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二松学舎大学/小説作法実践/作品紹介
<二松学舎>  星の形  亀田志織


206A (二松学舎の学生の作品はいずれも作者の了解を得て掲載しています)



戯曲

星の形

作・亀田志織



「少し、多め」

 妹
 兄
 

妹 まだ起きてたんだ。
兄 ああ。良く寝れなくて。なんか、書こうと思って。

  兄 水を飲む。

妹 なにしてたの?
  (テーブルの下に散らばる紙を拾う)
兄 いや、何も。

  兄 座る

妹 これ何書いたの?
兄 人間を、書いた。  

妹 お腹減ったね
兄 そうだな。
妹 なんか寂しいね。
兄 音楽でもかけようか。
妹 いいや。
兄 じゃあ歌おうか。
妹 歌うの?
兄 今日テレビ見たよ。
妹 何の?
兄 歌のやつ。
妹 アバウトだね。
兄 いい歌だったよ 
  覚えてないけど。

 兄 何かを一心に書き始める

妹 なんか歌おうか。

 音楽

妹 兄は人より少しだけ、脳みそが多い。
  だから人より少しだけ、敏感だ。離れ離れとかそういうので泣く。
 言葉でよく泣く。言葉にいつも縛られている。
 
兄 大きい声じゃ言えないけれど、今日ちょっとだけいいことがあったんだ。
妹 本当?別に大きい声で話していいよ。
兄 誰かに聞かれてたら嫌なんだよ。
妹 誰もいないよ。
 
  物音  

兄 しっ。ほらな。
妹 ねこだよ。  
兄 ねこの振りした誰かだよ。いいか。夜中って言うのは信用しちゃいけない。夜中の闇に紛れて、色んな奴が知らないふりして寄って来るんだ。簡単にな。夜の言葉は信用しちゃ行けないんだぞ。
妹 分かった。
兄 いい子だ。
妹 いいことって?
兄 今は言えないんだ。ごめんな。
妹 言いたいときでいいよ。
兄 お前は優しいね。
妹 妹だからね。
  
(B、Aを撫でる)

A わたしはお兄ちゃんのことが昔から好きだった。勿論性的な意味はない。お兄ちゃんの言っていることは、なにかが外れたような気がしていた。けれど、ほしい物があと少しの感覚で手にはいらない。それが常に入り混じっているように最近のお兄ちゃんは特にイライラしていた。
嫌な予感が、悪寒に変わる。


C ごめんください。(声だけ)

 C登場 

C お邪魔しますよ。
B 誰だ。邪魔するくらいなら帰ってくれ。
C そんなことは言わずに。
B こんな夜遅く何のようだ。夜の言葉は信用しないことにしている。帰ってくれ。
C 電話をかけたんですが。まったく繋がらないんですよ。
兄 電話なんて持っていない。相手が見えないと怪しくてたまらない。
そんなもの持っていない。
C おやおや。あなたから教えていただいた電話ですよ。
兄 いつだ。
C あなたが生まれたときです。
兄 口約束は簡単にする。それで場がどうにか収まるときもある。だが直接的な約束はしない。
妹 なんで?
兄 守る気が無いからだ。
妹 お兄ちゃんは正直だね。
兄 正直なんて言葉を俺に向けるな。約束なんて嘘だ。

  でんわがなる

妹 電話だ。
兄 誰だ。
C おやおや。電波ですか。先ほどかけた電話が今繋がったらしい。
兄(体のどこかから電話を取るジェスチャー)
もしもし。 
ああ。母さんか。いや、こっちはいつも通りだよ。気にしなくていい。何も気にしなくていい。大丈夫だから。ゆっくりするのがいいよ。うん。ご飯食べる。歯も磨く。水も飲む。うん。それじゃあ。また。今度はこっちから連絡するよ。
C そういうことです。
兄 今のは母さんの言葉だ。お前じゃないよ。
C しいていうなればご飯を食べて排泄をしなさい。
兄 何のことだよ。分かってる。俺は生きている。
C それはかろうじて知っています。
兄 かろうじて?
C 息をしているじゃないですか。
兄 息をすることが、それが生きること。
C ええ。そうですよ。
兄 そうじゃない。そうじゃない。
C  あなたはいつも、それを望んでいたんでしょう?
兄 いいか。そいつの言葉を受け取るな。耳を塞げ。簡単に信じるな。抵抗力をもて。
妹 (耳を塞ぐ)
C わたしが消えても他の誰かがやってきますよ。
兄 耳を塞ぐだけだ。
C いつまでも?
兄 いつまでも。必要である限り。
C 分かりました。
兄 そろそろ。静かにしてくれないか。そうぞうしい夜は嫌いなんだ。何も言うな。分かってる。帰ってくれ。

