商業誌に発表したエロまんがをまとめた本。生身の女性の姿−あるいはそう見せかけたいつわりの姿、かもしれない−をテンポよく描いた短編が、これ1冊でたくさん読める。
もともとエロは数読んでないけれど、読んでてこれだけおもしろいと思ったのは初めて。お徳用。
若い女と逃げた父、その父が交通事故で入院したのを知って病院に駆けつけてしまった母。残された主人公の女子大生には、4歳上で4浪して同じ大学にいる兄と、中学3年の頭のよくない弟がいて。
悲惨ともいえる設定ながら、妙にほのぼのと間の抜けた全体の雰囲気。兄弟三人が家路にむかうラストシーンもいい。
変で困りものの人たちを描いて、かつあたたかいというへんてこなまんが。
たぶん精神病院から脱走した声の出ない少女と、たぶん知恵遅れの怪力少年の話。
表情の描き分け、コマ割りのセンス、薬の禁断症状の描写、フェイドアウトするラストシーン。どこがどうすごい、とことばにできるレベルを超えてしまっている。
そうはお目にかかることのできない傑作。天才のまんが。
怜悧で冷めている女性(20歳くらい)が主人公。怜悧で冷めていて、自分を突き放して見ていてもつらいものはつらいし、感性が豊かな分感じなくてもいいものまで感じとってしまう。自分がおかしくなるんじゃないかと思ったりする。
そういう姿を混ぜものなしに、よく読むとかなり丁寧に描き写している。絵・吹き出し・コマ割りと卓抜したセンスはすばらしいけど、それだけに目を奪われてはいけないのだろう。再読して反省。
ひねくれた少年たち、変な先生、どこの国のかわからん建物。こういうの勝手に「にせ学校もの」と呼んでいるのだけど。
こういうまんがはそのひねぶりや変さがどの程度のものかが命。作者ばかり変だと思ってる凡作もこの世にはたくさんあるけど、これは絵・内容ともまずは文句なし。センスがあるから描けるまんが。
離婚した両親それぞれに引き取られた兄と妹。別々に住むようになっても会い続けるうちに6年がたち、お互いに異性として意識するようになって。
わりとよくある設定だけど、最後まで正面を向かない兄とまっすぐ進む妹がうまく描けてる。いや、それよりこの絵。太い描線の丸みを帯びた絵は、眺めてるだけでめろめろになる。降参。
ハードSF。設定の説明がないうえに長編の一部であるのでかなりわかりにくい。内容的には半分も把握できてないと思うけど、切れ味のいい絵は眺めるだけでも気持ちいい。完成されたときどんな物語になるのか楽しみ。
人喰いテーマのスプラッタ・アクション。こちらはやや話がわかりやすい。
コミックワンダー誌に掲載されたもの(未完)のリテイクとのことで、まだ話の前半だけだけどこれまた絵だけでも楽しめる。もう少しだけわかりやすく妥協したら、多くの人に受け入れやすくなるかもしれない。そうしたほうがいい、というのではないけど。
可笑しいテーマをスマートに描けば、可笑しなまんがになるわけで。
排泄物が巨大だったり大量だったりしたとき、なぜにわくわくするのだろう。
笑わない主人公のOL。彼女が残業逃れの口実のためだけにつきあいだした年下の男性。はじめは口実のためだったけど、だんだんと情が移って。でも‥‥
内容的にはいくらでも悲しくできる話。でも、あえてさらっと描いて終わりにしていることで、かえって泣いたり騒いだりしない主人公が光ってみえる。不思議な読後感のよさが気持ちいい。
閉じた世界にこもりつづける高校生の女の子たち。偶然遭遇した男の子たちに結界を破られてさらに固く世界を閉ざすのだけど、いつまでもここにいられないことはわかってて。
寓話ともまじめな話ともいかれたまんがとも、どうとでもとれるあやふやな内容がおもしろい。このひとのまんがは独特の世界を持っている。
左手をなくした女の子と、頭をなくした男の子。そんなに不都合はないけれど、でもどうしてなくなったのか。
「あなたがいて わたしがいる」というテーマのSFがあったけど、まあそういう話。さらりと読めます。ペンで描いてあるともっとうれしい。
荒れ果てた建物にひとり住む少女・キリエ。なぜか建物で見つかる缶詰、たまっていく大量の空き缶。
食べるとなくなる缶詰。食べることの意味、食べないことによる空腹、「あといくつあればいいんだろう」という自問‥ふわふわと考えながら、見つけた大量の缶詰の上で幸せに眠る少女。
ぽん、と提示された世界が魅力的。独特の絵柄もうまく合っていると思う。
登場するのは2人だけ。梅田(男の子)と廣瀬(女の子)、顔馴染の、たぶん部活の先輩後輩。
いつものように無駄口たたいて、不意に梅田の言った「ほどいて見せてくんない」の言葉にどきっとして、でも無駄口たたきながら三つ編みをほどいてみせる廣瀬。「こんなんですけど…」という廣瀬への答えを、ややあって軽口で紛らす梅田。
たぶんこのあとはまたいつもどおりの時間が過ぎて、そのまま月日は流れて、でも5年たっても10年たっても記憶に残る。
そういう出来事を、そっとすくってそのまままんがにした感じ。余計なものは何も混ぜず。
そう、そのころはパソコンはマイコンだったし、フロッピーなんてなくてカセットテープだったし、プログラムは雑誌に載ってるのを泣きながら打ち込むものだった。8001があってパピコンがあって、FM7があってMZがあって。パソコン売り場でそれらに触れるだけで楽しかった。
加古川にも星電社あったのかな。それとも別の名前?個人的にひたすら懐かしい。
ところで後編は?
