エドマンド・バーク
(1729〜1797)
PHP刊/エドマンド・バーク著/佐藤健志・編訳/
『(新訳)フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』
1.フランス革命は狂気の沙汰
2.宗教こそ基本
3.国体を守ることの重要性
4.論理的
1.フランス革命は狂気の沙汰
エドマンド・バーク/(新訳)フランス革命の省察/P44
ところがこんな狂気の沙汰を、およそ異なる視点でとらえる者たちがいるのも否定しがたい。彼らは興奮と感激をもって、フランス革命こそは『人間の自由』を明確かつ適切な形で実現しようとするものと見なすのだ。
エドマンド・バーク/(新訳)フランス革命の省察/P89
しかし世の中には、フランスで生じている事態に大きな意義を見出し、わが意を得たりと喜ぶ者たちもいる。名誉革命協会(訳注:イギリス国内の急進的政治組織)は、今回の革命を早々と祝福したものの、わが国でもフランスにならった政治改革が行われるべきだと信じているようだ。
青山出版社/「90分でわかるカント」/ポール・ストラザーン/P31
しかし、カントも一度だけ、この散歩の習慣を破ったことがあった。
ルソーの『エミール』を読みはじめたときである。本に夢中になり、読み終えようとして、散歩を忘れてしまったのである。
ロマン主義的な感情の肯定、感情の賛歌だけが、カントに鉄の習慣を忘れさせたのである。
(中略)
しばらくして、フランス革命が勃発し、ルソーの理想が数多く実を結んだとき、カントは感動のあまり涙を流したのである。
これは興味深い出来事であろう。ケーニヒスベルクは辺鄙な田舎町で、極端な保守主義に染まっていた。フランス革命に共感するような人間は、カント以外にほとんどいなかった。既存の体制にしっかりくみ込まれた大学のような場所では、なおさらである。カントは特異な存在だったのである。
ローマ2・6−7
神はおのおのの行いに従ってお報いになります。
すなわち、忍耐強く善を行い、栄光と誉れと不滅のものを求める者には、永遠の命をお与えになり、 反抗心にかられ、真理ではなく不義に従う者には、怒りと憤りをお示しになります。
2.宗教こそ基本
エドマンド・バーク/(新訳)フランス革命の省察/P125
フランスの革命派は、宗教を迷信と片付けているようだ。しかし宗教こそは文明社会の基盤であり、あらゆる善と幸福の源である。これは観念論ではなく、われわれの実感にほかならない。
人間とは不合理なものなので、長い年月が過ぎるうち、宗教も少々サビついて迷信じみてくることはありうる。けれどもイギリス人は、宗教自体の必要性については揺るぎない確信を持っている。「迷信を一掃すべく、宗教そのものを否定せよ」などという主張には、100人のうち99人までが反対するに違いない。システムに生じた腐敗や欠陥を正し、完璧なものにしようとこだわるあまり、システム自体をぶち壊してしまうのはバカげたことではないか。
教会制度こそ、イギリス人の世界観の基盤をなすものである。それは非合理的どころか、広く深い英知をともなっている。宗教のおかげで、われわれは人間のあり方をめぐる古くからの理想を受け継ぎ、それを踏まえて行動することを学ぶ。
聡明な建築家が立派な建物をつくり上げるように、宗教に基づく理想は堂々たる国家を築き上げた。さらにこの理想は、社会全体を「神の御心に沿うべきもの」と位置づけ、行政にかかわる者に厳粛な使命感を与えることで、欺瞞、暴力、不正、圧政を排し、国家の堕落や荒廃を防ぐ役割も果している。(中略)
人々が隷従の状態にあり、政治に参加できないのなら、国家が宗教によって支えられなくとも大した問題は生じない。だが多少たりとも権力を持つに至った者は、自分の行動に責任がついて回ることを自覚する必要がある。誰であれ、いずれは神の御前に立ち、おのれの行動について申し開きをしなければならないとわきまえていれば、この自覚も強められるだろう。
エドマンド・バーク/(新訳)フランス革命の省察/P305
人々は「社会の現状を受け入れる」という原則にしたがうべきなのだ。手の届かない財産があっても、強引に奪おうとしてはならない。働けば得られる財産については、けんめいに働いて手に入れることが大事である。
