BEAUTIFUL THAT WAY

CHAPTER9


 兄弟たちは、一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「・・・白血病・・・」
 レイチェルは呆然と言う。何も感じられないとうような声のトーンだ。
 どの顔も曇り、蒼白になっていた。
「みんな、そんな顔をしないで? お姉ちゃんは決めたの! 頑張って病気と闘おうって! だから、みんなも、そんな顔しないで? ね?」
 アンジェリークの力強い言葉は、三人の心に、強く響き渡った。
「・・・お姉ちゃん・・・」
「レイチェル」
 アンジェリークのすべてを受け入れたその穏やかな表情に、レイチェルはたまらなくなって抱き付く。
「お姉ちゃん!」
 アンジェリークは、そのまま優しく彼女を包みこんでやった。
「お姉ちゃん〜! どこにも行っちゃいやだ!」
 マルセルも堪らなくなって、レイチェルの隙間からアンジェリークに抱き付いてきた。
「マルセル・・・」
「ケッ、甘えただなふたりとも」
 そんな二人を尻目に、ゼフェルは強がる。
「いつも元気な姉ちゃんが、死ぬわけねえじゃねえか!?」
 乱暴な口調の中にも、彼一流の優しさがあり、アンジェリークは嬉しく思う。彼の瞳に輝いたわずかな涙を、彼女は見逃さなかった。

ゼフェル、有り難う・・・

「おい、そろそろ、アンジェを寝かしてやってくれ」
 アリオスかベッドの側にやってきて、三人を促した。
「ね、今夜、お姉ちゃんに付いていちゃ、駄目?」
 涙目で妹に懇願されたが、アリオスは首を振った。
「逆にアンジェが疲れるから駄目だ。それよりも、おまえたちにはしてもらいたいことがある」
 厳しいアリオスの視線に、三人は従わないわけにはいかなかった。
「ほら、行くぞ」
 オスカーに背中を押されて、三人は出ていく。
「またね、みんな」
 優しいアンジェリークの声に、頷くことすらできなかった。


 兄弟たちは、カティスの研究室に集まり、話し合った。
「明日から、アンジェリークに化学療法で、処置をしていく。そのためにも、お前たちに協力して欲しいことがある」
 兄弟たちは、カティスの話を熱心に聞き入る。
 自分たちで出来ることであれば、なるべくしてあげたい。それが兄弟全員の気持ちだった。
「まずおまえたちに少し負担をかけるが、骨髄の型をしりたいから、その検査を受けて欲しい。
 おまえたちの中で、誰かアンジェと型があえば、アンジェが助かる可能性が出てくるからな」
 誰もがしっかりと頷く。そんなことは当然とばかりに。
「後は、30人分のB型の血液が必要になる。声を掛けて協力してもらってくれ」
 しっかりと兄弟たちは頷き、今、自分たちで出来ることの最大級のことをしたいと思っていた。
「オスカーみんなを連れて先に帰ってくれ。俺もしばらくしたら帰るから」
「判った」
 頷いて、オスカーは三人を促す。
「ほら、行くぞ、おまえら」
「うん・・・」
 後ろ髪を引かれる思いで、兄弟たちは研究室を後にした。
「アリオス、明日、アンジェの母親に逢って事情を話してくれ。この際、仕方あるまい・・・」
「ああ」
 アンジェリークの生きる光を見出だすために、彼は堅く決心をかためた。
「叔父貴、電話借りて構わねえか?」
「ああ、どうぞ」
「サンキュ」
 アリオスは、ポケットの中に直しておいたしわくちゃのメモを取り出すと、そのメモに書かれた番号に電話を掛け始める。
 アンジェリークの実母に----
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 翌朝早く、アリオスは、アンジェリークの母と、自宅病院で逢うことになった。
「ごめんください。アネットです」
 その声に、アリオスは玄関先に向かい、ドアを開けた。
 彼が姿をあらわすと、彼女は深々と頭を下げる。
「無理を言って申し訳ない…。重要な話があったので。どうぞ」
「はい」
 二人は、かつて話を決裂させた、あの応接室へと向かった。


 今日はアリオスがお茶の準備をし、アネットに差し出す。
 今日から、病院は、カティスの計らいで、代理医師が診察にあたる。
 アリオスは、アンジェリークの主治医として、一時的に大学病院に戻ったからだ。
「で・・、お話とは、アンジェリークのことですね?」
 アネットは、決意を秘めた眼差しで、アリオスを見つめている。
「はい」
 そこで一泊呼吸を置くと、アリオスは静かに口を開いた。
「-----アンジェリークは、骨髄性白血病と診断されました…」
 アネットの手が止まる。
 彼女は体を小刻みに震わせ、体を抱きしめた。
 唇まで青くして、顔は蒼白だ。
「嘘…!?」
 アリオスも辛そうに目を伏せている。
 その態度が総てを肯定しているのだと、アネットは感じる。
「嘘だといってください!! 嘘だといってください!!!」
 両手で顔を覆い、アネットは苦しげにする。
 アンジェリークもそんな仕草を良くすることを思い出し、二人の親子の血のつながりを感じずに入られなかった。
「ごめんなさい…、取り乱しちゃって…。
 私あの子にこの間逢ったんです…」
「知ってます…」
「あの時も、あのコ、貧血で苦しそうだったところを、助けたのをきっかけで話したんですが…、まさか…」
 アリオスはそれで総てを解せたような気がした。
 彼女が自分の意志でアネットに逢ったのではなかったことを。
「アネットさん…、あなたにお願いがあります・…」
「はい。あのこのためならなんでも…」
 その思いの強さはアリオスが一番良く知っている。
 彼は深く頷くと、話し始めた。
「今は、化学療法で白血病も光が見えてきています。ですが、一番効果的なのは骨髄移植です。その検査を受けていただきたい。それと、あなたがB型だったら、輸血にもご協力いただきたい…」
「判りました…」
 そこまで言って、アネットは真摯な眼差しでアリオスを見た。
「----アンジェリークには母親の違う姉がいます。彼女にも頼んでみます」
 途端にアリオスの表情が明るくなる。
「ホントですか!? 兄弟が一番高いですから、骨髄の型の合う確率が・…」

 これほど神に感謝したことはなかったかもしれない…

 ひとつの可能性の光が、今、輝いた。

TO BE CONTINUED…



コメント

暗い、暗すぎる!!