72 HOURS OF THE ANGEL

Chapter5


 あなたを信じてもいいのですか?
 何を信じていいのかが判らない。

 目の前で今起こっていることを、できることなら夢だと想いたかった。
 だが実際には、見知らぬ男に手を引かれて、走って逃げている。
 そうしてじぶんが組織から追われるのか------
 そんなことも判らない。
 組織には、中途半端な忠誠しかなかったが、それでも裏切るような気持ちになったことは一回も無かった。
 それが狙われる------
 何が起こっているのか、アンジェリークは自体が上手く飲み込むことが出来なかった。
 感じることが出来るのは、手を引いてくれている青年の掌の熱さだけ。
 全速力で走っているからか、息が切れる。
「もう直ぐ俺の車がある。とりあえず今夜は安全なところに行くぞ」
「でも…!」
 見知らぬ男とともに過ごす。
 いくらステキでも、そう考えるだけでぞっとする。
 大体、彼が信用にたる人物なのかどうか。そんなことすら判らない。
 車が見えた。
 立派なシルヴァーメタリックのスポーツカー。
 そこまで走ると、青年はアンジェリークの手を握ったまま、車のキーを開ける。
「乗れ!」
 乗るしかないのは判っている。
 だが、見知らぬ男を信用することなんて出来やしない。彼女は戸惑うように躰を硬くした。
「おい、乗らねえのか?」
「------だって、あなたは見知らぬ人よ…! 組織の人間ですら裏切ってくるのに…!」
「信じられねえ…か」
 あくまで冷静に青年は呟くと、アンジェリークをじっと見詰めた。
 その黄金と翡翠の眼差しは、深みを帯びているとともに、感情が無い。
「今のおまえは、俺から離れると直ぐに殺されるぜ」
 ぴしゃりと心地よいテノールで、きついことを言ってくる。
 確かにその通りなのでアンジェリークは反論できなかった。
「------俺がおまえを殺すんなら、あの時点で見殺しにしていた。違うか?」
「あ…」
 確かに青年が言うことは一理ある。
 あのような危険な状況で、彼はかすり傷負わせることなくアンジェリークを助けた。
 だが、親友のレイチェルはいったいどうなっているのだろう。
「…とにかく乗れ」
 頷くことしかできずに、アンジェリークは車に素直に乗り込むことにした--------
 車に乗り込んだ後、彼は車をゆっくりと市街地に向かって運転する。
「・・・レイチェルを、あなたは助けてはくれなかったわ…」
 アンジェリークは、自分を助けてくれた感謝と、親友を助けてくれなかった恨めしさで、じっとアリオスを見つめている。
「ちゃんと彼女は無事だ。いずれ連絡が取れるだろう」
 言われたものの、やはり確かめなければ信じられない。
「…一番の親友なのよ…」
「判ってる」
 それからふたりの会話はぷつりと途切れてしまう。
 張り詰めた空気が車内を覆い、とても重苦しかった------

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 ニューヨークアーケーディア工業。
 それは名ばかりで、実はCIAニューヨーク支部の仮の姿である。
 ここに緊急事態として召集された上層部の局員たちが、続々と集まってきていた。
 ニューヨーク支部17課で何が起こったか。
 それがこの緊急会議の議題であった。
 長官にも知らせず極秘での非公式の召集であった。
「支局のレイモンドが一発でしとめられ、レイチェル・ハートは行方不明…」
 早速議題とばかりに、初老の男は顎元で手を組む。
「あれはプロの仕業でした」
 きっぱりとニューヨーク支部長は言いい、どこか苦虫を噛んだような、非情に厳しい表情をしている。
「プロか…。
 コレットがやったのか・・・?」
 メガネを掛けた中年の男も、溜息をついている。
「アンジェリーク・コレットのことを詳しく聞かせてくれ…」
 初老の男は考え込むかのように目頭を押さえると、視線を上に向けた。
「はい、副長官。
 アンジェリーク・コレット。ニューヨーク支局17課勤務。主な職務は、書籍メディア分析。銃を習ったのは、訓練時代だけで、特にそのスキルが優れているという記録は残っておりません。
 マンガや書物を好み、あるとしても全て本からの知識です。それ以外に何もないはずです」
 支局長は自信があった。
 あの華奢なアンジェリークがいくら知識があったとしても、45口径で失敗せずに一回でしとめることは出来ないと。
 トリガーを引くことさえも怪しいと思っている。
「だったら、コレットを誰かが助けたということだな」
 副長官は視線を支部長に向けると、真摯な光でじっと見つめる。
「恐らくはそうでしょう」
 支局長は厳しい眼差しで書類に視線を落とすと、深く頷いた。
「-------あれだけの腕を持つものは、コレットの周りにはいないはずです。
 コレットが知らない誰かかもしれません-------」
 会議室に重い空気が流れていた-------

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 アンジェリークは暫く車に揺られながら、青年をじっと見つめていた。
「あなた、何者なの?」
「俺? 俺はアリオスだ」
「だったら、何をしているの?」
 矢継ぎ早にアンジェリークは、アリオスと名乗った青年に質問をする。
 相変わらずアンジェリークの声は硬く緊張感が漂っている。
「-----今に判る」
「今に判るって言ったて!」
 いきり立つアンジェリークに対して、アリオスはあくまでクールである。
「そんなにカリカリするな。今、おまえがやらなければならねえことを考えるのが、先決だ。そうじゃねえのか?」
「あ…」
 確かにそうだ。
 アリオスは自分を助けてくれたのだ。
 今は恐らく頼りになるのは彼しかいない。

 私は…、今、この人に頼るしかない・・・。
 この人がいなかったら、こうして車の中で話していることも無かったかもしれない・・・。

 アンジェリークは苦渋ながらも、アリオスと一緒にいることを選択するしかない。
「-------判ったわ・・・。少しの間休戦」
「だろ?」
 彼は当然とばかりに口角を上げた。
 アリオスをまだ完全に信じたわけではない-------
 そう思いながらも、彼を何所かで信じている自分が悔しい。

 これから私どうなるんだろう…

 ぼんやりと考えながら、暮れ始めた景色をじっと眺めていた。

 天使の時間はまだ5時間を過ぎたばかり・・・

 TO BE CONTINUED…
  

コメント

ハードボイルドサスペンスです。
これからもアリオスさんは活躍していきます〜。
書くのが楽しみな連載。
がんばるぞ〜!!!
ありたん好き〜(笑)

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