久しぶりに深く眠った。 夢も見ることもなく、ぐっすりと丸太のように眠る------ 最近出来なかったことが出来て、優しい温もりに包まれ、アンジェリークはとても心地よいまどろみに揺れていた。 あの事件などすっかり忘れていた------ そう、彼の顔を見るまでは。 ゆっくりと目を開けると、既にぬくもりは横になく、ゆっくりと躰が起こす。 すると、既に身支度を整えたアリオスが、ソファに腰を下ろして考え事をしていた。 現実が降り注いでくる。 リアルなまでの記憶が蘇ってきた。 現実は、私を逃避させてはくれないんだ… ぼんやりと、アリオスをじっと見つめながら、アンジェリークの気分はどんよりと重くなっていった。 「-----起きたのか? まだ6時だぜ? 早起きなんだな?」 「あなたこそ」 彼女はアリオスの傍にゆっくりと近づいた後、その横に、少し間隔をあけて腰を下ろす。 「------色々考えてた。どうすれば、うまく切り抜けるかとかな…」 彼は達筆に書かれたメモをチラリとアンジェリークに見せた。 「昨日の出来事を振り返って、箇条書きにしてみた。 コレの中にどこかヒントが隠れていればと思ってな。解決への糸口があればいいんだが…」 「有難う…」 アンジェリークは素直にアリオスに礼を言うと、彼の不思議な瞳を見つめる。 「------どうして…、私を助けてくれるの? だって、私は大きなモノを敵にしているのよ?」 「CIAか------」 低い声で、彼は驚きも戸惑いもない声で呟いた。 「------私はあなたを全然知らないのに、あなたは私を良く知っているふうだわ…。どうして?」 「今考える必要はない」 彼はまた特に感情のない声で呟き、顔色を変えずにアンジェリークを見つめた。 「…今考える必要はあるわ!」 アンジェリークがいくらいきり立って話しても、アリオスは全くといっていいほど、取り合わない。 「今考えることはそんなことじゃない。あんたが生き延びることだ。今は、それだけを考えておけ。 ------俺を信じろとは言わない…。 ただ着いて来い」 低い声で言われ、厳しい眼差しを投げかけられれば、アンジェリークは威圧される。 次の言葉をつなげられなくて、唇を噛んだ。 「心配すんな。直ぐに判る。この事件が解決すれば、必ず」 「アリオス…」 彼はアンジェリークの華奢な肩をぽんとたたくと、ソファから立ち上がった。 不意にドアがノックされる音が響き、アンジェリークは緊張の余りに躰を固くする。 ”待て”という意味で、アリオスはアンジェリークに合図を送る。 彼の背中にもまた緊張感が漲っていた。 「誰だ?」 「ルームサービスの朝食をお持ちしました」 声は確かに、昨日のベルボーイだった。 「ベルボーイがわざわざそこまでするのか?」 ドア越しにアリオスは警戒感を強めながら、低い声で呟く。 「うちはこの通り小さなホテルですから、人手が足りないんですよ」 明るい声が響くのを感じながら、アリオスはゆっくりとドアを開ける。 入ってこられないように、躰をドアに挟み込むようにした。 ドアの前に立っていたのは、確かに昨日見たベルボーイ。横にはちゃんと朝食が湯気を立てて、ワゴンの上に置かれている。 「すみません、ここにサインを」 「ああ」 ボールペンを渡されてサインをしようとしたが、そのボールペンはインクが出ないらしく、全く書けない。 …こいつ!!! その瞬間だった。 ベルボーイが銃を出したのと同時に、アリオスは横に飛び、銃を抜く。 素早い反応だった。 アリオスは、ベルボーイがアンジェリークに向かって照準を合わせる前に、素早くトリガーを引く。 「あああっ!」 先ずは弾丸でベルボーイの銃を室内に飛ばした。 手を血だらけにしながら、ベルボーイは銃を取りに行こうと、室内に入ってくる。 その隙に、アリオスは目でアンジェリークに合図を送り、ベッドの奥に隠れるように指示をだした。 彼が何も言わなくても、アンジェリークはその意味を汲み取り、素早く身を隠す。 銀の髪をほんの僅か乱しながら、銃を男に向けると、冷酷にもこめかみを狙い、トリガーを引いた。 ベルボーイは息を呑む暇もなく、その場に崩れ落ちる。 「------死んだの?」 「いや…。こめかみをかすめただけだ。マグナム弾の至近距離だ。死にはしないが脳震盪を起こしてる。重いな」 「そう…」 死んでいないと知り、ほっとするのは、やはり彼女がこのような場面に遭遇することが先ずないことを表していた。 「直ぐに着替えて出る支度をしろ」 「うん」 アリオスに言われて、アンジェリークは慌てて奥で着替え始める。 その間に、アリオスはベルボーイのポケットを探った。 そこには、電話番号と名前が書かれたメモと、カードキーが入っていた。 6678−19XX 内線番号:1891 少佐 アリオスはそれを厳しい眼差しで見つめると、ポケットにそれを乱雑に直しこんだ。 「着替えたわ」 アンジェリークは少し息を早く着きながら、アリオスの前にかけてくる。 その眼差しはまた緊張感が漲った光を持っている。 「行こう-----」 「ええ」 アリオスはアンジェリークの華奢な腰を抱くと、しっかりとした足取りで裏口に向かった----- 裏口からは簡単に駐車場に出ることが出来た。 もともと前払い制のホテルなので、何の気兼ねもありはしない。 二人は車に乗り込み、再び、逃避行に進んでいく。 「おい、おまえ、”少佐”って人物を知っているか?」 アンジェリークは一瞬躰を固くした後、生唾を飲みながら、ゆっくりと頷いた。 「おまえのなんだ?」 「顔の知らない上司…。 私たちが分析したデータのなかで、支局が検討しなければならないと判断したデータを読み、分析する人物。 相当の上層部であることしか聞いていないわ。 それに、気になったデータ市か読まないから、関わりも少ないわ…。 ただ何かあったときは、最高責任者は彼だから、彼に連絡することは言われているわ」 アンジェリークはアリオスに淡々と少佐について聞かせる。 「最近、こいつから連絡はあったか…?」 「あったわ…。昨日…」 彼女はそこまで言ってはっとする。 「待って、私その手紙持ってるかも」 彼女は服のポケットを探ると、そこに紙切れを発見した。 「はい、これだわ」 「サンキュ」 アリオスは片手でハンドルを握りながら、それをじっと見つめる。 ニューヨーク支部第17課局員、アンジェリーク・コレットの報告書について------ 大変緻密に分析がしてあり、報告書自体には読み応えを感じた。 が。 極めて信憑性が薄く、当局についてもそのような事態が起こることを認識していない。 分析したのは、空虚な世界であり、これが現実になるとは到底考えられない。 以上のことを結果報告とする。 引き続き熱心に分析をすることを期待している。 ”少佐” 「こいつが事件の鍵を握っているかもしれねえな…」 彼の冷静な言葉に、アンジェリークは背筋に冷たいものが流れるのを感じた----- TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 これからもアリオスさんは活躍していきます〜。 ようやく1日目終了です。 タイトルを見ればお分かりのように、あと2日の波乱が待ち受けています。 がんばって更新しますので、宜しくお願いします! |