C かえります。

 C いなくなる 
兄 一身になにか書き始める。

妹 終わった?
兄 いい子だ。兄ちゃんが悪かった。大きな声で騒いだね。
妹 そんなことないよ。
兄 いいんだ。
妹 お兄ちゃん何か欲しいものは?
兄 いらない。
妹 なんでも良いんだよ。
兄 いらない。
妹 もうちょっとで誕生日でしょ。
兄 誕生日なんて消してくれ。いっそのこと産まれてこなかったことにしてほしい。一からやりなおしだ。
妹 そんなこと言わないでよ。
兄 ごめんよ。兄ちゃんが悪かった。

  電話が鳴った。

妹 電話だ。
兄 繋がる。



「星の形」

 女
 男

女 なんで?
男 なにが。
女 なんで電話に出てくれなかったの。
男 直接話してるんだからいいだろう。
女 今じゃないの。今話しているのは今じゃないの。
男 じゃあ、いつだよ。
女 今繋がらなきゃ意味がないの。
男 今、繋がってるだろう。
女 あのときの今じゃなきゃ意味がないの。あの時の今繋がりたかったの。
男 忙しかったんだよ。
女 鳴らしたのに。
男 ごめん。
女 何回も鳴らしたのに。
男 大事な用だった?
女 その時のわたしにとっては。
男 今はそうでもないんだね。
女 優しくないのね。
男 ならいいじゃないか。
女 今はだめなの。

男 お前の言いたいことが分からないよ。それじゃ、結婚はできない。
女 関係ないわ。わたしの気持ちを全て無視するのね。
男 関係ある。今じゃなくてこれからに関係ある。
女 あの時の今を見ないでこれからの話?
男 そうだよ。
女 何も分かっていない。
男 分かる言葉で語ってくれ。
女 わたしの中では分かる言葉よ。あなたが分かろうとしてない。
男 そんなことない。
女 何回も鳴らしたのに。
男 忙しかったんだよ。
女 何回も鳴らしたのに。
男 ごめん。
女 過ぎたことね。
男 今日は何日だ?
女 いつかよ。
男 五日か。

女 星の形を知ってる?
男 なんて星の形?
女 滅びた星の形。
男 滅びたものをどうやってみつければいいのかな。
女 簡単よ。眼を閉じるの。
男 真っ暗だよ。
女 真っ暗じゃないわ。
  暗闇の奥深くから光の線が紡ぐはずよ。
  点と点を結び合って一つの形にするの。
男 難しいな。
女 それが、滅びた星の形。
男 僕には見えない。どんな形をしてる?
女 いびつな、でこぼことした、平行四辺形よ。
男 それはまた、創造が難しいな。
女 点と点を結びつけて、繋げて。
男 点か。
女 過去と過去を結びつけて、今を作るのよ。だからこそ、一つの点を捨てられないの。わたしは、そういう女なのよ。
男 でこぼことした、いびつな形が君かい?
女 そうよ。それ以下でもそれ以上でもない、いびつな凸凹。
男 それが君か。
女 空洞を真ん中において、点と点を紡ぎあって
世界をあなたと、共有したいの。
男 空洞はなんなの?
女 円の中味。あなたと繋がっている証拠。
男 空洞を通して、ぼくらは繋がる?
女 繋がっているわ。


