美しき世界


 夏の前の嫌なテストも終わり、いよいよ夏休みだ。
 夏の大きなイベントといえば、クラブの合宿。
 もちろん、アンジェリークも楽しみにしている。
 合宿の準備は、同じ時期に同じ場所でするレイチェルと一緒に行った。
 文化系クラブ合宿は幾つか寄り合ってのものが多い。
 偶然にも、アンジェリークとレイチェルは同じ合宿だった。
 徴発するような下着を勧めてくる親友に、アンジェリークは真っ赤になって何嫌がった。
 「だって、これぐらいどうってことないでしょ?」てな様子の親友に対して、アンジェリークは益々真っ赤になるのであった。
 レイチェルとエルンストたちと違って、アリオスとアンジェリークはまだまだ「先生と生徒」の枠を出てはいない。
 こんなことは必要ないよ、純情な心で思うアンジェリークである。
 結局、色々みた結果、下着とサマードレス、Tシャツなどを購入。
 どれもバーゲン時期に重なって良かったと思うほどの、お買い得だった。
 ほくほく顔で帰宅して、それを鞄の中に詰め込んで準備をする。
 心は明日の合宿のことで頭がいっぱいだった。

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 翌日、総勢40名の吹奏楽部、科学部、美術部の部員はバスで、同じ合宿所に向かう。
 アンジェリークは、親友のレイチェルも一緒なのが何よりも嬉しかった。
 少しだけお洒落をして、少しだけ背伸びをしたい合宿である。
 バスの中でアンジェリークはレイチェルと他愛のないことを話しながら、時折、眠り切っているアリオスをちらりと見てしまう。眩しいのか、サングラスを掛けたまま寝ているアリオスを見て、幸せを感じていた。

 着いた初日は部屋の準備にばたばたと追われ、ミーティングぐらいしかやれなかった。
 夕食は、初日ということで、管理人が手配してくれたものだが、翌日から自分たちで作るのだ。
 これからどんな真夏の思い出が出来るか、とても楽しみだった。

 余韻に浸れたのは初日だけ。
 どこのクラブも次の日からは厳しい練習や研究などが待ち構えていた。
「もっとおまえたちはハーモニーを大切にしろっ!」
「はいっ! 」
 気合いの入った練習が何度も続き、くたくたになる。
 その上、各クラブで持ち回る炊飯当番に、アンジェリークは吹奏楽と科学部のどちらにも顔を出すことになっているせいか、息を吐く暇もない。
 科学部は親友しか女生徒がいないのでヘルプである。
 吹奏楽部は自主練の時間になり、食事当番のアンジェリークは買い出しだ。
 財布を渡され、バス停まで歩いていく。
 すると白い見慣れない車がバス停に止まっており、サングラスを掛けているアリオスが車に凭れかかっていた。
「先生・・・」
「練習時間が延びちまったから、バスの時間とあわなくなったから。送っていく」
「有り難うございます」
 さりげなく助手席のドアを開けられる。
 アンジェリークは少し恥ずかしく思いながらも、車に乗り込んだ。
「近くのスーパーでいいか?」
「はい」
 車が発進し、ゆったりと揺れる。
 それがまた心地が良い。
「今夜は何をするんだ?」
「広告を合宿所のおばさんに見せてもらったので、オーブンを使って揚げる鳥肉のから揚げと、お味噌汁、付け合わせのキャベツと、漬物に、ヨーグルトです」
「大変じゃねえのか?」
「オーブンは6台ありますし、キャベツも千切りマシーンがあるので」
 流石は学生相手の合宿所だと思う。
「一気に作れてしまうわけだ」
「ええ」
 くすくすと笑いながら、アンジェリークは頷いた。
「ひとりで、大変じゃねえのか? 買い出し」
「帰りはタクシーに乗っていいんです。何人かで行ってバスで帰ってくるより、安上がりですから」
「なるほどな。距離的にもそう遠くねえからな」
 アンジェリークは車に揺られながら、甘くも楽しい思いを感じる。
 気分は悪くなかった。


 スーパーに着くと、カートを引くのはアリオスが買って出てくれた。

 何だか新婚さんみたいだって言ったら、先生怒るかな?

