美しき世界


「それではプレゼント交換を始めます!」
 高らかな声で宣言され、アンジェリークはパスタを食べる手を止める。
「先生はどんなプレゼントを?」
「ナイショ。おまえは?」
「ナイショです」
 ふたりはお互いに顔を見合わせて微笑んだ。
 沢山の人数がいるので、沢山のサンタクロースがいる。
 どれも見たことのあるような顔なので、笑えてしまう。
 アンジェリークとアリオスのところには「エルンストサンタ」がやってきた。
「メリークリスマス」
 サンタがアリオスに渡したものは、紛れもなくアンジェリークのものだった。

 神様・・・っ!!

 アンジェリークはこのことだけでも、今日は最高の一日だと疑わない。
 嬉しくて本当に飛び上がってしまいたくなるほどだ。
「サンキュ」
 続いて、サンタはアンジェリークにも微笑んでプレゼントを渡してくれる。
 シックな包み紙のもので、アンジェリークはそれを大切そうに受け取った。
「ねえ、先生、それを開けてください」
「ああ」
 アリオスが丁寧に包み紙をはがすのを熱い瞳で見つめながら、アンジェリークは胸をどきどきとさせる。
 モノトーンのパスケースを見るなり、アリオスは表情を柔らかくした。
「気にいって頂きましたか? 私、一生懸命選びましたから!」
 先程の表情から、アンジェリークが選んだものだとは、一目瞭然だった。
 アリオスは大切そうにパスケースを直すと、いつもは見せない微笑を少しだけ浮かべる。
「サンキュ、コレット。三学期からこれを使う」
 頬を上気させると、アンジェリークはコクリと頷いた。
「おまえのも見てみろよ?」
「はい」
 大切にパッケージをはがすと、そこにはシンプルな天使の羽をモチーフにしたチョーカーが入っている。
「うわ〜、可愛い〜!!」
 素敵なものが当たったことが嬉しくて、アンジェリークは感嘆の声を上げた。
「気にいってくれて嬉しいぜ?」
「えっ!? 先生がこれを選んで下さったんですか!」
「ああ」
 アリオスが優しい眼差しで見つめてくれて、アンジェリークは胸に熱いものを感じる。
「凄い偶然ですね・・・」
「そうだな」
「私、絶対大切にしますから!」
 アンジェリークは、胸にぎゅっとチョーカーを胸元で抱き締めると、本当に大切なものとばかりにそれをなぞった。
「コレット」
「はい?」
 甘い声で言われて、アンジェリークは潤んだ瞳でアリオスを見つめた。
 含み笑いの眼差しと、彼の指が唇のはしにおりてくる。
「パスタソースがついてるぜ?」
 色気の全くない一言に、アンジェリークは真っ赤になってしまう。
「あっ、すみませんっ!」
「いいぜ?」
 アリオスはクリームソースをついっと拭ってくれる。
「あっ・・・」
 恥ずかしくて、アンジェリークは俯いてしまう。
「あっ、デザートが出てきましたね!」
 瞳がきらりと輝き、アリオスは微笑む。
「取って来いよ? 俺は飲みもの取ってくるから。紅茶でいいか?」
「はい! 先生はデザートは?」
「いや、俺はいらねえ」
 アンジェリークは嬉しそうにデザートコーナーに走っていく。
 アリオスもコーヒーとミルクティを持ちに行った。
 ゆっくりとアリオスがテーブルに飲み物を持っていくと、アンジェリークが戦利品のクレームブリュレを嬉しそうに持ってテーブルに戻ってくる。
「ご機嫌だな?」
「大好きなクレームブリュレなんですもの! 私、この表面をスプーンで壊すのが、大好きなんです!」
 まるで子供のように喜ぶアンジェリークに、アリオスは目を細めた。
「わ〜い!」
 クレームブリュレの表面をざくざくと崩している表情は、何とも言えぬ愛らしさがある。
「おいし〜!」
 喜んで食べているアンジェリークに、アリオスはその表情だけで、極上のデザートになるような気がした。
「ほら、ミルクティもあるぜ?」
「有り難うございます。これも大好きなんです!」
 ミルクティもまた美味しそうに飲んでくれているのが、アリオスは嬉しかった。

