BEAUTIFUL THAT WAY

CHAPTER3


「お兄ちゃん?」
「あ、何でもねえよ…。飯はいい。外に行く…」
 アリオスはそのまま不機嫌に立ち上がると、外に出て行く。
 その姿を見つめながら、アンジェリークは深い不安に捉えられる。

 何かあったの、お兄ちゃん…

 アリオスが食べなかった夕食をアンジェリークは手早く片付け始めた。
 一人で食べても味気がないので、彼女は自分の分も手早く始末した。

 ホント…、どうしたんだろう…。

「……!!!」
 お皿を運ぼうとして、目眩が走り、目の前が暗転する。

 また…、ダメ・・・っ!!

 そのまま皿が床の上に砕け散り、その甲高い音が、静まり返ったダイニングに響き渡った。
 それと同時に、アンジェリークはその場に崩れ落ちる。
 早くなる息遣い。
 遠ざかる意識。
 それらから自分を必死に守ろうとして、彼女は何度も自分に問い掛ける。
 大丈夫だから、と。
 その音を聞いて、玄関先にいたアリオスは、すぐにダイニングへと駆けつけてきた。

 アンジェ!?

 いつもは、決してそんな失敗をしない妹だから、アリオスは不安になった。
「アンジェ!」
 銀の髪を乱して、彼がダイニングに戻ってくると、アンジェリークが皿の破片を拾い集めていた。
「・・・いたっ!」
 ガラスの破片が指先に刺さって鋭い痛みがする。
 滲んでくるのは真っ赤な鮮血。
 アンジェリークはその血をじっと切なげに見つめた。
 胸が痛くなる…。

 私は、みんなと血を分けてはいない…。
 養女だから…。
 アリオスお兄ちゃんを側にいる資格なんかなくて…。
 かといって、”恋人”として過ごせる立場ではなくて…。
 とても微妙な、私たち…。
 それに…。
 この目眩が続けば、恐らくは…。
 だけど・・・。
 みんなに知られたくない…。
 特に、お兄ちゃんには…。

「アンジェ…」
 外に出たはずのアリオスの声に、アンジェリークは力なく振り向く。
「お兄ちゃん…」
「おい、大丈夫か!?」
「うん、平気だから、心配しないで? お兄ちゃんは安心して出かけて?」
 にこりと微笑むアンジェリークの表情には先ほどの苦しさはない。
 必死になって隠した結果だった。
「指、どうしたんだよ?」
 血が流れる彼女の指を見つめ、アリオスは怒ったように低い声で言う。
「・・ちょっと手滑らせて、あ、でも、大丈夫なのよ? うん…」
 慌ててなんでもないと言った風に遠慮がちに言う彼女に、彼の眉根ははますます潜められる。
「大丈夫って、おまえ」
「あ…」
 アリオスはアンジェリークの手を取るなり、血が流れる指に唇を当て、音を立てて吸い始めた。
「・・・やっ!」
 それこそ、全身の感覚がそこに集中するのを感じる。
 びくりと身体を震わせ、彼女の頬は紅く染まる。
 恥じらいの表情。
 アンジェリークがそのような表情をしたのがアリオスにはたまらなくて。

 許されるのなら…。
 今すぐおまえを奪うのに…。
 アンジェリーク…。

「お兄ちゃん…、大丈夫…だから…」
 甘いと域の混じった声に、彼は満足そうに笑うと、そっと指を唇から離す。
「バンソウコウ貼っといたら治るだろう」
「・・・うん・・・」
 引出しから手早くバンソウコウを取り出すと、アリオスは丁寧に彼女の小さな指に貼る。
「よし、これでいい。
手伝う、片付けるの」
「…有難う…」
 アリオスはそのまま近くにある掃除機を引っ張ってくる。
 その姿を見つめながら、アンジェリークはバンソウコウの部分をぎゅと握る。

