未来の経済システム


エンデの遺言「根源からお金を問うこと」より
内容の紹介と私の意見。

標記の本はドイツのファンタジー小説作家、ミヒャエル・エンデがNHKのイ
ンタビューに答えたものを本にしたものです。インタビューはお金に関する内
容です。このインタビューのあと1年後の95年8月にエンデはガンでなくな
ってしまい、これが遺言になってしまいました。

お金について

「現在のマネーは利が利を生むことをもって至上としています。そして、労働
成果と自然資源を貧しい国から富める国へ移す道具となっているのです。今日
のシステムの犠牲者は、第三世界の人々と自然に他なりません。」

世界の国内総生産の総計は約3000兆円、貿易高の総計は800兆円です。
金融取引額の総計は30000兆円で、実体経済をはるかに上回る量でした。
90年代はコンピュータネットワークによって勢いを増したマネーの暴走にほ
んろうされた時代でした。

「重要なポイントはパン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所
で扱われる資本としてのお金は、2つのまったく異なった種類のお金であると
いう認識です。」

この本で紹介されているのは、通貨を交換の媒介手段、価値の基準という本来
の機能に立ち戻らせ、「利子」を排除する新たな通貨システムです。「利が利
を生む」マネーとは逆に、時の経過とともに減価していくシステムです。

利子貨幣制度のもつ弊害

エンデが財界人の会議に招かれたときの話です。彼らは、経済の破局を避ける
ためには経済成長が必要だという論議に明け暮れていました。そこで、エンデ
は「皆さんは今日一日、未来について議論してきたわけですが、思い切って、
100年後の社会がどうなってほしいか自由に話し合いましょう。」と提案し
ました。しかし、彼らのひとりが「まったくナンセンスです。われわれは事実
について話し合うべきです。それは、少なくとも年3パーセントの成長がなけ
れば、経済的に破滅するということです。」といいそれで終わってしまいまし
た。エンデはそのときのことを次のように語っています。「僕はただ彼らのひ
とりひとりが、たとえ自分のためでないにしても、自分の子供や孫のために、
どんな未来を描くのか知りたかっただけなんだ。」

成長の強制は資本主義国が共通に持っている「お金」の問題にあるのです。資
本主義の特徴は自由競争と民主主義といわれますが、本質は、「利子」なので
す。資本主義は工業とともに生まれました。工業には工場、敷地、機械など巨
額の資金が必要です。その資金を提供するのが資本家ですが、彼らはその見返
りとして利子を要求します。その利子を確保するために、成長を強制されるの
です。

ミレニアムにちなんで、2000年前に100円を年利3パーセントで預けた
としましょう。では、今いくらになっているでしょう。
計算方法は1.03の2000乗に100かけます。
答えは4725517875582860538868322753円。つまり4725兆円のさらに1兆倍です。
世界の総生産の1兆倍。世界のすべての人が1兆年働いて払える金額です。
私たちは資本主義が永遠に続くような錯覚を抱いていますが、これをみてもら
うと、こんなシステムは長続きするわけがないとわかります。もうそろそろ限
界にきているのです。

一般人にとっては利子による利益よりも損失の方が多いはずです。利子によっ
て搾取されています。借金のない人でも、間接的に搾取されているのです。た
とえば、企業が資本家に払う利子の相当分が自分が買う製品の価格に乗ってい
たり、自分のもらう賃金から引かれていたりします。利子による弊害をなくす
ために利子は無くさなければなりません。

少数の金持ちによってお金が独占され溜め込まれないようにするために、さら
にマイナスの利子を導入する必要があります。そうすることによって、お金は
溜め込まれずに世の中を廻っていきます。

年利をマイナス5パーセントにすると約80年で資産は約1パーセントになっ
てしまいます。つまり、ほとんど消えてしまうわけです。財産を子供に残して、
子供が働かずに生活することも防ぐことができます。

シルビオ・ゲゼルと自由貨幣制度

エンデは金融システムは人間が作り出したものだから、変革もできるはずであ
り、同時に過去のさまざまな試みの中に未来へのヒントがあるといいます。そ
して、シルビオ・ゲゼルの名をあげます。

シルビオ・ゲゼル(1862年〜1930年)はドイツの経済学者でした。ゲ
ゼルはお金は老化しなければならないといいます。物は朽ちたり錆びたりして
老化しますが、お金は永遠に老化しません。ここにお金と物との交換に不公平
ができるわけです。お金を持っているほうが優位な位置にたつのです。

ケインズはその著書「一般理論」のなかで、「シルビオ・ゲゼルは不当にも誤
解されている。われわれは将来の人々がマルクスの思想よりゲゼルの思想から
一層多くを学ぶだろうと考えている。」と書いています。