 本当に、今日はいいことがありました・・・。
 もう一つの大きなこと・・・。
 マフラーどうしようかな・・・。

 こっそりと贈るためにアンジェリークは、期を伺っていた。

 アンジェリークがデザートを食べ終わりしばらくしてから、閉会の挨拶がされ、ここで解散となった。
 後は各自の責任で帰ることになる。
「帰るか?」
「はい・・・」
 そのままの流れでアリオスと肩を並べて、ホテルから出た。
 駅までの道程を胸を激しく打ちながら、アンジェリークは歩く。

 今しか、今しかチャンスはないわ・・・。
 このままだと、駅に着いてしまう・・・。

 心の中の勇気をかき集め、息を吸い込む。
「アリオス先生・・・、私に、少しだけ時間を下さいませんか?」
 消え入るような震える声に、アリオスはしっかりと頷いてやった。
「・・・判った。少し、港公園まで歩くか」
 素直に応じてくれたアリオスに、アンジェリークは小犬のような潤んだ瞳を向ける。

 コレット・・・。
 おまえは本当に堪らなく可愛いな・・。

 アリオスはそんな彼女が可愛くて、もう思いを止められる自信はなかった。

 時間はまだ八時を過ぎたばかりのせいか、公園にはカップルが沢山いる。
 公園から見える夜景はとても美しく、これぞ100万ドルだった。
 ロマンティックな雰囲気のなか、アンジェリークは勇気をふり絞って、アリオスにクリスマスプレゼントを差し出す。
「先生・・・、この八か月本当に有難うございます。
 先生がいたからこそ・・・、私はがんばれました・・・。
 クラスでたった一人だった、外部生の私を先生が導いてくださったからこそ、今日まで頑張れました。有難うございます・・・。
 だからその感謝を込めて、これを・・」
「コレット、サンキュ」
 アリオスはしっかりと受け取ると、アンジェリークを見つめる。

 良かった・・・。
 うけとってくれた!!

「開けていいか?」
「・・・はい・・・」
 アンジェリークがはにかみながら頷くと、アリオスは丁寧にそれをはがし始めた。
 出て来たのは、彼のイメージに逢った、手編みのモノトーンのマフラー。
 じっと見つめる彼に、アンジェリークは恥かしさと切なさで俯いてしまう。
「先生・・・、捨ててもいいですから・・・」
 声にならない声で、彼女は囁いた。
「サンキュ、温かそうだ」
 アリオスはそれを優しい微笑で受け取ると、そのまま自分の首をそれで、巻く。
「温かいぜ? コレット」
「先生・・・」
 アリオスの深い声に導かれて、アンジェリークは顔を上げる。
 見るとアリオスがそれを首に巻いてくれていた。
「サンキュ・・・、とっても温かい」
「先生・・・」

 先生が巻いてくれた・・・。
 一生懸命編んだマフラーを先生が・・・。

 嬉しくて仕方がなくて、アンジェリークは大きな瞳を涙でいっぱいにためる。
「コレット・・・。俺からのプレゼントだ」
「え…」
 アリオスの指先が頬を触れた。
 次の瞬間-------
「・・・・・!!!!」
 唇が甘く重なる。
 最初は驚いたものの、その後はアリオスのリードに任せて情熱的なキスを受ける。
 甘く、そして時には優しく、烈しく。
 舌先で愛されるのは初めてだが、甘くてふわふわとした、そして熱い気分になる。

 大好き・・・。
 先生・・・

 ぎゅっと華奢な身体を抱き締められ、その後も何度も角度を変えてキスをされる。
「アンジェリーク・・・」
 初めて名前を呼ばれ、アンジェリークはアリオスの腕の中で、初めて至福の時を過ごすのだった-------- 

コメント

『ときメモGIRLS SIDE』アリアン版
クリスマス編です。
特別な出来事が起きました。
また次も季節外れ〜。

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