アリオスとアンジェリークは車で、ニューヨークの街を再び彷徨い始めた。 奇妙な絆で結ばれたふたりは、少しずつだがお互いの信頼を深めつつある。 ホテルを出て、アリオスが最初に向かったのは鍵屋だった。 そこは、一見するとごく普通のスペアキーや、水道配管の工事を請け負うところのように見えた。 車から降り、店の中に入る時も、アリオスはアンジェリークの華奢な手を握り締めたままだ。 それが頼もしい。 「おい」 アリオスが声をかけると、カウンターにいる少年はびくりと肩を揺らした。 「何だよ、またあんたか!」 ふたりは顔見知りのようだが、明らかに少年がアリオスを嫌がっている様子だ。 「久し振りだな? ゼフェル?」 「こっちは久し振りにしたくねえ!」 アンジェリークは、思わず二人を見比べる。 アリオスが妙な作り笑いをしているのに対して、ゼフェルは嫌悪感丸だしの顔をしている。 その対比が、アンジェリークにはおかしかった。 「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけどな? ゼフェル」 アリオスは笑ってはいたが、その瞳は笑ってはいない。 「またかよ! あんたの頼みはいつもヤバいことばっかりじゃねえか!!」 明らかなる嫌悪感にも、アリオスはひとつも動じてはいなかった。 「これが、どこのホテルのカードキーか、調べて貰えるか? どこのコピーで、何号室かをな?」 アリオスは明らかに冷静な声で言うと、意地悪な笑みを口許に浮かべる。 「そんなことをしたら、俺の手が後ろに回っちまう!」 「いいから、やれ」 カードキーを不敵にも差し出されて、ゼフェルはアリオスを見る。 彼の視線が明らかに厳しいものであることを、ゼフェルは感じて、冷たいものを背中に感じた。 「いいから、やれ!」 アリオスの激しくも冷たい眼差しには、ゼフェルは逆らえない。 彼は舌打ちをしたあと、しょうがないとばかりに、カードキーを受け取った。 「待ってろよ、すぐに済む」 「ああ。終わったら、マジンガー・ゼフェルだろうが、何だろうが、作ってかまわねえぜ?」 「誰が作るか、んなもん!」 ゼフェルはカードを乱暴に受け取ると、奥の部屋にひっこんだ。 「ねぇ、どうしてカードキーが、ホテルの複製だって判ったの?」 「カードに数字が打ってあったから。”819”とな」 「そうだったの」 「一か八かだがな」 アリオスの細かな洞察力に、アンジェリークは感心する。 とにかく、アリオスさんがそばにいてくれて、よかった・・・。 「よく、来るの?」 「前にちょっとな」 彼はそれだけを言うと、それ以上のことは言わずに、煙草に火をつけるだけ。 アンジェリークはその秘密主義が、気に食わなかった。 「言えないんだ・・・」 「今はな。いずれは判る」 「そればっかり」 アリオスさんはちゃんと私を知っている風なのに、私は何も知らないのは気になるな・・・。 アンジェリークが口を尖らせて拗ねると、彼はただ笑っただけだった。 「判ったぜ、キーの場所」 ゼフェルの声が響き渡り、いやがおうでも緊張が高まる。 アンジェリークの期待も高まり、ゼフェルを注目する。 「どこだ?」 乾いたアリオスの感情のない声が響いた。 「ホリディ・インの819号室」 「ホリディ・インか・・・。サンキュ」 アリオスは、ゼフェルからカードキーを取り上げると、そのままアンジェリークを引っ張って外に出た。 その頃。 紳士は、ただ、客室で模型作りに熱中していた。 ピンセットを使い行う地道な作業------ 彼はただ真剣に物を作るだけ。 その作業を中断するかのように、一本の電話が鳴り響いた。 彼は億劫そうにイスから立ち上がると、それに出る。 「私です」 「郵便はちゃんと届けたんだろうね」 依頼主からだった。 彼は落ち着いた風に、息を吸い込むと、低い声で答える。 「はい。配達確認はまだですが」 「君らしくも無いミスだな」 依頼人は明らかにあせっているように思えたが、紳士はあくまでも落ち着いていた。 「ただの少女と思っていましたが、とんでもないものをつれていたようです。 近日中に何とかしますので」 「頼んだぞ」 「はい」 彼は静かにそれだけを答えると、受話器を置く。 彼の深い青の瞳は空を見つめていた------ アリオスは車に乗り込むと、今度は携帯を手に取り、メモの電話番号を掛ける。 「はい、ブティック・エンジェリアン・ローズです」 女性の愛想のある声に、アリオスは一瞬顔をしかめた。 「内線1891をお願いしたい」 「はあ? そんな内線はうちにはありません」 女は困惑気味に言うと、口調が嫌みぽくなる。 「どうも有り難う」 アリオスは携帯を切ると、また電話を掛け始めた。 「どこに掛けるの?」 「ワシントンの市外局番をつけてかけてみる」 「ワシントン・・・」 アンジェリークはじっとアリオスを見ながら、彼が何を考えているかを感じ取る。 彼のかけた電話は直ぐに繋がった。 「はい。6678」 「ラングレーか?」 「6678」 「内線”1891”をお願いしたい」 オペレーターは何も言わず、電話をつなげることを示す電子音だけが響き渡る。 暫くして、切り替わる音がした。 「…あんたは”少佐”か?」 「”少佐”は、今、外出している」 アリオスはそれだけを聞くと、電話を切る。 「”少佐”への直通電話だ。だが彼は外出中のようだ」 アリオスは意味深につぶやき、アンジェリークを見つめる。 彼女も緊張感が嫌でも高まってくるのを感じた。 アリオスは、暫く走った後、車をゴミ箱のある路肩に止める。 念のために携帯のメモリーを総て消去した後、彼はそれをゴミ箱に捨てた。 足を突かないために、十二分に配慮してである。 もちろん諮問をふき取ることも忘れてはいなかった。 彼は神妙な顔をすると、アンジェリークを見る。 「------これから反撃に出る、覚悟は出来ているな…」 アリオスの声が深く低く、アンジェリークの心を捕らえる。 彼女は頷くしかなかった。 二人の反撃が、今、始まろうとしている------ TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 これからもアリオスさんは活躍していきます〜。 徐々に佳境に入っていきます。 相手を一泡吹かせるということなので、アリオスさんの活躍がこれから続きます。 やっぱりアリオスさんはかっこよくなきゃ!! がんばりますので、宜しくお願いします! |