです…。
もう少しだけお付き合いを下さいませ。
二人のバカップル振りは、「GIFT BOX」「FAMILY TIES EX8」でどうぞ!