もしも、クライヴが泳げないのを気にしたら……≪U≫
|

|
レゼーヌがクライヴを海に突き落とすという事件が起きてから五日が経ちました。
その間クライヴは、毎日水を克服する為に特訓を続けています。
洗面器に水を張り、その中に顔を入れて徐々に水に慣れていくと言うものです。
五日目と言う事もあり、クライヴは水の中で目を開けていられる様になりました。
ですから、今日からは少しでも長い時間水の中で目を開けていられる様にと目標を立てます。
幸いレゼーヌは現れず、一人密かに行っているのです。
しかし、その日は違いました。
既に習慣となった洗面所での特訓。
さあ、特訓の時間がやって来ました。
クライヴは洗面所へ行き、洗面器に水を張ります。
そして、洗面器を流しの淵において両手で持ち、バランスをとっていざ顔を水へ……。
ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく.。o○
人と言う者は不思議な者で、何かに集中をすると他のものには目も呉れないのです。
クライヴも例外ではありません。
レゼーヌが洗面所に入って来たのが分からなかったのですから。
キィ……パタン
クライヴを海に落としてからの五日間は他の勇者の同行で忙しかったレゼーヌ。
混乱度が低く、特に気に掛ける必要もない地方もなかにはあります。
しかし、その混乱度の差が激しいのです。
そんな中、数日前にはなんでもなかった地方で事件が起こりました。
クライヴに待機を頼んでいた近くで起きたということで、あの日以来訪問に訪れていなかった部屋を訪ねます。
何時ものように転移を唱えて入って来たレゼーヌは部屋には誰も……
自分の見える範囲には誰もいない事に気が付きました。
そんなに大きな部屋でもないので、見逃す事はありません。
ましてやかくれんぼをしているはずもありません。
しかし、姿が見えないのです。
「……?……でもクライヴの波動が……。」
ぐるりと首を回し、部屋を見渡します。
そして、洗面所から微かに妙な音がしているのが聞こえました。
「…ぶくぶく…?……あそこにクライヴが……?」
キィ……パタン
レゼーヌの目の前には異様な光景が映っていました。
洗面器に顔を突っ込んでいるクライヴの後姿がそこにあるのです。
「…………。」
クライヴの行動の意味がまったく理解出来ないレゼーヌ。
あまりの出来事に言葉をかける事さえ出来ません。
何かとても大切な事をしていて、声をかけてはいけないのかもしれないと思い、そのまま待つ事に。
少ししてクライヴが顔を上げ、目が合い………いや、向かいの鏡の中のクライヴと目が合いました。
「「…………。」」
気まずい空気が流れています。
不味いところを見られてしまったと、内心焦っているクライヴですがそんな事は顔には出しません。
あくまでも冷静を装って口を開きます。
用意しておいたタオルを手に取り、顔を拭きながら。
「……どうした。」
「……何をしていたのですか?」
どうせそう来ると分かっていたクライヴ。
ですが、いざ言われるとなんて言い訳をしようか考えてしまうものです。
「…(水に慣れる為に特訓をなんてことは口が裂けても言えない…)…。」
何か適当な言い訳をと思っていると、つるりと口を滑って出て来た言葉は……。
「……顔を洗っていただけだ。」
かなり苦しい言い訳だと、言った本人でも思うものでした。
しかし、レゼーヌを納得させるには充分な言い訳です。
「…アルカヤではその様にして顔を洗うのですね。守護天使だと言うのに知りませんでした。恥ずかしいです。」
いや、そんな事をして顔を洗う方が恥ずかしい、と思うクライヴ。
しかしここで訂正でもしたら……。
では、本当のところはどうなのだとしつこく聞かれる事間違いなしです。
だからこの場は顔を洗っていたという事で済ます事に。
「クライヴ、教えてくださって有難う御座います。」
