Angel Can't Wait


 部屋に帰り、まだキスの余韻が覚めやらぬ中、アンジェリークはキッチンに立って、夕食の準備をしていた。

 最初は厳しそうな方だと思ってたけど、最近はそうじゃないって思う・・・。
 優しくて温かい方だと思う・・・。
 -----好き・・・。

 そう思った瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、アンジェリークの心臓は余計にときめかずにはいられない。
 背後にアリオスの気配がする。
 振り返ると、彼は冷蔵庫からビールを取り出していた。
「いい匂いだな?」
「あ、アリオスさんもおつまみに軽くいかがですか? スープですけど、手羽先が柔らかくなるので、それがまた美味しいですよ」
「もらおうかな」
 彼が不意に背後にまわり、鼻腔に男らしい香りを感じる。意識してしまい、手がおぼつかなくなった。
「きゃあっ!」
 手羽を取り出したところで熱いスープが撥ね、アンジェリークは悲鳴を上げてしまう。
「やけどか!?」
 そばにいたアリオスが、すぐにコンロの火を切ってくれて、アンジェリークの手を取って、流水で流してやる。
「あっ・・・」
 背後から抱き締められる格好になったので、アンジェリークは、甘く喘いだ。
「大丈夫だ、大したことはねえだろうから」
「有り難う・・・」
 俯いて真っ赤になりながら、アンジェリークは礼を言うが、僅かに震えた彼女の身体からは緊張感が漲り、アリオスは苦笑する。

 ずっとこうしていてえけどな・・・。

 水で冷やし切った後、彼はアンジェリークの手を取り、ごく自然に火傷の部分に唇を寄せた。
「・・・!!」
 その部分が炎のように熱くなる。
「アリオス・・・さん」
 痛みを堪えて、アンジェリークは、身体を僅かに揺らせる。
 彼の唇は、体温より少し冷たいぐらいなのだが、彼女には”甘い熱さ”しか感じられない。
 手を引かれて、ダイニングの椅子に座らせられる。
「薬を塗ってやるから」
「はい・・・」
 狼の恋の罠にハマったうさぎは、素直に頷いた。
 アリオスは救急箱から火傷用の軟膏を取り出すと、それを丁寧にアンジェリークの手に塗ってやる。
 薬を塗ると、利いているのかじんとする。
 顔を少ししかめるアンジェリークにアリオスは笑う。
「これはよく利く。俺の研究室で開発されたやつだからな?」
 自慢げにアリオスは笑いながら、何度もアンジェリークの手を擦った。
「これで大丈夫だ」
「有り難うございます」
「ほら、盛り付けようぜ」
 キッチンに戻ってスープの続きをする。
 最初は、お互いに無言の不可侵条約のようなものがあったのだが、あの酔っ払った日以来、二人のそれはどんどん崩れていた。
「美味そうだな?」
「スーパーで100円なんですよ」
 自慢げに言いながら、チャーハンを更に盛る彼女を、アリオスは穏やかに微笑む。
「やりくり上手なんだな? 主婦になっても安心だな?」
「そんなことないです・・・」
 真っ赤になりながらも、アンジェリークはまんざらでもなさそうに微笑んだ。
 ふたりは、向かい合って食事を始める。
 特に何も話さなくても、御互いに時々見詰め合っているだけで楽しい。
 明るく甘い雰囲気の中、アンジェリークとアリオスは他愛のないことなども話し合う。
 それがまた幸せで堪らなくて。
「美味いな? このスープ。明日、残ってたら、また貰ってもいいか?」
「どうぞ」
 自らが作った料理を、彼が褒めてくれるのは、それこそ天にも上る気持ちだった。
「また、料理を分けてくれ? 今度は、一緒に買物に行って、作ってくれるか?」
 アンジェリークの歓びは、更に頂点に達し、彼女の白い肌は薔薇色に紅潮する。
「喜んで!」
「だったら、明日、早速かまわねえか?」
「いいんですか!」
 自分が料理をするのにもかかわらず、アンジェリークは嬉しそうにぴょんぴょんと身体を跳ねさせる。
「楽しみにしてるぜ?」
 彼女の可愛らしさに、アリオスは既に夢中になっていた-----

 温かな夕食が終わり、アリオスはアンジェリークに協力をして後片付けを手伝う。
「有難うございます」
「美味いもののお礼だ。気にすんな」
「はい…」
 綺麗に片付け終わり、アリオスとアンジェリークは、なんとなく部屋に帰るのがもったいなくて、二人で更に見つめあいながら話をする。

 アンジェが欲しい…。
 ”運動”ではなく、本当に愛し合いてえ…!!!

 彼が深くそう思っていることを、アンジェリークはまだ気がつかない。
 時計を見ると、いい時間になっている。
「アンジェリーク、先に風呂入っていいぜ? ちゃんと沸かしてあるから」
「でも…」
「いいから入って来い…」
「はい…、じゃあお言葉に甘えて」
アンジェリークは。自分の部屋に私宅に行ってから、先にお風呂にはいった。
 アリオスのフラットは最新式のバスルーム完備で、とても快適だ。
 疲れきった身体を浴槽に沈めながら、アンジェリークは心地よい温かさを感じていた。

 アリオスさん…。
 いっそにいればいるほど、もっと知りたくなる…。
 もっと、もっとあなたの傍にいたくなる・・・。
 こんなに大好きになった人は始めてだもん…。

 不意に眠気が覆ってくる。
 ゆったりと目を閉じると、非常に気持ちがいい。

 寝てはダメなのは判ってるけど…

 そうは思いながらも、瞼が重くなる一方だ。

 アリオスさん…

 そのまま、アンジェリークは、暫し、眠りを貪り始めた-----



 遅いな…

 アリオスは中々でてこないアンジェリークが心配になり、とりあえずバスルームをノックしてみる。
 だが、返事はない。
「アンジェリーク?」
 おかしいと想い、彼がバスルームをそっと覗いてみると、そこには気持ちよさそうに浴槽で眠るアンジェリークの姿があった。
「アンジェ…」
 アリオスはふっと艶やかな微笑を浮かべると、彼女を浴槽から引き上げるように抱き上げて、ベッドに運んだ----

 このままだと、俺の理性が持たないぜ?


コメント

すみません。
書きたかったんです、こういうネタ・・・。
もう直ぐ二人はあまあまに〜。
後暫くお付き合いくださいませ!