ギターのフレット間の距離と数列
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その1 フレット間の距離と等比数列
ギターのエッジからフレットまでの距離を、各フレットごとに調べて一列に並べると、等比数列になる、という話を
初めて聞いたのは、確か1985年頃、田園調布ふた葉高校の足立久美子さんの実践だったと思います。
その後、私も何回か授業でやってみましたが、生徒のノリはとてもよかったです。足立さんの実践では、更に
等比数列で紙笛を作って最後はみんなで演奏会をするというように進むのですが、これも私は真似て
授業でもやったことがあります(大受けですが、笛がピーピー鳴るので隣のクラスに迷惑をかけないよう注意しましょう)。
さて、家にあったギターを使ってフレット間の距離を計測してみました。
これは、下表に示したように、公比約1.06の等比数列になっているようですね。
この1.06という数字は2の12乗根(約1.059)のことです。
項 | 音 | エッジからの距離 | 隣り合う2項の比 An+1/An | 1−An/(全体) | 分数近似 | ハーモニックス |
A0 | E(ミ) | 32.7 | 1.0581 | 0.5000 | 1/2 | ★(E) |
A1 | D#(レ#) | 34.6 | 1.0606 | 0.4709 | ||
A2 | D(レ) | 36.7 | 1.0599 | 0.4388 | ||
A3 | C#(ド#) | 38.9 | 1.0591 | 0.4052 | 2/5 | ☆(G#) |
A4 | C(ド) | 41.2 | 1.0582 | 0.3700 | ||
A5 | B(シ) | 43.6 | 1.0619 | 0.3333 | 1/3 | ★(B) |
A6 | A#(ラ#) | 46.3 | 1.0604 | 0.2920 | ||
A7 | A(ラ) | 49.1 | 1.0590 | 0.2492 | 1/4 | ★(E) |
A8 | G#(ソ#) | 52.0 | 1.0596 | 0.2048 | 1/5 | ☆(G#) |
A9 | G(ソ) | 55.1 | 1.0599 | 0.1575 | ||
A10 | F#(ファ#) | 58.4 | 1.0599 | 0.1070 | ||
A11 | F(ファ) | 61.9 | 1.0597 | 0.0535 | ||
A12 | E(ミ) | 65.6 | 0.0000 |
その2 倍音調弦と音階の話
ギターのチューニング(調弦)を行うとき、ハーモニックス(倍音)をとる方法があります。ギターのフレットを押さえないで、
軽く指を弦に触れた状態で弾いたとき、ポーンと音がでるポジションが、ハーモニックスの場所です。
上表にハーモニックスが鳴るところを★☆のマークをつけました(ただしこの位置は正確ではない。フレットと少しずれているところもある)。
調弦の時は、普通、12フレット、7フレット、5フレット(表ではA0,A5,A7)をよく用います(上表の★)。
上表において、1−An/(全体)というのは、全体を1としたとき、そのポジションが左から見て全体のどの位置にあるかを示した
ものです。さて、3つの★の位置を見てみましょう。1/2、1/3、1/4という調和数列(逆数が等差数列)に近似されます。
そして、音は主音からオクターブ、完全5度、となります。全体を同時に弾くときれいな和音(C調ではドドソ)になりますね。
ちなみに、弦の長さが1/2、1/4、1/8、1/16・・・となると、音程がオクターブ上がることと、
弦の長さの比が2:3のとき、(完全5度の)美しい響きになるということはピタゴラスが発見した事実です。
逆数が等差数列になる数列を調和数列(Harmonical Progressyon)といいますが、このようなことからきているのでしょう。
さて、では弦の1/3のところを押さえれば完全5度のキレイな音程が生まれることを利用して12音階を作ってみましょう。
1.ギターの弦の1弦(「ミ」)の音の1/3のハーモニックスは「シ」まず、ミからシが生まれた。
2.さて、「シ」はギターの第5弦である。これの1/3ハーモニックスは「ファ#」
3.「ファ#」の音ははギターの開放弦にはないのでどれかの弦を「ファ#」に調弦し、これの1/3倍音をとり「ド#」が生まれる。
4.以下同様の方法で、次々音を構成すると、
ミ→シ→ファ#→ド#→ソ#→レ#→ラ#→ファ→ド→ソ→レ→ラ→ミ
と12種類の音階がでてきて、ミで終結します。以下オクターブ上がって同じ音の繰り返しです。これで、12音階を構成できました。
5は12と互いに素なので、完全5度だけの考えから12音すべてを作り出すことができたのでした。
これについては、「等差数列の音楽」を参考にして下さい。
参考までにギターの6弦は低いほうから完全7度の順で音が配列されています。
次に上表の☆の部分に注目しましょう。これは、★よりはちょっと聞きにくいのですが、G#の音、つまり、主音をC(つまりド)に置き換えれば、
長3度(ミの音)が鳴っています。要するに、このハーモニックス☆&★で、トニック(長3和音)のドミソド(C調では)が響いているのです。
美しいなあ。
なお、☆の2つの位置は、1/5と2/5なので、(2倍になっているから)オクターブであることがわかります。
このようにハーモニックス(倍音)を用いる手法で作られる音階を純正律といい、これはピタゴラスの音階とはちょっと異なります。
(参考までに 純正律・・・1/5=0.2 ピタゴラス率・・・1-(64/81)=17/81=0.209877 平均率・・・1−2^(8/12)/2=0.206299)
弦の長さによって音階を作っていく必然性については、弦の長さと振動数が逆比例するという物理学の法則から説明されると思います。
この辺のことを詳しく研究し論じたのが、17世紀のサロンの学識僧メルセンヌなわけです。
なお、音階にまつわる話は、広島に河村旬一郎さんというとてもその辺に詳しい人がいて、その方が書いたものや、彼の発表などで聞いた内容を参考に
させていただきました。