藤田と梅田と廣瀬、3人の播磨弁での掛け合いが楽しい。高校の部活の、ほこりくさい教室の雰囲気が懐かしい。こういうのもっとたくさん読めると楽しいなあ。
夏、青空、高圧線。風の匂い、草の匂い。そんなものが読むとひろがる4ページの掌編。
死ぬまで子供な男の子を、その無垢さゆえ選べなかった女性。かわいらしい絵もいいけれど、話の組み立て、コマの割り方が上手。8ページの小品だけど読ませるのは、このあたりのうまさだと思う。
遊星の突入のために、あと3日で滅びる世界。混乱する社会の中で、ゲームしたり桃缶食べたり話をしたりして過ごす2人の少女。
「少し寝るといいよ…目がまっ赤」「うん…そうだね まだ明日があるもんね」というラストの会話。
もし現実に世界の滅亡がやってきたら、こんなふうに静かにその時を迎えられたらいいなと思う。わたしにとっての理想。
このままの内容で絵本にしたら、上質の絵本童話になる。そんなまんが。芸風の広い作者の絵はこういうのを描かせてもみごとに雰囲気を出している。とってもよい。
かきなぐったような適当な絵、わけのわからんでららめな内容。分類すればたぶんギャグまんがなんだろうけど、どこかほのぼのとした読後を与えてくれる。これまた不思議なまんが。
絵と内容から考えて、西川智=小田智じゃないかと思うんだけど。違うかな。
人間迷い出すときりがない。ひまな人間は迷うひまもたくさんあるから、はまり方もそれだけ深い。
さんざん迷い迷った挙げ句に達する「ああ、もう、どーでもいいやぁ」感は、でも解放感があって妙に快感だったりする。そんな迷う女の子2人のおはなし。そのまんま描いた感じがいい。ちなみにこの絵、個人的にどんぴしゃり。
西遊記モチーフのアクション。アクションだからガーッと読ませられるかが勝負で、それをきれいにクリアしている。絵もテンポもいい。痛快。
ぼくは親に嫌われてるんじゃないだろうか。ほんとうは、いてもいなくてもいいんじゃないだろうか。
そんな風に思ったことのない子供は幸せである。思った子供は明るい子供になる。明るくて人を笑わすのが好きでだれからも好かれて、そうでないと生きていられないと思うから。人に嫌われることにいつもおびえながら子供は毎日を過ごす。
そうやってかかえた傷は一生治せないけど、傷とつきあいながら生きていくことはできる。子供がある日そこにいてもいいことに気づいたなら。それに気づくことができる環境があったなら。
傷をかかえた主人公とその母親。主人公をひきとった伯父夫婦と体の弱いいとこ。それぞれの人を描いて、生きていくことのしんどさを、時にオーバーアクション気味に描きながらうそくさくもなく、似非ヒューマニズムにも陥ってないのは、このまんががうそを描いてないからだと思う。こんなしんどいのよく描くと思う。素晴らしいまんがだと読むたびに思う。
30歳の沈滞し閉塞した気分をそのまま描き写したまんが。
20歳から30歳の10年間で、いろんなものが10年分衰えた。得たものも大きいけど失ったものも大きい。これから10年生きるごとに、同じだけ失って、くたびれていくんだろうか。
独特のラフな線で描かれた、妙にリアリティのある高校ラブコメ。カップルの2人に振り回される男の子がおかしい。
「だってさー 自分のすごい思い込みでしかなかったものが現実になっちゃうんだよ。夢みたいだけど ほっぺたつねっても消えたりしないんだよ」
一度はこれと同じ思いを持った人、多いと思う。若いって…
3つ違いの兄と妹。男としての兄を意識し、兄とのセックスを望む妹。女としての妹を意識しつつも冗談じゃないと思う「良識的な」兄。実際にこういう兄妹はあんまりいない気がするのは、わたしもまた「良識的」だからか。生々しくこれも妙にリアルなまんが、ひたひたとした迫力がいい。
絞殺衝動に悩むヤク中の殺し屋と、地下から現れた女の子の形の魔物。
偶然出会った二人は、必然のように一緒に暮らすようになる。互いのことを深く想いながら。でも。
かげりのあるタッチで描かれた物語の収束する先は、想い合っていても宿命的に幸せになれない悲しさ。しっかりと締めくくられた、救いのないラスト。読みごたえのある骨太の力作。