その日、アンジェリークと金髪のアンジェリークの姉妹の対面が行われることとなった。 アンジェリークはアリオスに付き添われて、金髪のアンジェリークはオスカーに病室に案内されて。 「妹はとても愛されているのが判ります」 くすりと笑って、彼女は羨ましそうに言う。からりと晴れた青空のように、彼女は屈託がなかった。 それがオスカーには清々しく映る。 「俺たち兄弟はみんなあいつに今まで支えてもらっていた。だから今度はそれを返してやる番だ。俺も・・・、兄貴も、弟たちも」 そこまで言って、オスカーは押し黙ってしまった。 アンジェリーク、あなたは幸せものだわ・・・。 ノックをオスカーがすると、中から可愛らしい声が響いてくる。 それを合図に病室に入ると、そこには穏やかな表情をしたアンジェリークが、アリオスに支えられていた。その姿を見ていると、オスカーは胸が詰まる。 きっと・・・、ふたりはどちらかがいなくなれば、生きては行けないだろう・・・。 俺にはもう入り込む余地はない・・・。 金髪のアンジェリークの姿を認めるなり、アンジェリークの表情は明るくなった。 「・・・お姉さん?」 少し、幼さを残した妹に、彼女は柔らかい微笑みを浮かべながら、そっとベットに近づいた。 「初めまして、アンジェリーク。あなたと同じ名前の姉、アンジェリークです」 すっと差し伸べられた優しい手をすり抜けて、彼女はそのまま姉の胸に飛び込んだ。 「お姉ちゃん!!!!」 しっかりと華奢な体を受け取ってやる。 「有難う、お姉ちゃん…」 「アンジェ…」 その胸で泣くアンジェリークに、姉は優しく撫でてやる。 その絆を確かめるのに、最早、二人には言葉が必要ではなかった。 「有り難う、お姉ちゃん、痛いのに検査を受けてくれて・・・」 「あなたは三日に一回、あの検査を受けているんでしょ。それに比べたら、ね?」 優しく、アンジェリークを抱き締める姉に、たっぷりと甘える。その様子に愛しげに見つめながら、アリオスは静かに側から離れた。 「オスカー」 「ああ」 ふたりは申し合わせるかのように、病室を後にした。姉妹を水入らずにする為に。 「ね、ところで、お兄さんふたりとも凄く素敵ね? アリオスさんとあなたはとてもお似合いに見えるけど」 含み笑いで言われて、アンジェリークは真っ赤になる。 「・・・大事な人?」 「・・・はい」 「だったら彼のためにも頑張らなきゃ」 金色の髪の、自分と同じ名前を持つ姉の温かな言葉に、アンジェリークはしっかりと頷いた。 「そのためにも、私に小さなお手伝いをさせてね?」 「有り難う、お姉ちゃん」 涙ぐむ妹の背中を優しく撫でてやり、金髪のアンジェリークは慈悲深いオーラで包みこんでやった。 その日から急激に姉妹の絆は深まっていった。 もちろん、他の兄弟たちとも金髪のアンジェリークは打ち解けていった。 学校の帰りに、必ず覗きに来る、ゼフェル、レイチェル、マルセルを交えて、談笑の輪を作り、ふたりのアンジェリークは大いに楽しんだ。 ----------------------------- いよいよ、明日は金髪のアンジェリークの骨髄摂取日となり、兄弟たちとふたりのアンジェリークは病室に集まっていた。 「二人のお姉ちゃんに、素敵なプレゼントがあるの」 言い出したのはレイチェルだった。 誇らしげに、少しそのきつい眼差しが明るく輝いている。 「プレゼントって、何かしら、ね?アンジェ」 「そうね、何かしら、お姉ちゃん」 二人のアンジェリークは、互いに顔を見合わせて笑いあう。 そこには仲の良い”姉妹”像があった。 「僕も手伝ったんだよ!」 末弟のマルセルが自慢げに離す姿もほほえましくて、二人のアンジェリークからは笑顔が絶えない。 「じゃあ、ゼフェルお兄ちゃん」 「おう!」 ゼフェルは、持ってきた包みを大事そうに開けると、可愛くラッピングがされている箱を二つ取り出した。 「これ…、姉ちゃんたちに」 少し照れくさそうにして、ゼフェルはぶっきらぼうにも、姉たちにそれを差し出す。 「有難う」 「有難う・…」 金の髪のアンジェリークは嬉しそうに笑ったが、アンジェリークはそのまま嬉しくて泣いてしまう。 「ほら、アンジェ、折角お揃いで作ってもらったものだから、一緒に見ましょうね?」 「うん、うん」 ないている彼女の華奢な体を抱いて、姉は優しく慰めてくれた。 二人は、一緒に包みを開け、その心のこもった贈り物に、胸が熱くなる。 それはおそろいの天使のオルゴール。 姉のアンジェリークは金髪の天使が、妹のアンジェリークには栗色の髪の天使が、それぞれ乗っている。 「回してみて?」 レイチェルに促されて、二人は同時にオルゴールのばねを回す。 「わあ」 流れてきたのは、”天使のワルツ”。 「設計とか細かい作業はゼフェルお兄ちゃんがやって、ワタシとマルセルで色塗りとニスを塗ったの!」 「そう!」 兄弟三人は本当に嬉しそうに笑い、二人の姉を見つめている。 「…もう…三人とも・…」 そのままアンジェリークは泣きじゃくってしまい、 三人は少し困った顔をする。 「アンジェ…、三人とも困ってるわ…」 「うん、うん」 彼女はようやく顔を上げて、涙でいっぱいに潤んだ瞳で、兄弟たちを見る。 「みんな来て…」 優しく言われて、三人はアンジェリークに近づいた。 「みんな大好きよ・…」 「お姉ちゃん!!」 「姉貴!!」 「お姉ちゃん!!」 口々に名前を呼び合って、三人はお互いを確かめる。 三人に手を伸ばして、彼らを強く抱き合う。 その姿はとても強固で、もう、誰にも入る余地すらない。 あなたたちは本当の兄弟以上に兄弟だわ… 金髪のアンジェリークはその絆が羨ましく思わずには、いられなかった。 -------------------------------------- 翌日、金髪のアンジェリークからの骨髄摂取の手術が行われた。 担当医はアリオス。 全身麻酔を施され、彼女にとってはかなり大掛かりな手術となった。 その手術には、オスカーも付き添った。 二人が最近仲良く話していることをアリオスも知っており、彼は少し嬉しくもあった。 骨髄摂取が行われている間、アンジェリークも骨髄移植に向けての、治療が始まっていた。 かなり苦痛の伴う治療であったが、彼女はそれにじっと耐え抜いていた。 その間も、姉の体のことを思いやる彼女だった。 お姉ちゃん…。 有難う…。 お姉ちゃんお体が、ちゃんと元に戻りますように… 治療が終わり、少しうとうとしていたアンジェリークが、気配を感じて目を覚ますと、そこにはアリオスが居た。 「お兄ちゃん…」 「治療、頑張ってみてるみたいだな…」 「うん…。お姉ちゃんは?」 自分もかなり辛いくせに、姉のことを心配するアンジェリークに、アリオスは愛がこみ上げてきてしまう。 「大丈夫だ…。手術は成功だ。 後はおまえの頑張りだ…」 「うん・…」 アリオスは、優しく言って、彼女の手をしっかりと包み込む。 「一緒に、頑張ろうな?」 「うん!!!」 二人はしっかりと手を握り合って、お互いの愛と決意を確認した------ |
TO BE CONTINUED…