美しき世界

7

 クリスマスパーティのお知らせが全員に配られ、アンジェリークは規模の大きさに目を丸くした。
「アンジェは外部だから判らないだろうけど、高等部のお楽しみなの。うちのパーティはジュリアス理事長主催でさ、結構凄いんだよ! だってさ、このパーティが開かれるホテルも、理事長が持ってるんだ〜! 凄いでしょ!」
「うん!」
 アンジェリークは随分と住む世界の違う人達もいるものだと、感じずにはいられない。
「ありたんももちろん参加だよ! お洒落しなくっちゃね! プレゼント交換会もあるし!」
「うん!」
 益々クリスマスパーティが楽しみになる。

 先生・・・。パーティで先生のプレゼントがあたるといいな・・・。

 クリスマスまではもう余り時間はない。
 アリオスに、この8か月の感謝を込めてモノトーンのマフラーを編み始めた。
 個別にこっそりと渡そうと思う。
 それとは別に、交換会のプレゼントを用意した。
 レイチェルも似たようなもので、エルンストには、交換会と別のものを用意している。
 一緒に交換会用のプレゼントを買いにいった時も、ふたりともつい恋する相手をイメージにして選んでしまう。
「やっぱりさ、この合理的な万年筆がいいと思うのよね〜! シルバーエッジが効いてるみたいな」
 それを見るなり、アンジェリークはエルンストしか思い浮かばない。
「アンジェはどうすんの?」
「うん、このパスケースなんかいいかなって。モノトーンとシルバーの組み合わせがハードでクールかな」
 レイチェルもまたそれを見るなり、アリオス以外は思い付かない。
 お互いに顔を合わせてふたりは笑いあった。
 恋する少女たちは無敵なのだ。


 クリスマスパーティの前日、アリオスへのマフラーがようやく完成し、丁寧にラッピングをした。

 先生・・・。喜んでくれると嬉しいな・・・。

 アンジェリークは頬を染めながら、心を込めて一度だけマフラーを抱き締めた。
「大好き・・・」
 
 迷惑だったら、自分で使おう・・・。

 前日は、その他にもぱたぱたと色々な準備を始めた。
 ドレスやローヒールの準備。
 せめてこんな日だけでも、アンジェリークはアリオスに見せるためのお洒落をしたかった。
 またその準備をするのがとても楽しかった。

 翌日はドレスを着て荷物を持ちレイチェルの家に向かう。
 ほんの少しだけ、お互いに背伸びをするために、薄く化粧をするのだ。
 アンジェリークは、化粧をすることなど初めての経験のせいか、少しくすぐったい気がした。
 ファンデーションなどを使うのではなく、眉の手入れや、肌の手入れ、睫をビューラーで上げ、唇は色付きのほんのり薬用リップを使うぐらいだ。
 それだけでもかなりの変化をするせいか、アンジェリークは鏡をみてびっくりした。
「うん、アンジェ、いつもよりも綺麗だよ〜」
「レイチェルだって!」
 お互いに褒め合うのは、乙女の証拠。
 ふたりは鏡を覗きこんだりして、お互いを見つめあった。
「これでアリたんを誘惑出来るよ!」
「もう・・・」
 恥ずかしそうに俯く。
 だが、綺麗にしてもらうのはとても嬉しい。
 アンジェリークは照れながら何度も鏡を見つめていた。


 ふたりは時間になると、ゆっくりと会場のホテルに向かった。
 クラスごとにクラス委員が受付に当たる。ここで交換用のプレゼントも一緒に回収する。
 アンジェリークは、レイチェルと共に受付を手伝った。
 遅刻は厳禁とアリオスが言っているせいか、ふたりのクラスはすぐに集まり、出席チェックとプレゼントを入れた段ボールを担任であるアリオスに渡した。
 任意参加だが、豪華なパーティなだけあり、半数の生徒は参加するので、かなりの規模だ。
「サンキュ、ご苦労さん」
「はい!」
 スーツ姿のアリオスは、くらくらするほど素敵で、名簿を渡しながらも、アンジェリークは夢中になって見つめる。
「アンジェ」
 つんとレイチェルに肘でつつかれて、アンジェリークはようやく気がつく。
「あ、有り難う」
 アンジェリークが真っ赤になって俯いている間、アリオスは名簿を持って職員席に行ってしまった。
 レイチェルとふたりで大ホールの中に入り、始まるまでのしばらくの間喋っている。
 いよいよ明かりが落とされ、アンジェリークとレイチェルは少しだけ緊張した。
 スポットライトと共に、ノーブルな理事長ジュリア・スが登場し、話を始める。
 彼の話はやはりらしく「お説教」。
 それもかなり長く、アンジェリークはふらふらとするのを感じた。
 急にふっと意識がなくなったかと思うと、力強い腕を肩に感じた。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
 振り返るとそこにはアリオスがいて、しっかりと支えてくれていた。
「有り難うございました」
「あんなに長い説教やってたら、貧血も起こすっていうの」
 アリオスが顔をしかめるのがおかしくて、彼女はくすりと笑った。
「------である。では今宵のパーティを楽しんでくれたまえ! メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
 この号令にようやくほっとして、誰もがメリークリスマスと叫んだ。
 その後に歓談の時間が始まり、アリオスはさりげなくアンジェリークから離れた。
 職員席に戻る前に女生徒に掴まり、楽しそうに話している。
 レイチェルはエルンストを掴まえにいって、そのまま放さなかった。
 アンジェリークは微笑ましそうに見た後、食事を取りに行くことにした。
 クリーム系のパスタや、シチュー、サラダなどを取る。
「おい、それ美味そうか?」
 ふりかえると、そこには先ほどまで他の生徒と話していたはずのアリオスがいた。
「先生・・・」
「食おうぜ?」
「はいっ!」
 アリオスの笑顔にアンジェリークはしっかりと頷く、ふたりは一緒に食事を楽しみながら、色々と話をする。
 クラブのこと、クラスのこと・・・。
 本当の恋人同士のように、ふたりは色々と語り合った。
 その様子をレイチェルは遠くから見守る。

 よかったね、アンジェリーク・・・。

 今までで、レイチェルはアンジェリークが一番可愛く見えた。

 クリスマスの魔法が、アンジェリークを包み込むのは、後数分後に迫っている・・。
  

コメント

『ときメモGIRLS SIDE』アリアン版
クリスマス編です。
この後の特別な出来事は次回に!!
 しかし。
なんだか季節外れネタ〜(笑)

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