緊張感が次第に増すが、怖くはなかった。 横にアリオスがいるから。彼を信用したいと思っているから。 「今夜は長くなる。相手の尻尾を掴むからな。とにかくゆっくりと寝て、解決していこう」 「うん・・・」 アンジェリークは返事をすると、アリオスを大きな翡翠の瞳で見つめた。 「あなたがいたから、ここまで来れたような気がするわ・・・」 「いいから、今は何も考えずに眠れ」 アリオスの低く深い声は、とても優しくアンジェリークを包み来んでくれる。 まるで守られるかのように、アンジェリークは深く目を閉じた。 ここからが、彼女には試練が待ち受けている。 たっぷりと眠っていたかと思った。だが時計を見ると、実際には数時間しか眠ってはいない。 「起きたか?」 「うん・・・」 倒していたシートを手前に起こして、アンジェリークは、軽いあくびを一回した。 「腹拵えもしておこうぜ。空腹だとちゃんと動けねえからな」 「うん・・・」 頷くと、アリオスはすぐに車を出してくれた。 ふと、アンジェリークはチャーリーの店のサンドイッチがとても懐かしく思い、感傷的になった。 アリオスが連れていってくれたところは、小さなアイリッシュレストラン。 そこでアリオスと同じものを頼み、味気無くも食事を始める。 家庭料理の温かさのおかげか、少しは落ち着くことが出来る。 この素朴な店を選んでくれたアリオスに、アンジェリークは心から感謝をしていた。 心から楽しんだとは言い切られない食事が終わった後、再びに車に戻り、走り始める。 しばらく走ると、アリオスは車を路肩に乗せ停止させた。 彼は、おもむろにモバイルパソコンを取り出すと、インターネットに接続し電話会社のホームページを開ける。 「どうして?」 「電話工事を調べてるんだ」 「電話工事?」 「この時期、電話会社は工事をよくする。この広い街だ。どこかで必ずやっている」 彼はそれだけを言うと、そのページを開けるなり、真摯に工事現場の位置の確認を始めた。 「ブルックリン・・・」 彼はひとつの答えを導き出すと、そこと、”ホリディ・イン”の位置関係を吟味する。 「どうするの?」 「決まってる。ちょっとした犯罪を起こすまでだ」 平然と宣うアリオスに、アンジェリークは唖然とした。 「犯罪って!!」 「相手の裏をかくんだ。それぐらいはしなくちゃならねえ」 彼の徹底的な姿勢に、彼女は不安げに見つめる。 その眼差しはどこか不安な子猫のようだ。 「心配するな。へんな犯罪じゃねえから」 「へんな犯罪って・・・」 「とにかく気分を引き締めてかかれよ」 彼はそれだけを言うと、空を見上げる。 美しい夕焼けが空を覆い、闇が降りてきた。 ドライブをするかのように、ニューヨークの街をふたりはぐるぐると周って時間稼ぎをした後、アリオスは車をブルックリンまで走らせる。 「工事は午後8時からだ。これを利用する」 「利用するって?」 「道具を拝借するんだ」 彼はうっすらと笑みを浮かべると、車を減速させた。 「拝借って、盗み?」 彼は不敵に笑うだけで何も答えない。 コイン駐車場に車を止めると、すぐにドアを開けた。 「行くぜ?」 華奢な肩を叩かれて、アンジェリークは外に出る。 アリオスの後について、アンジェリークは先に進むが、その足取りはやはり重い。 「そんな表情をするな。心配しなくても上手く行く」 「うん」 アリオスの手が、ゆったりと包み込むようにして、しっかりと握り締められると、彼女は安心する。 笑顔すら浮かんでくるから不思議だ。 「ちょっと上手く行くような気がしてきた」 「ああ」 アリオスはアンジェリークの手をさらに強く握り締めると、ひっぱって行く。 ふたりは、機敏に歩く。アリオスの力強さと、少しの強引さが、アンジェリークにはとても頼もしかった ”電話工事中”と書かれた看板が見えてくる。 「何するの?」 「いいからおまえは見ておけ」 アリオスに引っ張られるようにして、看板の近くまでやってくると、彼は手を放した。 「ここで待ってろ」 「判ったわ」 電話工事の現場が良く見える場所で、アンジェリークは待たされる。 アリオスがする、一部始終を、アンジェリークは、目の当たりにする場所にいた。 彼は本当に自然だった。 彼はゆっくりと工事現場に近付いていく。 アンジェリークはその動作に注目し、一瞬たりとも視線を逃がさない。 アリオスはただの通行人だった。 何も考えないただの。 それはほんの一瞬のこと。 彼は工事現場を通り過ぎる際、横にある発電機に手をかけた。 その瞬間、工事用の電気がすべて消される。 どの作業員もかなり慌て、あたふたとしている。 作業車の中にいた作業員も全員出てきた。 それをチャンスとばかりに、アリオスは電話会社の作業車の中に入ったかと思うと、素早く工具箱を盗んで外に出てきたのだ。 彼はすぐにアンジェリークに目で合図をし、歩き出すように促す。 彼女もすぐに歩き出すと、アリオスに合流した。 「今のうちに紛れるぜ」 「うん」 薄暗い闇に紛れて、ふたりは大回りで駐車場に戻った。 車に乗り込むと、すぐにエンジンをかけて出発をする。 「何を盗ってきたの?」 「見てみろよ」 言われるまま、アンジェリークは工具箱をそっとあけた。 そこにあるのは、ただの工具だった。 だが、様々な専用の道具が入っているようだ。 「お道具箱?」 「これが、この先にとてもよく役立つからな」 「うん」 まじまじと頷きながら、彼女は道具をひとつずつ覗くものの、どれも専用道具のようだ。 「今から向かうホリディ・インで使うぜ?」 「うん」 車は、ゆっくりとホテルに向かって走った。ホテルに着くと、アリオスは電話工事業者のふりをして、フロントに向かう。 工具箱に入っていたIDカードを提示し、彼は話し始めた。 「AT&Tです。電話回線確認に参りました」 「ご苦労様です」 IDカードを持っていたせいか、これはすぐに信じてもらえた。 アリオスの隙の無い雰囲気は、誰でも思わず信じてしまうところがある。 「では。いってらっしゃいませ」 鍵を貰った後、彼は待っていたアンジェリークに合図を送って、地下室に向かった。 ホテルの地下に入ると、そこには、たくさんの配線がある機械が置かれている。 「これを使う」 「うん・・」 アンジェリークは、指朝された敗戦を見て、ただ頷くことしか出来なかった。 彼は、電子版の板の前に座った後、アリオスは細かく考えをまとめる。 じっと敗戦を見つめた後、道具箱から、点検用の電話を取り出して、それを回線だらけの機械に繋げる。 「何をするの?」 「819号室にかける」 緊張感が走った。 アリオスは電話を慎重につなげ、アンジェリークも彼の息のかかる距離でその音を聞く。 3度ほどコールをして、電話の主は出た。 「-------はい」 その声に、アンジェリークは更に緊張せずにはいられない。 聞き覚えのある深みのある声。 それは紛れも無く、あの”紳士”の声だった------- TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 これからもアリオスさんは活躍していきます〜。 徐々に佳境に入っていきます。 相手を一泡吹かせるということなので、アリオスさんの活躍がこれから続きます。 やっぱりアリオスさんはかっこよくなきゃ!! と宣言したものの余り進まず。 次回はかなり進むと思いますので御楽しみに! 後、3回ぐらいかなあ |