アルカヤ洗顔方式を知り、満足なレゼーヌ。
ぺこりと頭を下げ、新しい事を知った喜びを顔に表わしています。
その顔を見て、クライヴの中には罪悪感が込み上げて来ました。
「…(本気にしたのか?……疑われても困るが…もっと人を疑う事を知った方がいいのではないか…)…。」
込み上げてくるものを紛らわす為に話題を違うところに持って行くことにしました。
「それよりどうした。」
「今日はですね、近くで事件が発生したので、それを貴方に解決して頂こうと思いまして。」
「分かった、行こう。」
「有難う御座います。私も同行しますね。」
クライヴは思った、頼むから帰ってくれと。
その願いとは虚しく、事件を解決するまでずっと一緒でした。
しかし、不幸中の幸いというのでしょうか、同行中は洗顔方式について一切触れなかったのです。
レゼーヌに見つかって以来特訓は中止したクライヴ。
ずっとレゼーヌに同行をされていて、特訓など出来なかったのです。
そのため水への抵抗感が元に戻ってしまったのです。
それに、またあんな姿を見られでもしたら…と。
夜11時、クライヴは街を一人歩いていました。
レゼーヌが降りて来ないかと、時々上を見上げては足を止めます。
ですが、待っている時に限って来ないのです。
来なくてもいい時……特訓の最中などには現われると言うのに。
今更後悔しても無駄なので、クライヴはこれからは水には気を付けようと思うのでした。
レゼーヌもいくらなんでも、もう人を海に突き落としたりはしないだろうと。
突然視界に白いものが入りました。
一瞬羽根かと思い空を見上げます。
「……雪だ……。」
近くで男の声がしました。
クライヴと同じように見上げているのでしょう。
何故かその声に聞き覚えのある様な気がして声の方向へ顔を向けると……。
「ん…君か……。」
男の方が口を開きました。
それは案の定知った顔でした。
勇者の一人ロクス、彼とはこれで顔を合わせるのは三度目になります。
一度目は怪我をした時に、二度目はレゼーヌに謀られてもう一人の勇者との食事で。
「久しぶりだな。」
「……あの時はすまなかった…。」
「あの時……僕は何もしてないさ。やったのはフェインだ。」
「ああ、だが…。」
ロクスはまだ何か言おうとするクライヴを止め、何かを思い出したように言います。
「悪いと思うんだったら…ちょっと付き合ってくれ、君に聞きたい事がある。」
クライヴは直感的に何か嫌な事が起こると感じました。
「いや、俺はこれから用がある…。」
『用がある』、特に用もない者に限ってよく使う言葉です。
回れ右をして逃げようとしたクライヴをロクスの言葉が捕らえます。
「彼女に関してな。」
回れ左をして元の向きに戻ります。
「……行くか…。」
彼女、勇者二人に共通する彼女はレゼーヌしかいません。
その彼女に関して、そう言われ尚更クライヴの不安は大きく膨れ上がるのです。
いったいどんな事をロクスは話すのかと。
「…(そんなに彼女の事が気になるのか…)…。」
「…(こいつはいったい俺に何を聞こうとするんだ)…。」
そして二人は酒場へ向かうのでした。まだまだ夜は長いです。
continue...
|
|

|
(コメント)
……やはり三回になります……。う〜ん番外編ならではのクライヴです。
特訓、自分は普通に海で特訓かと思ったんですけどね。
まずは洗面器でなんて…これなかったら書きませんでしたよ。
見つかっても真顔で言うところがいかにもクライヴですね。
何があっても動揺は顔に表わしてはならんと。
天使様がアルカヤではそういう風に顔を洗うと勘違い。
これも自分ではないですね、自分は突っ込む方を想像してましたから。
その場その場でのお話は実に楽しいです。色んな意見が聞けて、
すぐに話が書けます。
フェインとロクスどちらとの接触にしようか迷ったんですが、
ここはロクスでからかってもらおうと言う事でロクスに決定。
|
|