奇妙な共同生活は、「お互いに干渉しない」をモットーに、続いている。 ふたりはたまに家の中で出くわす程度で、全くの他人の状態。 楽に思いながらも、最低限のコミュニケーションもない自分たちが、アンジェリークには少しおかしくも、哀しくも思えた。 「アンジェ、今日ね、飲み会あるんだけど来ない? 会費はエルが持ってくれるからね〜」 数合わせだと思いながらも、夕食がただになるという打算が、アンジェリークには働いてしまう。 「お酒弱いけど、大丈夫?」 「飲ませないようにするからね!」 レイチェルのその雰囲気で、アンジェリークは参加を決めた。 連れていってもらったのは、とても良い雰囲気のカフェバーだ。 参加メンバーを見て、明らかに自分が、とほほな数合わせなのが判る。 「あともう一人遅れてくる」 幹事の、赤毛の髪の青年が言い、取りあえずは一席を残して、全員が席についた。 アンジェリークは、レイチェルとエルンストの影に隠れるかのように座り、小さくなっていた。 おなかも空いていたので、アンジェリークは、料理を食べながら、ジュースを飲む。 食い気一直線で、おなかがいっぱいになれば、おとなしく時間まで待とうという考えだ。 「遅くなってすまねえ」 聞き覚えのある声。 アンジェリークは、はっと声に導かれて端のテーブルを見ると、そこには、アリオスがいた。 「ウォッカのストレート」 注文をしている彼に、アンジェリークは笑いかけたが、アリオスはちらりと彼女を見た後、無視する。 他の女の人が、微笑んで話しかけると答える彼の姿が見えて、アンジェリークは、急に切なくなった。 せっかくの同居人なのにな・・・。 しゅんとして、以降は彼女は彼を見なかった。 両端で少し助かったような気がする。 ものを食べていると、すっと飲み物が差し出された。 「ジュースだから」 金髪と真紅の唇が印象的な青年が微笑んで目の前にいる。 「有り難う」 アンジェリークは礼を言い、その言葉を鵜呑みにして、ごくりと大きく一口で飲んだ。 「えっ・・・」 耳まで一気に熱くなり、アンジェリークは、視界がくらくらするのを感じる。 「えっ!? ひょっとして、凄い弱い!?」 アンジェリークの、急激な変化に、思わず青年はびくついた。 「おい、ジョバンニ! ウーロン茶をピッチャーで持ってきてもらえ!」 鋭いアリオスの声に、ジョバンニと呼ばれた金髪青年は、慌ててカウンターまで注文に行く。 「おい、しっかりしろ!?」 ふらふらと動くアンジェリークを、アリオスはしっかりと支えてやった。 「あ〜」 アンジェリークは、アリオスの肩に身体をどんと預ける。 「アリオフはんら〜」 「おい!」 息をふうっと吐き、彼女はゆらゆらと揺れている。 「お茶です!」 ジョウ゛ァンニは、ピッチャーごとお茶を持ってきて、酩酊状態に近いアンジェリークの前に、音を立てながら置いた。 「ほら、ストローだ飲め」 「あい〜」 ふわふわと漂いながら、アンジェリークはお茶を飲んでいく。 「途中で休憩しながら飲めよ」 コクリと頷きながら、彼女はお茶を一生懸命頑張って飲む。 その姿はまるで子供のようだ。 「お茶を沢山飲んで出しちまったら、気分はかなりましになるぜ?」 「あい」 一旦、お茶を飲むのを休憩をしたアンジェリークを、アリオスはしっかりと支えた。 「顔があちゅい・・・」 「だったら、ちょっと、外の風に当たるか?」 「・・・ん」 立とうとしても、アンジェリークは、上手く立つことが出来ない。 「俺が支えてやるから、一緒に外に出るぞ」 「あっ・・・」 腰を強くぎゅっと支えられて、アンジェリークは、甘さのかかった声を上げた。 「ほら、行くぜ? 外の空気に当たると、気持ちいいからな」 ひょこひょこと歩く彼女をしっかりと、外の空気に導いてやる。 外に出ると、ひんやりとした幾分か澄んだ空気が、ほてった身体を冷やしてくれた。 「きもちいい・・・」 「かなりましになるからな? 落ち着いたら家に帰るぜ」 「ん・・・、トイレ行きたい・・・」 子供のように言う彼女に、アリオスは苦笑してしまう。 「ほら、行くぜ?」 脇でアンジェリークをしっかりと抱えるようにして、アリオスは、トイレに連れていった。 トイレの前でアンジェリークを待ってやり、出てきたら、また、席まで連れていってやる。 誰もが、アリオスの面倒味の良さに、目を丸くした。 クールな彼を、ここまで世話をさせるアンジェリークを凄く感じながら。 「またお茶を飲んで、アルコールを薄めろ?」 「あいっ」 再び飲み始めるアンジェリークの顔色はかなり良くなってきている。 それを確かめると、アリオスは苦笑しながら彼女の頬を叩いた。 「アンジェリーク、帰るぞ?」 「あい〜?」 アリオスは、幹事の前に二人分にしては多い飲み代を置く。 「後は頼んだ」 カあれはそれだけを言うと、アンジェリークの前に屈んだ。 「アンジェリーク、ほらここに負ぶされ」 「あふ〜、アリオフしゃんの背中〜っ!」 彼の広い背中に負ぶさると、アンジェリークはそこのいる誰もに手を振る。 「さよなら〜」 アリオスの広い背中にしがみ付きながら、アンジェリークはだんだん気持ちが良くなっていくような気がする。 「ん…」 急にずっしりと重くなる。 アンジェリークは、アリオスの温かな背中を心地よく重い、いつのまにか眠っていた。 「しょうがねえな…」 アリオスは苦笑すると、彼女を負ぶってタクシー乗り場まで歩いていった----- |