CHAPTER11


「ルヴァ、2階の踊り場に来た」
 アリオスは、ピアスを押して、再びルヴァと通信を図る。
 片手はしっかりとアンジェリークの手を握り締めていた。
「はい。ではそのまま真っ直ぐ行ってください。そうすると重厚なドアが見えるはずです」
「アンジェ、行くぞ」
「うん」
 二人は、ルヴァに言われたとおりに、廊下をまっすぐ突っ切る。
 すると重厚なドアが見える。
「見えたぜ? ルヴァ」
「・・・はい、ではその中に入って、さらに左側の階段を上ってください」
「オッケ」
 慎重にアリオスはドアを開ける。
 だが当然のことながら鍵は掛かっていた。
 彼は苛立たしげに一度だけ舌打ちをすると、ポケットから針金を取り出し、それを鍵穴に差し込む。
 この針金は勿論普通の針金なのではなく、CIAの特殊技術で開発された、どのような鍵穴にも対応できるものだった。
 ただし、それなりの技術が必要ではあるが。
 すぐさまアリオスは鍵を開け、ドアのノブを慎重に回し、開ける。
 その際も、やはりアンジェリークの手をしっかりと引いて導いてやっている。
 この温かさが、この優しさが、アンジェリークは愛されると感じる一瞬だと思う。
 アリオスは、ルヴァに言われたとおりに階段を見つけ、それを上がりきった。
 すると再び廊下に出た。
「廊下に出たぜ? ルヴァ」
「はい、ではその廊下を左に曲がって一番奥のドアを開けてください…。そこがペントハウスです。ここは恐らく通信機能が使えないでしょう」
「サンキュ」
「神のご加護を、アリオス…、アンジェリーク」
「はい、ルヴァさん有難うございます」
 プツリと通信機が切れた。

 いよいよ・・・、アランと対峙するのね…

 二人は一瞬見つめあい、アイコンタクトを取って、頷きあう。
 信頼と愛情があればこそできることである。
 二人の愛の強固さは、誰にも邪魔することなど出来やしない。
 そのまま廊下を突っ切る。
 アンジェリークは、次のことを考えると、胸の鼓動が早くなっていくのを感じる。
 だがアリオスがずっと手を握って包み込んでくれているせいか、怖いものなどもうない。
 とうとうドアの前に来た----
「おまえは俺の後ろで待っていろ」
「…うん・・・」
 言われた通りに、アンジェリークはアリオスの精悍な背中に隠れる。
 彼はホルスターから銃を取り出し、片手で構えるとアンジェリークを守るように立った。
 その背中を見つめながら、 アンジェリークは泣きそうになる。

 何度…。私はこの背中に守られのだろうか・・・。
 あなたはいつでも私を守ってくれる…。
 有難う…。
 愛してるわ…、アリオス・…

 アリオスは、ゆっくりとノブを回し、慎重にドアを開けた-----
 刹那-----
 彼は、隙間から、天井に向って、コルトアナコンダ44マグナムのトリガーを引く。
 僅か数秒の出来事だった。
 爆音が轟き、その音でアンジェリークは思わず彼の背中を飛び出して、ドアの隙間から奥の様子を見る。

 光る…、雪…?

 ばらばらとガラスの破片が、まるで光る雪のようにゆっくりと床に舞い落ちる。
 同時に、黒い物体が音を立てて床に落ち、音をくすぶらせている。
「センサーだ」
 アリオスの低い声が聞こえて、アンジェリークははっと彼を見つめる。
「-----アンジェ…。これから何が起こっても驚くなよ…。何があっても、俺が絶対守ってやるから…!!」
「うん! 私もあなたを守るわ!」
 しっかりと頷く彼女が、アリオスは誰よりも頼もしい。

 あの事件で再会した頃。
 おまえはいつも不安に震えて、泣いてばかりいた…。
 強くなったな、アンジェ…。
 いい顔だ…。

「俺から離れるなよ」
「うん」
 二人は互いの手を再び取り合って、部屋の中に入っていた。
 そこにはもう誰もいない----
「やっぱりな…、そうだと思ったぜ…」
 アリオスはアンジェリークの手を引っ張り、中を瞬時に見て回る。
 椅子を確認して、まだここから出てあまり時間がたっていないことを確認する。
 ふと、明かりを感じて、アリオスは本棚の前にやってきた。
「隙間がある・…」
 彼はアンジェリ−クの手を一旦離すと、その隙間に向って、一発銃弾を打ち込んだ----
 すると-----
 隠しドアのロックが壊れ、ドアがゆっくりと開き始めたのだ。
「アリオス!!」
 ぐいっと再び愛するものの手を取ると、アリオスはそのドアを潜り抜ける。
 そこには地下への長い階段が仕組まれていた。
 二人は、どちらからともなくその階段を自然に降り始めた----

                    --------------------------

 遠くから足音が聞こえてくるのが、アランには判った----

 意外に早いお付だったね、アリオス…。
 ぼくも急がなければ…!!

 全速力で走り向けながら、アランは耳を澄ませる。

 足音はアリオス一つじゃない…?
 まさか…。
 女王が…!

