ベビーシッター会のたとえと自由貨幣制度
著名な経済学者、ポール・クルーグマンは、その著書、「グローバル経済を動
かす愚かな人々」で、不景気の原因は市中に出回る通貨の量が少ないことにあ
ると説明し、次のような「ベビーシッター会のたとえ」を紹介しています。
「ベビーシッター会は働く若い夫婦のグループである。会のシステムは、メン
バーに1枚につき1時間のベビーシッター価値のあるクーポンを支給する。あ
る夫婦が夜外出をすると、その夫婦はベビーシッターをしてくれた夫婦に必要
なだけのクーポンを渡さなければならない。クーポンを得た夫婦は他の機会に
使うことができる。このシステムでは、頼んだと同じ時間ベビーシッターをし
なくてはならなくなる。このようなシステムが機能するためには、十分なクー
ポンが出回っていなければならない。ある夫婦は続けて何回も出かけたいかも
しれないが、その間ベビーシッターをする時間や機会をみつけることができず、
必要なだけのクーポンを得ることができないかもしれない。またある夫婦は予
定が定かでないため、クーポンを溜めておくかもしれない。ベビーシッター会
がしっかりと機能するためには、それぞれの夫婦にかなりのクーポンが行き届
いている必要がある。しばらくするとクーポンが足りなくなる状況に陥ってし
まった。これは奇妙な結果をもたらした。夫婦があまり夜出かけることがなく
なった。平均的な夫婦は、クーポンをそれほど多く持っていなかった。持って
いるクーポンは重要な機会にとっておきたかった。クーポンをためるため、夫
婦は余計にベビーシッターをしようとするが、他の夫婦が外出してくれないと
クーポンを手に入れることはできない。他の夫婦も外出しなくなったため、こ
の夫婦がクーポンを得る機会は少なくなってしまった。そのため夫婦は外出す
ることでクーポンを使うことに、以前よりも躊躇するようになる。やがてこの
会は、ふさぎ込んで自宅にこもる夫婦ばかりになってしまった。クーポンをも
っと得るまで外出もままならず、だれも外出しないのでクーポンを得ることも
できない。要するに、ベビーシッター会は景気後退局面に陥ったのである。会
の責任者たちは当初、問題を規制によって解決しようとした。たとえば、夫婦
は1ヶ月に少なくとも2度は外出しなければならないという規則を実施しよう
とした。しかし、それではうまくいかないと分かって、クーポンの量を増やし、
配布した。結果は驚くべきものであった。クーポンの数が増え、夫婦は外出す
ることをためらわなくなり、そのためベビーシッターをする機会も増え、それ
がまた人々を外出させるようになった。ベビーシッター会総生産(GBP)は
跳ね上がった。」
クルーグマンは日本の不景気の状態をこのたとえに当てはめ、日本銀行は多く
の紙幣を印刷すべしと主張しています。
「市中に出回るマネーの増加は支出を直接刺激し、大衆の消費を誘発できる。
銀行は貸す意欲を増すかもしれないし、現金を手許に持つ個人は銀行を迂回し
て投資する方法を見出すかもしれない。こうした事態が生じなかったとしても、
日本銀行が国債を買い取り、通貨供給を増加すれば、政府の支出増や減税の余
地が生まれてくる。」
日本政府はクルーグマンのこのような政策(調整インフレ)は、制御できない
インフレを招くので、受け入れられないとしています。
それに対してクルーグマンはこのように反論しています。
「日本銀行が紙幣をより多く印刷すれば、人々は消費するよりもむしろただそ
れを貯蓄に回すだけだろう。けれども紙幣の増刷がインフレを招くとしたら、
消費者がそれを支出にまわし、その支出が生産力を上回る場合に限られる。金
融政策は需要を増やす方法として効果がないと最初に議論しておきながら、イ
ンフレを起こすからと紙幣の大量増刷の提案を拒否することはできない。」
わたしは、クルーグマン氏のこの提案を日本銀行に任せるのではなく、地方自
治体主導による、自由貨幣(地域通貨)で行うべきだと思います。そうすれば、
たとえインフレになったとしてもその影響範囲は市町村単位でとどまり、国家通
貨(円)の価値下落は起こすことはないと思われるからです。
ベビーシッター会のたとえの場合も、初めから、交換リング方式(通帳方式)
の自由貨幣を用いていれば、このような事態には陥らなかったでしょう。交換
リングは取引を行う当事者間で貨幣を創造できるからです。問題は、貨幣の創
造の権利を特定のものが握っていることにありました。その人が動かなければ、
会員がいくらがんばろうと思っても、どうにもならないのです。
でんし共産制社会
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