共産主義は資本家の搾取をなくすために、私有資本の廃止、計画経済、一党独
裁の3つを行いました。それに対して、資本主義は私有財産、自由経済、民主
主義の3つを主張しました。しかし、ゲゼルは資本主義の本質を利子であると
し、共産主義の3つを行わず、資本主義の3つの主張を認めたまま、利子を廃
止することによって、資本家の搾取を無くすことをめざしたのです。彼はこれ
を自由貨幣といっています。これは資本家に独占された貨幣を開放するという
意味です。

自由貨幣制度の実施例

ゲゼルの理論を実践し、成功した例があります。1929年の世界大恐慌後の
オーストリアのヴェルグルという町でのはなしです。町は負債を抱え、失業者
も多い状況でした。そこで町は老化するお金のシステムを導入したのです。1
ヶ月ごとに1パーセントずつお金の価値が減少するというものです。町民は毎
月1パーセント分のスタンプを買ってお金に貼らなくてはならないという仕組
みでした。月末を過ぎるとその月の欄にスタンプを貼らなくては使えなくなり
ます。このお金は持っていても減る(つまりスタンプを買わないといけない)
ので皆がそれをすぐに使いました。貯めることなく、経済の輪に戻ります。次
々に持ち主を変えるお金は高い購買力をもちます。2年後には失業者がなくな
りました。お金を借りても利子を払う必要がないので、皆がお金を借りて仕事
を始めました。町民の所得も増え、増えた所得税収入で町の負債もなくなりま
した。税収は8倍に増えたといいます。町は最初このお金を、公共事業を行い
失業していた人の賃金として出しました。その代わり、失業保険の支出はなく
なりました。公共事業を行なったおかげで町はきれいで便利になりました。ス
タンプの売上は貧困者の救済基金に充てました。このお金はだれも受け取らな
いだろうと思われましたが、皆が喜んで受け取りました。大不況の中、ヴェル
グルだけが繁栄する事態になりました。しかし、この制度は国家により禁止さ
れました。そのせいで、ヴェルグルは再び30パーセントの失業者を抱える状
態に戻ってしまいました。

交換リング

1929年の世界恐慌時、自由貨幣はスタンプ方式で実施されましたが、現在、ヨ
ーロッパのいろんな地域では交換リング方式で実施されています。

交換リングとは現金を使わず通帳上でモノや仕事を交換するシステムです。交
換リングは紙幣や硬貨を発行しません。会員同士が通帳を持ちモノや仕事を交
換するたびに値段を決めて記入します。

たとえばAさんがBさんにあるサービスを頼み、作業代として15単位を支払
うことで商談が成立すると、Aさんは通帳の支払の欄に15と書き、これまで
のトータルから差し引きます。Bさんは通帳の入金の欄に15を書き込み、こ
れまでのトータルに足しこみます。最後に互いに確認のサインをして取引完了
です。

交換リングに参加する人は口座を開設し、通帳を交付してもらいます。通帳交
付時に自分が提供できるモノやサービスの品目を主催者に申し出ます。主催者
はこれをまとめて、リストを作成し、会員に配布します。参加者は取引を行う
たびに、取引相手と相談し、値段を自分たちで決めます。

通帳交付時には残高は0です。口座にプラスを持っていなくても、取引を開始
することができます。取引によって単位が生じるので元手は不要です。上記の
例でいうと、A、Bそれぞれ残高が0だった場合、取引の後、Aは−15、B
は+15になります。交換リング全体の収支はいつも0になります。

交換リングの単位には利子がつかないので、残高がマイナスになっても、金利
で苦しむことはありません。個人個人が自分の判断とペースで取引を継続する
中でゼロに近づくように努めればよいのです。

交換リングではマイナスの限度額を定めていますが、その意図は、交換を促す
ことにあります。またプラスの口座から月に1パーセント差し引くシステムを
採用して、流通を促進しています。差し引かれた分は困窮者に配分されます。

これらのマイナスは悲観的なものではなく、むしろ共同体意識を生み出します。
交換リングでマイナスを持つということは、その分誰かに返さなければなりま
せん。(サービスを受けた人に返さなくてもよい)そこで新しい関係が生まれ
ます。施しものを恵んでもらわなくても、自分の力で手に入れることができる
という自信もでてきます。自分には3人も子供がいるから何も提供できないと
思っていた人も、カウンセリングができると気づき、人にやってもらうことを
躊躇していた芝刈りを気軽に頼めるようになりました。

