樹脂製クーリングファン
空冷のエンジンで剥き出しにはなっていないので、強制的にシリンダーとシリンダーヘッドに空気を送るためのクーリングファンがついています。700CCであるU型の昔から、これは全てアルミで出来ているものと相場が決まっていますが、ほんのわずかな時期、昭和43年2月から昭和43年5月まで、ミニエースの2Uに樹脂製のクーリングファンが使用されていることがパーツリスト上では確認されています。同じ物がスポーツ800の43年式にも使われていることになっていますが、そのようなスポーツ800を見たことがありません。 しかしどういう訳か、このクーリングファンを付けているスポーツ800が44年式には多く見られます。使用されているとされている時期とは大きく外れているのにです。部品番号は16361−10011。もちろん現在は補給していません。
ここで、この樹脂製クーリングファンにはいろいろと噂があるのですが、それらを実証的に検証してみましょう。
噂1.当時の樹脂は重く、アルミ製のクーリングファンと比べてもたいして重さは変らない。
同じ大きさのアルミ製クーリングファンと一緒に計って見たところ、アルミ製が750グラムに対して樹脂製が500グラムと樹脂製のものが250グラム軽くなっています。問題はこの250グラムという重量をどう考えるかということです。確かに実生活ではラーメンの麺2玉分ですが、エンジンに心得のある人ならもの凄い違いであると思うでしょう。因みに2Uエンジンのピストンがスタンダードで355グラムほど。これを強度を落とさずに10グラム落とすのはなかなか大変な作業であると言っておきましょう。内燃機屋さんがお金を取るのもうなずける仕事量です。となると、クランクシャフト上の重量で250グラム軽いというのは凄いことなのでしょう。
左が樹脂製クーリングファン。
右がアルミ製クーリングファン
噂2.樹脂性クーリングファンは極初期のUP10パブリカに使われていた。
UP10パブリカのクーリングファンと樹脂性の物を比べると、樹脂製クーリングファンは外径とファンブレードの高さが大幅に大きいことが分かります。そのままではUP10パブリカのクーリングシュラウドの中には入りません。よってこの噂は全くの嘘であると言えます。
さて、肝心の44年式になぜ多くの樹脂製クーリングファンが使われているかの謎解きです。事実を元にしていますが、飽くまで想像の域を出ていない事を申し上げておきます。この樹脂性のクーリングファン、全てが樹脂で出来ている訳ではありません。エンジンとボルトで止められるコアになる部分はアルミで出来ており、その回りを包むように樹脂でファンが出来ています。プラスチックの材質もなんだか一寸懐かしい感じ、昔のポリバケツに使っていたような感じの樹脂で、そうそう材質のいいもののようには思えません。実際にエンジンからファンを外してみると、樹脂とアルミの継ぎ目に亀裂が入っていることがほとんどです。多分エンジンからの熱で変形などしているのでしょう。ミニエースよりも空気の通りがいいスポーツ800でこうなのですから、ミニエースに至ってはこの傾向が顕著に出たのではないでしょうか。走行中にファンが割れるトラブルが続出して、やはりもとのアルミに材質を変更したと考えられます。
樹脂にした理由の一つにコストダウンが考えられますが、実際はアルミ製のものに比べて当時のお金で千円以上樹脂製のファンの方が高くなっています。当時はプラスティックの方が高かったのでしょうか?当然元値はこれよりも安いでしょうがコスト高になっていることには変りがありません。ミニエースに於いて短命だった理由はこれらの要因によるものと思われます。
しかし、既に作ってしまったファンをどうしようか?ミニエースよりも空気の通りがいいスポーツ800のならまだ多少大丈夫だろう、じゃあ使かっちゃうか…。そういう判断がなされた時に作っていたスポーツ800がたまたま44年式だった。という事で、44年式に樹脂製のクーリングファンが多く使われた、のではないでしょうか。
クーリングシュラウド
基本的にはそれまでの2U用のクーリングシュラウドを使っています。しかし、11型の前半のスポーツ800が43年までのクーリングシュラウドと同じものを使っているのに対して、11型の後半から22型では部分的にUP30用のクーリングシュラウドの部品が使われています。その筆頭が左右のシュラウドリア。2U用のシュラウドリアが複雑な形状のものであるのに対して、UP30用のものはあまり細工のないものになっています。
そして、ファンシュラウドサブASSYの上の部分に何故か2U−Cのステッカーが貼っている車が多いのが44年式の特徴です。しかし、実際にここが2U−C用、つまりUP30用のファンシュラウドが使われているかは疑問です。根拠はインレットファンケーシングの取り付けボルト穴の位置がUP30用のそれとは違うからです。では、何故2U−Cのステッカーが貼られているかというと、考えられるのはこの時期の2U−B用、すなわちミニエースに使用する分と分別したかったからではないかと言うことです。パーツリストでは分かりませんが、ミニエース用のファンシュラウドは上の部分にメインハーネスを止めるクリップがついております。つまり、2U−Bに使わないファンシュラウドには全てこの2U−Cステッカーを貼ってしまった。結果、2Uに使ったファンシュラウドにも2U−Cのステッカーがついてしまった、のではないかと言うことです。