Chapter1
アンジェリークは、喉を鳴らして大きく深呼吸をする。 落ち着いて、アンジェリーク…。 これは”夢”なのよ… 自分に言い聞かせながら、アンジェリークは背筋を伸ばし、漆黒の髪の男を見つめた。 印象的な、翡翠と黄金の瞳は、まるでアンジェリークの心を見透かしているかのように思える 怖かった----- 存在自体が怖いわけではなく、その眼差しに心を晒しているような気がして怖い。 「-----私は、あなたを呼んでいないわ…!」 ようやく絞り出した声は、低く、少し震えていた。 青年は、嘲笑するかのように眉を上げると、アンジェリークを真っ直ぐと見つめる。 「-----おまえは呼んだのだ…。 ”私を子守りから自由にして下さい!”っとな。だから私はやってきて、おまえの望みを叶えたのだ…」 魅惑的な声で、青年は感情なく淡々と話す。 「…まさか…あなたは”魔王”?」 ぎこちなく話しながら、アンジェリークは彼を見つめた。 確かに、青年は堂々とした威厳があり、黄金と翡翠の異眼は魔性のそれだ。 「-----レヴィアス・ラグナ・アルヴィース。おまえが言うように我は魔の国の皇帝だ…」 「魔の国…」 アンジェリークは、レヴィアスの言葉を反芻しながら、青緑の瞳をただ、彼に向ける。 「-----メルを返して!!」 強気な声でアンジェリークは呟くと、レヴィアスを精一杯威嚇するようににらみつけた。 だが彼は、彼女の睨む表情ですらも愛らしく感じてしまう。 レヴィアスはフッと笑うと、少女の頬の指を伸ばす。 アンジェリーク動けなかった。 「おまえの望みどおりにしてやっただけだ…。なのになぜだ?」 「メルは大切な弟よ! あなたなんかに渡しやしないわ!」 虚勢を張り、アンジェリークは精一杯、魔王と渡り合おうと努力をする。 だが、じっと見つめられると、アンジェリークの勢いは音を立ててしぼんでしまった。 不思議な眼差しに魅入られてしまったのかもしれない----- あなたの不思議な眼差しは…、どこか寂しそうに見える…。 どうしてだろう…。 その寂しさが…、私と同じような気がする… 「-----どうした? もう諦めたか?」 声を掛けられてはっとする。 アンジェリークはその声に挑発をされて、再び瞳に力を漲らせる。 「諦めたりしないわ!! 絶対ね!!」 「それでこそ、おまえらしいアンジェリーク」 レヴィアスは不適に笑うと、アンジェリークを眼差しで捕らえた。 「------我の挑戦を受けるか?」 「もちろん!!」 強い言葉。 それに満足するかのように、レヴィアスは口角を上げると、黒のマントで風を切り、一気に翻した。 「-------!!!!!!」 アンジェリークは、一瞬の出来事で、今、自分の目の前で何が起こったか判らなかった。 先ほどまで、メルの部屋にいたはずの、レヴィアスと自分が、荒野に立っている。 風が吹く、早春の荒野。 瞬間移動…!? 彼女が目を丸くしてあたりをきょろきょろしているのを、レヴィアスはじっと見ている。 「------アンジェリーク」 名前を呼ばれ、彼を見つめると、レヴィアスは遠くに見える丘を指差した。 「あれが我の城”虚空の城”だ」 彼が指差す方向を見ると、確かに城がそびえている。 立派な、おとぎ話にも出てきそうな、とてもロマンティックな城だ。 「おまえの弟のメルはあの城にいる」 メルがあの城に… 否が応でも、彼女の緊張感が高まりを見せている。 アンジェリークは生唾を飲み込むと、改めてその城を見つめた。 遠い…。 ここからはかなり遠いわ… レヴィアスは、手を少し宙に揺らす。 それだけで、アンティークな街路時計が突然姿を現した。 時計は13時まであり、アンジェリークの世界よりは1時間刻む時間が多い計算だ。 「この世界の一日は26時間」 彼が指先をくるりと動かすだけで、時間は自在に動いていく。 時間すらも支配しているのね!! アンジェリークはレヴィアスの指先を、強い眼差しで見つめた後、彼をしっかりと見つめる。 「この先は迷宮になっている。この迷宮を越えて、我の城にたどり着くことが出来れば、メルは返してやる…。 おまえに与える時間は13時間。つまり半日…」 「半日・・・」 余りにも短すぎる。 アンジェリークは悔しくて唇をぎゅっと噛締め、手を握り締める。 魔王の挑戦を受けるといった以上、もう振り返ることが出来ない。 メルの為にも。 「我は虚空の城でおまえを待つ。 楽しみにしている…。------アンジェリーク」 そう言いながら、レヴィアスの姿がだんだん薄くなって、見えなくなっていった。 「-----かわいそうな娘だ・・」 残ったのは、風と、レヴィアスの言葉だけだった----- 「迷宮か…」 アンジェリークは決意を秘めたように、虚空の城を見つめる。 絶対に、絶対に、メルを助け出して見せるから… アンジェリークは強く誓うと、戦いに一歩足を踏み出した---- |
TO BE CONTINUED…