交換リングのマイナスは普通貨幣の借金とは違っています。普通貨幣ではAさ
んがBさんから1万5千円のサービスを受けたとき、Aさんにお金がなければ
AさんがBさんに借金することになります。いずれ、AさんはBさんに1万5
千円を払わなくてはなりません。Bさんはその1万5千円が手に入らなければ
他の人からサービスやモノを得ることができません。このように普通貨幣では
モノやサービスの流れに停滞が起こる可能性があります。一方交換リングでは
Aさんの残高は取引前に0でも、取引後には、Bさんの残高は+15になりま
す。Bさんはその15を使って他の人からサービスやモノを得ることができま
す。Aさんは−15になりますがこれは借金ではありません。借りている相手
がいないからです。Bさんは既に15を得ています。交換リングでのマイナス
はただ他の誰かにサービスやモノを提供する義務を表しているに過ぎません。
このように、交換リングではモノやサービスの流れが停滞せずに済むのです。

不景気はモノやサービスがないからおきるのではなく、流れが停滞するから起
こるのです。この停滞の原因が利子を前提とした貨幣システムにあるのです。

交換リングはお金をお金の本来の姿にもどしただけです。お金とは自分がした
分受けることができるという権利を数値化したものです。プラスの単位はそれ
だけ受ける権利をあらわし、マイナスはそれだけ行う義務をあらわすだけ。つ
まり、自分が提供した分だけ受ける権利を持ち、自分が受けた分だけ提供する
義務をもつということです。

これは次世代共同体社会の経済活動を円滑に進めるものになると思います。将
来的には交換リングは電子マネー方式になり、もっと使いやすくなります。そ
して提供品目のリストもインターネットで閲覧できるようになります。働く人
はもはや企業というものに頼らなくてもよくなるのです。雇ってくれる企業が
ないから働けないということがなくなるのです。工業時代になって、領民が領
主から解放されたように、次世代共同体社会では、人は企業と利子(資本家)
から解放されるのです。

交換リングの利点

・通貨の循環量ということと無縁になり、不景気が起きません。

  不景気の多くは世間に出回る貨幣の量が不足していることから起こります。
  現在の日本の不景気も将来に対する不安から貯蓄する率が増え貨幣の量が不
  足しているから起きていると言われています。しかし、交換リングでは、も
  ともと紙幣や硬貨などのお金が存在しないので、そのようなことが起こりま
  せん。残高が0から始まり、取引の都度、数字が発生するというシステムで
  すから、必用なお金は取引ごとに作っていると言うこともできます。

・成長の強制がありません。

  資本主義社会は自由競争と言われていますが、実は利子によって、競争を強
  制されているのです。いわゆる強制競争です。自由貨幣制度では利子がない
  ので、競争も本当の自由になるのです。

・地域通貨のとしての役割を担い、地域の経済を活性化し、共同体意識を生み
  ます。また環境を守ります。

  交換リングは国家単位ではなく、市町村などの地域単位で実施できます。国
  家貨幣の場合、地域でのモノやサービスの消費は、必ずしもその地域の雇用
  には結びつきません。その地域でモノやサービスを提供している巨大資本企
  業が集めたお金は、中央に流れ、その地域の資源を奪っていきます。そのた
  め雇用や資源を求め、人が中央へ移動し、地域の経済が衰退し、過疎化が起
  こります。また中央に集まった資金は、巨大な開発に使われ、自然を破壊す
  ることさえあります。またその地域の人と人の結びつきは、巨大企業が間に
  はいるため、疎遠になります。交換リングによる地域貨幣制度はこのような
  欠点を解決できます。

・財政赤字と不景気対策(公共事業、減税)の矛盾を弁証法的解決します。

  国や地方自治体は景気対策として公共事業や減税をおこないます。しかし、
  このことによって国や地方自治体の借金が増えます。このように、景気対策
  と財政健全化は両立しないように見えます。ところが、自由貨幣制度はこの
  両立を可能にします。自由貨幣は公共事業や減税を行なうこと無しに経済活
  動を活性化します。経済活動が活発になると全体の所得や消費も増えますか
  ら税の増収で国や地方自治体の借金を減らすことができます。

・高齢化対策にもなります。

  少子高齢化の問題は、お年より(非労働者)を支える労働者が少なくなり、
  労働者1人が非労働者を支える負担が増えるということです。

  まず第一に、交換リングのでは企業の存在に頼らないので定年がありません。
  それぞれが能力に応じて働けばよいのです。インターネット技術がもっと発
  達して、より使いやすく、より高速になれば、家にいながら仕事ができます。
  寝たきりの人だって悩みのある人の相談にのるという仕事もできるのです。

  もう一つは、現在はコンピュータ技術が発達していますから、労働者の減少
  分は機械化による生産性の向上で補えるはずです。なぜ、それが高齢化問題
  に還元できないかというと、これも利子に関係します。つまり、機械化によ
  る生産性の向上の成果はすべて企業の利益となり、利子として資本家に還元
  されてしまうのです。交換リングでは、機械化による生産性の向上は困窮者
  に還元されます。機械は提供するだけで受けないので、単位がたまる一方で
  す。たまった単位は月に1回減価され、その減価分が困窮者に配分されるの
  です。