 「唄」

子ども
お母さん

子ども  いま、歌ってなかった?
お母さん お母さんには聞こえなかったわ。
子ども  高い声と低い声で歌ってたよ。
お母さん 男の人と女の人かしら。
子ども  男の人と女の人意外はいる?
お母さん そうねえ。お母さんは男と女しか知らないわね。でもね性別は関係ないのよ。
子ども  どおして?
お母さん 呼吸をしているでしょ。みんな。
子ども  呼吸をして、歌うんだね。
お母さん どんな歌だったの。
子ども  夕暮れのように悲しい唄だったよ。
お母さん 夕暮れは悲しいのかな。
子ども  二人の声が、微妙にずれてるの。それがすれ違った気持ちのようで悲しかったの。言葉の意味がずれているんじゃなくて、心がずれているの。沈んでいく太陽みたいに。
お母さん お母さんは夕暮れ好きだわ。
子ども  お母さんには分からないんだよ。心のおき場所が。
お母さん ごめんね。でもわざとすれ違っているのかもしれないわ。
子ども  ココロと心を、わざとすれ違わせるの?それじゃ交わらないじゃないか。擦れあわすことに意味があるんだよ。重ねるだけじゃだめなの。熱が発しないから。
お母さん 確認しているのよ。そういうことを、たまにしたくなるわ。
子ども  僕にはわからないよ。大人の事情なんて。
お母さん お母さんも分からないわよ。でも大人も子ども関係ないわ。一つの世界において。
子ども  世界はたくさんあるよ。
お母さん あなたの世界は、一つだけよ。
子ども  どんな形?どんな形なのかな。
お母さん 見つけに行こうか?
子ども  ああ。だからさっきの人達は、泣きながら歌っていたんだね。見つけ方が分からないから。
お母さん それは怖いことね。
子ども  言葉に涙がとけたら、それはすごく、悲しい唄だよ。しかもしょっぱい。
お母さん しょっぱい唄?
子ども  その言葉の響きは、なんだか残念だよ。
お母さん お母さん、君より言葉が下手ねえ。
子ども  僕が上手いからいいんだ。
お母さん ありがとう。
子ども  僕が大きくなって、背も伸びて、言葉ももっと上手くなって顔だってかっこよくなって、別々に暮らして、それでもお母さんは僕の傍を離れない?
お母さん 君はお母さんのお腹の宇宙から生まれてきたのよ。繋がっていたものをはさみで切ったの。物理的には切っていてもずっと繋がっているのよ。
子ども  ずっと?
お母さん ずっとよ。宇宙は、世界は一つなの。
子ども  僕らは繋がってる?
子ども  繋がってるわ。


  「箱」

 男
 男2

男  空いたか?
男2 だまって。
 
  二人ともじっと箱を見ている。
 
男  何もならないな。
男2 空かないな。空かないな。
  
 男2ぐるぐると回り始める。

男  何もならないな。
男2 回ってもダメか。
男  焦るなよ。
男2 あけなくちゃいけないのに。
男  それはお互い同じだ。
男2 どうしようか。
男  そうしようか。

 二人でぐるぐる回り始める。

男2 そうじゃない。
男  そうじゃないな。
男2 落ち着こう。
  
二人とも座る。

男  さてどうしようか。
男2 驚かすのはどうだ。
男  やってみよう。

  二人で大きな声を出す。

男2 だめだな。
男  だめだったな。
男2 どうしようか。
男  どうしようか。
男2 分かった。
男  どうした。
男2 いや。でも分からなかった。
男  なんだよ。
男2 あと、15分だ。
男  何かしないと。
男2 逆にしてみようか。

  男、ハコを逆にしてみる。

男  だめだったな。
男2 お金をわたしてみよう。
男  なぜだ。 
男2 俺たちに敵意はないことを示す。

  男、札束を渡す。

男  何か言っているか。
男2 いや、何も聞こえない。
男  逆に敵意をむき出した方がいいのか。

  男たち、銃を乱射

  しかし箱はなにも動かない。

男2 あと何分だ。 
男  あと10分だ。
男2 あと10分と思うか、まだ10分と思うか。
男  答えは二つではない。
男2 耳をすませてみよう。

  箱に耳をつける

男  歌が聞こえる。
男2 歌が聞こえる。
男  空けなくては。
男2 呼んでいる。
男  もしも空かなかったら?
男2 あけなくてはならないんだ。
男  何があっても。
男2 でなくては我々が壊れてしまう。
男  世界を壊すんだ。

