72 HOURS OF THE ANGEL

Chapter2


 何が起こっているか知るよしのないアンジェリークは、鼻歌を歌いながら、事務所への道程を歩いていた。
 雨も上がり、とてもいい感じだ。
「やっぱり雨が止んだわね。神様は私の味方をしてくれたのかしら」
 彼女は空を見上げながら、さらに機嫌が良くなる。
 ”全米文学史協会”の玄関先まで来ると、彼女はいつものように手を上げた。
 だが全く反応がない。

 おかしいわね・・・

 いつもなら、直ぐにカトリオーナがドアを開けてくれるのに、今日に限ってはそれがない。
 アンジェリークは頭を傾げて、監視カメラを見上げた。
 何度試みたところで反応はない。
 恐る恐るドアノブに手を掛けると、珍しく鍵が開いている。
 こんなことは今まで一度もなかったせいか、彼女は訝しげに中に入った。
 いつも聴こえる、パソコンのキーボードを叩く音が全くといっていいほど聞こえない。
「カトリオーナ?」
 彼女は受付にいるだろうカトリオーナの名前を呼びながら、カウンターを覗き込んだ-------
「・・・…!!!!」
 一瞬、目の前で何が起こっているか判らなかった。
 カウンターの下で、カトリオーナが血を流して倒れこんでいる。
「カトリオーナ?」
 目の前の光景が信じられなくて、アンジェリークは何度もカトリオーナの名前を呼んだ。
 だが、反応は一切なかった。
「・・・嘘よね?…、ねえ!!!」
 背中に冷たいものが流れる。
 恐怖感と余りにものショックに、心臓が飛び出してしまうのではないかと思った。
 何もいえなくて、息をするのがやっとだ。
「カトリオーナ…」
 今のアンジェリークにしてあげられることは、目を見開いたままの彼女の瞳を閉じてあげることだった。
・・・皆に、皆に…」
 脚を竦ませながら、アンジェリークはカウンターを支えにして勢いをつけようとした。
 だが------
「・・・教授…!!!!」
 次に見つけたのは、教授だった。
 彼もまたピクリとも動かない。
 もう声が出なかった。
 何を発していいかすら判らない。
 アンジェリークは涙を浮かべながら、受付カウンターの開けっ放しの引き出しに手を伸ばす。
 そこには、カトリオーナが”護身用”として持っていた45口径の銃があり、それを手に取った。

 デスクワークの私だけれど・・・、たった一度だけ、護身用の訓練を受けた・・・。
 今はそれだけが頼り…!!!

 ぐっと銃を握り締め縷縷と、アンジェリークは仲間たちがいる二階に向かう。
 足取りをゆっくりとし、慎重に昇っていった。
「ヘンリー、アンソニー、ミルドレッド?」
 名前を呼びながら、彼女は先ずはヘンリーのオフィス入る。
「ヘンリー…」
 そこにはパソコンの前で背中から血を流しているヘンリーがいた。
 彼女は唇を噛締め、彼が無事であるかどうか確認する。
 だが、答えは同じだった。
 遣り切れない想いを抱えながら、次は、いつも仲良くしていたミルドレッドを捜す。
「ミル!!!」
 ミルドレッドはパントリーで倒れていた。
 アンジェリークが買いに行ったランチを皆で食べるために、お茶を淹れている途中だったようだ。
「ミルドレッド…」
 アンジェリークは彼女を軽く抱き上げ咽び泣いた。
 一番仲良くしてくれていたとものしは、心臓が抉られるような気分になる。
 もう感覚が麻痺していた。
 ミルドレッドの死亡を確認した後、アンジェリークは身体をそっと床に横たえた。
 残りはアンソニーだ。
「・・・アンソニー・・・」
 きょろきょろと見渡すが、彼は見当たらない。
 不意にお手洗いに目がいく。
 アンジェリークは、ゆっくりとお手洗いを開けると、また言葉を失った。
 そこにはアンソニーが倒れており、彼もやはり、確認することもなく、死んでいた。

 …どうして…、どうしてこんなことが起こったの!?

 頭が混乱してしまい何が何だかわからない。
 だが、やるべきことはあった。
 アンジェリークは戻しそうになるのを何とか抑え、入局した頃に習ったマニュアルどおりに、自分の荷物を取って先ずは外に出た。
 もちろん、ジャッケットとポケットにはカトリオーナの銃を忍ばせている。
 あたりを彼女はきょろきょろと見る。
 行き交う人々全てが皆的に思えた。

 私たちが何をしたというの…!!!
 ただ、本部に言われて世界中の書物の分析をし、それをデータ化していただけなのに・・・。
 事件に巻き込まれることなんて、ありやしないはずなのに・・・!!!

 暫く走って、アンジェリークは手ごろな電話ボックスを見つけてそこに入った。
 話を聞かれないようにである。
 彼女は携帯を持っていたが、盗聴の可能性を考え、電話を手にとった。
 本部の電話番号を押す指も幾分か震えてしまう。
「はい。CIAオペレーション室」
「コレットです。アンジェリーク・コレット。”少佐”をお願いします」
 オペレーターの声にアンジェリークはほんの少しほっとして、名前を名乗った。
「コードネームを」
「あ、”Angel”です」
「では、”Angel”、どこからかけてきている」
「近くの公衆電話です」
 一瞬、オペレーターが間を空ける。
「マニュアルを読まなかったか? 盗聴されない回線を使ってくるようにと」
「判っています。
 けれども、あの状況では、事務所からは電話できなかったので」
 余りにもの事務的な反応に、アンジェリークは少しいらいらした。
「状況を報告せよ」
 オペレーターの声に、アンジェリークは気を落ち着かせるために生唾を飲み込むと、深呼吸を一度だけする。
「ニューヨーク支部第17課の本日出勤メンバーで、私以外が・・・殺されました・・・。私は、たまたま昼食を買いに出ていて、助かりました・・・」
 やっとのことでアンジェリークはいい、言った後も、深呼吸せずにはいられなかった。
 まだ心臓が酷く高まる。
「殺されたメンバーは」
「”教授”モーガン・ジョンソン、”ナイチンゲール”カトリオーナ・ダナウェイ、”先生”アンソニー・パワーズ、”キャンディ”ミルドレッド・クレヴス、”ボーイスカウト”ヘンリー・ハウスマン」
 一人一人の名前を噛締めるかのように、アンジェリークは名前をしっかりといった。
「了解。何か護身するものは持っているか?」
「”ナイチンゲール”の銃です」
「了解。今から2時間後に再び電話せよ。保護に行く」
 オペレーターは何事もないように無表情に言う。
「はい」
「ここから受話器を外したまま、立ち去ること。以上。2時間後に連絡を待つ」
 アンジェリークは受話器に向かって頷くと、受話器をそのまま手放して、電話ボックスを出た。

 オペレーターは電話後、すぐにボタンを押すと、支部長に伝える。
『ニューヨーク支部第17課で事件発生』

 来たか・・・

 電話ボックス殻出てきたアンジェリークを、煙草を吸いながらじっと見つめている銀の髪の青年がいた。
 青年は黄金と翡翠の異色の瞳でじっとアンジェリークを捕らえている。
 彼は煙草を足で揉み消すと、アンジェリークの後をそっとつけていく。

 アンジェリークにとって、最も長い72時間が、今、幕をあけた-------

 TO BE CONTINUED…
  

コメント

ハードボイルドサスペンスです。
アリさん出ましたが、ちょっぴん(笑)
コレから大活躍の予定です!
ご期待くださいませ〜!!

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