・人口爆発の問題を解決できます。

  人口爆発によって食料不足の問題が懸念されています。国家によっては、産
  児制限をして、解決しようとしていますが、これは根本的な解決にはなりま
  せん。まずは、人口爆発の問題と食糧不足の問題を分けて考えなければなり
  ません。

  食糧不足の方ですが、現在の世界の穀物生産力は世界のすべての人を養える
  力があります。しかし、現状は、飢えている人がいます。それは流通の問題
  です。穀物の中でとうもろこしは約6億トンの生産量があり、2億トンは人
  の食糧、4億トンが家畜のえさになっています。この家畜の飼料は肉製品と
  なって、豊かな人々の食卓にのります。一人分の肉製品を得るために、5人
  分の穀物が消費されます。家畜のえさにまわっている分の10パーセントを
  人に回せば、地球上に飢える人はいなくなる計算です。つまり、現在の制度
  下では、必要なものは、必要とする人へではなく、お金があるところに流れ
  ていくのです。交換リングでは、お金の量(つまり数値の残高)に関係なく、
  必要なつど、お金(つまり数値)を創造できますので、必要なものは、必要
  とする人のもとへ行くようになるのです。このことによって食糧不足の問題
  は解決できます。

  次に人口爆発の問題を見ていきましょう。利子貨幣制度による「搾取」と
  「成長の強制」は途上国の一般労働者の待遇を悪くしています。そのため労
  働力としての子供を多く必要とします。自由貨幣制度を導入することによっ
  て、彼らの待遇が改善されるので、労働力としての子供も必要なくなり、出
  生率も先進国並みのに落ち着いてくるはずです。

自由貨幣制度は実施可能か

経済の主軸が工業でなくなると自由貨幣制度は可能になります。工業社会では
巨額な資本を集めなくてはならず、利子という特典をつけないと資本を集める
ことができませんでした。情報やサービスを主軸にする今後の社会では、巨大
な資本を要求しないので、利子の必要性が薄らぐのです。

共産主義の社会が自由貨幣制度を実施できなかったのは、共産主義革命時はま
だ、工業に主軸をおいていたためでした。資本を国家に移すことによって、資
本家の搾取をなくすことになったのです。

貨幣の解放は、戦後の日本の農地解放に似ています。農地解放は、経済が農業
を主軸にしているときはできませんでした。工業に移行していたから、できた
ことでした。貨幣の解放も、工業を主軸にしているときはできないのです。情
報やサービスに主軸が移っているからこそ可能なのです。

共産主義は資本主義と共存はできませんでしたが、自由貨幣制度は利子貨幣制
度と共存できます。つまり、自由貨幣と利子貨幣を同時に流通させ、国民は自
分の好きなほうを使うことが可能なのです。利子貨幣制度の弊害を避けたい人
は自由貨幣を選ぶことができますし、一獲千金をたくらむ人は、利子貨幣を選
べます。こうすることにより、利子貨幣を選んだ人が、自由貨幣を選んだ人か
ら搾取ができなくなります。利子貨幣を選んだもの同士で競争をすることにな
ります。競争に負けたとしても、それは本人の選んだことですから損害は本人
の責任なのです。

共産主義と違って、この制度は私有財産を認められ、同時に、一般人は搾取さ
れません。また、計画経済でなく、自由経済であり、一党独裁でなく、民主主
義の中で実施できます。

自由貨幣制度は段階的な導入が可能です。まずは、非営利団体の中の会員同士
の間だけで始めるのが第一段階です。次に、都道府県や市町村などの地域通貨
として、導入します。これには、法律を変えなくてはなりません。しかし、か
つて公明党の提案で地域振興券が実施された実績があるので、不可能なことで
はありません。これが成功すれば最後に、国家や国際間に広げます。

利子貨幣制度と自由貨幣制度における成長の違い

利子貨幣制度では、成長は複利計算的(ねずみ算式)です。やがて、成長の破
綻が来ます。恐ろしい破綻は恐慌、貧困、戦争をもたらします。恐慌、貧困、
戦争などにより、累積された資本はゼロクリアされ、再び成長の余地が生まれ、
資本主義社会の存続が可能になります。そして、また複利計算的成長が繰り返
されます。一方、自由貨幣制度でも成長はありますが、自然な成長です。たと
えるなら、自由貨幣制度が普通の生物の成長とすれば、利子貨幣制度はガン細
胞の成長になります。恐慌、貧困、戦争によるゼロクリアを繰り返しながら、
資本主義を続けていくか、自由貨幣制度を導入して、恐慌、貧困、戦争のない
社会に移行するかのどちらかです。

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