闇に映える<VIII>

…いつもより、早くに目が覚めた。
外は燦燦(さんさん)と朝日が輝いている。
その日が強い所為か、少しベッドが暖かい…

殆ど睡眠を取っていない状態でクライヴは目覚めた。
特に具合が悪い訳でも、外が五月蝿かった訳でも無かったのだが、睡魔が場を離れてしまった。
朝に意識が覚醒するのは珍しい。
本来なら、今の時間は眠っているのだから。
(……仕方が無い 今日は起きているか…)
どうもこのまま眠れるような状態ではないので、軽く溜め息を吐いて身支度を始める。
仕事も先日片付けてしまって、する事は特に無い。
(……………さて、どう過ごすか)

「………又来てしまいました」
窓の外では少し頭を抱えているアイラがふよふよと浮かんでいた。
かなり"クライヴの訪問は夜!!"と頭に叩き込んだ筈だったのだが、今こうして
クライヴの宿泊している宿の前にいる。
「前に何度かこういう事があったのですけれども… 学習能力がありませんね、私…」
自責しながら再度出直そうと思ったが、ふと部屋の中が明るくなった事に気付いた。
「?」

「…クライヴ〜?」
控えめに部屋に入って行き、瞳に映ったのは調度洗顔後のクライヴだった。
雫が滴り落ちる顔をタオルで拭きながらクライヴはアイラの前に出る。
「どうした…?」
「あっ、いえ、本当は間違えて今訪問してきてしまったのですが… 珍しいですね
 今の時間にクライヴが起きているなんて」
「あぁ… 目が覚めたんでな そのまま起きている事にした」
「そうでしたか では私は…」
そう言うと床から足が離れ、移動の体制を取った。
ハッ
(このまま彼女は他の勇者の所へ行ってしまうのだろうか…)
「待っ…!」
「えっ?」
気がついたら、無意識の内に彼女の腕を引き留めていた。
「…ク、クラ……」
「あっ、……っ!……すまない」
言葉と同時に掴んでいた細い腕を放す。
「…クライヴ… どうかしたんですか?」
いきなりの出来事に、驚きを隠せずにアイラはクライヴを見た。
掴まれた強さの余韻の残る腕を片方の手で支えながら。
「その……… アイラ、今日は共に街を歩かないか?」
「…はい?」
「嫌なら別にいいんだが…」
惟、他の勇者の所に行かせたくなくて作った口実。
何故そう言っているのかは、俺自身にも判らない……
「…唐突の事で少し面食らいましたが…急にどうしたんです?」
「…今日は天気が良いだろう こういう日に出掛けるのは君が好きだろうと思って…」
アイラは少し悩んでいるようだったが、翼を仕舞い軽く微笑んだ。
「別に良いですよ 折角クライヴが誘ってくれたんですし 私も用事が無くてこれから天界に
 戻る予定でしたから」
「………そうだったのか」
「?」
「いや、何でも無い 行こう」


「とっても晴れていて良い日ですね 時折流れる風も気持ち良いです」
そのアイラの姿を穏やかな目でクライヴは見ていた。
あれから、咄嗟に思い付いて言った街に足を運び、今はこうしてアイラと共に巡っている。
まさか本当に来るとは…とクライヴは内心で思っていた。
「…アイラ 先程は、悪かったな… 乱暴に手を引いたりして……」
「えっ、別に気にしていませんよ 少し驚きましたけれど でもそのお陰でクライヴとこうして
 街を歩いているんです 悪い気はしません 逆に楽しいですよ」
その言葉に偽りはないようで、アイラは嬉々と露店を覗きこんでいる。
―彼女が楽しんでいるのならそれで良い―
そう思いながらクライヴもアイラの後に続く。
が、今日は朝から日差しが強い。
眩しい程の陽光は、容赦無くクライヴに降り注いでいた。
「……………ハァッ」
「クライヴ〜、次何処に行きます? …クライヴ、大丈夫ですか?」
「…あぁ、平気だ……気にしないでくれ 行こう……」
そう言いながらも、クライヴの額等には脂汗が滲み出ていた。
表情も苦悶の色を隠せない。
「…クライヴ、顔が真っ青です このままではいけませんから木陰で休みましょう」
「……っ……すまない」


「クライヴ、調子はいかがですか?」
「…あぁ、大分良くなってきた しかし情けないな…君を誘っておいて…」
前もって渡された濡らされたタオルを額に押さえながら上半身だけ起き上げる。
先程よりかは、頬の血色が良く見えた。
「いいえ、私ももう少し考えて行動するべきでした 貴方には吸血鬼の血が混じっているので
 日光は苦手だと思っていたのに… 誘って頂けただけでも、私は十分です」
「……優しいな…君は 俺は、そんな君に出会えた事を…感謝している」
「えっ? ……私も、クライヴと出会えた事を嬉しく思っていますよ だからこういう貴方の
 苦しみを少しでも理解し、癒す事が出来たら…」
静かにアイラはクライヴの手に自分のそれを重ねた。
同情とか哀れみではなく、慈愛に満ちた天使の眼差しを彼に向けている。
「……すまない 俺は君がいてくれただけで色々な事を救われてきた… 君と出会う以前、俺は
 死ぬ事だけを考えていた… ただレイブンルフトを殺し、多くのアンデッド共と地獄に行く事
 が宿命だと思っていて… しかし、君と出会い、君がいてくれただけで俺は怒りを忘れる事
 を知った… この苦しみも、少しでも耐えれればと思っている こんな気持ちは初めてだ…
 俺はこの時間を…… 君といられる今を……大切に思っている………」
「クライヴ……」
二人の空間にはいつもと違う、暖かな風が流れていた。
以前のような凍りついた張り詰めた空間では無いもの。
クライヴにとっても、アイラにとっても居心地の良い空間だった。



「〜♪」
「アイラ様、いかがされたんですか? 随分ご機嫌が宜しいみたいですが」
あれから具合の落ち着いたクライヴは元の宿へと戻り、アイラも天界に帰ってきていた。
そして今は簡単な書類を纏めている所にリリィが来たという所である。
「今日はちょっとクライヴの本音を聞けたので良い日でした 色々と彼なりに
 自分に立ち向かっているようで私も嬉しいです」
「そうでしたか クライヴ様も最初の頃と比べてお変わりになりましたよね アイラ様の事も
 随分と信頼なさっているご様子ですし」
「……………えぇ、そのようで」
「アイラさまぁ〜〜〜!!!!!」
アイラの最後の一言の語尾はフロリンダの声でかき消された。
いつにもなく手足をバタバタとさせて、一直線に飛んでくる。
「どうしたんです? フロリン そんなに慌てて……」
「そっ、それが聞いて下さい!! あのぅ…」
「…………えっ?」
手に持っていた羽ペンが、カツンと音を出して床に落ちた。
アイラはその報告を聞いて、ただフロリンダの顔を見る事しか出来なかった。



 
 (コメント)
 再びご無沙汰していてすみませんです m(_ _)m
 このイベントは是非とも書きたかったですね!
 だってクライヴからのデートのお誘いな訳でしたから(爆)   
 ちょっと雰囲気異なりましたがでも満足
 次話も前から書きたいと思っていた物です
 ゲームの本編とは全然関係の無いお話なのですが
 さぁ、フロリンは何を言いに来たのでしょうか〜
 それでちょっと可愛そうな人も出てきます

 (この話しで出番これだけかよ!!みたいな) 

                           


闇に映える< VI >へ 秘蔵書庫へ 闇に映える< IX >へ