72 HOURS OF THE ANGEL

Chapter9


 アリオスとアンジェリークは車で、ニューヨークの街を再び彷徨い始めた。
 奇妙な絆で結ばれたふたりは、少しずつだがお互いの信頼を深めつつある。
 ホテルを出て、アリオスが最初に向かったのは鍵屋だった。
 そこは、一見するとごく普通のスペアキーや、水道配管の工事を請け負うところのように見えた。
 車から降り、店の中に入る時も、アリオスはアンジェリークの華奢な手を握り締めたままだ。
 それが頼もしい。
「おい」
 アリオスが声をかけると、カウンターにいる少年はびくりと肩を揺らした。
「何だよ、またあんたか!」
 ふたりは顔見知りのようだが、明らかに少年がアリオスを嫌がっている様子だ。
「久し振りだな? ゼフェル?」
「こっちは久し振りにしたくねえ!」
 アンジェリークは、思わず二人を見比べる。
 アリオスが妙な作り笑いをしているのに対して、ゼフェルは嫌悪感丸だしの顔をしている。
 その対比が、アンジェリークにはおかしかった。
「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけどな? ゼフェル」
 アリオスは笑ってはいたが、その瞳は笑ってはいない。
「またかよ! あんたの頼みはいつもヤバいことばっかりじゃねえか!!」
 明らかなる嫌悪感にも、アリオスはひとつも動じてはいなかった。
「これが、どこのホテルのカードキーか、調べて貰えるか? どこのコピーで、何号室かをな?」
 アリオスは明らかに冷静な声で言うと、意地悪な笑みを口許に浮かべる。
「そんなことをしたら、俺の手が後ろに回っちまう!」
「いいから、やれ」
 カードキーを不敵にも差し出されて、ゼフェルはアリオスを見る。
 彼の視線が明らかに厳しいものであることを、ゼフェルは感じて、冷たいものを背中に感じた。
「いいから、やれ!」
 アリオスの激しくも冷たい眼差しには、ゼフェルは逆らえない。
 彼は舌打ちをしたあと、しょうがないとばかりに、カードキーを受け取った。
「待ってろよ、すぐに済む」
「ああ。終わったら、マジンガー・ゼフェルだろうが、何だろうが、作ってかまわねえぜ?」
「誰が作るか、んなもん!」
 ゼフェルはカードを乱暴に受け取ると、奥の部屋にひっこんだ。
「ねぇ、どうしてカードキーが、ホテルの複製だって判ったの?」
「カードに数字が打ってあったから。”819”とな」
「そうだったの」
「一か八かだがな」
 アリオスの細かな洞察力に、アンジェリークは感心する。

 とにかく、アリオスさんがそばにいてくれて、よかった・・・。

「よく、来るの?」
「前にちょっとな」
 彼はそれだけを言うと、それ以上のことは言わずに、煙草に火をつけるだけ。
 アンジェリークはその秘密主義が、気に食わなかった。
「言えないんだ・・・」
「今はな。いずれは判る」
「そればっかり」

 アリオスさんはちゃんと私を知っている風なのに、私は何も知らないのは気になるな・・・。

 アンジェリークが口を尖らせて拗ねると、彼はただ笑っただけだった。
「判ったぜ、キーの場所」
 ゼフェルの声が響き渡り、いやがおうでも緊張が高まる。
 アンジェリークの期待も高まり、ゼフェルを注目する。
「どこだ?」
 乾いたアリオスの感情のない声が響いた。
「ホリディ・インの819号室」
「ホリディ・インか・・・。サンキュ」
 アリオスは、ゼフェルからカードキーを取り上げると、そのままアンジェリークを引っ張って外に出た。

 その頃。
 紳士は、ただ、客室で模型作りに熱中していた。
 ピンセットを使い行う地道な作業------
 彼はただ真剣に物を作るだけ。
 その作業を中断するかのように、一本の電話が鳴り響いた。
 彼は億劫そうにイスから立ち上がると、それに出る。
「私です」
「郵便はちゃんと届けたんだろうね」
 依頼主からだった。
 彼は落ち着いた風に、息を吸い込むと、低い声で答える。
「はい。配達確認はまだですが」
「君らしくも無いミスだな」
 依頼人は明らかにあせっているように思えたが、紳士はあくまでも落ち着いていた。
「ただの少女と思っていましたが、とんでもないものをつれていたようです。
 近日中に何とかしますので」
「頼んだぞ」
「はい」
 彼は静かにそれだけを答えると、受話器を置く。
 彼の深い青の瞳は空を見つめていた------

 アリオスは車に乗り込むと、今度は携帯を手に取り、メモの電話番号を掛ける。
「はい、ブティック・エンジェリアン・ローズです」
 女性の愛想のある声に、アリオスは一瞬顔をしかめた。
「内線1891をお願いしたい」
「はあ? そんな内線はうちにはありません」
 女は困惑気味に言うと、口調が嫌みぽくなる。
「どうも有り難う」
 アリオスは携帯を切ると、また電話を掛け始めた。
「どこに掛けるの?」
「ワシントンの市外局番をつけてかけてみる」
「ワシントン・・・」
 アンジェリークはじっとアリオスを見ながら、彼が何を考えているかを感じ取る。
 彼のかけた電話は直ぐに繋がった。
「はい。6678」
「ラングレーか?」
「6678」
「内線”1891”をお願いしたい」
 オペレーターは何も言わず、電話をつなげることを示す電子音だけが響き渡る。
 暫くして、切り替わる音がした。
「…あんたは”少佐”か?」
「”少佐”は、今、外出している」
 アリオスはそれだけを聞くと、電話を切る。
「”少佐”への直通電話だ。だが彼は外出中のようだ」
 アリオスは意味深につぶやき、アンジェリークを見つめる。
 彼女も緊張感が嫌でも高まってくるのを感じた。
 アリオスは、暫く走った後、車をゴミ箱のある路肩に止める。
 念のために携帯のメモリーを総て消去した後、彼はそれをゴミ箱に捨てた。
 足を突かないために、十二分に配慮してである。
 もちろん諮問をふき取ることも忘れてはいなかった。
 彼は神妙な顔をすると、アンジェリークを見る。
「------これから反撃に出る、覚悟は出来ているな…」
 アリオスの声が深く低く、アンジェリークの心を捕らえる。
 彼女は頷くしかなかった。

 二人の反撃が、今、始まろうとしている------

TO BE CONTINUED…
  

コメント

ハードボイルドサスペンスです。
これからもアリオスさんは活躍していきます〜。
徐々に佳境に入っていきます。
相手を一泡吹かせるということなので、アリオスさんの活躍がこれから続きます。
やっぱりアリオスさんはかっこよくなきゃ!!
がんばりますので、宜しくお願いします!

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