
「ルヴァ、2階の踊り場に来た」 アリオスは、ピアスを押して、再びルヴァと通信を図る。 片手はしっかりとアンジェリークの手を握り締めていた。 「はい。ではそのまま真っ直ぐ行ってください。そうすると重厚なドアが見えるはずです」 「アンジェ、行くぞ」 「うん」 二人は、ルヴァに言われたとおりに、廊下をまっすぐ突っ切る。 すると重厚なドアが見える。 「見えたぜ? ルヴァ」 「・・・はい、ではその中に入って、さらに左側の階段を上ってください」 「オッケ」 慎重にアリオスはドアを開ける。 だが当然のことながら鍵は掛かっていた。 彼は苛立たしげに一度だけ舌打ちをすると、ポケットから針金を取り出し、それを鍵穴に差し込む。 この針金は勿論普通の針金なのではなく、CIAの特殊技術で開発された、どのような鍵穴にも対応できるものだった。 ただし、それなりの技術が必要ではあるが。 すぐさまアリオスは鍵を開け、ドアのノブを慎重に回し、開ける。 その際も、やはりアンジェリークの手をしっかりと引いて導いてやっている。 この温かさが、この優しさが、アンジェリークは愛されると感じる一瞬だと思う。 アリオスは、ルヴァに言われたとおりに階段を見つけ、それを上がりきった。 すると再び廊下に出た。 「廊下に出たぜ? ルヴァ」 「はい、ではその廊下を左に曲がって一番奥のドアを開けてください…。そこがペントハウスです。ここは恐らく通信機能が使えないでしょう」 「サンキュ」 「神のご加護を、アリオス…、アンジェリーク」 「はい、ルヴァさん有難うございます」 プツリと通信機が切れた。 いよいよ・・・、アランと対峙するのね… 二人は一瞬見つめあい、アイコンタクトを取って、頷きあう。 信頼と愛情があればこそできることである。 二人の愛の強固さは、誰にも邪魔することなど出来やしない。 そのまま廊下を突っ切る。 アンジェリークは、次のことを考えると、胸の鼓動が早くなっていくのを感じる。 だがアリオスがずっと手を握って包み込んでくれているせいか、怖いものなどもうない。 とうとうドアの前に来た---- 「おまえは俺の後ろで待っていろ」 「…うん・・・」 言われた通りに、アンジェリークはアリオスの精悍な背中に隠れる。 彼はホルスターから銃を取り出し、片手で構えるとアンジェリークを守るように立った。 その背中を見つめながら、 アンジェリークは泣きそうになる。 何度…。私はこの背中に守られのだろうか・・・。 あなたはいつでも私を守ってくれる…。 有難う…。 愛してるわ…、アリオス・… アリオスは、ゆっくりとノブを回し、慎重にドアを開けた----- 刹那----- 彼は、隙間から、天井に向って、コルトアナコンダ44マグナムのトリガーを引く。 僅か数秒の出来事だった。 爆音が轟き、その音でアンジェリークは思わず彼の背中を飛び出して、ドアの隙間から奥の様子を見る。 光る…、雪…? ばらばらとガラスの破片が、まるで光る雪のようにゆっくりと床に舞い落ちる。 同時に、黒い物体が音を立てて床に落ち、音をくすぶらせている。 「センサーだ」 アリオスの低い声が聞こえて、アンジェリークははっと彼を見つめる。 「-----アンジェ…。これから何が起こっても驚くなよ…。何があっても、俺が絶対守ってやるから…!!」 「うん! 私もあなたを守るわ!」 しっかりと頷く彼女が、アリオスは誰よりも頼もしい。 あの事件で再会した頃。 おまえはいつも不安に震えて、泣いてばかりいた…。 強くなったな、アンジェ…。 いい顔だ…。 「俺から離れるなよ」 「うん」 二人は互いの手を再び取り合って、部屋の中に入っていた。 そこにはもう誰もいない---- 「やっぱりな…、そうだと思ったぜ…」 アリオスはアンジェリークの手を引っ張り、中を瞬時に見て回る。 椅子を確認して、まだここから出てあまり時間がたっていないことを確認する。 ふと、明かりを感じて、アリオスは本棚の前にやってきた。 「隙間がある・…」 彼はアンジェリ−クの手を一旦離すと、その隙間に向って、一発銃弾を打ち込んだ---- すると----- 隠しドアのロックが壊れ、ドアがゆっくりと開き始めたのだ。 「アリオス!!」 ぐいっと再び愛するものの手を取ると、アリオスはそのドアを潜り抜ける。 そこには地下への長い階段が仕組まれていた。 二人は、どちらからともなくその階段を自然に降り始めた---- -------------------------- 遠くから足音が聞こえてくるのが、アランには判った---- 意外に早いお付だったね、アリオス…。 ぼくも急がなければ…!! 全速力で走り向けながら、アランは耳を澄ませる。 足音はアリオス一つじゃない…? まさか…。 