Angel Can't Wait


「…んん…」
 窓から朝陽を感じて、アンジェリークはゆっくりと目を覚ました。
 身体を起こし、上掛けを剥ぎ、自分の格好に目を丸くした。
 昨日と全く変わらない格好。
 ワンピースにストッキングもそのまま。
 蘇るは、いまいましいとしか言いようがない、飲み会の記憶。

 私そういえば、レイチェルと飲み会に行って、アリオスさんをちらって見てから…、ジュース飲んで・・・

 そこから一生懸命思い出そうとするが、どうあがいても思い出すことが出来ない。
「いたたたた…」
 思い出そうとするほど、 頭が鋭い痛みに支配される。
「シャワー浴びよ…」
 ベッドから滑り落ちると、タイミングよくノックする音が聞こえた。
「生きてるか?」
 聞き覚えのある低く良く響く声。
 耳障りの良い素敵な声が誰なのかぐらいは、アンジェリークにも判る。
「あ、大丈夫です…」
「熱いシャワーでも浴びろ。少しはすっきりするはずだ?」
「はい、そうします」
 返事をした後、アンジェリークは重い身体を引きずりながら、バスルームに入った。
 カランを捻り、勢いよく出てくるシャワーの水流が肌に当たると、気分がいい。
 重い頭もかなりすっきりとし、汗による気持ち悪さもなくなる。
 汗と身体の重さをシャワーで洗い流した後、Tシャツとジーンズに着替えて、何か口に入れようと、キッチンへと向かった。
 そこには、既にアリオスがいて、テーブルには二人分の朝食の準備がしてある。
 彼女の気配に気がついたのか、彼は流れるように振り返る。
「とっとと席に座ってそのスープを飲め。二日酔いには効くぜ?」
「有難うございます…」
 アンジェリークは、温かなスープが置かれた前に座ると、アリオスもその前に座った。
「あの…」
 ちらりと上目遣いでアンジェリークはアリオスの様子を伺う。
 その眼差しはどこか罪悪感の香りがして、アリオスは思わず笑ってしまった。
「・・・昨日、私を部屋に連れて行って寝かしてくれたのは、アリオスさんですか?」
「ああ」
 一瞬、アンジェリークは、真っ赤になって、無意識に体を守るように抱きしめる。
 ”セックスは運動”だという彼だから、一瞬、貞操の危機が脳裏によぎってしまった。
 その姿にアリオスは苦笑する。
「俺がやってたら、おまえ、今ごろ、そんなんじゃ済まされねえぜ? ここまで出すら、歩けねえ。
 俺はガキに興味はねえから、安心しろ」
「あ…」
 ”ガキに興味はない”
 その言葉は、アンジェリークを少しだけ切なくさせ、表情を、一瞬だけ曇らせた。
「-----が、重かったぜ?」
 ニヤリと少し意地悪な笑みを浮かべられて、アンジェリークの顔はばっと真っ赤になる。
「ホントですか!?」
 直ぐに顔に表れる彼女が可愛くて、もっとからかいたくなってしまう。
「ああ、俺の腕が痺れたからな? お陰で今日はパソコンが打てねえよ」
「えっ!!!!! あ、あの!!!!」
 アリオスはまかりながらも大学教授。
 仕事が出来なくては大変と、アンジェリークは慌てて立ち上がり、アリオスの腕を掴んだ。
「大丈夫ですか!?」
 彼女の表情は、心から心配しているように、眉根が寄せられている。
 それがまた、アリオスの心をくすぐっている。
「クッ!」
 アリオスの表情が一気に崩れ去り、彼は口角を下げ少年のように笑った。
 その笑顔はとても魅力的で、アンジェリークは、魂が揺さぶられる思いで、見惚れてしまう。
 -----それが、”親しみ”から”恋”に変わった瞬間だと、彼女はまだ気がつかない。
「そんなわけねえだろ? メシが作れねえじゃねえか?」
「あ!」
 言われてみれば、そうである。
「アンジェリーク、おまえはおもしろいやつだぜ?」
 ニヤリと笑われれば、今度は頬を染めて俯いた。
 その表情一つとっても、彼女はとても魅力的だとアリオスは思う。
「ほら席に着いてスープ飲め」
「はい」
 少しだけ恥かしそうにしながら、アンジェリークは席につくと、アリオス特製のスープに口をつけた。
「美味しい!!!」
「だろ? これ飲んで、大人しくしてたら直るぜ」
「はい、有難うございます!」
 笑顔で答えた後、アンジェリークは夢中になってスープを飲む。

 こんなに美味しい食事は久しぶり…。
 やっぱり、誰かが一緒に食べてくれることが、一番だもの…

 それが”恋”というスパイスであることに、アンジェリークはまだ気がつくことは出来やしない。
「女の人にいつも作ってあげてるんですか?」
「お互いにセックスは”運動”と割り切ってる相手に、そんなことはしねえよ」
 アンジェリークのストレートすぎる質問にも、彼は顔色を悪くしない。
 むしろ楽しんでいる。
 その余裕のあるところが、アンジェリークはまた好ましく思う。
「・・・私は?」
 思い切って訊いてみる。
「ガキはお世話しなきゃ行けねえだろ? これは大人の務め」
 だが返ってきたのは余裕のある微笑と、答だけ。
 少しだけ頬を膨らませて、アンジェリークは怒るふりだけしてみた。
「レシピ教えて下さいね」
「また酔っ払う気か?」
「違いますっ!」
 からかわれても怒る気がしなくて、むしろ嬉しい。
 アンジェリークは、ニコニコと笑いながら、朝ごはんのひと時を過ごす。
「安心しろ? 今度酔っ払ったときも、またつれて帰って、二日酔い対策をしてやるよ?」
 さらりと何事も内容に言われて、アンジェリークは首筋までも真っ赤にするのであった。
 日曜日。
 初夏の躍動感に溢れた日差しと、さわやかな風が開け放たれたキッチンの窓から入ってくる。
 その心地よさに幸せを感じる。
 初めての二日酔い。
 ”同居人”のアリオスとほんの少し近づけたことを、嬉しく思いながら、”二日酔い”に感謝をしていた-----

  

コメント

すみません。
書きたかったんです、こういうネタ・・・。
やっぱりよった翌日に、こういうさりげないフォローがあれば、
二日酔いなんて、飛んでいきますよねえ(笑)