2003/1/6開設
新しく発見した面白い規則と恒等式を示します。e^(x^2)に関連するものですが、やはり興味深い性質をもっていました。
まず今回発見した恒等式から示します。下記のものです。形から、交換型と名付けました。 E=e^(x^2)、∫Eは∫Edxの略、∫は、0-->x を積分範囲とする定積分です。
[恒等式(交換型)]
0∫E=xE-xE 1∫∫E=x∫E - ∫xE 2∫∫∫E=x∫∫E - ∫∫xE 3∫∫∫∫E=x∫∫∫E - ∫∫∫xE 4∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫∫∫xE ・ ・ さて、上の恒等式を眺めている分には、うーんまあまあだなあという程度と思います。 しかし、次の事実を知れば、興味が俄然わいてきます。 [移動の規則] 上の恒等式は、不思議な”移動の規則”をもちます。 例えば、上の 4∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫∫∫xE を例にとりますと、 4∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫∫∫xE 3∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫∫x∫E 2∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫x∫∫E 1∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫x∫∫∫E 0∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - x∫∫∫∫E 面白いでしょう? すごく興味深いですね。ただ、これが応用され役に立つのかどうかはわかりません。 右辺の右項のxを移動させましたが、右辺の左項のxを移動させると、今度は左辺の数字の前に−が付くことは 上を利用して簡単にわかりますが、これも面白い。 もちろん、下記のように他のものでもまったく同様に成り立ちます。 3∫∫∫∫E=x∫∫∫E - ∫∫∫xE 2∫∫∫∫E=x∫∫∫E - ∫∫x∫E 1∫∫∫∫E=x∫∫∫E - ∫x∫∫E 0∫∫∫∫E=x∫∫∫E - x∫∫∫E
この「移動の規則」は、恒等式(交換型)、すなわち、
n∫・・(n+1回重積分)∫E=x∫・・(n回重積分)∫E - ∫・・(n回重積分)∫xE -----@
の任意のnの式に対して成り立ちますが(nは正の整数)、この証明は、まず 1∫∫E=x∫E - ∫xE を証明した後、
部分積分と式の組合せにより、帰納的に証明することができます。
あるいは、1∫∫E=x∫E - ∫xE と恒等式(エルミート型)の一連の式を利用しても帰納的に証明できます(それら
の証明は略します)。
上の@式の左辺のnを式の次元と考え、@をn次元の式と呼びましょう。
たとえば、2∫∫∫E=x∫∫E - ∫∫xE ならば、2次元の式ということになります。上の具体例では4次元、3次元の場合
を見たことになります。
さて、私は、これらの事実を見つけて喜んでいました。
ところが、話しはこれで終わらなかったのです。つぎの、びっくりする事実を見つけました。 冒頭の恒等式を逆の順序で書いてみます。 ・ ・ 4∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫∫∫xE 3∫∫∫∫E=x∫∫∫E - ∫∫∫xE 2∫∫∫E=x∫∫E - ∫∫xE 1∫∫E=x∫E - ∫xE 0∫E=xE-xE ・
・
左辺の数字は無限大の整数nからだんだん落ちてきて、0でストップしています。
私は、0でストップさせるのがもったいなくなり、上はじつは、マイナスまでずっと沈み込んでいるのではないか?と
思いました。しかし、もう積分∫はこれで尽きている。はて?
