Angel Can't Wait


 少しは歩み寄ったとは思ったものの、あれからアリオスとアンジェリークの仲が進展することはなかった。
 アンジェリークは、いつものように、自分のペースで生活をし、アリオスもまたそうだった。

 深夜に物音がして、アンジェリークは目が覚めた。
 今日はアリオスがいない上に、外は不気味にも雨が降っていて、遠くには何度も稲妻が低い音で鳴っている。

 どうしよう・・・。

 泣きそうな気分になりながら、アンジェリークは、取りあえず、部屋の箒を取り、そっと部屋を出ていった。
 アリオスが帰ってきたのならば、電気が付いているはずだが、見ると何も付いていない。
 頭を守るためにと、バスルームから洗面器を取ってきて、それを頭に被った。

 何もないよりはましよね・・・。

 アンジェリークは身体を小さくして、少しずつ、音のするキッチンへと向かった。

 どうか、強盗じゃありませんように・・・!!

 キッチンの扉を開けた瞬間、人影が見え、同時に稲妻が光りその姿をアンジェリークに見せる。
「きゃあああああっ!!!」
 悲鳴とともに恐怖の余りにアンジェリークは腰を抜かした。
「おい、アンジェリーク!!」
 聞き慣れた声が上から降りてくる。
「あっ・・・」
 目を凝らしてよく見てみると、そこには、アリオスが心配そうに見ている。
「何て格好してんだ?」
 訝しげに彼は彼女を見た。
「あ・・・強盗が・・・」
「強盗!? そんなもんどこにいるんだ?」
 アリオスは周りをきょろきょろと見回して、探しに行こうとする。
「あっ、行かないで下さい!!」
 ぎゅっとアンジェリークはアリオスの腕をしっかりと握り締め、彼を行かせないようにする。
「キッチンで物音がしたから・・・、てっきりアリオスさんが帰ってきていないとばかり思って・・・」
 言葉を詰まらせながら言う彼女が妙に可愛らしくて、アリオスはアンジェリークを笑みの混じった表情で見つめた。
「で、俺を強盗と間違えて、そんな勇ましい格好をしたんだな?」
「だって、アリオスさん、電気付けてないんだもん・・・」
 照れくさくて、益々身体を小さくする彼女が可愛らしい。
「停電だったんでな?」
 彼がそう言った瞬間、再び、雷の大きなものが降りてくる。
「きゃあああっ!!」
 本当に怖そうに小さくなる彼女が可愛らしい。
「勇ましいわりには雷が怖いのか? 避雷針に落ちるから心配するなよ?」
 おかしそうに笑う彼が、ほんの少し恨めしい。
「だって、アリオスさんが、暗いとこで・・・」
 泣き出すアンジェリークが可愛くて仕方なくて、アリオスは無意識に彼女を包み込んでいた。
「あっ…」
「これで安心するだろ?」
 アンジェリークは思わず甘い声を上げる。
 確かに怖くはなくなったが、今度は別の感情が身体の奥から込み上げてくるのが判る。
 包み込んでくれたアリオスの温かさが、アンジェリークに甘い痛みを齎していく。
「アリオスさん…、安心する…」
 大きく息を吸い込むと、そこから甘い感覚が漏れて来るのが判る。
 アンジェリークは、尤も心を騒がせ、安心と切なさを同時に齎す香りを、胸いっぱいに吸い込むと、ぎこちなく彼の背中に手を伸ばした。
 再び雷鳴が轟く。
「きゃあああっ!!」
 大きな声を上げて、アンジェリークはアリオスの胸にしっかりと顔を埋め、身体を恐怖で小刻みに震わせる。
「しょうがねえな…」
 苦笑しながら、アリオスはアンジェリークをしっかりと抱き上げると、彼女を運んでいく。
「喉が渇いたからビールでも飲もうと思ってたんだぞ?」
「うん…、ごめんなさい…」
「可愛いから許してやるよ…」
 彼は笑うと、アンジェリークの頬に掠めるようなキスを贈った。
「あっ…」
 ただそれだけの行為だというのに、アンジェリークは耳まで真っ赤にさせて、彼の胸に顔を隠してしまう。
 アリオスはその初々しい態度がとても新鮮で堪らず、思わず、笑った。

 アリオスさん笑ってる〜!!
 アリオスさんにとっては日常茶飯事かもしれないけど、私は〜!!

 アリオスは彼女を自分の部屋に運び、そのベッドの上に寝かせた。
「あ、あの〜!!」
 少しの不安と恥かしさをアリオスに向け、アンジェリークは瞳を潤ませる。
「心配すんな。ガキには興味はねえから・・・。
 今夜は俺が傍にいたほうが、おまえは何かと安心するだろうとおもってな?」
「…有難うございます…」
 アリオスの気持ちは痛いほど嬉しい。
 だが、心のどこかで残念がっている自分がいることを、アンジェリークは認めずにいられない。
「ほら横に詰めろよ? 俺が眠れねえだろ?」
「はい」
 もぞもぞとベッドの中に寄り、二人は同じベッドの上で、もぞもぞとする。
「ほら、今夜はもう寝ろ? 明日も学校だろ?」
「はい…」
 アンジェリークは、務めて眠ろうとし、アリオスの腕の中で目を強く閉じる。
「ほろ、ゆっくり深呼吸したら眠れるぜ?」
「うん…」
 腕の中にすっぽりと身体を包み込まれて、アンジェリークは温かな気分になりながら目を閉じた。
 雷がだんだん遠くなっていく。
 雨音すらも優しい調べのように、アンジェリークは感じ、ゆっくりと眠りに落ちていった。

「やれやれ、ようやくお姫様もお眠りか・…」
 アリオスは慈しみの溢れる眼差しで彼女を見つめると、しっかりと抱きしめながら、彼もまた眠りに落ちていった----

コメント

すみません。
書きたかったんです、こういうネタ・・・。
久しぶりの「プラトニック」なふたりです。
少しずつ近づいていきますので宜しくお願いします。