CHAPTER5


「で、様子はどうなんだ?」
 アリオスの異色のまなざしは光り、ウ゛ィクトールを捕らえた。
「リモージュとレウ゛ィアスの姿を見つけたオスカーは、ふたりを救いたい一心で”罠”にはまった。腕に銃弾を受けたが、幸いにも貫通していた。ただ、少し出血が多くて、病院で手当てを受けている」
 アリオスは、険しい顔を崩さなかったが、アンジェリークの大きな瞳には、明らかに動揺の色が隠せない。
「大丈夫だ、ふたりとも・・・」
 繋いだままの手を、アリオスはぎゅっと握り締めてやる。
「・・・うん・・・」
「行こう」
 彼に導かれて、アンジェリークは、アリオスと共に、長官室を出ていく。
「ルウ゛ァ、情報収集を頼んだ」
「はい、あなたのご期待に添えるように頑張りますよ〜」
 少し調子の外れたマイペースのルウ゛ァに、アリオスは少し苛ついたが、なるべく堪えた。
 ふたりは、再び閉口するようなセキュリティを潜り抜け、駐車場に向かい車に乗り込む。
「アンジェ、怖いか?」
 ふたりきりの時の彼は、この上なく優しい。低く甘いテノールで、気遣うように囁いてくれる。
「大丈夫。アリオスが一緒だから」
 彼の首に手を回し、アンジェリークはその思いを彼に伝える。
「一緒に頑張ろう」
「うん・・・・」
 誓いを立てるかのように、二人は抱き合った----

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 リモージュとレヴィアスは今、軟禁状態にあった。
「レヴィアス様、きっともうすぐお母様にお会いになれますからね」
 ぎゅっとしっかり抱きしめ、赤ん坊が怖がらないようにする。

 私が彼の従妹からなのか、扱いはかなり良い。
 食事もミルクも与えられている・・・。
 それだけが・・・、この絶望の中の唯一の救いだ・・・。

 ドアが開いて、アランが中に入って来るのが見え、リモージュはその身を固くした。
「なんだ、アンジェリーク、血の繋がった従兄にその態度は」
 リモージュは答えず、ただ彼をにらみ付ける。
「何だ・・・、その瞳は・・・。女王の犬をその通りの扱いにさせて、何が悪いんだ?」
 悪びれずに言う従兄に、彼女は胃が強張り、嫌悪感で胸が悪くなるのを感じた。
「何て顔をしている? そうだったね? 僕が撃ったのは、おまえの婚約者だったな? まあ、だれも僕の射撃の腕には適わない。オリンピックでゴールドメダルだからね」
「・・・地獄に落ちるわ、あなた・・・」
 リモージュはレウ゛ィアスを護るように抱き締めながら、睨む。
 だが、今まで穏やかだったアランが、一気に般若のような形相になった。
「神に裁かれるのは奴等だ! そのガキ・・・」
 背筋が凍り付くようなまなざしをレウ゛ィアスに向け、アランはゆっくりと近付いてくる。
 その憎悪からレウ゛ィアスを守るために、リモージュはさっと赤ん坊の頭を隠した。
「何が”生まれながらの王”だ。こんな王政が有る限り、僕らは永遠に国を牛耳れない。権力と利権をこの身に集めることが出来ないんだ!!  俺がアルカディアのトップに立てば、国は豊かになる・・・」
 ぎらりと、尋常ではない眼差しを向けられ、リモージュは全身に戦慄が走った。

 狂っている・・・。
 アランは狂っている・・・

「----いいか! ガキは殺す」
 リモージュが体を震わせた瞬間、それがレウ゛ィアスにも伝わり、一気に泣き出してしまった。
「ふぎゃあああ!」
「レウ゛ィアス様!」
 アランは赤ん坊の泣き声に舌打ちをすると、苦々しい表情になる。
「まだ、奴等をおびき出すために使うから、すぐには殺らない」
 不敵に笑うと、さらりと赤銅色の髪を揺らした。
 その仕草が、狂気的な美しさをかもし出している。
「また、場所を変えるよ? やつらを翻弄するために」
 アランはポケットに入っている通信機を取り出すと、それに向かって話しかける。
「ああ、オリウ゛ィエか? 二人をロングアイランドの”別荘”に運んでくれるかい?」
 リモージュは、大きな瞳に涙を浮かべ、俯く。

 これから私はどうなるんだろう・・・。
 助けて、オスカー!!!

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 アリオスは無言で目的地まで車を飛ばしていた。

 レウ゛ィアス、リモージュ、必ず助けてやる。
 俺が行くまで頑張ってくれ・・・。

 アリオスは横に座り、まっすぐ前だけを見つめているアンジェリークの様子を伺う。

 強くなった・・・。
 おまえがいるから俺もさらに強くいられる。
 車は、アランの別荘に差し掛かろうとしていた----


「頼んだ、オリウ゛ィエ」
「ちゃーんと送り届けるからね〜」
 リモージュとレウ゛ィアスを乗せた車は、静かに別荘から出て行く。

 あの軽さがなければ、使える男なんだが・・・。

「アラン様!」
 見送るアランに、部下が走ってやって来た。
「何だい、騒がしい」
「予定より早くやつらが来ました!」
 報告に、アランは歪んだ笑みを浮かべる。
「-----そう・・・、だったらご招待しなくっちゃね・・・。"死のパーティ”にご夫婦揃って・・・」
 彼は冷たくそう言うと、部下を睨みつける。
「僕のフェラーリをここに持ってきてくれ。今からパーティに招待するからね?」
「は・・・」

 元CIAだか何だか知らないけれど、あんたは目障りだから消えてもらうよ・・・。
 アリオス・・・


 アリオスの車が、別荘の門に差し掛かると、一大の車が、まるで挑発するかのようにでて来た。
「・・・!!」
 ほんの一瞬だけ見えた、運転手の素顔に、アリオスは眉根を寄せる。

 アランの野郎か・・・。
 俺に挑戦するなんて、いい度胸してるぜ・・・

「アンジェ、シートベルとしっかりしめて準備しておけ」
「・・・うん・・・!」
 彼女が手早くシートベルトをするのを見て、アリオスは速攻ギアチェンジをする。

 受けて立つぜ?
 何も知らねえ、”グッディ・グッディ”(おりこうさん)?

 アリオスは静かにフェラリーの後を追い始める。

 食いついてきたか・・・

 二台の車も戦いが、今、切って落とされようとしていた---- 
TO BE CONTINUED…

コメント

Lynne Sawamura様の『BAGDAD CAFE』開設記念のお祝いです。
リクエストは、「DESPERADO」の続編で、アリオスが、愛する妻子を護る為、
再び、ヴィクトール、オスカーたちと戦いに挑んでいく…。
ものの、第五回です。

 アランってサイテーですね。
次回から、カッコいいアリオスさん再び!
華麗なるドライビングテクニックです〜