BEAUTIFUL THAT WAY

CHAPTER4


 その頃、アリオスはオスカーを診療室に呼んで、話をしていた。
「…そうか。アンジェの実の母親が…」
「ああ」
 アリオスの言葉を聞くなり、オスカーは脱力したかのように椅子に腰掛ける。
 ちらりと、兄の顔を見つめれば、それが真実であるということがわかる。
「で、兄貴は、アンジェを渡すのか!?」
「----アンジェリークは、俺たちの大切な妹であり、”家族だ。
 渡すわけがねえだろう…」
 アリオスは、煙草を口に銜えながら、当然のように強い調子で言う。
 そこに、アンジェリークへの愛情を、オスカーは感じずに入られなかった。
 それは、”家族”としてではなく、”一人の男”としての。
 それがオスカーには心苦しい。
 彼もまた、アリオスと同じようにアンジェリークを幼い頃から見守ってきたのだから・…。
 アリオスの堂々さを見ていると、時々うらやましくもある。
 それが卑しくて、この年の差をうらむことすらある。

 兄貴は羨ましいほどのいい男だ…。
 それは認める。
 だが・…、アンジェに関して言えば…。
 俺たちはライバルだから…。

 オスカーはフッと微笑む。
 そこにはどこか自嘲的な色合いが含まれている。
「だったらいい。もし、”アンジェは引き取ってもらう”なんて言ったら、殴ってでも辞めさせた」
 椅子から立ち上がって、オスカーは挑戦的に兄を見る。
「俺も同じ”スタートライン”にいることを忘れないでくれ?」
 アリオスの異色の眼差しは、一瞬、強張る。
 だが、次の瞬間には、それらを全て受け入れた、穏やかな微笑がそこにあった。
「確かに受け取っておくぜ?」
「ああ」
 二人の良い兄弟は、一人の少女を思い浮かべながら、ふと微笑んで見せる。
 そこには、一人の少女への愛情が迸っていた----

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「大丈夫!?」
「はい…」
 紙のように白い顔色のまま、アンジェリークは何とか頷く。
 体が思うように動かない。
 身じろぎも出来なくて。
「とにかく…、どこかで休みましょう!!」
「でも・・・」
「でもじゃないわ! 早く!!」
「はい…」
 アネットの勢いに押されて、アンジェリークは返事をした。
 その返事にアネットはうっすらと微笑を浮かべると、アンジェリークに肩を貸す。
「行きましょう。そこにカフェがあるし」
「はい・・・」
 力なくついてくる実の娘に、アネットの心は切なくなる。
 そして、その体の重さに、 月日すらも感じた。

 私が最後にあなたを抱いたのは、17年も昔…。
 それがこんなに大きくなったのね…。
 そして、この重さが、今は苦しい…。

 近くのカフェに連れて行かれ、アンジェリークはそこで一息つくことが出来、内心ほっとした。
 暫く椅子に座っていると、身体は幾分か楽になる。
 貧血はかなりましになってきた。
「顔色が良くなってきたわね・…」
 優しく声を掛けられて、アンジェリークは緊張したように、俯いてしまった。
 その様子に、心の中で、アネットは切ない溜息を吐く。

 仕方ないわ…。
 17年間逢ったことのない子だもの・…。

 気を取り直して、 アネットは微笑むと、そっとアンジェリークにメニューを手渡した。
「ね、ここのケーキは美味しいのよ? 折角私があなたを助けたのも何かの縁だわ?
 おごっちゃうから、好きなもの食べて?」
「でも・…、助けてもらった上に…」
 実の母だと知らないアンジェリークはどこか申し訳なさそうだ。
 その態度が、アネットには辛くて。
「いいから! 私、今日はオフだから、少し、おしゃべり相手が欲しいと思っていたもの! ね、おしゃべりしてもらうお礼ということで、ね?」
 アネットが、あまりにも熱心に勧めるものだから、アンジェリークも最後は根負けをしてしまって、ついには頷いてしまった。
「ホント! じゃあ、たのみましょう、ね?」
「はい・・・」
 ようやく、微笑をくれたアンジェリークに、アネットは虚を疲れた気がする。
 まるで陽だまりのような明るい笑顔を持った少女。
 そこには、誰の心も癒す煌きが逢った。
 その笑顔を見て、アネットは俯いて涙ぐんだ。