そこで、右辺は、今度はマイナス側では微分で成立しているのではないか?と予想しました。 そしたら、本当に成立していたのです! つまり、次のように、+∞〜−∞まで、ずっと恒等式は全く同じ規則性で成立していました。Dは一回微分の意味です。
[恒等式(交換型)]
・
・ 4∫∫∫∫∫E=x∫∫∫∫E - ∫∫∫∫xE 3∫∫∫∫E=x∫∫∫E - ∫∫∫xE 2∫∫∫E=x∫∫E - ∫∫xE 1∫∫E=x∫E - ∫xE 0∫E=xE-xE -1E=xD(E)-D(xE) -2D(E)=xDD(E)-DD(xE) -3DD(E)=xDDD(E)-DDD(xE) -4DDD(E)=xDDDD(E)-DDDD(xE) ・ ・ さらにおまけがあります。上で示したxの移動の規則が、この微分の方でもちゃんと成立していたのです! 例えば3次元の場合、次のようです。
0DD(E)=xDDD(E)-xDDD(E)
-1DD(E)=xDDD(E)-DxDD(E)
-2DD(E)=xDDD(E)-DDxD(E)
-3DD(E)=xDDD(E)-DDD(xE)
この微分の場合と、積分の場合とを比べると、左辺と右辺で∫とDの数が逆転していることに注意してください。
面白い規則が成り立っているものです。
積分の移動の規則との対比を味わってください。どこまでも不思議さが残ります。
「恒等式(エルミート型)の発見」でe^(-x^2)でもきれいな一連の恒等式が成り立つことをさらに追加しましたが、
そのe^(-x^2)でも、同じ”移動の規則”が成り立つことがわかりました。
上のe^(x^2)と同様、e^(-x^2)でも全く同様の移動の規則が成り立っているのですからふしぎです。
(証明は恒等式(エルミート型)のe^(-x^2)の一連の恒等式から割合簡単に証明できます。考えてみてください。)
F=e^(-x^2)とおくと、例えば3次元の場合、次のようです。
3∫∫∫∫F=x∫∫∫F - ∫∫∫xF
2∫∫∫∫F=x∫∫∫F - ∫∫x∫F 1∫∫∫∫F=x∫∫∫F - ∫x∫∫F 0∫∫∫∫F=x∫∫∫F - x∫∫∫F
また微分の方も次のように完全に同じ規則で成り立っています(一つ上を見てください)。また具体的な計算でも確認
してみてください。とても面白いですね。
例えば3次元の場合、次のようになります。
0DD(F)=xDDD(F)-xDDD(F)
-1DD(F)=xDDD(F)-DxDD(F)
-2DD(F)=xDDD(F)-DDxD(F)
-3DD(F)=xDDD(F)-DDD(xF)
以上。
これまでの結果はもっと一般の場合のごく特殊な場合を見ているにすぎない、ということに気付きました。
あれこれ調べていて、じつは、恒等式(交換型)との移動の規則は、ベキ級数展開が可能な関数ならばその収束半径
内のxに対して常に成り立つことがわかったのです。
e^(x^2)やe^(-x^2)のみならず、 e^xやe^-xや、sinx、cosx さらに√(x+1)、x^2-3x-6、x^2・e^-3x などおおよそ考え
られ得る普通の関数は、すべて成り立ちます。
定理としてまとめておきます。
証明の概略を述べますと、f(x)=A・x^n (Aは定数、nは任意の実数)で恒等式(交換型)と「移動の規則」が成立する
ことを、部分積分と式の組合せを繰り返していくことにより、任意次元(上方の@式での任意のn次元式の意味)で帰納
的に証明します。次に、F(x)というべき級数展開可能な任意の関数を考え、それが、
F(x)=A0 + A1・x + A2・x^2 + A3・x^3 + ・・・・
と展開されることと、項別積分可能、項別微分可能であることから、f(x)=A・x^nで成立した事実を利用することにより、
F(x)に対ても、「移動の規則」が成り立つことがわかります。
注意:f(x)=A・x^n でnが任意の実数であることに注目すると、じつは、√x や x^(-1/3)などのベキ級数展開できない
関数群でもこの定理は成り立つことがわかります。
以上。
追加2003/9/4 <∫∫f(x) + 2∫∫∫f(x) + 3∫∫∫∫f(x) +・・・=e^x∫∫e^(-x)f(x) の発見!>
恒等式(交換型)を利用することにより、任意の関数f(x)に対して、次の
∫∫f(x) + 2∫∫∫f(x) + 3∫∫∫∫f(x) +・・・=e^x∫∫e^(-x)f(x) ------@
という非常に美しい式が成り立つことが分かりました。
f(x)の収束半径内のxに対して@が常に成り立ちます。ここで∫の積分範囲はすべて0〜x。∫f(x)dxのdxは略。
[私が上式を導いた道順(証明)]
どうやって導くかですが、私は恒等式(交換型)を用いれば、なにか面白いことができないだろうかと考えていました。
そこで、気になったのがe^xに関する公式の発見 その3で発見していた次の定理3のなんともふしぎな式でした。
定理3
G(x)は、無限級数展開したとき収束半径がrである関数とすると、その半径内のxにおいて、次が成り立つ。 e^x∫e^(-x)G(x)dx=(∫+∫^2+∫^3+・・・)G(x) --------A ここで∫の積分範囲はすべて0〜xである。
