ワシントンDCまでは確実性の為に、列車を利用した。 そのほうがお互いに疲れが取れると判断したからである。 ふたりで列車に仲良く揺られながら、アンジェリークは奇妙な感覚に襲われる。 ふたりは、ほんの少し前はお互いに知りもしない存在だった。 だが、今はお互いに、こうして同じコンパートメントの中で揺られている。 アンジェリークは、アリオスの顔をじっと見た。 何かを隠しているかもしれないけれど・・・、今はこの男性(ひと)を信用するしかない。 でも、本当に不思議な縁だ・・・。 いっぱい、いっぱい助けてもらって、私は、彼ともう離れたくないとすら思っている・・・。 「寒いか?」 唐突に彼の声が響き渡る。 「うん・・・、大丈夫」 「俺は寒い」 彼はそれだけ言うと、アンジェリーク側に腰を下ろしてくる。 「おまえ、あったかそうだもんな」 「アリオス・・・」 少しだけはにかんだ後、アンジェリークもまたアリオスの腕の中にくるまった。 「あったかい・・・」 「俺もな」 アリオスが与えてくれる温もりは、とても気持ちが良くてふわふわとした気分になる。 目を閉じれば、本当に心地好かった。 今までの苦闘をすべて包みこんでくれる。 アリオスの黒いコートにふたりでくるまって、ゆっくりと瞳を閉じた。 二日目の夜がゆっくりと終わりを告げた。 その頃、ラングレーの本部では慌ただしい動きとなっていた。 ヘリコプターから初老の男が降りてき、それを中年男が出迎えていた。 初老の男は、ニューヨーク支部長に命令を下している、あの男だった。 彼らは、さりげなさを装い、ポトマック川の川べりをゆっくりと歩く。 「”エンジェル”の動きが読めない。ただ、彼女の行方だけを追えと言ってある」 初老の男は、少し苛立たしげに呟く。 「支部長が邪魔になったら…。 ローゼンバーグさん」 ここまで言ったところで、向こう側から男女のカップルが歩いてくるのが見え、ふたりは会話をドイツ語に変える。 「”少佐”と同じ処置をするまでだ。わざと事故を起こさせ、病院の生命維持装置を外す」 中年男はしっかりと頷く。 「あの、”エンジェル”が書いた報告書を知る者は、片っ端から”粛正”しなければならない・・・。無論、元凶になった”エンジェル”も・・・。それが、国家の為だ・・・」 ローゼンバーグは、いかにもな大儀名分を呟くと、闇の中に瞳を光らせた。 アリオスとアンジェリークは、朝早くワシントンDCの駅にたどり着いた。 二日前の朝まで、平和に過ごせていたことが、嘘のように思える。 早朝の駅はまだ寒く、ぶるりと震えた。 「ほら」 「ん、ありがと」 アリオスがさりげなくコートの中にひきいれてくれる。 それがまた温かくて、とても心地が良かった。 彼のこのような「さりげない優しさ」が、アンジェリークはたまらなく好きだ。 アリオスに優しい温かさに包まれて、駅のベンチで落ち着いた後、彼は古びたベッド&ブレックファーストに連れていってくれた。 「ここで、しばらく休もう。長くなるからな? ニューヨークでいるよりはましだろ?」 「うん。有り難う」 そこは、とても素朴な宿で、早朝にチェックインした客にも、嫌み一つ言わない、雰囲気のよいところだ。 部屋に入ると、ソファに座りほっと息を吐く。 「少し眠った後、熱いシャワーでも浴びると良い」 「うん・・・」 疲れが躰に染み入ってくるのが判り、アンジェリークは遠慮なくベッドのなかに潜り込むことにした。 肩が凝らないように、少し軽めの服装にしてベッドの中に入る。 やはり横になれるというのは心地好い。 「ねぇ、アリオスは眠らないの?」 ソファに腰をかけたままのアリオスに、アンジェリークは声をかけた。 「いや、寝る」 「だったら、ベッドに入ったら?」 「ああ」 彼はそう言って立ち上がると、隣のベッドではなく、アンジェリークが横になっているベッドに入ってくる。 「あ・・・」 「これで、おまえも俺も安心して休めるだろ?」 彼にぎゅっと腕の中に閉じ込められて、アンジェリークは甘く喘いだ。 優しくも安心できる温もりに包まれて、アンジェリークは瞳を深く閉じる。 心地好い温もりに、彼女は眠りに落ちていった。 早朝から、ニューヨーク支部は混乱していた。 忽然と消えたアンジェリークの形跡に、誰もがやっきになっている。 このままにしておくわけにはいかない・・・。 このことは、決して表に出てはならない・・・。 大スキャンダルに発展する!! その前に、コレットを捕まえ、事件の首謀者として、始末するか。それとも・・・。 フリーランスの殺し屋たちをああも、巧みにすりぬけられるとは…。 その上、送り込んだ郵便配達は…、忽然と姿を消した…。 「------組織に忠実あれか…」 彼の表情には、焦りの色が見え始めていた------ どれぐらい眠っていただろうか。日の光に、アンジェリークは目を覚ました。 見ると、アリオスはすでに目を覚ましている。 「シャワーを浴びて支度しろ」 「今・・・、何時?」 「3時過ぎだ。5時にはここを出て、DCを少しぶらぶらして時間をつぶす」 「うん」 アンジェリークはこくりと頷くと、シャワーを浴びにバスルームに向かう。 「アリオス」 彼女はほんの一瞬振り返る。 「ありがと」 はにかんでそれだけを言うと、彼女はバスルームに消えた。 アリオスはそれを見計らった後、ホルスターから銃を取り出し、じっとそれを眺める。 「・・・出番だな・・・」 彼はそれを指で撫でると、決意を秘めたようにホルスターにしまいこんだ。 B&Bを二人が出たのは、もう五時をまわっていた。 どこからか調達してきた車に乗って、市内に繰り出す。 車内はいやがおうにも、緊張感が高まる。 「もうすぐ、全部終わる。がんばろうぜ」 「うん」 車で市内をドライブをした後、小さなレストランに入った。 味など何も感じない。ただ本能で咀嚼する。 落ち着かない気分のなか、アンジェリークは胸が苦しくなった。 「逃亡者って、こんな気分なのかな・・・」 「俺たちは悪いことはしてねえんだ。”逃亡者”じゃねえ」 きっぱりとした彼の口調に、アンジェリークは涙が出るほど嬉しかった。 本当に神かけて誓える。何もしていないと。 ただ、誰かに揺るがされているだけだと。 「そうね。私たちは逃げているんじゃないわ。逆に追っているだけだもの」 噛み締めるようにアンジェリークは呟くと、祈るように手を組んだ。 章句時が終わったあと、再び車に乗り込み、闇の中走りぬく。 「今、ローゼンバーグの家に向かっている。もうすぐ決着がつく」 「うん」 もう何が起こっても、明らかになっても動じない。 彼女は澄んだ瞳で、まっすぐと前を見つめた。 車は、立派な屋敷の前に止まり、その大きさに戸惑う。 「立派なお屋敷だわ・・・」 「普通のことをしていたら、こんな家を、一等地に買えねえさ。よほど、悪いことをしてねえとな?」 「そうよね」 アリオスの言葉には、まったく一理あると思った。 「行くぜ?」 彼の声に、アンジェリークは勇気を込めて、外へと一歩踏みこんだ。 TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 これからもアリオスさんは活躍していきます〜。 次回が最終回です。 すみません1回延びちゃった(笑) |