アンジェリークは、ただ震えながら、アリオスの頼りがいのある腕にすがりつく。 アリオスはわずかにアンジェリークに安堵を与える眼差しを送ると、受話器に向かって話し始めた。 「俺はニューヨークの情報屋だが、”エンジェル”の安否をどう考える?」 彼はそこまで話して電話を切ると、すぐに電話にMDプレイヤーを繋ぐ。 「ここから何もかも聞こえるぜ。あいつはすぐに、電話をかける」 アリオスは受話器を指す。 これだけで、盗聴もしてしまうというのが判る。 アンジェリークも真剣に受話器を耳に宛てた。 ツー音が聞こえ、アリオスはすぐにMDの録音スイッチを押す。 プッシュ音が聞こえた後、しばらくして、受話器が上がる音がした。 「私だ」 重厚な声の持ち主だった。 「”エンジェル”について、妙な電話がかかってきた。まだ、このニューヨークにいるはずだ。ヘンな男と一緒にな。妙な電話は無かったか?」 「私にはない…。”エンジェル”については、君らしくないミスだったな。それを挽回する為にも、何とかするんだ。でないと、”少佐”のようになるぞ」 ”少佐”------- その言葉に、アンジェリークは躰をびくりとさせる。 その震える華奢な肩を、アリオスは優しく包み込むように抱いた。 「また、頑張ってくれ。今度は良い報告を待っている」 男はそれだけを言うと電話を切り、アリオスもMDのスイッチを切る。 「”少佐”みたいにって、一体何が起こったのかしら・・・?」 「さあな。でもロクデモねえことには違いねえ。電話の主が、恐らく黒幕だ・・・。こいつがキーマンだ」 彼はそれだけを言うと、MDの巻き戻しをし始めた。 「おまえの暗殺を、”紳士”に命じている以上、こいつが7人もの同時殺害を企てた可能性があるだろう。そして”少佐”・・・」 「私のレポートに関わった、あるいはその可能性が否定できない人たちばかりだわ・・・。これが知られれば、彼らは窮地に陥るから? 計画が実行出来ないから?」 余りにもの理不尽さに、胸がむかついてくる。 「7人も死んだのに・・・」 それが事実ならば、悔しくて堪らなかった。 確かに全員が、レポートに関わっていたのだ。 唇をぎゅっと噛み締めて、アンジェリークは俯く。 「・・・アリオスは、知っていたの・・・?」 アリオスは答えない。 しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと唇を開いた。 「・・・今、言えることは、俺とおまえの”最終目的”は同じだということだけだ・・・。俺も、おまえと行動を共にすることで、ぼやけた敵が形になった」 彼はそれだけを言うと、彼女の華奢な躰をそっと抱き寄せる。 「今、やるべきことをしよう」 「うん・・・。判ってる」 アリオスが与えてくれる温もりが、今は、切なかった。 アリオスは再び電話を手にとり、ボタンを押す。 「ラングレー・ホストコンピュータ。コンピュータの識別番号を」 「Gリターン、TRS、電話番号検出」 彼が呪文のように囁くと、電子音が鳴り響く。 「番号認識」 アリオスは、MDのスイッチを入れると、先程のプッシュ音を聞かせた。 「認識番号、202−336−5442」 彼はそれをすぐにメモに書き写す。 一端、電話を切った後、アリオスはすぐに電話をかけ直す。 「CNA番号検索サービスです」 「顧客係のカティスだ。電話番号202−336−5442の、住所と世帯主の名前を頼む」 アリオスの声に、しばらくしてからリモートコンピューターは答える。 「世帯主、ジャック・ローゼンバーグ。住所、ワシントンDC、ペニー・ストリート3855」 彼はそれをメモに書き、ジャケットのポケットになおす。 「アンジェ、今度はおまえの番だ、場所を移すぞ?」 「はい」 二人は、点検が完了したと報告した後、ホリディインを出た。 続いて、きたのは、先程工事をしていた電話会社のオフィス。 二人は何食わぬ顔で職員の不利をして中には衣類、こちらの電話回線の管理室に入る。 ここでもアリオスは、電話にいくつもの回線をつなげる。 それを、彼女は固唾を呑んで眺めていた。 「準備が出来たぜ、アンジェリーク」 アリオスは真摯な眼差しで彼女を見つめると、電話を差し出す。 「何をすればいいの・・・?」 彼女はそれを握り締めて、不安げに訊いた。 「これで、ニューヨーク支部長に電話をしろ」 「何を言えばいいの?」 「適当に話せ。攪乱する為に使うだけだ」 適当と言っても、頭がからっぽになってしまい、何を言っていいものか、戸惑ってしまう。 「何を言えばいいのかしら・・・」 「素直に思うことでいい。一言でかまわない。すぐに切れ」 アンジェリークは深呼吸をした後、ゆっくりと頷き、支局の番号を押す。 指先は少し震えていた。 「はい」 「”エンジェル”です。支部長をお願いします」 「お待ちください」 オペレーターは冷たい声で呟くと、逆探知ボタンを押す。 「私だ、”エンジェル”。今、どこにいる?」 「言えません。今は、何とか生きていると言うこと以外は」 なるべく相手に悟られないように、アンジェリークは冷静を装って呟いた。 「今、レイチェル・ハートとは一緒ではないのか?」 「とにかく生きてますから」 彼女はそれだけを言うと、電話を切った。その瞬間、力が抜けるかのように、大きな溜め息を吐く。 「よくやった」 「アリオス・・・」 華奢な躰をぎゅっと抱き締めた後、アリオスは栗色の髪を撫でる。その感触は柔らかくてとても心地が良かったものの、どこか子供扱いされているような気分になり、嫌だった。 「逆探知は出来たのか!?」 ニューヨーク支部長は、やっきになってオペレーターに言う。 「はい、ブルックリンの西」 「やっぱりまだ、ニューヨークに残っていたのか・・・」 「待って下さい!」 忌ま忌ましく呟いた支局長の言葉を取るかのように、オペレーターは叫んだ。 「どうした」 「あらゆる場所の電話が、発信元として次々に現れてきて、これでは発信元が特定出来ません!」 「何・・・」 その様子をひとりの初老の男性が冷静に見ており、ゆっくりと呟いた。 「”エンジェル”を侮りすぎていたようだな・・・。誰かが背後にいるのだろう、恐らく。早めに手を打たなければ…」 支部長はただ頷くことしか出来なかった------ ふたりは電話会社から出て、ようやく車に戻った。 車内は張り詰めた緊張感が漂う。 「アンジェ、後は行くところは決まっている」 「ワシントンね-------] 二人は顔を見合わせると、頷きあう。 車は、駅に向かって進んでいった-------- TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 これからもアリオスさんは活躍していきます〜。 次回が一応クライマックスになります。 レイチェルがどうしているか。 それも明らかにしていきたいと思っています。 いつものアリさんと違って、銃のアクションは今回はおとなし気味でしょうか。 最後になんとかしますので(笑) |