 有難うございます・…。
 この子はこんなに立派な娘になったんですね・…

 大きな瞳をきょろきょろとメニューを見ながら、迷っている娘がとても愛しく感じる。
 どうして、こんな宝物をあのときに手放してしまったのだろうかと、痛切に後悔が心にわきあがってくる。
「えっと…、私は、ベリーケーキとロイヤルミルクティのセットで」
「じゃあ、私もそれにするわ」
 アネットが店員を呼んで、注文をする。
 その姿をうっとりと見つめながら、アンジェリークは幸せな気分になった。

 やっぱり女優さんは綺麗ね・…

 まさかその女性が自分のははであることを、ほんの少し先に知ることになるとは、このときは思いもよらなかった。


「あれ、アンジェお姉ちゃんジャン」
 偶然、生徒会のメンバーろ買出しに来ていたレイチェルが、アネットと楽しそうにしている。アンジェリークを見つけた。

 横にいるのは、女優のアネット!!!
 ひょっとして…、お姉ちゃんスカウトされたのかな〜。
 だったら凄いけど!!
 さすがアンジェお姉ちゃんよね〜

 お姉ちゃん子のレイチェルは、そんなことを思いながら、嬉しそうにその場を立ち去った。


「わ〜、美味しそう〜」
 運ばれてきたケーキにアンジェリークは嬉しそうに歓声を上げた。
 少女らしい歓声に、アネットは愛しそうに目を細める。
「召し上がれ?」
「はい!!」
 あまりにも、嬉しそうな顔をアンジェリークがするので、アネットも幸せな気分になった。
「わ〜い」
 食べる仕草を見る目ながら、しみじみアネットは思う。

 この娘を引き取りたい!!
 17年もこの子を育てていただいたことには感謝している…。
 だけど…。
 だけど…!!!!
 この子を引き取りたい!!
 コレット先生は、私にいつも近況をくれたけれども、もうそんなものでは満足できない。
 この子は私の子供なのだから。
 かけがいのない男性との間の…。
 この子も、養女であることを知っていると聞いている…。
 それならばここで・…

 食べないで、自分だけを見つめる、アネットに、アンジェリークは気がつき、不思議そうに、首をかしげた。
「食べないんですか?」
「え、ええ・・・」
 その愛らしい仕草に、アネットは決心を固める。
「アンジェリーク」
 名前を教えてもいないのに、名前を呼ばれて、彼女はふっと食べるのを止める。
「アネットさん、どうして私の名を…」
 そこで一呼吸置くと、亜ネットは真摯な眼差しでアンジェリークを見た。
「私が、あなたの実の母です!!」

 え…?
 一瞬。心臓が止まるかと思った…


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「お兄ちゃんただいま〜」
「アンジェか?」
「ううん、レイチェル!!」
 音がするなりアリオスは新聞を読んでいた手を休めた。
「なんだ、おまえか?」
「何だとは何よ〜」
 レイチェルは少し頬を膨らませて、怒る仕草をする。
「アンジェは、今日は遅いのか?」
 その言葉に、レイチェルは、何か知っている風に、含み笑いをもらした。
「何だ?」
 怪訝に眉根を寄せる彼に、レイチェルは勝ち誇ったように笑った。
「何と!! アンジェお姉ちゃんが女優のアネットさんとお茶を飲んでいたの!! スカウトかな〜!!」
 自慢げに話している妹の話に、アリオスは背中に冷たいものが流れるのを感じた。

 アンジェ!!!

TO BE CONTINUED…



コメント

アネットさん…。
アリオスにとっては、ある意味最大のライヴァルかも。
頑張れアリオス!!(笑)