受話器を握り締めながら、アンジェリークは僅かに震える。 「信用できません・・・。私はあなたの顔も知らないんですから」 受話器の奥から”仕方がない”とばかりに溜め息が零れた。 「判った・・・。信用が出来るように何か考えよう・・・。 そうだ、君と同期の経理課のレイチェルとニューヨーク支部の人間をそっちに寄こそう。 だったら信用出来るだろう?」 少しだけ、アンジェリークの表情が和らいだ。 レイチェルなら、組織教育の時に一緒だったし、飛び級で通った大学も同窓生だ。 彼女なら安心できる。 アンジェリークは、ようやく「疑心暗鬼」のウ゛ェールを脱ぎ捨てた。 「彼女なら、安心出来ます・・・」 電話口の支社長は、安心したように溜め息を吐く。 「コレット、君の安全を確保するために、待ち合わせ場所は目立たない場所を使おう。 今から一時間後、ホテルアルテミスの勝手口の前で。 ホテルの正面玄関横の路地裏にある。非常階段が見えるから、判るだろう」 「はい・・・」 彼女はしっかりと頷くと、明らかに心にあった重いものがなくなるような気がする。 「では今から一時間後に逢おう」 「はい」 電話を切らずにそこから離れた瞬間、アンジェリークは大きな安堵の溜め息を吐いた。 同時に身体から力が抜けるのを感じる。 だがまだきちんと保護されたわけではない。 彼女は気持ちを引き締めると、この一時間を過ごすために、再び、街中に出ていった。 やれやれ・・・。忙しいことだな・・・。 先程からアンジェリークを見ていた長身の青年は、煙草を灰皿でもみ消した後、再び彼女を追いかけていく。 冬の冷たい風が寂しくも吹き渡っていた------- ----------------------- ニューヨーク支部本部では、レイチェルが地下の射撃場に呼ばれていた。 彼女は防弾チョッキを見るなり、目を丸くする。 「これは? 私は友達に逢いに行くだけですよ?」 「いいから、これを着けなさい」 支部長付きの上層部の男に有無言わせぬように言われて、レイチェルは不思議に思いながらも、言うとおりにするしかなかった。 「最近、物騒になってきているからな?」 「今朝の事件のように?」 一瞬、男は苦虫を潰したような表情をしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。 「念のためだ」 「はい」 男は、兵器係のカウンターに行き、声を掛ける。 「銃を一丁頼む」 「38、45、どっちの口径ですか?」 「45口径だ」 「判りました」 薄暗い射撃場で出された銃は、不気味に黒光りしている。 レイチェルはその光に思わず息を呑んだ。 「こんなものをどうして…」 彼女は益々不信そうに眉根を寄せながら、上司がスーツのポケットに銃を入れるのを見つめる。 「おまえは何も考えなくていい」 レイチェルはそれ以上言葉を繋ぐことが出来なかった。 ただ、言いようのない不安が心を襲ってくるのを感じる。 どうか。どうか、アンジェが無事でありますように・・・・ ---------------------- 保護されるまでの時間が、どうしようもなく長く感じられる。 美術館に行ったり、町をぶらぶらしたりと、いつもなら一時間をつぶすのにこんなに時間はかからない。 スターバックスでコーヒーを飲んでも、いつものように「ゆったり」とした気持ちにはなれなかった。 あと少しだから・・・。 やっとの思いで、約束の時間の10分前まで時間をつぶし、アンジェリークは約束の場所に向かう。 もちろん、その後ろには銀の髪の青年がきっちりとガードするかのようについているが、アンジェリークはもちろん気がつかなかった。 少し早く場所に着き、落ち着かないようにアンジェリークはあたりをきょろきょろとする。 背中には冷たいものが流れ落ち、彼女は妙に落ち着かなかった。 その様子を、青年は落ち着いた眼差しでじっと見ていた。 人影が見えた。 アンジェリークは事態を見据えるために、じっと遠くを見詰める。 心臓が強い高まりを見せている。 輪郭が見えてくる。 人影gは確認できた瞬間、アンジェリークは大きな瞳を大きく見開いた。 「アンジェ!!!」 「レイチェル!!!」 人影は待ち人であるレイチェル、その人であった。 アンジェリークは、少し引き攣っていたが、幾分かほっとして笑顔すらこぼれる。 その後ろには中年の男性。 恐らくは保護しにきてくれたCIAの局員だ。 アンジェリークはゆっくりと友人に向かって歩いていく。 その瞬間------- 「・・・!!!!!」 一発の銃弾がアンジェリークに向かって、男から放たれた。 アンジェリークは、一瞬、自分はこのまま撃たれて死んでしまうのではないかと思う。 だが。 「・・・・!!!!!」 次の瞬間には躰が宙を舞っていた。 俊敏に、まるで獣の様に華麗に舞っている。 「今はどうしてこうなっているか、考える余裕も、見る余裕もない。 ただ、誰かが自分を助けてくれているのしか判らない。 しっかりと支えてくれる腕は、とても心地が良かった。 次々に銃弾が発射される。 それを胸の広い誰かが巧みに避けてくれた。 「これはどういううことなの!?」 最初にパニックに陥ったのは、発砲を一部始終見ていたレイチェルだった。 「アンジェは・・・!!!!!」 男は舌打ちをした。 次の瞬間、レイチェルと一緒にいた男は、こともあろうか彼女に向かって銃口を向ける。 「レイチェル!!!」 声にならない悲鳴を上げたのはアンジェリーク。 「…!!!!!」 青年は咄嗟に男の額に銃口を向け、すぐさまトリガーを引いた。 「ああああっ!!」 男の額に銃弾は命中し、彼は地を流してそのまま倒れこむ。 男の腕の中で、アンジェリークは一瞬何が起こっているかわからなかった。 彼はすぐさまアンジェリークを立たせる。 そのときになって、彼女はようやく、彼の髪が銀色で、黄金と翡翠の瞳を持った整った容貌だということに、気がついた。 「行くぞ!! ここから直ぐに離れろ」 手を強引に引っ張られるが、彼女はレイチェルが気になって仕方がない。 「レイチェルは!?」 「彼女にはすぐ助けが来る。おまえはここから逃げることが先決だ」 「だって…!!!」 「いいから!!」 青年に強く手を握られて引っ張られていく。 アンジェリークは頭の中が更にパニックになるのを感じていた------- TO BE CONTINUED… |
コメント ハードボイルドサスペンスです。 ようやくありさんちょこっとだけ活躍。 コレからどんどん活躍していきますので、 カッコいいアリさんのファンの方お楽しみになさってください。 さて次回はどうなりますかいの〜 |