72 HOURS OF THE ANGEL

Chapter10


 緊張感が次第に増すが、怖くはなかった。
 横にアリオスがいるから。彼を信用したいと思っているから。
「今夜は長くなる。相手の尻尾を掴むからな。とにかくゆっくりと寝て、解決していこう」
「うん・・・」
 アンジェリークは返事をすると、アリオスを大きな翡翠の瞳で見つめた。
「あなたがいたから、ここまで来れたような気がするわ・・・」
「いいから、今は何も考えずに眠れ」
 アリオスの低く深い声は、とても優しくアンジェリークを包み来んでくれる。
 まるで守られるかのように、アンジェリークは深く目を閉じた。
 ここからが、彼女には試練が待ち受けている。

 たっぷりと眠っていたかと思った。だが時計を見ると、実際には数時間しか眠ってはいない。
「起きたか?」
「うん・・・」
 倒していたシートを手前に起こして、アンジェリークは、軽いあくびを一回した。
「腹拵えもしておこうぜ。空腹だとちゃんと動けねえからな」
「うん・・・」
 頷くと、アリオスはすぐに車を出してくれた。
 ふと、アンジェリークはチャーリーの店のサンドイッチがとても懐かしく思い、感傷的になった。
 アリオスが連れていってくれたところは、小さなアイリッシュレストラン。
 そこでアリオスと同じものを頼み、味気無くも食事を始める。
 家庭料理の温かさのおかげか、少しは落ち着くことが出来る。
 この素朴な店を選んでくれたアリオスに、アンジェリークは心から感謝をしていた。
 心から楽しんだとは言い切られない食事が終わった後、再びに車に戻り、走り始める。
 しばらく走ると、アリオスは車を路肩に乗せ停止させた。
 彼は、おもむろにモバイルパソコンを取り出すと、インターネットに接続し電話会社のホームページを開ける。
「どうして?」
「電話工事を調べてるんだ」
「電話工事?」
「この時期、電話会社は工事をよくする。この広い街だ。どこかで必ずやっている」
 彼はそれだけを言うと、そのページを開けるなり、真摯に工事現場の位置の確認を始めた。
「ブルックリン・・・」
 彼はひとつの答えを導き出すと、そこと、”ホリディ・イン”の位置関係を吟味する。
「どうするの?」
「決まってる。ちょっとした犯罪を起こすまでだ」
 平然と宣うアリオスに、アンジェリークは唖然とした。
「犯罪って!!」
「相手の裏をかくんだ。それぐらいはしなくちゃならねえ」
 彼の徹底的な姿勢に、彼女は不安げに見つめる。
 その眼差しはどこか不安な子猫のようだ。
「心配するな。へんな犯罪じゃねえから」
「へんな犯罪って・・・」
「とにかく気分を引き締めてかかれよ」
 彼はそれだけを言うと、空を見上げる。
 美しい夕焼けが空を覆い、闇が降りてきた。