 男 は 男1として世界に認識される。 
 男たちハンマーやのこぎりで箱を壊そうとする。

男1 俺は俺なのか。
男2 迷うな。
男1 箱は俺なのか。
男2 世界を壊さなくてはならない。
男1 なんなんだ。
男2 目の前にあることのみに惑わされるな。
男1 それは俺なのか?
男2 世界はいつも、いまここにあるんだ。
男1 開かないのに。
男2 耳をすませてみろ。

男1、耳を箱につける。

男1 悲しい歌が聞こえる。
男2 未知の世界に恐れるな。
男1 こわい。
男2 よく見るんだ。

 箱がひらく

男1 あいた。
男2 除いてごらん。
男1 水が、水だ。
男2 触れてみるんだ。

 男1はこの中に手を入れる。
 どんどん飲み込まれる手。

男1 手がっ。
男2 何に触れている?

男1 手と、繋がっている。


 「妹と兄」

 妹 
 兄

妹 ひいちゃうんだよね。
兄 どうした。
妹 いかにもそれっぽい感じをかもし出してさ、中身は全然ともなってないの。なんか違うんじゃないかって疑問は拭えないのだから。いつも思うんだ。多分世界の半分以上がそういう風につくられてて、こんな事言ってるわたしも結局はその中の一人なの。同じ視線で見られてるって分かってる。分かってるんだけど、違うって信じたい。
兄 寝ぼけてるな。わけ分からないよ。
妹 ひどい、夢見たの。
兄 どんな?
妹 なんか、グロテクスな夢。だから言いたくない。
兄 言わなくて良いよ。
妹 おにいちゃん何してたの?
兄 勉強だよ。
妹 なんのために?
兄 自信が無いんだよな。取り組んでる時間はかなり長いはずなのに、どうも自身が無いんだ。単純なことだよ。呼吸をするのと同じくらいで自然で。正しいことが何かわからないから勉強してるんだよ。
妹 難しいよ。
兄 愛だけは、たくさんあるはずなのにな。愛を与えすぎたのかな。難しいから、勉強してるんだよ。あ、もうこんな時間か。
妹 仕事は何時から?
兄 いつもと同じだよ。

にゃんにゃん

妹 猫かな。

兄 眠れないなら、牛乳飲むか?
妹 温かいの?
兄 砂糖も入れようか。

 兄 牛乳をコップに注ぐ。
 電子レンジに持っていく。

兄 眠れないときはホットミルク飲むのが良いんだよ。
妹 ありがと。

 牛乳をレンジから出す。
 妹の前におく。

妹 おいしい。 
兄 あまい?
妹 あまい。
兄 それ飲んだら寝なさい。
妹 道がね、ずーっと続いてるの。それをね、ずーっと歩いてるの。一人で、歩いてるの。
兄 なんの話。
妹 夢の話し。見渡す限り大草原の中、裸でほおり投げ出されている気持ちだった。
兄 そうか。
妹 すごい、グロテクスな夢だったよ。
兄 おかわりは?
妹 いい。これ飲んで寝る。
兄 幽霊って怖いと思うか?
妹 目の前にいたら怖いよね。でももし目の前にいても分からなかったら怖くないのかもしれない。
兄 目に見えないから、怖いんだ。だからお兄ちゃんは怖くないよ。
妹 でも目の前にいたら絶対逃げ出すよ。怖くて。
兄 多分な。
妹 どっち。お兄ちゃん今曖昧なこといった。
兄 どっちもだよ。どっちも怖い。
妹 目に見えても怖い。目に見えなくても怖い。
兄 そうだな。
妹 八方塞りじゃん。逃げ道が無いと息が詰まるよ。漠然とした不安が今、胸にあるの。
兄 逃げ道はあるはずだよ。
妹 結局は逃げるの。
兄 逃げたくないから今、勉強してるんだ。
妹 私は勉強したくない。
兄 お前の分まで勉強するよ。
妹 なんで?
兄 妹だから。どんな枠組みが出来ようとも、妹は、妹だから。
妹 そろそろ寝るね。
兄 暖かくして寝るんだよ。
妹 おやすみなさい。
兄 おやすみ
 
 妹 立ち去ろうとする。

妹 お兄ちゃん。
兄 ん?
妹 私とお兄ちゃん。
  本当に血が、繋がっている?

