目覚めると、横にはアリオスが守るようにして眠っていた。 彼の整った顔を見た瞬間、顔が炎のように赤くなる。 アリオスさん、凄く綺麗な横顔をしているな・・・。 そう思うだけで、さらに心臓の鼓動は高まっていく。 いけないっ! 考えるだけでドキドキしてしまう・・・。 アンジェリークは、ベッドから起きて、アリオスを起こさないように部屋に戻った。 お礼にあさごはんぐらい作らないとね・・・。 手早く身支度をして、彼女はキッチンに立ち、二人分のごはんを作り始める。 簡単に食べられるようなものを彼女は心を込めて作り始めた。。 ほとんど準備を終えた頃、アリオスが髪を乱しながらキッチンに入ってきた。 「良いにおいがするな?」 「もし良かったら食べませんか? 昨日のお礼です」 本当は食べてほしいと願いながら、アンジェリークは、アリオスを眼差しで捕らえる。 「もらうぜ?」 「はい! 有り難うございます!」 実直に返事をする彼女が可愛らしくて、アリオスは思わず笑ってしまう。 「何で礼を言うんだよ? 作ってもらった俺が言うならともかく・・・」 「あ・・・」 そういえばそうだとばかりに、アンジェリークは真っ赤になってしまった。 「食おうぜ?」 「はいっ」 向かい合った席につき、二人は食事を始める。 改まって一緒にごはんを食べるのは、アンジェリークにとっては妙に照れくさかった。 「アンジェリーク、流石は長い自炊歴だな? なかなかだ」 「有り難うございます」 礼を言いながら、アリオスをちらりと見た。朝食を異性と食べる行為自体、彼は馴れているのだろう。 余裕を持った態度が癪に触る。 誰かさんが作った朝食と比べないで欲しい・・・。 アンジェリークの思いに気付いたのか、アリオスはさりげなく口を開いた。 「俺は”運動”の相手と、朝飯食うなんて面倒臭いことはしないぜ?」 「あ・・・」 「”運動相手”とは割り切ってるから、朝まで一緒にいねえよ」 さらりと何でもないことのようにアリオスは言い、アンジェリークは、どう反応していいかが判らずにいた。 「おまえとは、既に”朝まで同じベッドで過ごした”仲だからな? 当然だな」 さらに真っ赤になった彼女に、アリオスはからかうような眼差しを向ける。 「それは・・・」 口ごもる彼女が可愛い。 「ほら、とっとと食っちまおうぜ? 飯が冷めちまう」 「はい」 アリオスに急かされて食べ始める。 朝食時間がいつも幸運を運んでくれるような気がして、出来ることならば、この時間がもっと長く続くように願わずにはいられなかった。 朝食も済み、後片付けをした後、アリオスは、眠そうに、自室へと向かう。 「腹もいっぱいになったし一眠りする」 「アリオスさん、仕事は?」 「午後に一こまだけだからな。寝る」 アリオスは、ひらひらと手を振りながら、部屋へと入っていった。 昨日は拷問だったよな・・・。 あんなガキに欲情しちまうなんてな・・・。 あれが緊張して、痛くて眠れなかったぜ・・・。 罪なやつだぜ? 何もなくて俺を欲情させやがる・・・。 目覚ましを二時間後にセットし、アリオスはしばしの眠りを貪った。 アンジェリークは、アリオスがまさか自分に欲情して眠れなかったとは考えるよしもなく、彼が眠れなかったのは、自分が邪魔をしたからではないかと少し落ち込んでしまう。 アリオスさん気を使ってくれたのかな・・・。 だったら、悪いことしちゃったな・・・。 ある意味彼女のせいで眠れなかったのは確かなのだが、少し落ち込むアンジェリークだった。 通学の準備を手早くして、彼女は家をしっかりと戸締まりをして出る。 少しの切なさと、甘い思いが交互に押し寄せ、辛くなる。 「さて、頑張らなきゃね! 今日も」 青空を見ながら、アンジェリークはしっかりと自分に言い聞かせた。 放課後のアルバイトが八時に終わり、アンジェリークはスーパーを覗く。 この時間帯に覗くとあらゆるものが安くなっており、自炊の慎ましい生活をしているアンジェリークにとっては、嬉しい時間帯である。 「今日は明太子あったし、チャーハンと野菜いっぱいの具沢山のスープにしよ〜」 特価野菜と冷蔵庫にある野菜との相性を考えながら、アンジェリークは野菜とにらめっこする。 「出汁は手羽先で取るから、これが百円で、三百円までに押さえたいから、特価野菜は二つまでよね〜」 じっくりと考えた末の買い物をして、小さな袋に入れて持って帰る。 「明日は祝日だから、スープをたっぷり作って、夜まで持たせなきゃね〜」 アンジェリークが戦利品に嬉しそうに家路に着いた。 「アンジェリーク」 声を掛けられて振り返ると、そこにはアリオスが立っている。 「アリオスさん」 「今、バイトからの帰りか?」 「はい。ついでに夕飯の為にスーパーに寄ってきたんです」 見るとスーパーの袋を嬉しそうに握っているのが判る。 「持ってやるよ」 「あ、有り難うございます」 袋をアリオスが持ってくれて、フラットまでの夜道を、仲良く並んで歩く。 「今週は泊まりですか?」 「ああ。その方が仕事が捗るからな?」 「そうですか!」 アンジェリークは少し表情を和らげた。 まさか自分の傍にいたいから、彼が自宅に帰らないとはまったく考えないアンジェリークである。 「あれ、あそこにいるのはアリオス先生じゃない?」 聞きなれない女の声がして、アンジェリ−クは、怯えるかのように身体をびくりとさせる。 「俺の教え子だ…。 アンジェリーク」 名前を呼ばれアンジェリークは彼を見た。 その瞬間----- 「んっ!」 いきなりアンジェリークは深く唇を奪われて、心臓が止まってしまうのではないかと感じる。 彼の唇はしっとりと彼女の唇を吸い上げ、アンジェリークはその感触に暫し夢中になる。 「違うわよ、だって先生がこんな道路の真ん中でKISSしてるわけないよ。厳しいクールな先生が」 「そうよね〜」 女たちがそう言って立ち去るの同時に、アリオスの唇が離された。 「あ…」 「アンジェ、サンキュ、美味かったぜ?」 にやりと笑う彼の笑顔が憎らしいほどカッコいい。 私のファーストKISS!!! アンジェリークは、頭を呆然としながら、アリオスを見詰めることしか出来なかった---- |