72 HOURS OF THE ANGEL

Chapter12


 ワシントンDCまでは確実性の為に、列車を利用した。
 そのほうがお互いに疲れが取れると判断したからである。
 ふたりで列車に仲良く揺られながら、アンジェリークは奇妙な感覚に襲われる。
 ふたりは、ほんの少し前はお互いに知りもしない存在だった。
 だが、今はお互いに、こうして同じコンパートメントの中で揺られている。
 アンジェリークは、アリオスの顔をじっと見た。

 何かを隠しているかもしれないけれど・・・、今はこの男性(ひと)を信用するしかない。
 でも、本当に不思議な縁だ・・・。
 いっぱい、いっぱい助けてもらって、私は、彼ともう離れたくないとすら思っている・・・。

「寒いか?」
 唐突に彼の声が響き渡る。
「うん・・・、大丈夫」
「俺は寒い」
 彼はそれだけ言うと、アンジェリーク側に腰を下ろしてくる。
「おまえ、あったかそうだもんな」
「アリオス・・・」
 少しだけはにかんだ後、アンジェリークもまたアリオスの腕の中にくるまった。
「あったかい・・・」
「俺もな」
 アリオスが与えてくれる温もりは、とても気持ちが良くてふわふわとした気分になる。
 目を閉じれば、本当に心地好かった。
 今までの苦闘をすべて包みこんでくれる。
 アリオスの黒いコートにふたりでくるまって、ゆっくりと瞳を閉じた。
 二日目の夜がゆっくりと終わりを告げた。

 その頃、ラングレーの本部では慌ただしい動きとなっていた。
 ヘリコプターから初老の男が降りてき、それを中年男が出迎えていた。
 初老の男は、ニューヨーク支部長に命令を下している、あの男だった。
 彼らは、さりげなさを装い、ポトマック川の川べりをゆっくりと歩く。
「”エンジェル”の動きが読めない。ただ、彼女の行方だけを追えと言ってある」
 初老の男は、少し苛立たしげに呟く。
「支部長が邪魔になったら…。 ローゼンバーグさん」
 ここまで言ったところで、向こう側から男女のカップルが歩いてくるのが見え、ふたりは会話をドイツ語に変える。
「”少佐”と同じ処置をするまでだ。わざと事故を起こさせ、病院の生命維持装置を外す」
 中年男はしっかりと頷く。
「あの、”エンジェル”が書いた報告書を知る者は、片っ端から”粛正”しなければならない・・・。無論、元凶になった”エンジェル”も・・・。それが、国家の為だ・・・」
 ローゼンバーグは、いかにもな大儀名分を呟くと、闇の中に瞳を光らせた。

 アリオスとアンジェリークは、朝早くワシントンDCの駅にたどり着いた。
 二日前の朝まで、平和に過ごせていたことが、嘘のように思える。
 早朝の駅はまだ寒く、ぶるりと震えた。
「ほら」
「ん、ありがと」
 アリオスがさりげなくコートの中にひきいれてくれる。
 それがまた温かくて、とても心地が良かった。
 彼のこのような「さりげない優しさ」が、アンジェリークはたまらなく好きだ。
 アリオスに優しい温かさに包まれて、駅のベンチで落ち着いた後、彼は古びたベッド&ブレックファーストに連れていってくれた。
「ここで、しばらく休もう。長くなるからな? ニューヨークでいるよりはましだろ?」
「うん。有り難う」
 そこは、とても素朴な宿で、早朝にチェックインした客にも、嫌み一つ言わない、雰囲気のよいところだ。
 部屋に入ると、ソファに座りほっと息を吐く。
「少し眠った後、熱いシャワーでも浴びると良い」
「うん・・・」
 疲れが躰に染み入ってくるのが判り、アンジェリークは遠慮なくベッドのなかに潜り込むことにした。
 肩が凝らないように、少し軽めの服装にしてベッドの中に入る。
 やはり横になれるというのは心地好い。
「ねぇ、アリオスは眠らないの?」
 ソファに腰をかけたままのアリオスに、アンジェリークは声をかけた。
「いや、寝る」
「だったら、ベッドに入ったら?」
「ああ」
 彼はそう言って立ち上がると、隣のベッドではなく、アンジェリークが横になっているベッドに入ってくる。
「あ・・・」
「これで、おまえも俺も安心して休めるだろ?」
 彼にぎゅっと腕の中に閉じ込められて、アンジェリークは甘く喘いだ。
 優しくも安心できる温もりに包まれて、アンジェリークは瞳を深く閉じる。
 心地好い温もりに、彼女は眠りに落ちていった。