 ずっと、こうしていたいと、思ってしまう。
 バカね…。
 私…

 音に気づいた兄弟たちも、皆、ダイニングへと駆けつけてきてくれた。
「姉貴!」
「おね〜ちゃん!!」
「アンジェお姉ちゃん!!」
 ゼフェル、レイチェル、そしてマルセルも一緒になって手伝ってくれる。
「ありがと、みんな」
 にこりと微笑むアンジェリークに、照れる彼ら。
 いつもその笑顔だけが欲しくて、彼らはアンジェリークの手伝いなどを競ってするのだ。
 だが彼らがばたばたしている間に、アリオスが綺麗に片付けをしてしまった。
「ほら終りだ。お子様は風呂にでも入って、さっさと寝ろ?」
 三人の頭を、それぞれ、ぽんぽんと叩いて、アリオスは帰ることを促す。
「もう、アリオスお兄ちゃん、子ども扱いしないでよ!」
 とマルセルが切り返し、
「ったく、大人ぶりやがって」
 とゼフェルが呟く。
「アンジェお姉ちゃん、一緒にお風呂入ろう〜」
 レイチェルはどさくさにまぎれてアンジェリークをお風呂に誘っている。
「あ、レイチェル、先に入っておきなさい。みんなも、アリオスお兄ちゃんも、有難う。もう大丈夫だから、ね?」
 アンジェリークの一言に、兄弟たちが素直に頷き、皆、各自の部屋へと戻ってゆく。
 ただ一人、アリオスを除いて。
「…お兄ちゃん、有難う…、行っていいからね」
「いや、今日は、止めだ」
 アリオスはじっと真摯な眼差しでアンジェリークを見つめてる。
「アンジェ」
「何?」
「----おまえ…、痩せたんじゃねえのか? 最近、具合が悪いんじゃ…」
 医者特有の直感に、アンジェリークは隠し切れないだろうと思いながらも、強く否定をした。
「うううん。元気よ! この通り!!」
 わざとらしく、笑顔を作り、ガッツポーズをして、おどけて見せた。
「なら…いいが…。
 おい、やっぱり、メシ食うって言ったら、怒るか?」
「大丈夫よ? ちゃんと作るから!! 一緒に食べましょう!!」
「ああ」
 アリオスはダイニングテーブルにつくと、わざとらしく元気良さげにに準備をするアンジェリークを見つめる。

 おまえ…。
 何か重要なことを隠してねえか…。
 俺に…

 アリオスは、そう感じずにはいられなかった。

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 最近、目眩の感覚が短くなってきてる…。

 体育の授業中、酷いめまいを覚えたアンジェリークは、そのまま友人に連れられて保健室へと向かった。
 最近、ことあるごとに、昼休みなどに限って休ませて貰っているせいか、保険医のリュミエールには、頭があがらなかった。
「アンジェリーク…、いい加減に、病院にいったらどうですか?
 最近のあなたは、本当に弱ってきています。本来なら、アリオス先輩やオスカーに本来ならば、言うべきですが…」
「判っています…、先生…」
 ベットの上で力なく眠りながら、アンジェリークはこらえる切なさを我慢しながら呟いた。
 リュミエールの気遣わしげな表情が痛い。
 リュミエールは、アリオスの後輩であり、オスカーの同級生であったために、アンジェリークも昔から知っていた。
 だから、言えたのだ。
 ”みんなに黙っていて欲しい”と----
「みんなに、迷惑かけたくないんです…」
「アンジェ…」
 彼はしょうがないとばかりに溜息をつく。
「判りました。ですが、次にこのようなことが怒れば、病院に行きなさい。これは保険医として命令です」
「はい・・・」
 判っていた。彼女には。
 次に大きな目眩が起これば、兄弟たちの側にいることが難しくなるということを----


 体育の授業の間保健室にいたアンジェリークは、昼休みには何食わぬ顔でレイチェルとお弁当を食べた。
 その後も、順調に授業を受けた。
 放課後、今日はレイチェルは生徒会の仕事があるために、帰りは一人だった。
「今日は…、何にしようかな」
 スーパーの前まで来て、アンジェリークは不意にめまいに襲われた。

 あ・・、また・・・

 地面がくるくると回る。
 倒れかけたとき、か細い腕が彼女の身体を抱きとめた。
 それもかなりの素早さで。
「大丈夫!?」
 その優しく、心配げな声に導かれて、アンジェリークはゆっくりと目を開けた。
「あ・・・」

 女優のアネット・コレットさん・・・。

 そう。
 アンジェリークを助けたのは、紛れも泣く、彼女の母親だった。 

TO BE CONTINUED…



コメント

泥沼になってきたような(^^:)
これじゃあ、「愛の劇場」だ(笑)