美しき世界


「ただ今より、第106回スモルニィ祭を開催致します!」
 生徒会長の宣誓によって、スモルニィ祭は始まる。
 午前中は、アンジェリークはクラスの催し物に参加した。
 メイドスタイルで彼女は緊張の面持ちをしている。
「アンジェ! 凄く可愛いよ〜!」
「うん・・・、ありがと、レイチェル」
 まるで人形のようなアンジェリークの姿に、誰もが感嘆の声を上げている。
「なんか恥ずかしい・・・」
 もじもじとしていると、女生徒からの感嘆の声が聞こえてきた。
「あ、アリオス先生」
 その名前を聞いて、アンジェリークは胸を甘く焦がす。
「アンジェが作ったギャルソン服を先生が着てくれたみたいね」
 教室にアリオスが入ってくると、部屋の雰囲気が変わる。

 先生・・・。

 アリオスが自分が作った服を着ているかと思うと、アンジェリークは嬉しくて堪らない。
「やっぱりありたんカッコイイよね〜」
 アンジェリークにはもう何も耳に入らない。
 ただ愛しのアリオスを見ているだけ。
 ギャルソン服を身に纏うアリオスは、艶やかさを醸し出していて、とても教師にはみえない。
 もともと、そのような雰囲気はあまりない彼だったが、益々それが顕著になっている。
 モノトーンのギャルソン服は、アリオスのスタイルの良さを更に強調しているようだった。

 よかった・・・。つっているとことかなくて・・・。
 あのおまじないがあったから、私、頑張れたもの・・・。
 先生、いつにも増して、かっこいいな・・・。

 アリオスはまっすぐアンジェリークを見つめ、彼女に向かって歩いてくる。
 アンジェリークも潤んだ瞳でじっとアリオスを見つめている。
「サンキュ、コレット」
「はい、先生もよくお似合いです」
 頬を染めながら、アンジェリークはコクリと頷いた。ふたりはお互いに見つめ合う。
 アリオスがアンジェリークを熱い眼差しで見つめるのを、レイチェルは気付いていた。
「では、みんな、今日は一日頑張りましょう!」
 レイチェルの号令で、全員が持ち場に散らばった。
 アンジェリークはアリオスと一緒に接客係になる。
 アリオスが接客に行くと、生徒からからかわれ、アンジェリークが接客をすると、女子生徒からは「可愛い」と絶賛だった。
「写真部です!」
 写真部の生徒が、カメラを片手にアンジェリークたちのクラスに入ってくる。
 スモルニィ祭の記録を撮るためだ。
 アリオスの姿を見るなり、写真部たちは駆け寄ってきた。
「アリオス先生、一枚」
「あ、お人形さんも一緒に!」
 アンジェリークも、写真部の女生徒に引っ張られて来る。
「あっ・・・」
 アリオスと並ばされて、アンジェリークは真っ赤になってしまう。
「はい、ではいきます!!」
 シャッターが切られ、緊張した表情で写真を撮られた。
「有り難うございました! 出起案したらおふたりに進呈しますよ?」
 写真部に声をかけられて、アンジェリークは頭を下げる。
「アンジェ、よかったね、思い出ができて」
 レイチェルにそっと囁かれて、アンジェリークはしっかりと頷いた。
 アリオスに肩をぽんと叩かれて、彼女は真っ赤になるのが可愛い。
 幸せな気分にひたりながら、アンジェリークはアリオスと共に再び接客を始めた。
「コレット」
「はい?」
 アリオスに呼ばれて、アンジェリークは駆け寄っていく。
「リボンが曲がってるぜ?」
「あ・・・」
 いつの間にか曲がっていたリボンを、アリオスが直してくれる。
 その密着度に、アンジェリークは息を乱し、切なく胸を焦がした。
「あ、有り難うございます」
「これでまた働けるな?」
 ぺこりと頭を下げて、アンジェリークはぱたぱたと持ち場に戻る。
 少し甘いハプニングに、彼女は少しだけ幸せに浸っていた------


「アンジェ、お疲れ! ごはんと舞台の時間だよ!」
「うん!」
 この時間帯から、模擬店の監督は、一時副担任のエルンストになる。
 アリオスも丁度お昼だ。
「アンジェ、模擬店はしごに行こうよ!」
「うん!」
 ふたりは制服に着替えて、色々と物色に行く。
 たこやきの醤油焼きを食べたり、焼き鳥、うどんと、少しずつシェアしあって食べた。
「やっぱりこういうのって、雰囲気で美味しく感じるんだよね〜!」
「うん!」
 アンジェリークはアリオスが、レイチェルはエルンストと、ふたりとも年上のしかも教師に恋をしている。
 だから今日は一緒に回ることは出来ない。
 同じ学年の子たちが、恋人と回っているのが、少し羨ましいけれども、ふたりは楽しんでいた。

「あ〜! 堪能した〜!」
「本当に、美味しかったわね!」
 ふたりとももおなかがいっぱいになって満足した後、それぞれの持ち場に行く。
 レイチェルは教室、アンジェリークは音楽室である。

 頑張らないとね?

 心の中で決意を秘めると、アンジェリークはまっすぐと歩き出した。

 音楽室に行くと、既に張り詰めた空気が漂っている。
「行くぞ。今までの練習の成果が試される!」
「はいっ!」
 どの顔も緊張感が漂い、ひきしまっている。楽器を分担して、会場である体育館に運びこんだ。
 準備が終わると、プログラムも自分たちの番に近付いてくる。
 アンジェリークは緊張の余り、躰を僅かに震わせていた。
 一番新米であるがゆえに、一番緊張している。
 これには、アリオスは優しく接してくれた。
「コレット」
 優しく近付いてくれる。
「先生・・・、何だか緊張しちゃって・・・!」
 僅かに身体を震わす彼女を、アリオスは眼差しで優しく包み込む。
 アリオスは手をそっと彼女に差し出すと、頬に触れた。
「あ・・・」
「自分を信じろコレット…。おまえならきっとできる・・・」
 アリオスにそう言われれば、できるような気がするから不思議だ。
「はい・・・、先生・・・」
 コクリと頷くアンジェリークの背中を、アリオスはしっかり通してやる。
「ほら、行って来い!」
「はいっ!!」
 今までの中で最もおきな声で、アンジェリークは返事をすると、舞台に行く。
 彼女はもう先ほどのように緊張して上がってはいなかった。

 頑張ろう・・・

 平常心でアンジェリークは舞台に挑む。
 指揮をとるアリオスの手が上げられたとき、驚くほどの落ち着きで演奏することが出来た。

 これはきっと先生のお蔭だから・・・

 アンジェリークは一音、一音を心を込めて演奏する。

 そして------
 演奏が終わり、大きな拍手に包まれた。

 終わった・・・

 全てが終わったことへの充足感がアンジェリークの心を包み込む。

 良かった・・・

 深々と礼をした後、幕間にひっこむ。
 興奮冷め遣らぬ中、楽器を全員で音楽室に運んだ。
「-----よく頑張ったな」
 ぽんとアリオスに肩を叩かれ、アンジェリークは今までの練習での苦労が全て、報われるような気がする。
 涙が出るほど嬉しい。
 彼女は心の底から、感動していた------

 先生・・・。
 素晴らしい想い出がまたひとつ出来ました・・・


コメント

『ときメモGIRLS SIDE』アリアン版
文化祭編です。
本番には、何も起こりませんでした(笑)

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