女王が…! 振り返りたい、だがアランは恐ろしくて振り返ることなど出来やしない。 ぼくはオリンピックの射撃のチャンピオンなんだ…!! アリオスになんか負けるはずはない…!! アランは、愛銃スミスアンドウェッソンのM29をしっかり握りながら、入り口へと急ぐ。 待ち伏せして、撃つしかないか… そのまま彼は入り口までたどり着くと、いったん外に出て、二人を待ち伏せた---- 足音が途切れた… アリオスは敏感にそのことを察知し、感覚を研ぎ澄ませる。 出口と思われる扉が見えてきた。 「アンジェ…。俺が言ったから身体を伏せろ…」 「判った…」 低い声は頼りに足るもので、アンジェリークは縋るように一瞬彼を見つめた。 先ほどと同じペースで、アリオスはアンジェリークを引っ張って走りつづける。 一瞬、光が見えた。 「伏せろ!!」 頭を力づくで押さえられ、アンジェリークは彼と同時に伏せる。 体が宙に浮いた時---- 二発の弾丸が、爆音を立てて発射された---- 「うわあああっ!」 声が響いたのはアラン。 アリオスの弾丸はアランの銃を払い、その利き腕に傷を負わせた。 そして---- アランの弾丸は、間一髪、二人の頭上を飛び越えて、遠くに転がっていた。 アランが立ち去る音がする。 「行くぞ!」 「はい」 アンジェリークを抱き起こして、アリオスは入り口へと向った。 そこには夥しい血液の跡と、アランの銃が転がっている。 そのまま外に出ると、中庭に出た。 アランが通った後には手からの血痕が残されており、それをもとに追ってゆく。 血液は、プールに向って続いていた---- 二人はそのまま後を追い、とうとうプールサイドを走り奥へと進むアランを見つけた---- 背後からはヘリコプターの爆音がする。 「とうとう見つけたぜ? アラン!!」 プールを挟んで、アランとアリオスが向き合う。 「クッ!」 アランは舌打ちをして、奥の茂みに逃げ込もうとする。 だが----- アリオスが、アランの足元に威嚇射撃を正確に行い、彼は全身に戦慄を感じ、動くことが出来なくなる。 その上、アリオスは正確に射撃をして、アランの時計のバンドを飛ばしてしまう。 アランは足元ががくがくと震えてくる。 これほどの腕だとは…!! 「悪ィな、おまえはド素人の大会で一番かも知れねえが、俺はプロとしてメシを食ってたもんでな」 不敵な笑みをアリオスは浮かべ、アランを見つめる。 「バカなことは止めて!! アラン!! あなたのご両親も、皆、、皆、哀しむわ!!」 アンジェリークは、女王として、そして一人の母親としてアランに呼びかける。 その声は魂の底からの叫びであった。 「…クッ・・・。何言いやがる・・・」 「え?」 アンジェリークは戸惑った様な表情をアランに浮かべる。 「生まれながらの女王であるおまえに何が判るって言うんだ!! ぼくたち臣下は永遠に一番になれない! アルカディアを動かしていくことは出来ないんだ!!! その気持ちをおまえがどうしてわかるんだ!!!」 アランは最後の手段とばかりに、アンジェリーク目掛けて、突進してくる。 「我が女王陛下の名のもとに、アラン…、おまえを反逆罪、横領罪、そして…、殺人教唆で、処刑する…」 低い声がアランに突き刺さる。 アリオスは、ゆっくりとアランの額に銃口を向け、トリガーを引いた---- 大きな水音がプールサイドに響き渡る。 アランはそのままプールに落ち、仰向けになって浮かび上がる。 即死だった…。 そして---- 彼が手放したトランクが、ゆっくりと空き、そこからアルカディアの紙幣がプールに浮かび上がった。 札束が、ばらばらになって、アランの亡骸を、まるでベッドのように包み込み、彼の揺りかごとなる。 「おまえらしい最後だ…、アラン…。 俺は、おまえを許さねえ…。 俺の愛する妻と、子供を苦しめた罪が一番大きい…」 ポツリと呟くアリオスをアンジェリークはゆっくりと抱きしめてやる。 「今は俺は穢れているぜ、アンジェ…」 「穢れてなんかいない…。あなたは私の為に、レヴィアスのためにしてくれたことなんだから…」 夜風が二人の髪を揺らす。 「アンジェ…」 アリオスはアンジェリークの身体をしっかりと抱き返し、銀の髪を夜風になびかせていた---- |
コメント
Lynne Sawamura様の『BAGDAD CAFE』開設記念のお祝いです。
リクエストは、「DESPERADO」の続編で、アリオスが、愛する妻子を護る為、
再び、ヴィクトール、オスカーたちと戦いに挑んでいく…。
ものの、第十一回です。
マグナムアリオスです。
プールサイドのシーンで、アランのしたいと札束が浮かび上がるのは、前から書きたかったものです。
長くなったな〜
![]()