兄 「繋がっているよ。」

「世界の大きさ」

 父
 子ども

父   眠れないのか。
子ども うん、お父さん。何か物語聞かせて。
父   そうだな。じゃあ世界の大きさを測ろうとした人の話をしようか。
子ども うん。 
父   その人はいつも不思議だった。
   「今見ている自分の世界はどれくらいの大きさなんだろう」って考えていたんだよ。それでな、旅に出たんだ。
子ども 旅?
父   そうだよ。とりあえず、目の前にある道を前に進んだ。荷物は水と定規だけ持って。
子ども それだけ?
父   そうだよ。「自分に必要なのはこれだけだ」って言って家を飛び出した。
子ども 家族は心配するだろうね。
父   そりゃあすごく心配したんだ。けれど聞かなかった。頑固者だったんだな。
子ども お父さんみたいだね。
父   それから何ヶ月も帰ってこなかった。
子ども 世界を測ってたんだね。
父   そうだね。すごくすごく時間がかかった。
子ども どれくらいかかったんだろう。
父   お父さんたちの想像がつかないくらいの果てしない時間さ。
子ども その人はいつ帰ってきたの?
父   全てを測り終えた後だよ。
子ども 何ヶ月?
父   何ヶ月だろうな。
子ども 何年間?
父   何年間だろうな。
子ども それ以上が分からないよ。浮かばないよ。
父   あるときふっと帰ってきたんだ。家族はそりゃもう心配してたからびっくりした。
    「大丈夫だった?どうしてたの?」ってな感じにね。
子ども その人はなんて?
父   「世界を、測ってきた」って言った。
子ども 水だけで過ごしてたの?
父   それは分からない。けれど水だけで過ごせる人間はいないことは確かだ。
子ども それからどうなったの?
父   家族は聞いた。
    「世界はどれくらいの大きさだったの?」
    男はこういったんだ。
    
「世界を測ることは無理だった。前に進むたびに後ろに戻るようなものだ。家の前の道を
てもなくまっすぐに進んでみた。 どこまでもどこまでも続く果てしない道だった。そした
ら、家の裏についた。だから僕は今ここにいる。簡単なことさ。世界は終わりがないんだ。
果てしなく、どこまでも続いている。永遠に。」

子ども じゃあ結果は出なかったんだね。
父   結果は数じゃないよ。彼は立派な答えを見つけた。
子ども どんな?
父   世界は続いているんだ、っていうこと。
子ども どこまでも?
父   どこまでもだよ。
子ども 怖い。なんか終わりが無いのは、怖いと思う。
父   怖くないよ。私たちは世界の中で交わって生きているだろ。こうやってお前と話すことも交わっていることの一つなんだ。
子ども じゃあなんで怖いんだろう。
父   自由は怖いし。果てしないとは終わりがないということだから。人間は終わりがあるから生きてるんだよ。
子ども 果てしない中で僕たちは交わってるの?      
父   そうだよ。世界はまあるく続いている、繋がっていると分かったんだ。
子ども 僕たちは繋がっているの?
父   繋がっている。世界は繋がっているんだ。
    物差しで引かれた一本の直線のようなもので繋がってる。
 
「遺作」


妹 兄の遺作を見つけたのは兄が死んでからちょうど五日目のことでした。書きなぐられている文字の中に、そこにはまるで知らない人間がいました。


 お兄ちゃんの話は、よく分からなくて、ところどころに登場する 妹 という肩書きの女の子がわたしよりも幼く書かれていたので、兄にとって、わたしはこう見えていたんだなと、思いました。
 
寂しさと不安を消し去りたいがために。
ただ、生きることが、出来なくて直線で引かれた一本の線を、兄は自らの手で、終わりと名づけたのです。

そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない って。
 
 その日、わたしは初めて、泣きました。

原稿を抱きしめる。
幼い子どものように泣く。