世の中、努力に見合った報酬が得られないことも多い。そんなときは、人生は束の間でしかなく、善良であれば死後に永遠の救いがもたらされることを思い出すべきだ。神の正義の絶対性の前には、現世の格差など些細なものにすぎまい。
しかるに宗教の権威を否定する者は、人々から格差に耐えるためのよりどころを奪ってしまう。これでは働く意欲が起こるはずもない。勤勉の精神は、倹約の精神とともに忘れ去られるだろう。
貧しい者やあわれな者は、結果的にますます追いつめられる。宗教を否定する者は、貧民の無慈悲な敵なのだ。のみならず、怠惰な者、世をすねる者、「負け組」に属する者は、けんめいに働いた者が得た財産や、蓄積された富を奪おうと暴れだすに違いない。
3.国体を守ることの重要性
エドマンド・バーク/(新訳)フランス革命の省察/P312
イギリスにおける国家の基本的あり方、つまり国体は、国民一人ひとりにとって、計り知れない財産と呼びうる。むろん憂慮すべき点や、不満のタネもいくらかはあるだろう。けれどもイギリス社会の問題点は、国体の構造に起因するものではない。国民の中に、不届きな振る舞いをする者もいるだけの話。
イギリスはうまくいっている。これは国体がしっかりしているおかげである。だが国体とは、あくまで総合的に評価されるべきものだ。特定の部分を抜きだして、ここが優れているとか、あそこが素晴らしいなどと言うことはできない。
国体が見直されたり、修正されたりしたことはいままで何度かあった。注意すべきは、それらの見直しや修正に際して、変更された個所や、新たにつけ足された個所だけが、われわれの幸福を支えているのではないことである。変更の必要なしとして、古来の形のまま残された個所も、国家の重要な基盤なのだ。
既存の国体を保ち、不当な侵害から守るためには、真の愛国心や自由の精神、および自主独立の気概が欠かせない。わが同胞は誇りをもって、「保守」の偉業を果しつづけるだろう。
国家のあり方を変えてはならぬと主張しているのではない。だとしても、あらゆる変更の目的は、これまで享受してきた幸福を今後も維持すること、すなわち保守に置かれるべきである。
まずもって、よほど深刻な弊害が生じないかぎり、国体の変更に踏み切ってはならない。そして変更を行う際にも、「問題のない個所はそのまま残す」という先達たちの手法を踏襲することが望ましい。国体の見直しとは、古くなった建物の修復工事を行うようなものだ。新しく建築する部分も出てくるだろうが、元の設計ができるだけ保たれるよう、十分に配慮した方がいい。
わが国の父祖たちは、重大な決断を迫られたときほど、次の諸原則を重んじた。
(1)状況をよく見きわめ、軽率に行動しないこと
(2)不測の事態に備え、万全の用意をしておくこと
(3)臆病なくらい慎重であること
臆病といっても、これは勇気のなさに由来するものではなく、みずから背負った責任の重さを自覚するがゆえのものだ。
フランスの革命派諸子は、自分たちが英知の光に満ちていると吹聴する。わが国の父祖たちは、そんなうぬぼれとは無縁だった。人間は愚かであり、とかく過ちを犯しやすい―これこそ彼らの行動の前提となった発想である。
おかげでイギリスは神の祝福を受けるに至った。神は人間を不完全なものとしてつくったのだ。その点をわきまえ、謙虚に振る舞ったわが父祖たちにたいし、神は幸福と繁栄という褒美を与えた。
この謙虚さにならおうではないか。そうすれば神の褒美が得られるだろう。父祖たちが残してくれた国を、良い状態のままに保つこともできる。
国民全体の望みとあれば、国体に新たな要素をつけ加えてもいい。しかし過去の世代から受け継いだものは大事にすべきだ。イギリスの国体、それは大地のごとく安定した基盤である。
4.論理的
エドマンド・バーク/(新訳)フランス革命の省察/P54
けれども王位世襲を支持する議論の中にバカげたものがあるからといって、王位世襲を合理的に支持する議論までが否定されることがあってはなるまい。後者の議論は、法と政治の諸原則をきっちり踏まえているのだ。
法律家や宗教家の中には、つまらぬ主張をする者も少なくないが、それを理由に法律や宗教全体を否定して良いとなったら、世の中は無法状態で、誰も救われることはない。そして論争相手の中にタワゴトを口にする者がいるからといって、デタラメを述べたり、いかがわしい原則を広めようとしたりしても許されることにはならないのである。