兄弟たちは、一瞬、何が起こったのか分からなかった。 「・・・白血病・・・」 レイチェルは呆然と言う。何も感じられないとうような声のトーンだ。 どの顔も曇り、蒼白になっていた。 「みんな、そんな顔をしないで? お姉ちゃんは決めたの! 頑張って病気と闘おうって! だから、みんなも、そんな顔しないで? ね?」 アンジェリークの力強い言葉は、三人の心に、強く響き渡った。 「・・・お姉ちゃん・・・」 「レイチェル」 アンジェリークのすべてを受け入れたその穏やかな表情に、レイチェルはたまらなくなって抱き付く。 「お姉ちゃん!」 アンジェリークは、そのまま優しく彼女を包みこんでやった。 「お姉ちゃん〜! どこにも行っちゃいやだ!」 マルセルも堪らなくなって、レイチェルの隙間からアンジェリークに抱き付いてきた。 「マルセル・・・」 「ケッ、甘えただなふたりとも」 そんな二人を尻目に、ゼフェルは強がる。 「いつも元気な姉ちゃんが、死ぬわけねえじゃねえか!?」 乱暴な口調の中にも、彼一流の優しさがあり、アンジェリークは嬉しく思う。彼の瞳に輝いたわずかな涙を、彼女は見逃さなかった。 ゼフェル、有り難う・・・ 「おい、そろそろ、アンジェを寝かしてやってくれ」 アリオスかベッドの側にやってきて、三人を促した。 「ね、今夜、お姉ちゃんに付いていちゃ、駄目?」 涙目で妹に懇願されたが、アリオスは首を振った。 「逆にアンジェが疲れるから駄目だ。それよりも、おまえたちにはしてもらいたいことがある」 厳しいアリオスの視線に、三人は従わないわけにはいかなかった。 「ほら、行くぞ」 オスカーに背中を押されて、三人は出ていく。 「またね、みんな」 優しいアンジェリークの声に、頷くことすらできなかった。 兄弟たちは、カティスの研究室に集まり、話し合った。 「明日から、アンジェリークに化学療法で、処置をしていく。そのためにも、お前たちに協力して欲しいことがある」 兄弟たちは、カティスの話を熱心に聞き入る。 自分たちで出来ることであれば、なるべくしてあげたい。それが兄弟全員の気持ちだった。 「まずおまえたちに少し負担をかけるが、骨髄の型をしりたいから、その検査を受けて欲しい。 おまえたちの中で、誰かアンジェと型があえば、アンジェが助かる可能性が出てくるからな」 誰もがしっかりと頷く。そんなことは当然とばかりに。 「後は、30人分のB型の血液が必要になる。声を掛けて協力してもらってくれ」 しっかりと兄弟たちは頷き、今、自分たちで出来ることの最大級のことをしたいと思っていた。 「オスカーみんなを連れて先に帰ってくれ。俺もしばらくしたら帰るから」 「判った」 頷いて、オスカーは三人を促す。 「ほら、行くぞ、おまえら」 「うん・・・」 後ろ髪を引かれる思いで、兄弟たちは研究室を後にした。 「アリオス、明日、アンジェの母親に逢って事情を話してくれ。この際、仕方あるまい・・・」 「ああ」 アンジェリークの生きる光を見出だすために、彼は堅く決心をかためた。 「叔父貴、電話借りて構わねえか?」 「ああ、どうぞ」 「サンキュ」 アリオスは、ポケットの中に直しておいたしわくちゃのメモを取り出すと、そのメモに書かれた番号に電話を掛け始める。 アンジェリークの実母に---- ----------------------------------------- 翌朝早く、アリオスは、アンジェリークの母と、自宅病院で逢うことになった。 「ごめんください。アネットです」 その声に、アリオスは玄関先に向かい、ドアを開けた。 彼が姿をあらわすと、彼女は深々と頭を下げる。 「無理を言って申し訳ない…。重要な話があったので。どうぞ」 「はい」 二人は、かつて話を決裂させた、あの応接室へと向かった。 今日はアリオスがお茶の準備をし、アネットに差し出す。 今日から、病院は、カティスの計らいで、代理医師が診察にあたる。 アリオスは、アンジェリークの主治医として、一時的に大学病院に戻ったからだ。 「で・・、お話とは、アンジェリークのことですね?」 アネットは、決意を秘めた眼差しで、アリオスを見つめている。 「はい」 そこで一泊呼吸を置くと、アリオスは静かに口を開いた。 「-----アンジェリークは、骨髄性白血病と診断されました…」 アネットの手が止まる。 彼女は体を小刻みに震わせ、体を抱きしめた。 唇まで青くして、顔は蒼白だ。 「嘘…!?」 アリオスも辛そうに目を伏せている。 その態度が総てを肯定しているのだと、アネットは感じる。 「嘘だといってください!! 嘘だといってください!!!」 両手で顔を覆い、アネットは苦しげにする。 アンジェリークもそんな仕草を良くすることを思い出し、二人の親子の血のつながりを感じずに入られなかった。 「ごめんなさい…、取り乱しちゃって…。 私あの子にこの間逢ったんです…」 「知ってます…」 「あの時も、あのコ、貧血で苦しそうだったところを、助けたのをきっかけで話したんですが…、まさか…」 アリオスはそれで総てを解せたような気がした。 彼女が自分の意志でアネットに逢ったのではなかったことを。 「アネットさん…、あなたにお願いがあります・…」 「はい。あのこのためならなんでも…」 その思いの強さはアリオスが一番良く知っている。 彼は深く頷くと、話し始めた。 「今は、化学療法で白血病も光が見えてきています。ですが、一番効果的なのは骨髄移植です。その検査を受けていただきたい。それと、あなたがB型だったら、輸血にもご協力いただきたい…」 「判りました…」 そこまで言って、アネットは真摯な眼差しでアリオスを見た。 「----アンジェリークには母親の違う姉がいます。彼女にも頼んでみます」 途端にアリオスの表情が明るくなる。 「ホントですか!? 兄弟が一番高いですから、骨髄の型の合う確率が・…」 これほど神に感謝したことはなかったかもしれない… ひとつの可能性の光が、今、輝いた。 |
TO BE CONTINUED…