 振り返りたい、だがアランは恐ろしくて振り返ることなど出来やしない。

 ぼくはオリンピックの射撃のチャンピオンなんだ…!!
 アリオスになんか負けるはずはない…!!

 アランは、愛銃スミスアンドウェッソンのM29をしっかり握りながら、入り口へと急ぐ。
 
 待ち伏せして、撃つしかないか…

 そのまま彼は入り口までたどり着くと、いったん外に出て、二人を待ち伏せた----


 足音が途切れた…

 アリオスは敏感にそのことを察知し、感覚を研ぎ澄ませる。
 出口と思われる扉が見えてきた。
「アンジェ…。俺が言ったから身体を伏せろ…」
「判った…」
 低い声は頼りに足るもので、アンジェリークは縋るように一瞬彼を見つめた。
 先ほどと同じペースで、アリオスはアンジェリークを引っ張って走りつづける。
 一瞬、光が見えた。
「伏せろ!!」
 頭を力づくで押さえられ、アンジェリークは彼と同時に伏せる。
 体が宙に浮いた時----
 二発の弾丸が、爆音を立てて発射された----
「うわあああっ!」
 声が響いたのはアラン。
 アリオスの弾丸はアランの銃を払い、その利き腕に傷を負わせた。
 そして----
 アランの弾丸は、間一髪、二人の頭上を飛び越えて、遠くに転がっていた。
 アランが立ち去る音がする。
「行くぞ!」
「はい」
 アンジェリークを抱き起こして、アリオスは入り口へと向った。
 そこには夥しい血液の跡と、アランの銃が転がっている。
 そのまま外に出ると、中庭に出た。
 アランが通った後には手からの血痕が残されており、それをもとに追ってゆく。
 血液は、プールに向って続いていた----
 二人はそのまま後を追い、とうとうプールサイドを走り奥へと進むアランを見つけた----
 背後からはヘリコプターの爆音がする。
「とうとう見つけたぜ? アラン!!」
 プールを挟んで、アランとアリオスが向き合う。
「クッ!」
 アランは舌打ちをして、奥の茂みに逃げ込もうとする。
 だが-----
 アリオスが、アランの足元に威嚇射撃を正確に行い、彼は全身に戦慄を感じ、動くことが出来なくなる。
 その上、アリオスは正確に射撃をして、アランの時計のバンドを飛ばしてしまう。
 アランは足元ががくがくと震えてくる。

 これほどの腕だとは…!!

「悪ィな、おまえはド素人の大会で一番かも知れねえが、俺はプロとしてメシを食ってたもんでな」
 不敵な笑みをアリオスは浮かべ、アランを見つめる。
「バカなことは止めて!! アラン!! あなたのご両親も、皆、、皆、哀しむわ!!」
 アンジェリークは、女王として、そして一人の母親としてアランに呼びかける。
 その声は魂の底からの叫びであった。
「…クッ・・・。何言いやがる・・・」
「え?」
 アンジェリークは戸惑った様な表情をアランに浮かべる。
「生まれながらの女王であるおまえに何が判るって言うんだ!! ぼくたち臣下は永遠に一番になれない! アルカディアを動かしていくことは出来ないんだ!!! その気持ちをおまえがどうしてわかるんだ!!!」
 アランは最後の手段とばかりに、アンジェリーク目掛けて、突進してくる。
「我が女王陛下の名のもとに、アラン…、おまえを反逆罪、横領罪、そして…、殺人教唆で、処刑する…」
 低い声がアランに突き刺さる。
 アリオスは、ゆっくりとアランの額に銃口を向け、トリガーを引いた----
 大きな水音がプールサイドに響き渡る。
 アランはそのままプールに落ち、仰向けになって浮かび上がる。
 即死だった…。
 そして----
 彼が手放したトランクが、ゆっくりと空き、そこからアルカディアの紙幣がプールに浮かび上がった。
 札束が、ばらばらになって、アランの亡骸を、まるでベッドのように包み込み、彼の揺りかごとなる。
「おまえらしい最後だ…、アラン…。
 俺は、おまえを許さねえ…。
 俺の愛する妻と、子供を苦しめた罪が一番大きい…」
 ポツリと呟くアリオスをアンジェリークはゆっくりと抱きしめてやる。
「今は俺は穢れているぜ、アンジェ…」
「穢れてなんかいない…。あなたは私の為に、レヴィアスのためにしてくれたことなんだから…」
 夜風が二人の髪を揺らす。
「アンジェ…」
 アリオスはアンジェリークの身体をしっかりと抱き返し、銀の髪を夜風になびかせていた----      
TO BE CONTINUED…

コメント

Lynne Sawamura様の『BAGDAD CAFE』開設記念のお祝いです。
リクエストは、「DESPERADO」の続編で、アリオスが、愛する妻子を護る為、
再び、ヴィクトール、オスカーたちと戦いに挑んでいく…。
ものの、第十一回です。
マグナムアリオスです。
プールサイドのシーンで、アランのしたいと札束が浮かび上がるのは、前から書きたかったものです。
長くなったな〜