 ほんの少し自分の想像がくすぐったかった。
 アンジェリークは、しっかりと食材を見極めながら選んでいる。
 無造作にカートに入れているように見えるが、そうではなかった。
 特売品を上手に買い、買い物は手早く終了となる。
「楽しみにしてるぜ? コレット」
「頑張ります・・・」
 はにかんだしぐさはどこか華やぎがあった。
「ほら行くぞ?」
「はい
 荷物もちゃんと詰め込み、スーパーを出る際、重い袋はアリオスが持ってくれる。
 そのさりげなさに、アンジェリークは益々アリオスが好きになってしまった。
 恋心が1シーンをへるごとに深くなる。

 車に戻るなり、アリオスは「煙草を買い忘れた」と言って、スーパーに戻っていった。
 しばらく待っていると、戻ってきたアリオスの手には、冷たいソフトクリームとかき氷に桃が乗った、美味しそうな食べものがあった。
「ほら、コレット。美味いらしいぜ? これ。ご褒美だ」
「わあ!! 有り難うございます!!」
 美味しそうなものを奢ってもらうのも嬉しかったが、何よりもアリオスが奢ってくれたのが喜びを数倍にしてくれた。
「合宿所に着くまでに食っちまえよ」
「はいっ!」
 貰ったデザート氷を頬張りながら、嬉しそうに頷いた。
 食べ切るまで、アリオスはゆっくりと運転してくれる。
「ゆっきり食えよ? キーンと来るからな?」
「はい」
 くすりと笑ったアリオスがとても魅力的で、アンジェリークは食べるのを忘れて見とれてしまう。
「早く食え」
「あ、はいっ!」
 慌てて食べて、案の定、目頭を押さえるアンジェリークが愛らしくてアリオスはまた笑ってしまう
 内緒のおやつタイムは穏やかに過ぎていった。

 合宿所に戻り、アンジェリークは何人かの女生徒と、手早く夕食の支度にかかった。
 日頃よく家の手伝いをしているせいか、アンジェリークの手際は凄かった。

 いっこだけ、とくべつね?

 これはもちろんアリオスのもの。
 内緒のおやつタイムのお礼。
 彼の分だけちゃんとキャベツも千切りして、から揚げも一個多く、配膳までこなした。
 食事当番の最後の仕事は、机に食事を並べること。
 各クラブごとに並べるのだが、アンジェリークは当然、アリオスがどこに座るかを知っている。
 その場所に心を込めた夕食を並べて、アリオスを待った。
 「いただきます」は各クラブ事にするが、大体同じ時間に集まってくる。
 アリオスもゆっくりとやってきた。
 彼が席に座った後、夕食が始まる。
 アンジェリークは食べながら時折アリオスの様子を伺ってしまう。

 先生・・・。
 美味しく食べてくれてるかな・・・

 黙々と食しているアリオスに、アンジェリークは少しだけ微笑む。
 何も言わなくても、ちゃんとご飯をお代わりして食べてくれていたから。
 これが何より物”美味しい”という証拠。

 先生・・・。
 もっと、もっと、ご飯を作ってあげたいな・・・

 幸せな食事タイムも終わり、片付ける時間だ。
 片付けは全員で行う。
 不意に背中を叩かれ、アンジェリークははっとして振り返る。
 そこには、アリオスが皿を持って立っていた。
「ご馳走さん、コレット」
 それだけだったが、十分だった。

 先生・・・!!!!!

 またステキな思い出が出来ました-------

コメント

『ときメモGIRLS SIDE』アリアン版
一年生は、まあこんなもんでしょ合宿

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