BEAUTIFUL THAT WAY

CHAPTER11


「お兄ちゃん…、ついててね・・・」
「ああ。心配すんな…」
 第一回目の化学療法にあたり、アンジェリークは、アリオス以外のものの付き添いを拒んだ。
 苦しむ自分の姿を、誰にも見せたくなかったからである。
 アリオスは彼女の主治医として、今、薬の投入を始める。
「アンジェ…、ひょっとして、この髪が副作用で抜けてしまうかもしれねえが…」
「平気よ? お兄ちゃんと生きていけるんだったら…」
 愛しげに髪を触るアリオスに、アンジェリークは曇りひとつない笑顔で答えた。
「ああ。一緒に頑張ろう…」
「・・うん・・・」
 アリオスの手によって、アンジェリークへの第一回目の治療が開始された。


 治療の最中、アンジェリークの髪の毛は幸いなことに抜け落ちなかった。
 だが、その副作用で、何度も吐き気に襲われ、アリオスに助けを求めることすらあった。
「お兄ちゃん…、苦しい…」
 何も吐くものすらない中、吐き気を催すアンジェリークを不憫に思いながら、アリオスは、すっかり細くなってしまった彼女を、何度も抱きしめて、命を感じるかのように何度も抱きしめ、宥めた。
「大丈夫だ、苦しくない…。これが終わったら、大分ましになるんだからな…」
「うん・・・、うん・・・」
 アリオスの温かさだけが、アンジェリークの心の唯一のよりどころだった。
「----治療が終わって病気が直ったら…、本当の家族になろうな…?」
「うん…」
 アリオスもアンジェリークも今、一縷の希望に縋るしかない。
 だがその希望は、少しずつであるが、大きくなりつつあるのを感じている。
 二人でずっと一緒にいたい----
 それだけが、今の心のよりどころである。
「…私…、子供出来ないかもしれないよ? それでもいいの?」
「バカ…。今は医療が発達して、白血病で骨髄移植を受けた女性が、たくさん子供を持ってるんだ…。おまえだって、子供は産めるんだぞ」
 ぎゅっとアリオスに抱きしめられて、体の痛みを耐えながら、心はとても幸福に満たされる。
 心が幸福であると、痛みはすうっとどこかに遠のいていくような気がアンジェリークにはしていた。
「いつか…、子供が出来たらいいな…、俺たちの…」
「うん・・・、うん・・・」
 泣きながら抱きついてくるアンジェリークに、何度も抱き返してやりながら、アリオスは幸福とやるせなさが同居しているような気がする。
「愛してる・…」
「私も愛してる…」
 彼女が痛みに疲れて眠るまで、アリオスはいつまでもその背中を撫でてやっていた----

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 アンジェリークが眠りに落ちたのを見計らって、アリオスは、間借りしているカティスの研究室へと戻った。
 暫く、アンジェリークのカルテなどをチェックした後、アリオスは大きな溜息をふうっと吐く。
 そこには切なさが交じり合っている。
 彼女の病気平癒を祈って、今、アリオスは酒も煙草も断つ日々を過ごしていた。

 アンジェ…。
 俺は絶対おまえを救ってみせるから…。

 不意にドアがノックされ、アリオスははっとして、椅子ごとドアに振り返った。
「誰だ?」
「アネットです」
「今、開けます…」
 アリオスは椅子から立ち上がるとドアを静かに開ける。
 その途端、彼は息を飲んだ。
 そこにはアンジェリークの母親のほかに、金髪の大きな瞳をした少女がいた。
「こんにちは、アリオスさん」
「今日は…。この…、子は?」
 アリオスは、金髪の少女に神経を奪われながら、アネットに尋ねる。
 彼の心に僅かな希望の光が点る。
「----アンジェリークと腹違いの姉で…、この子も゛アンジェリーク”といいます」
 紹介されて、金髪のアンジェリークはニコリとほ氷魚エムと、深深と頭を下げた。
「アンジェリークです。私も妹に会って、是非協力したくって…。
 アネットさんに…、総てのことは聞きました…」
 一瞬そこで彼女は暗い表情を下後、アリオスを食入るように真摯に見つめる。
「私も、骨髄の検査をしてください!!」

 アンジェ…!
 おまえは助かるかもしれない!!