A式は驚くべき式ですよね。
さて、上方で説明した恒等式(交換型)の積分の部分を、ここでもう一度書きます。
・
・ 4∫∫∫∫∫f(x)=x∫∫∫∫f(x) - ∫∫∫∫xf(x)
3∫∫∫∫f(x)=x∫∫∫f(x) - ∫∫∫xf(x)
2∫∫∫f(x)=x∫∫f(x) - ∫∫xf(x)
1∫∫f(x)=x∫f(x) - ∫xf(x)
恒等式(交換型)は任意の関数f(x)に対して成り立つことを上方で示したので、ここではf(x)と関数らしく書きました。
さて、この一連の恒等式を上から下まで全部足し合わせてみましょう。
∫∫f(x) + 2∫∫∫f(x) + 3∫∫∫∫f(x) + 4∫∫∫∫∫f(x) +・・・
=x(∫+∫∫+∫∫∫+・・・)f(x) - (∫+∫∫+∫∫∫+・・・)xf(x) ----B
とこのようになりますね。
このBに、Aの式をあてはめますと、
x(∫+∫∫+∫∫∫+・・・)f(x) - (∫+∫∫+∫∫∫+・・・)xf(x)
=x(∫+∫∫+∫∫∫+・・・)f(x) - (∫+∫∫+∫∫∫+・・・)xf(x)
=xe^x∫e^(-x)f(x) - e^x∫e^(-x)xf(x) -----C
となります。
さて、Cの右辺ですが、∫e^(−x)xf(x)に対して、部分積分を実行すると、
∫e^(−x)xf(x)=x∫e^(-x)f(x)- ∫∫e^(-x)f(x) -------D
となることはすぐにわかります。
よって、DをCの右辺に代入して、結局、
x(∫+∫∫+∫∫∫+・・・)f(x) - (∫+∫∫+∫∫∫+・・・)xf(x)
=xe^x∫e^(-x)f(x) - e^x{x∫e^(-x)f(x)- ∫∫e^(-x)f(x)}
=xe^x∫e^(-x)f(x) - xe^x∫e^(-x)f(x)- e^x∫∫e^(-x)f(x)
=e^x∫∫e^(-x)f(x)
とこんなにきれいになるのです。よって、結局、Bは、
∫∫f(x) + 2∫∫∫f(x) + 3∫∫∫∫f(x) + 4∫∫∫∫∫f(x) +・・・=e^x∫∫e^(-x)f(x)
と、きわめて簡明な形になってしまったのです。このシンプルさには、ちょっと驚きます。
証明終わり。
注意:私は、いつも実数平面で考えていますから、「任意の関数」などと言った場合は、実数平面上での関数という意味
です。
別証明
上の証明の後に、別の方法で簡単に証明できることに気付きました。
e^x∫e^(-x)G(x)dx=(∫+∫^2+∫^3+・・・)G(x) --------A
じつは、このAだけを用いて、@を出すことができるのです。
Aは、作用素=作用素の形で書けば、
e^x∫e^(-x) =∫+∫^2+∫^3+・・・
ですが、この作用素をAに辺々かけると、
e^x∫e^(-x)e^x∫e^(-x)G(x)dx=(∫+∫^2+∫^3+・・・)(∫+∫^2+∫^3+・・・)G(x)
これを整理するだけで、簡単に@が出てきます。この証明に比べれば、はじめの証明はじつに遠回りをした証明である
といえます。
幾多の登山ルートをたどっても頂上がいつも一つであるのは数学の特徴であり、とても気持ちのよいものです。
そして、同様の操作を繰り返すことによって、@とAを一般化した公式を出すことができますが、省略します。
別証明終わり。
Aは任意の関数f(x)に対して、成り立つのですから、例えば、f(x)=e^xなどのもっとも簡単な場合で、実際に
手計算で計算してみてください。ちゃんと成り立っていることにびっくりしますね。
証明されているのですから、成り立つのは当たり前ですが、それでも具体的にえんえんと計算して「ああやっぱり
成り立っているんだ!」と実感できた瞬間は、とてもうれしいものです。
画家の安野光雅氏が、雑誌「数学のたのしみ」につぎのような面白いエッセイを書かれていました。
これは気になります。
・・・・・・
フランスのある安宿で、イギリス人のご夫妻と一緒になった。奥さんの方はチーズが嫌いという珍しい
英国人だった。
そのご主人が言うに、
「言葉は文化である」
「英語が世界に通用する言葉となっていることを、わたしは必ずしも喜ばない。なぜなら、
世界に通用するようになってから、英語は乱れに乱れた。」
「英国固有の文化が薄れていくことが悲しい」
「言語は固有の、誇るべき文化なのだ。つまり方言こそ文化なのだ」
「英国も数えきれないほどの方言に分かれていたし、いまも方言は生きている」
「イングランドといっても、言葉が通じない相手がいる」
「それぞれ自分の国の言葉を大切にしなければならない」
というような話になった。
まったく同感で、「方言という文化」が次第に消えていきつつある日本のことを思わないわけ
にはいかなかった。
・・・
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このエッセイには考えさせられるものがありました。
グローバル化、国際化が叫ばれて久しく、私たちはそれを当然のように思っていますが、
はたして、これがほんとうに正しい道なのでしょうかね?
M.S.
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