 早朝から、ニューヨーク支部は混乱していた。
 忽然と消えたアンジェリークの形跡に、誰もがやっきになっている。

 このままにしておくわけにはいかない・・・。
 このことは、決して表に出てはならない・・・。
 大スキャンダルに発展する!!
 その前に、コレットを捕まえ、事件の首謀者として、始末するか。それとも・・・。
 フリーランスの殺し屋たちをああも、巧みにすりぬけられるとは…。
 その上、送り込んだ郵便配達は…、忽然と姿を消した…。

「------組織に忠実あれか…」
 彼の表情には、焦りの色が見え始めていた------


 どれぐらい眠っていただろうか。日の光に、アンジェリークは目を覚ました。
 見ると、アリオスはすでに目を覚ましている。
「シャワーを浴びて支度しろ」
「今・・・、何時?」
「3時過ぎだ。5時にはここを出て、DCを少しぶらぶらして時間をつぶす」
「うん」
 アンジェリークはこくりと頷くと、シャワーを浴びにバスルームに向かう。
「アリオス」
 彼女はほんの一瞬振り返る。
「ありがと」
 はにかんでそれだけを言うと、彼女はバスルームに消えた。
 アリオスはそれを見計らった後、ホルスターから銃を取り出し、じっとそれを眺める。
「・・・出番だな・・・」
 彼はそれを指で撫でると、決意を秘めたようにホルスターにしまいこんだ。

 B&Bを二人が出たのは、もう五時をまわっていた。
 どこからか調達してきた車に乗って、市内に繰り出す。
 車内はいやがおうにも、緊張感が高まる。
「もうすぐ、全部終わる。がんばろうぜ」
「うん」
 車で市内をドライブをした後、小さなレストランに入った。
 味など何も感じない。ただ本能で咀嚼する。
 落ち着かない気分のなか、アンジェリークは胸が苦しくなった。
「逃亡者って、こんな気分なのかな・・・」
「俺たちは悪いことはしてねえんだ。”逃亡者”じゃねえ」
 きっぱりとした彼の口調に、アンジェリークは涙が出るほど嬉しかった。

 本当に神かけて誓える。何もしていないと。
 ただ、誰かに揺るがされているだけだと。

「そうね。私たちは逃げているんじゃないわ。逆に追っているだけだもの」
 噛み締めるようにアンジェリークは呟くと、祈るように手を組んだ。

 章句時が終わったあと、再び車に乗り込み、闇の中走りぬく。
「今、ローゼンバーグの家に向かっている。もうすぐ決着がつく」
「うん」
 もう何が起こっても、明らかになっても動じない。
 彼女は澄んだ瞳で、まっすぐと前を見つめた。
 車は、立派な屋敷の前に止まり、その大きさに戸惑う。
「立派なお屋敷だわ・・・」
「普通のことをしていたら、こんな家を、一等地に買えねえさ。よほど、悪いことをしてねえとな?」
「そうよね」
 アリオスの言葉には、まったく一理あると思った。
「行くぜ?」
 彼の声に、アンジェリークは勇気を込めて、外へと一歩踏みこんだ。
 
TO BE CONTINUED…
  

コメント

ハードボイルドサスペンスです。
これからもアリオスさんは活躍していきます〜。
次回が最終回です。
 すみません1回延びちゃった(笑)

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