 彼の心にともった希望の日が、大きくなってゆく。
「有難う…! 本当に有難う・・!」
 アリオスは、金髪のアンジェリークの手をしっかりと握り締め、何度も何度も頭を下げた。
 その彼の様子を見て、アネットは心の奥底で感じていた…。

 彼はきっと永遠にアンジェリークから離れないだろう…。

「こんにちは」
 カティスも研究室に入ってきて、アネットと金髪のアンジェリークに挨拶をする。
「叔父貴、こちらはアネットさんでアンジェリークの実の母親だ。で、こちらはアンジェリークの母違いの姉、アンジェリークさん。骨髄検査をしてくださるそう」
「こんにちは」
 カティスは深深と頭を下げ、二人もそれに習った。
「この方は…」
「父の末の弟です」
「そうですか…先生の…」
 アネットは噛み締めるように呟き、カティスもその言葉で総てを察した。
「アリオス、このお嬢さんも骨髄検査は私がしよう。
 が、先ずは自己紹介にアンジェリークに・・・、な?」
「判った」
 アリオスも頷き、また、アネットと金髪のアンジェリークもそれに同意した。


 二人は、消毒された白衣に着替え、そして、マスクをしてから、アンジェリークの病室へと向かった。
「ここです」
 アリオスがドアを開けると、アンジェリークがピクリと反応して、ドアに向かって振り向く。
「お母さん…」
 自然に出た言葉だった。
 アンジェリー気は特に意識せず、アネットを”母”と呼んだ。
「アンジェリーク…」
 初めて、自分落ちを分けた娘に”母”と呼ばれ、アネットはあふれる涙をこらえきれずにいる。
 彼女にとっては、何よりも幸せな瞬間だった。
「アンジェリーク!!」
 そのまま亜ネットはベットの上にいるアンジェリークに抱きつき、しっかりと抱きしめる。
「痩せたわね」
「お母さんこそ」
「でも綺麗になったわ、アンジェ」
「ふふ」
 二人は泣き笑いをしながら、初めて、”母娘”としての会話を楽しむことが出来た。
 ふと、アンジェリークは後ろにいる金髪の可愛らしい少女が気になって、アネットに尋ねる。
「あの方は?」
「ああ。ちょっと、待って。アンジェリーク」
 アネットが呼ぶと、その少女はにこりとまるで天使のような微笑を浮かべながら、ベットの側へとやってくる。

 私と同じ名前…。

「あの子の名もアンジェリークなの。
 あなたの…、腹違いのお姉さん…」
「お姉ちゃん…」
 アンジェリークは呆然とその名を呟くことしか出来なかった。
「アンジェリーク。私もアンジェリークなの。あなたのお姉さんよ、よろしくね?」
「お姉さん…」
 その眩しい笑顔を見ていると、何だか見守られているような気がして、アンジェリークは泣きそうになった。
「お姉ちゃん…」
「アンジェ…」
 今度は、アンジェリークが金髪のアンジェリークに抱きついてゆく。
「まあ、私の妹は甘えたさんね?」
 優しく言われて、アンジェリークは甘えることしか出来なかった。

 私にはこんなに素敵なお母さんとお姉さんまでいる…。
 なんて幸せ者なんだろうか…

 少し興奮した成果、アンジェリークは少し元気がなくなってきた。
 それを敏感に察したアリオスは三人の間に入った。
「アンジェリークは疲れたみたいです…。少しだけ…、休ませて上げてください…」
 主治医であるアリオスの言葉を、従わないわけには行かず、二人は頷くしかなかった。

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 アンジェリークが少し休んでいる間、金髪のアンジェリークの骨髄の検査が行われた。
 骨髄液を抽出するのは、想像を絶する痛みを伴うが、それを、”いつも妹は絶えているから頑張れる”と、金髪のアンジェリークは頑張ってくれた。
 すぐに採取した骨髄液は検査に掛けられた。
 それにアリオスも立ち会う。
 そして----
 その結果が出た瞬間、アリオスの」希望が更に大きくなる。
「骨髄の型が一致した…」
 その事実は、誰もを悦ばせる、明るい材料となった。

TO BE CONTINUED…



コメント

光が見えました…
ついでに連載の先も(笑)