あなたを信じてもいいのですか? 何を信じていいのかが判らない。 目の前で今起こっていることを、できることなら夢だと想いたかった。 だが実際には、見知らぬ男に手を引かれて、走って逃げている。 そうしてじぶんが組織から追われるのか------ そんなことも判らない。 組織には、中途半端な忠誠しかなかったが、それでも裏切るような気持ちになったことは一回も無かった。 それが狙われる------ 何が起こっているのか、アンジェリークは自体が上手く飲み込むことが出来なかった。 感じることが出来るのは、手を引いてくれている青年の掌の熱さだけ。 全速力で走っているからか、息が切れる。 「もう直ぐ俺の車がある。とりあえず今夜は安全なところに行くぞ」 「でも…!」 見知らぬ男とともに過ごす。 いくらステキでも、そう考えるだけでぞっとする。 大体、彼が信用にたる人物なのかどうか。そんなことすら判らない。 車が見えた。 立派なシルヴァーメタリックのスポーツカー。 そこまで走ると、青年はアンジェリークの手を握ったまま、車のキーを開ける。 「乗れ!」 乗るしかないのは判っている。 だが、見知らぬ男を信用することなんて出来やしない。彼女は戸惑うように躰を硬くした。 「おい、乗らねえのか?」 「------だって、あなたは見知らぬ人よ…! 組織の人間ですら裏切ってくるのに…!」 「信じられねえ…か」 あくまで冷静に青年は呟くと、アンジェリークをじっと見詰めた。 その黄金と翡翠の眼差しは、深みを帯びているとともに、感情が無い。 「今のおまえは、俺から離れると直ぐに殺されるぜ」 ぴしゃりと心地よいテノールで、きついことを言ってくる。 確かにその通りなのでアンジェリークは反論できなかった。 「------俺がおまえを殺すんなら、あの時点で見殺しにしていた。違うか?」 「あ…」 確かに青年が言うことは一理ある。 あのような危険な状況で、彼はかすり傷負わせることなくアンジェリークを助けた。 だが、親友のレイチェルはいったいどうなっているのだろう。 「…とにかく乗れ」 頷くことしかできずに、アンジェリークは車に素直に乗り込むことにした-------- 車に乗り込んだ後、彼は車をゆっくりと市街地に向かって運転する。 「・・・レイチェルを、あなたは助けてはくれなかったわ…」 アンジェリークは、自分を助けてくれた感謝と、親友を助けてくれなかった恨めしさで、じっとアリオスを見つめている。 「ちゃんと彼女は無事だ。いずれ連絡が取れるだろう」 言われたものの、やはり確かめなければ信じられない。 「…一番の親友なのよ…」 「判ってる」 それからふたりの会話はぷつりと途切れてしまう。 張り詰めた空気が車内を覆い、とても重苦しかった------ --------------------------- ニューヨークアーケーディア工業。 それは名ばかりで、実はCIAニューヨーク支部の仮の姿である。 ここに緊急事態として召集された上層部の局員たちが、続々と集まってきていた。 ニューヨーク支部17課で何が起こったか。 それがこの緊急会議の議題であった。 長官にも知らせず極秘での非公式の召集であった。 「支局のレイモンドが一発でしとめられ、レイチェル・ハートは行方不明…」 早速議題とばかりに、初老の男は顎元で手を組む。 「あれはプロの仕業でした」 きっぱりとニューヨーク支部長は言いい、どこか苦虫を噛んだような、非情に厳しい表情をしている。 「プロか…。 コレットがやったのか・・・?」 メガネを掛けた中年の男も、溜息をついている。 「アンジェリーク・コレットのことを詳しく聞かせてくれ…」 初老の男は考え込むかのように目頭を押さえると、視線を上に向けた。 「はい、副長官。 アンジェリーク・コレット。ニューヨーク支局17課勤務。主な職務は、書籍メディア分析。銃を習ったのは、訓練時代だけで、特にそのスキルが優れているという記録は残っておりません。 マンガや書物を好み、あるとしても全て本からの知識です。それ以外に何もないはずです」 支局長は自信があった。 あの華奢なアンジェリークがいくら知識があったとしても、45口径で失敗せずに一回でしとめることは出来ないと。 トリガーを引くことさえも怪しいと思っている。 「だったら、コレットを誰かが助けたということだな」 副長官は視線を支部長に向けると、真摯な光でじっと見つめる。 「恐らくはそうでしょう」 支局長は厳しい眼差しで書類に視線を落とすと、深く頷いた。 「-------あれだけの腕を持つものは、コレットの周りにはいないはずです。 コレットが知らない誰かかもしれません-------」 会議室に重い空気が流れていた------- --------------------------- アンジェリークは暫く車に揺られながら、青年をじっと見つめていた。 「あなた、何者なの?」 「俺? 俺はアリオスだ」 「だったら、何をしているの?」 矢継ぎ早にアンジェリークは、アリオスと名乗った青年に質問をする。 相変わらずアンジェリークの声は硬く緊張感が漂っている。 「-----今に判る」 「今に判るって言ったて!」 いきり立つアンジェリークに対して、アリオスはあくまでクールである。 「そんなにカリカリするな。今、おまえがやらなければならねえことを考えるのが、先決だ。そうじゃねえのか?」 「あ…」 確かにそうだ。 アリオスは自分を助けてくれたのだ。 今は恐らく頼りになるのは彼しかいない。 私は…、今、この人に頼るしかない・・・。 この人がいなかったら、こうして車の中で話していることも無かったかもしれない・・・。 アンジェリークは苦渋ながらも、アリオスと一緒にいることを選択するしかない。 「-------判ったわ・・・。少しの間休戦」 「だろ?」 彼は当然とばかりに口角を上げた。 アリオスをまだ完全に信じたわけではない------- そう思いながらも、彼を何所かで信じている自分が悔しい。 これから私どうなるんだろう… ぼんやりと考えながら、暮れ始めた景色をじっと眺めていた。 天使の時間はまだ5時間を過ぎたばかり・・・ TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 これからもアリオスさんは活躍していきます〜。 書くのが楽しみな連載。 がんばるぞ〜!!! ありたん好き〜(笑) |