 ドライブをするかのように、ニューヨークの街をふたりはぐるぐると周って時間稼ぎをした後、アリオスは車をブルックリンまで走らせる。
「工事は午後8時からだ。これを利用する」
「利用するって?」
「道具を拝借するんだ」
 彼はうっすらと笑みを浮かべると、車を減速させた。
「拝借って、盗み?」
 彼は不敵に笑うだけで何も答えない。
 コイン駐車場に車を止めると、すぐにドアを開けた。
「行くぜ?」
 華奢な肩を叩かれて、アンジェリークは外に出る。
 アリオスの後について、アンジェリークは先に進むが、その足取りはやはり重い。
「そんな表情をするな。心配しなくても上手く行く」
「うん」
 アリオスの手が、ゆったりと包み込むようにして、しっかりと握り締められると、彼女は安心する。
 笑顔すら浮かんでくるから不思議だ。
「ちょっと上手く行くような気がしてきた」
「ああ」
 アリオスはアンジェリークの手をさらに強く握り締めると、ひっぱって行く。
 ふたりは、機敏に歩く。アリオスの力強さと、少しの強引さが、アンジェリークにはとても頼もしかった
 ”電話工事中”と書かれた看板が見えてくる。
「何するの?」
「いいからおまえは見ておけ」
 アリオスに引っ張られるようにして、看板の近くまでやってくると、彼は手を放した。
「ここで待ってろ」
「判ったわ」
 電話工事の現場が良く見える場所で、アンジェリークは待たされる。
 アリオスがする、一部始終を、アンジェリークは、目の当たりにする場所にいた。
 彼は本当に自然だった。
 彼はゆっくりと工事現場に近付いていく。
 アンジェリークはその動作に注目し、一瞬たりとも視線を逃がさない。
 アリオスはただの通行人だった。
 何も考えないただの。
 それはほんの一瞬のこと。
 彼は工事現場を通り過ぎる際、横にある発電機に手をかけた。
 その瞬間、工事用の電気がすべて消される。
 どの作業員もかなり慌て、あたふたとしている。
 作業車の中にいた作業員も全員出てきた。
 それをチャンスとばかりに、アリオスは電話会社の作業車の中に入ったかと思うと、素早く工具箱を盗んで外に出てきたのだ。
 彼はすぐにアンジェリークに目で合図をし、歩き出すように促す。
 彼女もすぐに歩き出すと、アリオスに合流した。
「今のうちに紛れるぜ」
「うん」
 薄暗い闇に紛れて、ふたりは大回りで駐車場に戻った。

 車に乗り込むと、すぐにエンジンをかけて出発をする。
「何を盗ってきたの?」
「見てみろよ」
 言われるまま、アンジェリークは工具箱をそっとあけた。
 そこにあるのは、ただの工具だった。
 だが、様々な専用の道具が入っているようだ。
「お道具箱?」
「これが、この先にとてもよく役立つからな」
「うん」
 まじまじと頷きながら、彼女は道具をひとつずつ覗くものの、どれも専用道具のようだ。
「今から向かうホリディ・インで使うぜ?」
「うん」
 車は、ゆっくりとホテルに向かって走った。ホテルに着くと、アリオスは電話工事業者のふりをして、フロントに向かう。
 工具箱に入っていたIDカードを提示し、彼は話し始めた。
「AT&Tです。電話回線確認に参りました」
「ご苦労様です」
 IDカードを持っていたせいか、これはすぐに信じてもらえた。
 アリオスの隙の無い雰囲気は、誰でも思わず信じてしまうところがある。
「では。いってらっしゃいませ」
 鍵を貰った後、彼は待っていたアンジェリークに合図を送って、地下室に向かった。
 ホテルの地下に入ると、そこには、たくさんの配線がある機械が置かれている。
「これを使う」
「うん・・」
 アンジェリークは、指朝された敗戦を見て、ただ頷くことしか出来なかった。
 彼は、電子版の板の前に座った後、アリオスは細かく考えをまとめる。
 じっと敗戦を見つめた後、道具箱から、点検用の電話を取り出して、それを回線だらけの機械に繋げる。
「何をするの?」
「819号室にかける」
 緊張感が走った。
 アリオスは電話を慎重につなげ、アンジェリークも彼の息のかかる距離でその音を聞く。
 3度ほどコールをして、電話の主は出た。
「-------はい」
 その声に、アンジェリークは更に緊張せずにはいられない。
 聞き覚えのある深みのある声。
 それは紛れも無く、あの”紳士”の声だった-------

TO BE CONTINUED…
  

コメント

ハードボイルドサスペンスです。
これからもアリオスさんは活躍していきます〜。
徐々に佳境に入っていきます。
相手を一泡吹かせるということなので、アリオスさんの活躍がこれから続きます。
やっぱりアリオスさんはかっこよくなきゃ!!
と宣言したものの余り進まず。
次回はかなり進むと思いますので御楽しみに!
後、3回ぐらいかなあ

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